投稿日 2018/02/20

潜在意識から消費者インサイトを見い出すための質問方法を、具体的な事例で解説します


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マーケティングにおける消費者インサイトについてです。インサイトを見い出すための質問を考えます。

エントリー内容です。

  • インサイトとは何か
  • 潜在意識を知るための調査と質問例
  • 第三者の立場で答えてもらい、潜在意識を探り出す


インサイトとは何か


具体的な質問の解説に入る前に、インサイトについてご説明します。


人を動かす隠れた心理


インサイトとは一言で言えば、「人を動かす隠れた心理」 です。消費者自身も普段は意識していませんが、気づかされれば行動を起こす気持ちです。

ポイントは、隠れているということです。日常生活で意識できていることは、インサイトではありません。すでに顕在化した気持ちや感情ではなく、潜在意識です。

インサイトでないものは、表向きの建前や意見・考え、すでに顕在化している不満です。

例えば、アンケート調査で回答者に直接聞いて出てきた回答そのもの、インタビュー調査で調査対象者が直接語ったことは、まだインサイトにはなっていません。インタビューやアンケートで、聞かれた人が考えて話したり記述した内容は、無意識のレベルではないためです。

なお、消費者インサイトについては、別のエントリーで詳しく解説しています。ぜひこちらもご覧ください。



インサイトになるのは潜在的な意識


インサイトは、アンケート回答情報やインタビューでの発言情報から、その背後にある隠れた心理として見い出すものです。

インサイトを得るために求められる姿勢は、受け身ではなく主体的な態度です。インサイトは、人から聞いたり教えてもらうのではなく、能動的に自分たちでインサイトを見い出すものです。

 「あなたはどう思いますか」 や 「なぜそう思いますか」 と聞かれると、身構えてしまい本音よりも建前としての回答を言ってしまいます。このように直接聞いてしまうと、返ってくる答えは顕在意識です。

インサイトにつながる生活者の情報は、人の潜在的な意識です。普段は本人も自覚していないレベルのものです。潜在意識は、顕在意識と全くの無意識の中間にあります。


潜在意識を知るための調査


人の潜在意識を知るためには、消費者にどのような問いかけをするとよいのでしょうか。

通常、人の潜在意識を知るために用いられる調査は、定性調査です。例えば、1対1で相手のことを深く聞くデプスインタビュー、人の気持ちや行動などを写真やイラストで当てはまるものを選んでもらう投影法、生活環境や振る舞いを観察する行動観察です。

定性調査は、多くの人に実施するよりも、一人の人について深く理解するアプローチです。

一方、サンプルを多く確保するのが定量調査です。例えば、アンケート調査を1000人に実施し、回答を得ます。

アンケートでは、一般的にはインサイトになる潜在意識は聞きにくいです。ただし、アンケートの質問の仕方を工夫すれば、潜在意識に迫ることはできます。


潜在意識を知るための質問例


買い物客はそのキーワードで手を伸ばす という本には、アンケートでの定量調査で、インサイトを見い出すための潜在意識を知るための調査方法がわかりやすく解説されています。



興味深いと思ったのは、「あなたはどう思うか」 と直接尋ねるのではなく、第三者的な立場を設定してあげる方法です。

以下、具体例で 「第三者的な質問の仕方」 を3パターンご紹介します。


[質問例 1] ○○ はあなたのことをどう思っていると思いますか?


本書ではハウス食品のシチューを例に、具体的に説明されています。物 (シチュー) を人にたとえてもらう質問と回答例は、以下でした。

質問:
 「ビーフシチュー」 が仮に意思を持っているとすれば、あなたのことをどのように思っていると思いますか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

回答例:
 「忙しいときにしか使ってくれない」 と思っている
 「特別な日には私の出番」 と思っている

ビーフシチューは自分 (アンケート回答者) のことをどう思っているのかを考えることにより、ビーフシチューを潜在意識下でどのように扱っているのかが見えてきます。

回答例の1つ目 「忙しいときにしか使ってくれない」 は、「ビーフシチューはすぐに作ることができる料理」 や 「手抜きをしている後ろめたさを感じる」 ことが読み取れます。

2つ目 「特別な日には私の出番」 は、シチューは記念日などで食べたい料理であるものの、日常の献立にはなりにくいというイメージを持たれています。


[質問例 2] ○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?


これも、物を人間にたとえて答えてもらう質問です。

質問:
 「ビーフシチュー」 を人間にたとえるとどのような人になるでしょうか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。

回答例:
上質なスーツをまとまった老紳士
太ってにっこりとしているお母さん

1つ目の回答例 「上質なスーツをまとまった老紳士」 から、回答者はビーフシチューのことを、「フォーマルな料理」 「あらたまった気持ちになって食べる」 というイメージを抱いていることがわかります。


[質問例 3] 文章の空白を埋める質問


ユニークだと思ったのは、文章の空白を埋めてもらう質問です。

質問:
仮にあなたが 「ビーフシチュー」 になったとします。そんなあなたは大好きな恋人にフラれてしまいました。そのフラれ文句は、「ビーフシチューさん、あなたの (  ①  ) は大好きだったけれど、(  ②  ) が好きになれなかったんだ」 。
① と ② にはどのような言葉が入ると思いますか?それぞれ20字以上でお答えください。

回答例:
① (大好きだったこと):ワインが合うようなオシャレな雰囲気
② (好きになれなかったこと):毎日家で食べる気にはなれないところ

この回答者のビーフシチューへのイメージは、ビーフシチューには特別感があるものの、日々のおかずには使いにくいという不満を潜在的に感じていることが見えてきます。


第三者の立場で答えてもらい、潜在意識を探り出す


アンケートから生活者の潜在意識を知るための質問と回答例を3パターンご紹介しました。いかがだったでしょうか。

重要なポイントなので繰り返すと、「あなたはどう思いますか」 と直接的にアンケート回答者本人のことを聞くのではなく、第三者の立場になって答えてもらうことです。

第三者の立場とは、ビーフシチューを擬人化したように、ビーフシチューが自分 (アンケート回答者) のことをどう思っているかです。そのイメージから、回答者のシチューへの潜在意識を探り出します。

私自身もこの本を読んだ後に、実務の調査で第三者的な聞き方を取り入れてみました。

ウェブアンケートに、ある商品を人にたとえる質問を加え、自由回答で書いてもらいました (○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?) 。

結果は、興味深い回答が予想以上にありました。

商品をあえて人にたとえてもらった結果、機能や情緒面でのたとえ、回答者自身とどのような関係や距離感なのかが、多様な表現で書かれていました。調査対象の商品への新しい見方を得ることができました。


最後に


潜在意識とは、本人が普段は意識することがないので、直接聞いても、出てきにくいものです。だからこそ、どう抽出するかは工夫のしがいがあります。

マーケティングにおいて、ターゲット生活者の潜在意識からインサイトを見い出せれば、インサイトを源泉にしたマーケティングが、競合他社との差別化の源泉にできます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。