#マーケティング #基本 #本
今回はマーケティングの本のご紹介です。
「人がモノを買うしくみを言語化する - "知ったかマーケター" からの脱却 (富永朋信) 」 です。
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本書の概要
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この本は、30 年以上の実務経験を持つトップマーケターである富永朋信 (とものぶ) さんが、マーケティングの基本を 「人がモノを買うしくみ」 という本質的な問いから解き明かす一冊です。
本書は人の心の仕組みにまで立ち返り、なぜそのマーケティングの理論や手法が有効なのかをわかりやすい言葉で言語化しています。
マーケティングのフレームワークをなぞるだけの 「知ったかマーケター」 から脱却し、実務の現場で本当に成果を出せる、腹落ちした理解を得ることを目指す本です。
本書の目次は次のようになっています。
- 第 1 章 ぐうの音も出ないほどわかるポジショニング
- 第 2 章 ぐうの音も出ないほどわかるターゲティング
- 第 3 章 ぐうの音も出ないほどわかるブランド・ブランディング
- コラム 1 ぐうの音も出ないほどわかるアイデアのつくり方
- 第 4 章 ぐうの音も出ないほどわかるインサイト
- コラム 2 ぐうの音も出ないほどわかるプランニング
- 第 5 章 ぐうの音も出ないほどわかるコミュニケーション
- 第 6 章 ぐうの音も出ないほどわかる MVV & パーパス
- コラム 3 「あいつらと俺たち」 という感覚
- <特別対談> スターバックス コーヒー ジャパン CEO・森井久恵氏 × 富永朋信 (MVV とブランドを社員の行動にどう変換するか)
構成は、ポジショニング、ターゲティング、ブランド、インサイト、コミュニケーション、MVV (ミッション・ビジョン・バリュー) とパーパスという流れです。
マーケティングの主要要素を 「ぐうの音も出ない」 というレベルまで理解できるよう解説され、加えて、コラムや対談も含めて、実務に活かせるようにした内容です。
* * *
ではここからは、本書を読んで特に興味深かった 「ポジショニング」 、「ターゲティング」 、 「ブランディング」 の 3 つについて詳しく見ていきます。
ポジショニング
著者はマーケティングで最も大切な概念は 「ポジショニング」 であると断言します。
ポジショニングの重要性
なぜポジショニングが重要なのか。それは、人間の意思決定が絶対評価ではなく、「何と比べるか」 「どの物差しで測るか」 という相対評価で進むからです。
人は、提示された 「比較基準」 や 「価値観」 に合わせて、比較対象を無意識にも柔軟に組み替え、ものの良し悪しを判断し意思決定を行います。
よって、顧客ニーズに合わせて自社商品が有利になるような比較の枠組み (比較基準や価値観) を設計できれば、お客さんの頭の中の勢力図そのものを動かすことができます。
「こんな場面なら、この商品が良い」 という認識をつくり出すことがポジショニングの目指すところです。
お客さんの頭の中にある競争の構図をデザインし、自社に有利なポジションをつくり、自社商品・サービスを選んでもらえるよう促すことができます。
本当の競合とは
ポジショニングは、「競合」 「PoP (Point of Parity: 比較の土俵に上がるための要件) 」 「PoD (Point of Difference: 独自性) 」 の 3 点で言語化できます。
ここで起こる過ちは、競合のことを業界分類などの売り手目線で決めてしまうことです。しかし、本当の競合とはお客さんの頭の中にあります。
お客さんのショッピングミッション、つまりお店への来店目的や商品・サービスの利用用途に合わせて競合を捉え直すという視点が大事です。
例えば、著者が在籍していたスーパーの西友の例では、「夕食準備」 のために来店するというのが主要なショッピングミッションの 1 つでした。このシチュエーションでの競合はイオンやライフといった他のスーパーマーケットです。
一方で来店目的が 「ディスカウントハント」 という安くなっているものを探しに来るという意図の場合、オーケーやロピアが競合となります。また、「トレジャーハント」 という珍しいものを探しに来るという来店動機では、競合はスーパーの枠を超えてドン・キホーテや東急ハンズまでに広がります。
このように、顧客の来店目的や利用用途、購入の状況や心理などの顧客起点で考えることによって、初めて本当の競争環境が見えてきます。
ターゲティング
一般的にターゲティングは、年齢や性別、ライフスタイルといった 「人」 で切り分け、人単位で狙いを定めます。
しかし本書では、ターゲティングの解像度をもう一歩深めます。
人ではなく意図をターゲットにする
ターゲットを人単位で設定すると、「ターゲットを絞れば市場が小さくなるが、広げれば特徴がぼやけてしまう」 というジレンマに陥ります。ある特定の人物像 (ペルソナ) を設定しても、その人がいつも同じ動機で行動するとは限りません。
この問題を乗り越えるために有効なのが、「人」 よりも 「意図」 をターゲティングするという考え方です。
これは、西友のショッピングミッションの調査から得られた 「ほぼすべての人が、複数のショッピングミッションを持っている」 という発見にもとづいています。
一人の消費者の中には、夕食の準備、特売品探し、まとめ買いといった様々な購買の意図が存在し、同じ人でも時と場合によって来店目的や商品の利用用途が異なるわけです。
したがって、ターゲットを人という大きな単位で捉えるのではなく、その人の中にある意図、つまりショッピングミッションや利用理由に分けてターゲティングをするのが有効です。
意図を単位とするターゲティングの効用
人より意図によってターゲティングするというアプローチには効用があります。
競合差の設計であるポジショニングとターゲティングが同じ単位にできます。ポジショニングとターゲティングがお客さんの意図やユースケースで接続されるため、戦略の整合が自然と高まります。
お客さんの意図をターゲットにすることで、ひとりのお客さんに対して様々な角度からアプローチすることが可能になります。
例えば、普段は自炊をしない人でも、たまに 「夕食準備」 の意図は芽生えることでしょう。あるいは、価格に敏感でない人でも、特定の状況下では 「ディスカウントハント」 の意図で動くこともあります。
また、季節ごとの販促施策を計画する際にも、お客さんの意図を軸に設計することで、来店動機を高める施策を実践できるようになります。
狙うべきは固定された人物像ではなく (人単位のターゲティングではなく) 、その時々の状況から生まれるお客さんの心にある用途や動機などの 「意図」 なのです。
ブランディング
ブランドとは何か。
ブランドには特有の 「らしさ」 があります。ときには言葉にして他人には説明しにくい 「らしさ」 があり、そのらしさに惹かれていて魅力に思っている存在がブランドです。
ブランディングとは、「らしさ」 が形成されるプロセスをマネジメントすることに他なりません。
ブランドはお客さんの心の中にある
では、まずは個人が持つ 「らしさ」 を考えてみましょう。
その人らしさは、その人の内面にある価値観や性格が、日々の言動として一貫して現れることで、まわりの人たちの心の中に記憶として蓄積され、形づくられます。
例えば、誠実さを大事にする人が、仕事やプライベート、家庭の中でも誠実な振る舞いを続け、誠実さという一本の軸が通り一貫した言動をすると、周囲の人はその人の 「らしさ」 を誠実な人と見ます。
ブランドもこれとまったく同じです。
企業やマーケターの机の中にある 「ブランドコンセプト」 や 「ブランド設計図」 が、ブランドの内面にある価値観や性格です。それは、ミッションやパーソナリティ、シンボルといった、ブランドの根幹をなす思想です。
ブランドコンセプトや設計図が起点となり、商品、広告や販促、接客、SNS の投稿や返信といった無数の活動が一貫したトンマナ (トーン & マナー) で現れることになります。一つひとつが消費者の心の中に記憶として刻まれ積み重なり、結晶化した理解の総和がブランドになるわけです。
ブランドがもたらす価値、そしてブランドそのものは、お客さんや消費者の心の中にあります。
ブランドを 「多面体」 として捉える
ブランドは決してたったひとつの 「らしさ」 を持つとは限りません。
ターゲティングのパートで見たように、生活者は様々な 「意図」 を持って商品やサービス、お店、あるいは企業と接します。
この実態を捉えるために有効なのが、多面体でブランドを捉えるという考え方です。次のように複数の 「面」 と、面を支える 「基盤」 に分けて捉えます。
- 面: それぞれの 「利用用途 × ポジショニング (競合・PoP・PoD) 」 が、多面体のひとつの面を構成する
- 基盤: すべての面に通底する土台。基盤が 「ブランド価値規定」 (ミッションやパーソナリティなど) であり、ブランド全体に一貫性を与える
ブランディング活動とは、多面体の中の特定の面を大きくしたり、新しい面を磨いたりする営みです。
そして、基盤となる土台がブレずにしっかりと支えているからこそ、多面的でありながらも、ひとつの統合された 「らしさ」 が生まれるブランドになるのです。
ものの見方や認識を変える
多面体モデルというスタンスをとれば、ブランディングはチェンジマネジメントという人の認識や価値イメージを変える行為であることがわかります。
ブランディングは、人が世界を見るときの 「概念」 に作用し、新しい概念を提案したり、今までは気づいていなかった概念に光を当てるという、人の認識に働きかけるアプローチです。
現在の消費者の心の中にあるブランドという多面体の形を正確に捉え (As is) 、ブランドが届けたい理想の多面体の形を定義し (To be) 、そのギャップを埋めるために、一貫した活動を粘り強く続けていくことが大事です。
まとめ
今回は、書籍 「人がモノを買うしくみを言語化する - "知ったかマーケター" からの脱却 (富永朋信) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ポジショニング: 人の意思決定は相対評価で進むので、顧客の利用シーンや用途などの意図ごとに 「競合 - PoP - PoD」 を設計する。比較の枠組みそのものを動かし自社に有利な立ち位置を築く
- ターゲティング: 人単位から一歩踏み込み 「意図 (商品の利用用途や来店動機) 」 をもとにターゲティングすることで、一人の顧客の中にある複数の購買動機に対応できる。ポジショニングとも同じ単位となり戦略の整合が高まる
- ブランディング: ブランドが持つ特有の 「らしさ」 は顧客の心の中で形成される。ブランドのことを、多様な利用シーン (面) と一貫した価値観 (基盤) から成る 「多面体」 と捉え、顧客の心の中にあるブランドイメージを理想の形へと育てていく
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