日々の業務の中で、「知識」 という無形資産を社内ではどのように扱っているでしょうか?
お客さんからの声や顧客体験からの経験を、組織内での新たな価値創造に活かせているでしょうか?
今回は、九州のホームセンター 「グッデイ」 の UGC 活用事例をご紹介します。
SECI モデルという補助線を使うことで、グッデイの取り組みはマーケティングへの学びが得られる事例になります。ぜひ一緒に、組織での価値共創の秘訣を紐解いていきましょう。
九州のホームセンター 「グッデイ」
ご紹介したいのは、九州北部および山口に64店舗を持つホームセンター 「グッデイ」 の事例です。
UGC を積極活用
グッデイは、顧客参加型のマーケティング手法としてUGC (User Generated Content ユーザー生成コンテンツ) を積極的に活用しています。
たとえば、「あつまれ ウチの子フェア」 というキャンペーンがあります。
このキャンペーンは年に2回開催され、インスタグラムや X でペットの写真や動画の投稿を募集するというものです。UGC の中から選出された作品は、グッデイのテレビ CM に採用されたり、ほかにも Web サイト、店内のポスターやサイネージ、パンフレットなどの販促物にも使用されています。
フォトコンテストの実施
この 「あつまれ ウチの子フェア」 のキャンペーンの成功を受けて、2022年にはグッデイはさらに一歩進み、植物分野でも UGC の活用を始めました。植物コミュニティーアプリ 「GreenSnap」 とのコラボによる創業祭イベントです。
GreenSnap は、2014年から運営されている植物に特化した SNS です。ユーザーはアプリで植物の名前や育て方を検索できるだけでなく、自分が育てている植物の写真を共有することができます。GreenSnap には、2023年10月末時点で累計2000万枚もの写真が投稿されています (参考記事) 。
創業祭に合わせたイベントでは、多肉植物の寄せ植えに関するフォトコンテストが行われました。GreenSnap に投稿された写真はグッデイ全店のサイネージで展示され、イベントは売上増加に寄与しました。
UGC がもたらす効果
ユーザーにとってペットや植物の写真を UGC として投稿する動機には、飼い主や栽培者が自分の 「かわいいウチの子」 や 「愛情を持って育てた植物」 を他の人に見てもらいたいという気持ちがあることでしょう。
グッデイでは、このようなお客さんの思いを大切にし、自分や身近な人のペットの写真や動画をお店に掲出することで、UGC を通じてお店とお客さんとの間での親近感を生み出しています。
UGC による売り手の気づき
さらに、UGC の活用はお客さんだけでなく、グッデイの店舗側にもメリットをもたらします。
グッデイでは以前から、自社で制作した画像を用いたペット用品や販促物の展開を行ってきましたが、UGC の活用により、お客さんだけではなく店舗スタッフに新たな 「気づき」 を提供しています。
具体的には、GreenSnap の UGC では、センス良くアレンジされた植物や鉢植えの写真が多く公開されており、これらを見ることで 「お客様は今、こういうものをいいと思うのか」 という発見があったり、「もっといいものを作れるようにがんばろう」 「別の品種も仕入れてみよう」 という意識がお店にも生まれます。
このように店舗スタッフにとっても UGC が刺激となり、より良い商品やサービスの提供、新しい品種やアレンジの導入への意欲を高めます。売り手である店舗が自ら発信する情報とは異なる、UGC からの生活に密着した植物の写真やアイデアを通じて、消費者のニーズやトレンドを把握することができるのです。
UGC を起点に、お客さんと店舗スタッフの双方が気づきを得て、お客さんは新たな植物を買ってみたり、アレンジに挑戦する。そうして生まれた作品が、UGC として店舗に環流することで、店舗を軸としたコミュニティが形成される。これがグッデイの UGC 活用の全体像です。
組織内の知識創造プロセス
ではここからは、グッデイの取り組みから学べることを考察します。
補助線として引きたいのは、組織内の知識創造プロセスである 「SECI モデル」 です。
SECI モデルとは
SECI モデルは、暗黙知と形式知の間の相互作用を通じて、知識がどのように創出され、組織内で共有されるかを説明するフレームです。
暗黙知とは個人の経験や感覚に根ざした知識であり、まだ他人に説明ができるほどのレベルにはなっていない状態です。一方の形式知は言語化がされ、説明できる知識を指します。
SECI モデルは次のような図で表されます。
SECI モデルには4つの段階があります。
- 共同化 (Socialization) 共同の場づくり
- 表出化 (Externalization) 形式知にする
- 結合化 (Combination) 形式知の結合
- 内面化 (Internalization) 自分のものにする
SECI モデルのプロセスを順番に見ていきましょう。
共同化 (Socialization) : 共同の場づくり
共同化では、個々人の経験や感覚、技術などの暗黙知を共有する場をつくります。
この段階では、直接の経験の共有、模倣や実演を通じて知識が伝達されます。たとえば、職人の人がその弟子に技術を伝授する機会や、ビジネスの場ではチームメンバーが集まる時間やレビューをする会議がこれに該当します。
表出化 (Externalization) : 形式知にする
表出化は、暗黙知を形式知に変換する過程です。
個人の中にある暗黙知が、言語や図表、文書などの形で外部に表現されることを指します。他にもメタファーやアナロジーなどの表現を用いることもあります。暗黙知が言語化されることで形式知に変わり、組織内でより広く共有されやすくなります。
結合化 (Combination) : 形式知の結合
結合化では、様々な形式知が集められ、分析や整理がされて新たな知識が創造されます。バラバラにあった形式知が結合することで、形式知がさらに進化します。
文書化された情報を組み合わせたり、データベース内で情報を分類・再構成することで、新しい知識に発展します。ビジネスでは新しい商品への開発や、マーケティングや営業などのアイデアにつながります。
内面化 (Internalization) : 自分のものにする
内面化は、形式知が個々人の暗黙知として取り込まれる過程です。
文書や会議で共有された他者からの知識 (形式知) を個人が取り入れます。そして実際に活用した経験から学び、得た知識を自分の暗黙知として吸収します。
経験や教訓が個人のスキルや価値観に組み込まれ、それがひいては組織全体の能力の向上に貢献します。
SECI モデルに見るグッデイの創発の仕組み化
それではここで、話をグッデイにつなげます。
グッデイのアプローチは、SECI モデルを当てはめると、その本質が見えてきます。
グッデイの UGC 活用事例を SECI モデルのフレームワークに照らし合わせることで、組織とユーザー双方にとってのメリットや、知識創造のプロセスがどのように機能しているかを紐解くことができます。
共同化 (Socialization)
グッデイの UGC 活用は、お客さんがペットや植物に関する自身の経験や感覚を共有する場があるところから始まります。
共有は主に SNS 上で行われます。お客さん同士、お客さんとグッデイの間で暗黙知の交流がされる空間です。
たとえば、「あつまれ ウチの子フェア」 では、参加者が自らのペットにまつわるストーリーや写真などの UGC を共有し合うことで、グッデイの顧客参加型コミュニティという場が形成されます。
これは SECI モデルの共同化の段階に相当し、個々人の経験や暗黙知が共有される基盤をつくります。ここでは1人ひとりが 「自分のペットを見てほしい」 「我が家の植物を共有したい」 という気持ちが生まれています。
表出化 (Externalization)
UGC としてのお客さんからの投稿は、個人の経験や感覚が写真などの形やコメントでの言語化により、SNS 上で広く共有されます。
ペットや植物の写真、動画、ストーリーが集められ、公開されることで、これまで個人的なレベルにとどまっていた暗黙知が形式知に変わります。
グッデイが UGC 情報をテレビ CM や Web サイト、店内のポスターなどに採用することで、さらに多くの人に情報が拡散していきます。
結合化 (Combination)
お客さんからの UGC は、グッデイによって様々な形で組み合わされ、新たな知識やアイデアの創出につながります。
たとえば GreenSnap とのコラボイベントでは、UGC で共有されたお客さんの植物の写真が店舗ディスプレイに活用されたり、新しい商品の仕入れの参考情報にも活かされました。
これらの取り組み、すなわち UGC からの様々な形式知を組み合わせて新しい価値を生み出すというのは、SECI モデルの結合化の段階に当たります。結合化を通じて、グッデイは顧客ニーズや市場トレンドを捉え、それをもとにした新しい商品やサービスを開発することができるわけです。
内面化 (Internalization)
UGC を通じて得られた知識や情報は、グッデイのお客さんや店舗スタッフによって吸収され、内面化されます。
具体的には、植物のアレンジ方法やペットケアの知識が、お客さんのそれぞれの日常、店舗スタッフの業務に反映されることで、組織内外の人々の行動や価値観に変化をもたらすでしょう。
この過程は、SECI モデルの内面化の段階に相当し、形式知が再び個々人の暗黙知として吸収され、実践に活かされるサイクルをつくり出します。
知識共創のダイナミックプロセス
このように、グッデイの UGC 活用は、SECI モデルの各段階を経て、売り手と買い手での知識共創のダイナミックなプロセスを体現しています。
お客さんとグッデイがお互いに影響を与え合い、共に成長するようなこのサイクルは、新しい価値の創出と組織の発展を促す力を持ちます。
グッデイの事例は、SECI モデルを実践的に活用し、企業と顧客の双方に価値をもたらす知識創造の成功例と言えるでしょう。
まとめ
今回はホームセンターのグッデイの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- SECI モデルは組織内での知識創造プロセス。暗黙知と形式知の間の相互作用を通じて知識がどのように創出され、共有されるかを説明するフレーム。共同化 (場づくり) から始まり、表出化、結合化、内面化のプロセスを経て、個々人の知識が組織の発展に貢献する
- グッデイの UGC 活用は SECI モデルの実践例。お客さんが自身のペットや植物に関する経験や感覚を共有する場があり (共同化) 、SNS で投稿されることで経験・感覚が形式知に変換される (表出化) 。他のユーザーの投稿に着想を得て自分も投稿したくなったり、店舗での新しい売り方や商品仕入れにも活用される (結合化) 。UGC で見た情報をユーザーが参考にし取り入れたり、店舗スタッフも新たな取り組みにつなげている (内面化)
- 企業と顧客の間での知識共創のプロセスは、新しい価値の創出とビジネスの成長を促す。顧客参加型のコンテンツ作成やコミュニティを通じて、企業や商品の魅力を高め、常に変化する顧客ニーズに応えるビジネス活動になる
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