投稿日 2018/02/16

書評: 成功企業に潜む ビジネスモデルのルール (山田英夫) 。見えないところでつくる 「提供価値の源泉」 と 「儲けるための仕組み」


成功企業に潜む ビジネスモデルのルール - 見えないところに競争力の秘密がある という本をご紹介します。




本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

ビジネスモデルを見る時、我々は外部から見えやすいところばかりに目がいきますが、実は見えにくいところに、成功している企業の優位性の秘密があるのでは?

そう考えた著者は、ユニークなビジネスモデルを持つ企業を数多く取材し、その謎を解明したのが本書です。思わず他人に話したくなるようなビジネスモデルの事例が満載です。

著者は早稲田大学ビジネススクール教授でビジネスモデル研究の第一人者です。「ユニークなビジネスモデル」 を見つけ出す目、その語り口に大変高い評価があり、本書でも期待通りの本領が発揮されています。


 「見えないところ」 に儲けの仕組みがある


この本のメッセージはシンプルです。「ビジネスモデルの見えない部分にこそ、儲ける仕組みの源泉がある」 です。

著者の問題意識は、次のように書かれています。

日本の大企業から画期的なビジネスモデルが構築できたという話は、あまり聞こえてこない。構成要素も構築方法も示されているのに、なぜ画期的なモデルが出てこないのだろうか。ここに本書の問題意識があった。

その答えを探し求めるうちに、「見える」 ビジネスモデルの構築だけでは不十分であり、コスト構造と競争構造という 「見えない」 部分で、他社を寄せつけない持続的な仕組みが必要だということがわかってきた。これが本書のサブタイトルになったのである。

 (引用:成功企業に潜む ビジネスモデルのルール - 見えないところに競争力の秘密がある)

本書のサブタイトルは、「見えないところに競争力の秘密がある」 です。

では、ビジネスモデルの 「見えるもの」 と 「見えないもの」 は、どのように違うのでしょうか。


 「見えるもの」 と 「見えないもの」 


 「見える」 とは、商品の機能や特徴、サービス内容そのものです。アフターサービスも含まれます。提供される具体的な価値が、利用する顧客や競合からも見えているものです。

それに対して、「見えないもの」 こそが、競合に対して優位に、あるいは、そもそも競争をしなくてもよい環境を構築する源泉になります。

提供価値を実現したり、品質の高いものを低コストでもたらすことの裏の仕組みなので、顧客からは意識されず見えないものです。また、競合からも、顧客への提供価値をどのように中で実現しているのかが見えにくいものです。

ビジネスモデルの 「見えないところ」 には、2つの側面があります。

  • 提供価値の源泉
  • 儲けるための仕組み

それぞれについて見ていきましょう。


見えないもの 1: 提供価値の源泉


価値とは、顧客がその商品やサービスを利用することによって得られる 「うれしいこと」 です。うれしいことは、消費したり利用によって実感できることなので、顧客には見えるものです。

ビジネスモデルの見えない部分で重要なのは、価値につながる機能や特徴を実現し、顧客が価値と感じることを提供するための源泉は何かです。何によって価値を提供できているかです。

本書には様々な企業のビジネスモデルが紹介されています。例えば、女性専用フィットネスの 「カーブス」 です。

カーブスの提供価値の源泉で興味深かったのは、2つです。


カーブスのコーチ


本書によれば、カーブスの女性コーチは、ジムの会員の名前や性格など、一人ひとりをよく知っているとのことです。会員の名前を呼ぶ時は、名字ではなく下の名前で声をかけるそうです。

本書に書かれているカーブスのターゲットは50代以上の女性で、彼女たちにとって、日常で自分の下の名前で呼ばれる機会は少なく、自分が大切にされ尊重されている実感や、コーチへ親しみが湧きます。

カーブスのコーチの特徴は、一般的なジムのコーチと異なり、体育会系ではなく、人と接するのが好きで、コミュニケーション力が高い女性です。

こうした人材をカーブスが抱えていることが、カーブスでしか提供できない顧客 (会員) にとっての価値をもたらします。


 「3つの M 」 をやらない


カーブスの 「3つの M をやらない」 という戦略も、ビジネスモデルの 「見えないところ」 です。具体的には、次の3つです。

  • 会員は女性のみ。コーチやジム内のスタッフも女性 (No men)
  • 化粧をして通う必要がないようにし、また、化粧が落ちるほど汗をかくようなハードな運動ではない (No make-up)
  • 一般的なジムに設置してある鏡がない (No mirror)

いずれの M も、通常のジムにはあるので、カーブスのやっていることは非常識に見えます。しかし、3つの M をやらない・持たないことによって、カーブスは価値 (顧客にとってのうれしさ) を提供しています。

具体的には、男性がいなく女性だけなので、まわりの目を意識しなくてもよい環境です。化粧をしなくても気軽に通えます。鏡もないので自分の体型を気にせずにエクササイズに集中できます。


見えないもの 2: 儲けるための仕組み


ビジネスモデルの見えないところの2つ目の要素である 「儲ける仕組み」 についても、カーブスを例に解説します。ポイントは3つです。


損益分岐点を低くする仕組み


カーブスのジム設備の特徴は、シャワーやプールなどの水回りがないことです。

先ほどの鏡がないことも含め、ジムの初期費用や運営コストを小さくできます。ジム運営者にとっては、損益分岐点を低くできる仕組みです。


競合とは異なるターゲット


カーブスの会員のターゲットもユニークです。

ターゲットを50才以上の女性とし、運動の必要性は感じているが普段は運動をしていない人と設定しているとのことです (本書によれば会員の平均年齢は 62.5才) 。すでに他のジムに通っているような競合ジムのターゲット顧客とは異なる人です。

このターゲット設定によって、競合との客の奪い合いは起こらず、価格競争を避けることができます。


集客は口コミから


集客のアプローチは、カーブスでは口コミが重要な役割を果たします。広告宣伝費をなくせるので、集客にお金をかけなくてもよい仕組みが構築できています。

本書によれば、新規会員の 52% は口コミによって獲得できているとのことでした。半年ほどの期間で、4~5回の口コミを聞いたり見て入会を決めるようです。

既存の会員からの口コミで新規入会者を獲得できているということは、顧客に集客の役割を果たしてもらっていることを意味します。コストがかからないだけではなく、カーブス自身が手をまわすことなく顧客にやってもらっているのです。


最後に


本書のテーマは、「ビジネスモデルの本当に重要なことは、外から見えないところにある。見えない部分で、いかに持続的な競争優位とコスト優位を築くか」 です。

多くの日本企業の事例がこの視点で分析されています。前半での各事例を受けて、後半では 「見えない部分」 は何かを一般化し解説しています。

今回のエントリーで見たカーブスのように、「最初からやらない」 「顧客にやってもらう」 「業界で常識とされていることを全く違う仕組みにする」 など、成功している企業の戦略を興味深く学ぶことができます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。