2017/11/08

書評: 日本電産流 V 字回復経営の教科書 (川勝宣昭) 。経営と営業強化で企業を強い組織にする


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日本電産流 V 字回復経営の教科書 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 驚きのプロローグ内容。本書の内容
  • 体系化されたノウハウ
  • 経営変革を実現するフレーム


驚きのプロローグ内容


以下は本書のプロローグからの引用です。読んだ時、書かれていた内容に驚き、この本に俄然興味を持ちました。

私の仕事は、日本電産が買収した赤字の会社に実際に赴き、経営者として黒字にすることであった。 (中略) しかもたった1年以内に。買収会社の業界経験皆無、営業・製造知識皆無、人脈皆無の人間にそんな芸当ができるのか?当然の疑問であった。

そして、結論から言えば、私にもできた。

 (中略)

創業から今日まで過去40年間、日本電産が買収した五十数社のすべてを、1社の例外もなく、ほぼ1年以内に黒字にしている。

これはとんでもないくらい凄いことだ。

 (中略)

私が日本電産在籍した7年間は、1つの再建が完了すると次の再建現場に向かうという、再建稼業に明け暮れる日々が続いたが、次の現場で再建の即戦力となるようなメソッド集が欲しい、なんとかメソッドとして体系化し役立てたい。それが、私がメソッド化を心がけた動機である。

 (引用:日本電産流 V 字回復経営の教科書)


本書の内容


著者は川勝宣昭氏です。川勝氏は、日本電産の M&A 担当役員だったとき、経営者の永守重信氏の直接指導の下で、M&A でグループ入りした子会社数社の再建に携わりました。

本書に書かれていることは、永守氏から伝授された数々の経営手法をベースに、その後に川勝氏が経営コンサルタントに転じて得た実践メソッドを組み合わせて、まとめた内容です。

営業改革からコストダウンの手法、経営者やマネージャーのリーダーシップ、企業カルチャーの変革にまで及びます。


体系化されたノウハウ


興味深く読めたのは、体系化されたノウハウでした。本書のタイトルは 「日本電産流 V 字回復経営の教科書」 です。教科書と呼ぶのにふさわしい内容です。


仕組みに落とし込まれている


ノウハウが書かれた本には、その人だからこそ成功したであろう内容だと思えるものもあります。しかし本書は、そうではありません。属人的な内容ではなく、ノウハウが体系立ててまとめられ、「仕組み」 として書かれています。

なぜ、長年にわたって赤字体質だった企業を一年以内に黒字化できたのか、日本電産の強さの源は何かが、読んでいて見えてきます。著者の実体験からのノウハウがここまで公開してもいいかと思うほど、惜しげもなく書かれています。


秀逸な分析手法


体系化されたノウハウのうち、多くのページを使って紹介されているのは営業力強化についてです。個人レベルの営業ではなく、組織としてどう営業を強化するかです。

章ごとに分かれており、営業分析、計画、実行、フォローがそれぞれ具体的に説明されています。

営業の分析や計画で興味深かったのは、パレート分析をベースにした手法でした。

本書のパレート分析は、「80対20の法則」 をもとに作られています。パレート分析で示されるグラフは棒グラフと折れ線グラフの複合グラフです。

例えば売上の数字を大きい順に並べた棒グラフと、売上の累積量の折れ線グラフを組み合わせます。上位の一部要素が全体にどのくらい貢献しているかをみる分析方法です。

本書でのパレート分析の使い方は、顧客を売上高の順番で並べ、上位の何社で総売上の何 % を占めているかを視覚化するためです。例えば、視覚的に上位20社で売上全体の 80% であることがわかります。

著者の工夫として興味深かったのは、パレート分析にもう1つデータを組み合わせていることです。具体的には、その顧客内の自社シェアがどれくらいか、あるいは、顧客が業界内でどの程度のシェアを取っているかです。

売上のパレート分析で自社の状況を把握し、顧客内の自社シェアや業界内の自社シェアから売上ポテンシャルを見極めることができます。本書では 「二面パレート図」 と呼ばれています。

分析手法は決して高度なものではありません。分析から営業計画を立て、実行とフォローまで数字をベースに組織で動けるようにできています。秀逸な分析手法です。


経営変革を実現するフレーム


本書で紹介されるフレームの1つが、以下の3つを三位一体で経営することです。

  • 経営者のリーダーシップとマネジメントスタイル
  • 組織カルチャー
  • 業務革新のメソッド


メソッドは最後


ポイントは、3つはこの順番で機能するということです。

強いリーダーシップが発揮され組織に影響を及ぼすと、カルチャーが醸成されます。組織内で共有されたカルチャーがあるからこそ、3つ目の業務革新のメソッドが生きます。

逆に言えば、メソッドだけを導入しても、メソッドの前提となっている企業文化や組織のカルチャーが成熟していなければ、逆効果にすらなります。


トヨタのやり方を導入しただけでは、トヨタにはなれない


カルチャーが先でメソッドが後という話に関連して、本書のコラムでトヨタのことが書かれています。

ハーバード・ビジネススクールでトヨタ研究の講座を持つアナンス・ラマン教授が、アメリカのケンタッキー州にあるトヨタの工場を訪れた時の話です。

トヨタ工場の担当者は、ラマン教授に包み隠さず生産過程を見せ、ビデオ撮影をしてもよいと伝えました。驚いたラマン教授はトヨタのマネジャーに次のように聞きました。「トヨタ工場を見学しているのはハーバードのケース教材に書くためである。トヨタの秘密を書くことになる。そうなれば他のメーカーも真似することにある」 と。

トヨタの担当者はこう言いました。「外側を真似できてもマインドは真似できない。トヨタの社員と同じマインドを持たなければ、同じような結果は出せない」 。

ラマン教授はこのエピソードから、次のように言います。「他の企業がどれだけ真似しても、トヨタになれない理由がわかった。表面的なことを模倣するだけではダメだった。マインドからトヨタ形式に変えなければならない。トヨタは、リーダーが企業文化を作る会社である。それが社員のマインドを変えている」 。

トヨタのマインドの話は、企業カルチャーと見ることができます。トヨタ工場のエピソードは、いくら優れたメソッドであっても、それを支えるカルチャーが醸成されていなければ機能しないという例です。


すぐやる、必ずやる、出来るまでやる


日本電産は三大精神を持っています。そのうちの1つが、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」 です。本書のキーワードです。

この言葉には、日本電産のカルチャーが込められています。

  • すぐやる:スピード
  • 必ずやる:必達 (未達を許さない)
  • 出来るまでやる:徹底してやる、できるまでフォローを続ける

本書では日本電産の営業メソッドが紹介されています。読んでいくと、メソッドには、スピード・必達・徹底とフォローの3つが深く入り込んでいることがわかります。3つのカルチャーがあってこその営業メソッドなのです。


最後に


本書に書かれていることは、経営手法と営業強化によって、企業をいかに強い組織にするかです。

私は現在は営業職ではなく、会社経営をする立場やコンサルタントでもありません。にもかかわらず、営業メソッドや惜しげもなく公開されるノウハウに具体的な実践イメージを持て、興味深く読み進めることができました。

もし営業職や経営層の方が読めば、もっと興味深く読めるのではないでしょうか。

本書の特徴は、組織として営業力を強化する方法や、コストダウン・利益創出のやり方が書かれているだけではありません。その奥にあるリーダーシップと企業カルチャーがいかに大切かがわかります。リーダーシップとカルチャーがあり、フォローと徹底という仕組みがベースにあってこそ、各種のメソッドが生きることが強調されています。

本書は2017年11月現在で、今年読んだ本でベスト5に入ります。紙の本で300ページほどありますが、各章が体系的にまとまっており、グラフなどの図も適切に入り、一気に読めました。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。