投稿日 2012/12/30

「MAKERS」書評:Web世界で起こった革命がモノづくりでも起こる未来は明るいのか?

Web で起こったことがモノの世界でも起きる。それが21世紀の産業革命である。

こう主張するのは、かつてロングテールやフリーミアムの概念を提唱したクリス・アンダーソン氏です。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」という本の主題です。

■ Web の本質

そもそも、Web の世界で起こったこととは何だったのでしょうか。最近のエントリーでも触れたように、ウェブの本質は「個の情報発信」「双方向性(ネットワーク)」です。

重宝しているGunosyから考えるネットの本質と課題|思考の整理日記



ウェブ以前、あるいは普及前は情報発信をすること自体が今ほど手軽ではありませんでした。

それが、クラウドによるサーバーコスト低下、通信速度の向上、コンピューターやスマホ等の高性能かつ(一般ユーザーでも手に入る)安価なデバイスの普及で、ウェブが当たり前になり、個人レベルでの情報発信も容易になりました。これが1つ目の個の情報発信の背景です。

もう1つ、ウェブの世界で起こったことで大きかったのが、双方向性が実現したことです。つまりネットワークの構築です。

情報発信と合わせて捉えると、情報を発信して終わりではなく、双方向で情報のやり取りが可能になり、情報やアイデアはシェアされ、またたく間に拡散していきます。結果、ウェブ以降の世界は、情報量が爆発的に増えたのです。

■ Web で起こったことがモノの世界でも起きる

本書「MAKERS」の主題は、ウェブで起こったことがモノの世界でも起きることです。ここまで見た2点から考えると、モノの世界でも

  • 個人によるモノづくり
  • アイデア/設計/プロダクトの双方向性

が当てはまることになります。

個人によるモノづくり:本書では 3D プリンタ・3D スキャナ・レーザーカッター等のツールが紹介されています。従来は企業などの特定のプレイヤーでしか使われていなかったのが、今後はコストダウンやサイズのコンパクト化により個人レベルでも普及していきます。生産手段を個人が所有するようになる。プリンタで紙を印刷するようにモノをつくる、欲しいものは自分でつくってしまう、という状況です。

アイデア / 設計 / プロダクトの双方向性:ウェブの世界で情報がシェア・拡散していくように、モノの世界でもそれは起こります。すでにあるウェブに、モノの情報(アイデアや設計情報など)が載って双方向にやりとりされます。ウェブではソフトウェアのオープンソースの文化があるように、モノの設計情報やモノ自体がオープンソースとなって公開、シェアされます。

■ モノのロングテール、Web をベースにしたモノづくりのマネタイズ

個人によるモノづくりが普及していくと、ウェブの世界でも見られたロングテールがモノの世界でも起こるようになるとクリス・アンダーソンは言います。本書「MAKERS」から引用すると、
新しい時代とは大ヒット作がなくなる時代ではなく、大ヒット作による独占が終わる時代なのだ。

(中略)

ただ、「より多く」なるというだけなのだ。より多くの人が、より多くの場所で、より多くの小さなニッチに注目し、より多くのイノベーションを起こす。そんな新製品-目の肥えた消費者のための数千個単位で作られるニッチな商品-は、集合として工業経済を根本から変える。

(中略)

もの作りの世界を再形成することになるはずだ。

一方、著者の見方で興味深かったのが、新しいメーカーズ(もの作りプレイヤー)は、ウェブのフリーの恩恵をベースにモノでは収益を上げているという事例でした。

ウェブがなければ、新しいモノの発想やアイデアがあっても、それをつくって実現化させるのにハードルがありました。もしくは作ったとしても作っただけという「発明家」で終わっていました。しかし、今はウェブを活用すれば「起業家」になれると言います。

ウェブのフリーミアムを活用し、モノではマネタイズができるのでしょうか?

MAKERS を読んだ今の意見としては、モノの世界でもウェブ同様にマネタイズできて個人がモノ作りで食っていけるのは一握りではないかと思います。

■ モノづくり世界の「セミプロ vs プロ」

もう1つ思ったのが、モノの世界でもセミプロが増えっていった時に、セミプロ対プロはどんな競争の構図になるのかでした。

最近読んだ、こちらのエントリーで言われていることがモノの世界でも同じなのでは、という論点です。

[IT一般] セミプロに駆逐されるプロという構図|Nothing ventured, nothing gained.

この記事で書かれている内容は、

  • ネットの普及などにより、多くの人が情報発信するようになった。その中には今までは埋もれていた人(セミプロ)の知識や経験が発信され、支持されるようになる
  • しかし、アマチュアやセミプロの市場への参入というのは必ずしも良いことばかりでは無い気がする
  • なぜなら、その市場で今まで食べていたプロからするとコンテンツ流通価格の低下が進み、良質なコンテンツを提供するプロがいなくなるという事態に発展することも考えられるから

という懸念です。

もちろん、フェアな競争でプロとはいえセミプロに駆逐され、結果として市場が良質なものになるのであればよいと思います。しかし、プロが質の高いものを提供するモチベーションを阻害するような状況であれば、果たして大量のセミプロが存在する環境が本当に良いのでしょうか。考えさせられる問いです。

モノの世界でも、ウェブで起こったことが起こるとすると、セミプロ対プロの構図はできあがるはずです。もの作りのプロである企業が提案するプロダクトよりも、セミプロが自分でつくってしまうモノのほうが特定のニーズを持つ人には刺さることも十分考えられます。「そうそう、こんなのが欲しかった」と。

部分的には作り手と受け手のニーズが一致しウィンウィンですが、長期的に見れば大量のセミプロの市場参入によりプロが駆逐されるのでしょうか?それは本当に社会全体で見ると良いことなのでしょうか?まさにさきほどのウェブでの指摘と同じ構図です。

実際のところどうなるかはわからないし、そもそもまだ「モノの世界で大量のセミプロがマネタイズできていて市場参入している」というのも起こっていません。

★  ★  ★

「MAKERS」という本は読み応えのある内容でした。

クリスアンダーソンが主張する「モノの世界でもウェブで起こったことが起こる」は、そうだろうなと思います。その先の、本エントリーで考えたようなその先のロングテール現象、マネタイズ、セミプロ対プロ、など、色々な論点があり興味深い内容でした。


※参考情報
重宝しているGunosyから考えるネットの本質と課題|思考の整理日記
[IT一般] セミプロに駆逐されるプロという構図|Nothing ventured, nothing gained.
【レポート】「ブログやメルマガで食える人は本当に増えるのか?」、もしドラ作家・岩崎氏とブロガー小飼弾氏が一触即発の舌戦 (1) 川上氏「日本で唯一成功しているワールドワイドなプラットフォームは任天堂」|マイナビニュース


MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
クリス・アンダーソン
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投稿日 2012/12/29

2012年に読んだおすすめの本 (後編)




今年読んだ本で書いたエントリーから、特に印象に残っているものをご紹介します。本エントリーは2つに分けた後編です。こちらが前編です。

なお、仕事関係の書籍は対象外としています。


経営学 (小倉昌男)


小倉昌男 経営学

1975年当時、今では当たり前の家庭向け宅配サービスは民間業者はどこもやっていなく、「参入すれば絶対赤字になる」 と言われていました。

そんな常識に果敢に挑んだヤマト運輸。宅配便という民間業者が誰もやっていなかった家庭への宅配サービスへの挑戦です。新規事業開発、サービス開始、その後の拡大が詳しく書かれていたのが本書でした。
投稿日 2012/12/27

2012年に読んだおすすめの本(前編)

数えてみると、今年は280冊くらいの本を読んでました。毎月コンスタントに20-25冊くらいは読むことができ、仕事にプライベートに色々あったわりにうまく時間が作れたかなと思っています。特に平日朝の出社前に、まとまった読書時間を確保したことがよかったです。仕事を片づけないといけない時は朝も本ではなく仕事だったりもするのですが。

今回のエントリーでは今年読んだ本について書いたエントリーから、特に印象に残っているものをご紹介します。自分が読んだ本をあらためて振り返る意味でも。なお、仕事関係の書籍は対象外としました(取り上げてもマニアックな内容になりそうなので)。





勝ち続ける意志力(梅原大吾)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)著者はプロ格闘ゲーマーの梅原大悟氏。得意とするゲームは対戦型格闘ゲームで、ゲームセンターにあるストリートファイターとかです。

本書を一言でまとめると、「勝ち続ける意志力とは、勝つことではなく『自分が成長し続けること』を目的とすること」。

常に成長し続けたい、これって自分の価値観とドンピシャなんですよね。年齢を重ねると肉体的な衰えも起こると思いますが、経験や考え方、精神的なものも含め人としてトータルで昨日より今日、今日より明日で成長していたい、そんな価値観。

本書に出てくる印象的な内容としては、
  • 僕にとって生きることとは、チャレンジし続けること、成長し続けることだ。成長を諦めて惰性で過ごす姿は、生きているとはいえ生き生きしているとは言えない
  • 「結果を出す」ことと、「結果を出し続ける」ことは根本的に性質が異なる。勝つことに執着している人間は、勝ち続けることができない
  • 成長し続けるためにはどうすればよいか。それには変わり続けること、チャレンジし続けること。そして努力すること。自分にとって努力の適量を考える時に「その努力は10年続けられるものなのか?」と問う
勝ち続ける意志力:目的は「勝つこと」ではなく「成長し続けること」|思考の整理日記
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採用基準(伊賀泰代)

採用基準タイトルは(マッキンゼーの)採用基準ですが、書かれていることはリーダーシップについて。平易な言葉でわかりやすく、かつ本質的なことが書かれているのが本書。

リーダーがやるべきことは4つあるとし、①目標を掲げる、②先頭を走る、③決める、④伝える(コミュニケーション)。また、マッキンゼー流のリーダーシップの身につけるためには、
  • 結果や成果を出す。「成果は何か」「付加価値は何か」を意識する
  • 自分の意見・考え方を持つ(本書ではポジションを持つと表現)
  • 自分の仕事のリーダーは自分自身という当事者意識を持つ
  • 会議で積極的にホワイトボードを使うなどリードする
著者の主張で共感できるのが、1人1人にリーダーシップを持つことの重要性。リーダーは1人かもしれないけど、「リーダーシップ」を持つのは1人でなくてもよい、むしろ全員が何かしらのリーダーシップを持つことが大事。そういう組織のほうが強い。このへんも共感できる内容でした。

今年は自分のリーダーシップをいかに高めるかを考えた1年でした。これからもリーダーシップとは、を意識したいし、実際に行動に移したいと思っています(それと結果も)。

マッキンゼーの採用基準から考える「僕らのリーダーシップ」|思考の整理日記
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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉(リンダ・グラットン)

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉この本が読者に投げかける問いは、2025年に私たちはどんなふうに働いているのか?というもの。本書がおもしろく、色々と自分事として考えさせられたのは、読んでいる中で随所に「自分の場合はどうなるのだろう?」と問いかけができる点でした。

本書から受けとったメッセージは、この先も漠然と生きるのではなく、よりよい未来を実現するために、私たち一人一人が未来について考え「じゃあどうすればよいか」と自分事化することだと理解しました。それが「主体的に築く未来」「自由で創造的な人生/社会」につながる。

主体的な行動をとることで、「今」をちょっと変え、その先に続く「未来」を変えていく。主体的に生きるために思うのは、当事者意識を持つこと・我が事化することであり、まずは自分のできることからやる。そしてコントロールできる範囲を広げていくこと。(コントロールできない)自分の身に何が起こるかよりも、焦点を当てるべきは起こったことに対して自分はどう解釈し反応するか、どう行動するか。これが大事と思っています。

もう1つ、本書に出てきた問いで考えさせられたのは、自分の専門性をいかに磨くかについての3つの質問でした。
  • その専門技能は価値を生み出せるのか?
  • その専門技能は希少性があるか?
  • その専門技能はまねされにくいか?
個人のキャリアにも当てはまるし、組織や企業の戦略やマーケティングにも通用する問い。自分の価値は何か?これからも問い続けたい質問です。

書籍「ワーク・シフト」まとめ:孤独と貧困から自由になる主体的な生き方|思考の整理日記
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自分でやったほうが早い病(小倉広)

自分でやった方が早い病 (星海社新書)本書が投げかける問題設定は、「この仕事は自分でやってしまったほうが早い」と思い、いつの間にか色々と自分が抱えている状況を病と捉えるべきだということ。この病の原因や治療法、そもそもなぜ克服しなければいけないのか、本当の仕事の任せ方や人の育て方も含め指南してくれる本です。

単にまわりに仕事を振るノウハウやテクニック的な話ではなく、なぜ「自分でやったほうが早い病」を克服しなければいけないのか。そのためにはどう考え方を変えていかなければならないのか。病を克服したあるべき姿(What)に対して、理由と(Why)マインドを変える処方箋(How)が書かれていたのが良かったです。

詳細は下記エントリーを参照いただく、もしくは本書を手に取っていただければと思いますが、この本を読んでからは本当に自分がやるべきこととそうではないことをより意識するようになりました。

誰も幸せにしない「自分がやった方が早い病」を克服する仕事の任せ方|思考の整理日記
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ネット・バカ―インターネットがわたしたちの脳にしていること(ニコラス・G・カー)

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること2012年は特にプライベートでのネット利用時間を意図的に減らしてみた1年でした。それまでは朝起きてから夜寝るまでの間、ネット常時接続状態。リアルタイムウェブ中毒です。でもふと思ったのが、これって本当に自分がやるべきことなのか、本当に必要なことなのか、と。

そんな頃に読んだのが本書で、主題は、ネットを当たり前のように使うようなり人間の脳に変化が起こっている、具体的には脳が注意力散漫になることへの警鐘です。注意力散漫になるとは逆に言えば1つのことに長く集中できないという状態(頻繁にツイッターを見る、RSSをチェックする、メッセージ受信のアラートで作業を中断しメールを確認する)。この回数/頻度が多いほどそれ以外のことを長くやり続けることが困難になります。

とはいえ、じゃあネットを使わない生活に戻れるかというとそれは現実的ではない。結局のところ、ネット利用時間で無駄な内容(無目的なウェブ閲覧)をなくし、目的を持ってネットを使うようにしました。なんとなしにSNSやスマホを使わないようにすること。ネットの付き合いはこれからも試行錯誤が続きそうですが、本書を読んだのは問題意識を持つためのいいきっかけになりました。

リアルタイムウェブ中毒だった自分と今の自分|思考の整理日記
ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること(Amazonリンク)


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他にもまだご紹介したい本について載せる予定が、長くなったので残りは別エントリーで更新します。今回は生き方とか考え方にフォーカスした本を中心に選びました。後半ではもう少しビジネスよりの、戦略とかビジネスモデルについて書かれた本を載せる予定です。

後編はこちら


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。