#マーケティング #業界の当たり前 #顧客価値
お客さんが今の商品を自然に受け入れている場面にも、もっと心地よい体験をつくる余地があります。
業界で長く続いてきたやり方を、お客さんが本当に得たい体験から考え直す方法を 「リズム天国」 というゲームから学びます。
リズム天国 ミラクルスターズ
「リズム天国 ミラクルスターズ」 は、音楽や掛け声を聞き、リズムに乗ってボタンを押すゲームです。
音を聞き、リズムに乗ってボタンを押す
「リズム天国 ミラクルスターズ」 は、シリーズとして 11 年ぶりとなる新作で、 2026 年 7 月 2 日に Nintendo Switch 向けに発売されました。
遊び方はとてもシンプルです。音楽や掛け声を聞きながら、よいタイミングでボタンを押すと、輪をくぐったり、飛んでくるフリスビーを受け取ったり、仲間とそろって踊ったりできます。
一般的な音ゲーでは、画面に流れてくる目印を見て、ボタンを押す場所とタイミングを判断します。「リズム天国」 には、そうした目印がほとんど出てきません。
音楽の拍子や掛け声、キャラクターの動きを頼りに遊びます。何度か繰り返すうちにリズムの流れがつかめるようになり、画面に指示がなくても自然とボタンを押せるようになります。
リズムにうまく乗れたときには、体の動きと音がぴたりと合う心地よさがあります。失敗したときもキャラクターがコミカルに反応するので、気持ちを切り替えてもう一度試せます。
多彩なミニゲームを、子どもから大人まで楽しめる
収録されているミニゲームは 80 種類以上です。登場するキャラクターや音楽、場面は次々と変わりますが、基本操作は分かりやすく、長い説明を読まなくても遊べます。
新作には、自分でリズムを刻んで魔法を使う RPG 風のモード 「ビートスペル」 もあります。魔法ごとに決められたリズムを覚え、状況に合う魔法を選んでボタンを押します。
最大 4 人で遊べるモードには、協力型や対戦型のミニゲームが 30 種類以上用意されています。家族や友人と一緒に遊びやすく、ゲームに慣れていない人も参加できます。
画面上の文字やゲームの説明を読み上げる 「音読ちゃん」 という機能もあります。文字を読むことが難しい子どもや、視覚に障害のある人にも遊びやすい工夫です。
「リズム天国」 の独特な遊び方は、従来の音ゲーに対して、音楽プロデューサーの 「つんく♂」 さんが抱いた違和感から生まれました。
「リズム天国」 から学ぶ、新しい顧客価値のつくり方
音ゲーで広く受け入れられていた遊び方を問い直した経緯から、商品開発やマーケティングに生かせる考え方を見ていきます。
「リズムに合わせる」 から 「リズムに乗る」 へ
シリーズが生まれたきっかけは、つんく♂さんが当時の音ゲーに感じていた違和感でした (参考: インタビュー) 。
多くの音ゲーでは、画面に流れる目印を見て、指定された場所でボタンを押します。つんく♂さんには、音楽を体で感じる遊びよりも、画面上の印を追いかけてボタンを押すタイミングを示す 「目押し」 をするゲームに見えました。
そこで考えたのが、体でリズムを感じ、音に乗る楽しさを味わえるゲームです。つんく♂さんは企画書を任天堂に送り、新しい遊び方を提案しました。
掲げたコンセプトは 「日本人のリズム感を鍛える」 でした。アイドルグループを育ててきた経験から、練習によってリズム感は高まり、誰でも音楽に乗る気持ちよさを味わえると考えていたからです。
画面の目印を追う遊び方を改良するよりも、プレーヤーにどんな感覚を味わってほしいかを考えました。ゲームで届けたい価値を 「リズムに乗る気持ちよさ」 と定めたのです。
業界で当たり前になったやり方を、お客さんが本当に得たい体験から見直す
画面の目印に合わせてボタンを押す方法は、音ゲーの自然なルールとして定着していました。ゲームをつくる側も遊ぶ側も、音ゲーとはそういうものだと受け入れていました。
長く続く商品カテゴリーでは、いつものやり方が、その商品らしさと強く結びついていきます。音ゲーでは、目印を正確に追うことが、音楽を楽しむゲームそのものでした。
つんく♂さんは、現在の操作方法から少し離れ、プレーヤーにどんな時間を過ごしてほしいかを考えたそうです。そこで見つけたのが、体の中にリズムが生まれ、音楽に乗れたと感じる心地よさでした。
マーケティングでも、業界で定着した方法を前提にすると、今ある商品の改善やマーケティングコミュニケーション方法に発想が集まりやすくなります。
一方、お客さんが商品やサービスを通して味わいたいことまで考えると、商品をつくり直す方向も変わります。
今ある手順や機能に縛られず、お客さんが最後に得たい感覚や状態から商品を考える。同じカテゴリーの中にも、新しい体験価値をつくる余地があります。
お客さんが不満を持っていない場所にも機会がある
従来の音ゲーを遊んでいた人たちは、目印を見ながらボタンを押すことを、音ゲーの自然な遊び方として楽しんでいました。
アンケートで 「音ゲーのどこを改善してほしいですか」 と聞いても、「タイミングを示す目印をなくして、音だけで遊びたい」 という答えは出にくかったでしょう。お客さんは、自分が知っている商品や体験をもとに意見を話すからです。
今の方法に慣れていると、別の方法を思い浮かべる機会も少なくなります。お客さん自身が、もっと良い体験があることに気づいていない場合もあります。
商品を良くするヒントを探すときは、お客さんが日ごろ行っている行動や習慣を丁寧に見ます。なぜそのボタンを押すのか、なぜ何度も画面を切り替えるのかと確かめます。
お客さんが慣れてしまった手間や、業界の習慣として残っている操作には、別のやり方を考える余地があります。お客さんの発言とあわせて実際の行動も観察すると、本人もまだ気づいていない改善点を見つけやすくなります。
「リズム天国」 も、プレーヤーから目印への不満が寄せられたことから生まれたゲームではありません。音楽を使ったゲームなのに、プレーヤーの意識が画面上の印へ向いていることに、つんく♂さんが気づきました。
違和感を、新しい顧客価値と商品体験に変える
「目押しになっている」 という違和感を見つけただけでは、新しいゲームの形までは決まりません。つんく♂さんは、プレーヤーに届けたい価値を 「リズムに乗る気持ちよさ」 と定めました。
その感覚をゲームにするには、開発スタッフの間でも同じイメージを持つ必要があります。言葉だけで説明しても、リズムに乗れたときの感覚は人によって捉え方が変わります。
任天堂の開発スタッフは、ゲームづくりに入る前にダンスレッスンを受けました。「リズムに乗るとはどういうことか」 、「乗れると、なぜ気持ちいいのか」 を、自分の体で確かめるためです。
開発者が同じ感覚を知っていれば、ゲームをつくるときの判断もそろいやすくなります。どんな音楽を採用するか、どのように掛け声を入れるか、キャラクターをどう動かすかを考えるときも、リズムに乗る気持ちよさにつながるかどうかを基準にできます。
違和感から商品を生み出す流れは、次のように整理できます。
- 業界で当たり前になっているやり方に違和感を持つ
- お客さんが本当に得たい体験を考える
- 提供したい顧客価値を言葉にする
- 開発する人も、その価値を自分で体験する
- 操作方法や機能、見せ方に落とし込む
新しい商品を考えるときは、お客さんにどんな時間を過ごしてほしいか、使ったあとにどんな気持ちになってほしいかを先に決めます。機能や操作を選ぶ理由が明確になり、商品全体に一貫性が生まれます。
新しい価値を提案すると、業界で長く続いてきたやり方を見直すきっかけも生まれます。「リズムに乗るゲーム」 は、目印を正確に追う遊び方を知っていた人に、音楽を体で感じる別の楽しさを示しました。
商品やサービスを通して新しい体験を示せば、お客さんは使いながら違いを実感できます。今まで当たり前だと思っていた方法にも、別の選択肢があると気づけます。
「リズム天国」 は、業界への違和感から新しい顧客価値を見つけ、開発する人もその価値を体験しながらゲームへ落とし込んだ事例です。
まとめ
音ゲーの 「リズム天国」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 業界で定着したやり方を、お客さんが得たい体験から見直す。今ある手順に縛られずに考えると、同じカテゴリーの中にも新しい選択肢が見えてくる
- お客さんが今の商品を自然に受け入れている場所にも、商品を良くする余地がある。日ごろの操作や手順を観察し、本当に望む体験につながっているかを確かめる
- 違和感を見つけたら、お客さんに届けたい価値を具体的な言葉にする
- 開発する人も、届けたい価値を自分で体験する。共通の感覚を持つことで、商品づくりの細かな判断を同じ方向にそろえやすくなる