投稿日 2024/08/24

ジョブとモーメントが導く顧客体験の最適化。購入から利用までのシームレスな価値提供

#マーケティング #ジョブ #モーメント

 「あれ、うちの商品、売れてない…」 

そんな悩みを抱えていないでしょうか?

多くの企業が直面する課題の背後には、「お客さんの本当のニーズを理解できていない」 という問題が潜んでいます。

お客さんは、商品やサービスを買うときに無意識にも 「ジョブ」 と呼ばれる問題解決や課題対処を求めています。ジョブ理論を理解し活用することが、ビジネスの成功のカギを握っています。

そこで今回は、ジョブ理論の基本原理から実践的な活用方法までを解説します。ジョブ理論は、お客さんの心をつかみ、お客さんに価値を提供するためになくてはならない羅針盤となります。

では、ジョブ理論の世界へ、ぜひ一緒に踏み込んでいきましょう。

ジョブ理論


マーケティングのジョブの定義は、「ある特定の状況で人が遂げたい進歩」 です。

提唱したのはクリステンセンで、ジョブの定義を次のように表現しました。

    the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.

    ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。


ジョブ理論のジョブとは、もともとの英語では 「Jobs to Be Done」 と表現されます。日本語にすれば、ジョブは 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。

商品はジョブのための 「雇うもの」 

ジョブ理論で特徴的なのは、人はジョブを解決するために、商品やサービスを 「雇う (hire) 」 と表現することにあります。

お客さんは何のために商品を買うのかといったら、ジョブを解決するためと捉えるわけです。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけます。

ジョブとワーカー

そこで、ここではジョブのための雇う商品やサービスの総称として、「ワーカー」 と表現することとします。ジョブを片付けるために働いてくれるイメージからワーカーとしました。

たとえば、犬を飼っている人は、愛犬に長生きしてもらいたいから健康に良いドッグフードを買うでしょう。ここでは 「愛犬を長生きさせる (長生きしてほしい気もち) 」 がジョブになり、ワーカーが 「犬の健康に良いドッグフード」 となります。

もうひとつ別の例では、ランニングシューズを買う人は、「健康に生きていたい」 と願うジョブから、「走る専用のランニングシューズ」 というワーカーを手にします。

マーケティングに長けた企業は、自分たちのお客さんが何を成し遂げたいと思っているかという 「ジョブ」 を理解し、お客さんのジョブのための一番のワーカーになる商品を提供することで、お客さんにとって価値をもたらしているのです。

モーメント

次に 「モーメント」 というマーケティングの概念をご紹介します。

モーメントは日本語に直訳をすると 「瞬間」 を意味します。

ジョブの文脈では、モーメントとはジョブが表れるシチュエーションを指します。

たとえば、モーメントの具体例を考えると、1年間で最も健康意識が高まるモーメントは、健康診断の結果が返ってきたときです。それも、いくつかの評価項目に 「C」 や 「D」 をあるのを見て、ちょっとこれは食生活や生活を見直さないとやばいかもと思った瞬間です。

このときに 「もっと健康的な状態になりたい」 や 「いつまでも若々しい自分でいたい」 というジョブが顕在化するわけです。

こうしたモーメントに健康食品メーカーが 「ジョブを解決するワーカーになりますよ」 ということを的確に訴求できれば、ジョブへの解消モチベーションが高まっているタイミングなので、普段よりも意識を向けてもらいやすいでしょう。

Who, What, How からの拡張


マーケティングでよく言われるのは、Who, What, How というフレームです。

マーケティングの基本の型 「Who, What, How」 

3つは順番に、

  1. お客さんは誰か [Who]
  2. お客さんに提供する商品と顧客価値は何か [What]
  3. どうやって商品をつくったり魅力を伝えるか [How]

です。

Who の解像度を Why, When, Where で上げる

Who, What, How の3つの重要性はことさらに声を大にして言う必要はないですが、さきほどのジョブやモーメントの話とつなげると、あらためて強調したいのは Who の解像度を高めることの大切さです。

Who というと、Who から抱くイメージは 「どういう人か」 という属性的な顧客情報です。典型的な Who のイメージ例、30代男性などの性別年代の情報から、職業、家族構成、居住エリアなどです。

ここからさらに Who の解像度を上げるためには、こうした顧客情報だけでは十分とは言えません。お客さんからのウォンツにつながるような背後にあるジョブ、そのジョブが表れるシチュエーション (モーメント) 、ジョブのもっと奥にある顧客インサイト (人を動かす隠れた深層心理や本音) までを多角的に深く理解する必要があるのです。

Who, What, How はいわゆる 5W1H のフレームからのマーケティングの型ですが、Who の中には 「Why」 というなぜ (ジョブや顧客インサイト) 、「When」 や 「Where」 といういつ・どこでのモーメントなどが入っています。

整理すると、

  • 顧客理解: Who, Why, When, Where
  • 価値定義: What
  • 価値提案と価値実現: How

となります。

ジョブ理論のマーケティングへの応用


ジョブ理論を実際のマーケティング活動に応用することで、企業はお客さんの深いニーズを理解し、それに応える商品やサービスを提供できます。

ここでは、具体的なジョブ理論の応用例をいくつか紹介します。

  1. 商品開発
  2. 顧客セグメンテーションの精緻化
  3. 顧客体験の最適化
  4. マーケティングメッセージの言語化

商品開発

商品開発の初期段階でジョブ理論を活用することにより、お客さんの本質的なニーズにもとづいた商品を設計できます。

たとえば、健康志向の生活者向けに新しい健康食品を開発する際、単に 「低カロリー」 や 「ビタミンやミネラルが豊富」 といった特徴を強調するのだけではなく、生活者が 「健康的な生活を維持したい」 「いつまでも若々しい体と気持ちでいたい」 「将来に元気で長生きするために今から備えておきたい」 といったジョブを解決するための具体的な場面 (モーメント) を想定します。

 「いつまでも若々しい体と気持ちでいたい」 というジョブを解決するために、アンチエイジング効果が期待できる成分を含む食品を開発し、忙しい日常の中という 「モーメント」 で簡単に取り入れられるスナックやドリンクを 「ジョブのワーカー」 として提案します。

 「将来に元気で長生きするために今から備えておきたい」 というジョブに対しては、日々の食事に手軽に取り入れられるサプリメントや、朝食に最適な栄養バランスの整ったシリアルなどを提供します。

顧客セグメンテーションの精緻化

従来の属性情報にもとづくセグメンテーションだけでなく、ジョブ理論を取り入れることで、より細かいセグメントに分けることができます。

たとえば、同じ30代の男性でも、「キャリアアップを目指している人」 と 「家族との時間を大切にしたい人」 では持っているジョブは異なります。よって、それぞれのジョブに対して異なるマーケティングを展開することが有効です。

 「キャリアアップを目指している人」 には、仕事の効率を上がるビジネスツールや、短時間でリフレッシュできる健康食品を提供することで、朝の通勤時やランチタイムという利用するシーン (モーメント) を想定します。

 「家族との時間を大切にしたい人」 には、家族と過ごす週末の時間をより豊かにするためのホームエンターテインメントや、家族全員が楽しめるアウトドアグッズなどを提案するといいでしょう。

顧客体験の最適化

ジョブ理論を用いて顧客体験を最適化することも重要です。お客さんが商品を選び、購入し、利用する全ての段階でのモーメントを理解することで、よりスムーズで満足度の高い体験を提供できます。

たとえば、冷凍食品に求めるものとして一般的な時間のタイムパフォーマンスの良さだけでなく、その時間を短縮できたからこそ家族との楽しい団らんに充てたいというジョブを解決するために、次のような提案が考えられます。

時間短縮と栄養バランスを両立した冷凍食品を開発し、「短時間でおいしく栄養満点の夕食を準備できる」 ことを実現する顧客体験を設計します。

さらに、家族と一緒に料理を楽しむレシピや、食後に楽しめるアクティビティのアイデアを提供し、顧客体験全体を豊かにします。

マーケティングメッセージへの言語化

マーケティングメッセージもジョブ理論をもとに構築することで、お客さんに響く訴求が可能となります。

たとえば健康食品の広告では、「理想の体型を手に入れたい」 というジョブに焦点を当て、「まずはあなたの理想の体型をイメージするところから一緒に始めませんか」 というメッセージから、「あなたの理想の食事をサポートします」 といったメッセージを強調します。

これにより、お客さんが自身の目標に向かって取り組む姿を想起させることができます。

まとめ


今回はジョブ理論について、重要性と活用方法を解説しました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ ジョブに関する要素
  • ジョブ: お客さんが対処したい課題や達成したい目標
  • ワーカー: ジョブを解決するためにお客さんが 「雇う」 商品やサービス
  • モーメント: ジョブが顕在化する瞬間

✓ ジョブの活用例
  • お客さんの深いニーズを理解できる
  • お客さんに響く商品やサービスを開発できる
  • 効果的なマーケティングメッセージを伝えられる
  • 顧客満足度の高い体験を提供できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。