#マーケティング #顧客理解 #デザインと使い方

日焼け止めを嫌がる子どもの姿は、子育て中の親なら誰もが知る光景でしょう。

嫌がられがちな商品を、自分から使いたくなる商品に変えるためにはどうすればいいのか?

今回は、花王の 「ビオレ キッズスタンプ UV」 の事例から、私たちにも得られる学びを解説します。

ビオレ キッズスタンプ UV

出典: 花王

ご紹介するのは、花王とイオンリテールが共同企画した 「ビオレ キッズスタンプ UV」 です。こちらは、2026 年 3 月に発売された子ども向け日焼け止めです。

発売時の販売はイオン・ツルハ・ウエルシアなどの約 5,200 店舗と EC サイトに限定されていました。

限定販売ながら、発売から約 1 カ月で 21 万本を出荷し、売上は計画比 2 倍と好調です。SPF50 PA+++ の高い機能性に加え、デザインが特徴的です。なんと、猫の肉球型に液体が出るノズルと猫耳風のボトルデザインとなっています。

この見た目がビオレ キッズスタンプ UV の最大のポイントですが、日焼け止めの使い方を 「塗る」 から 「スタンプする」 に変えた日焼け止めです。

子どもの 「嫌だ」 と親の 「塗らせたい」 のすれ違い

事例からの学びに入る前に、なぜ子ども向けの日焼け止めが難しいカテゴリーなのかを整理しておきます。

子どもが日焼け止めを嫌がる要因

子どもが日焼け止めを嫌がる理由はひとつではありません。

肌に塗った後のべたつきやにおい、塗る時間を確保される面倒さ、何かを塗られること自体への抵抗が子どもにはあります。紫外線対策の重要性がまだ理解できる年齢ではないため、日焼け止めは子どもからすると不快なものとしか映らないわけです。

これを裏付けるような数字があります。花王が 2024 年 10 月に母親 1,400 人を対象に行った調査では、年齢別の日焼け止め使用率は 3 歳で 72% だったのに対し、4 歳で 57% と急落しています。この落差が示すのは、3 歳まではできても、4 歳前後になると、嫌がる子どもを親がなかなか制止できなくなる場面が増えてくるという実態です。

親が抱えるストレスの構造

子どもが嫌がる一方で、親の目線では紫外線から子どもを守りたい気持ちがあります。

近年は、強い紫外線が肌や髪へのダメージを与えるというイメージが広がり、子どもの紫外線対策に高い意識を持つ親が増えました。守ってあげたい気持ちは強まるのに、当の子どもは嫌がるという板挟みが、親のストレスをじわじわと積み上げます。

そこに、小さい子どもと出かける前の慌ただしさも重なります。時間に余裕がない中、結局は子どもに日焼け止めを塗らないまま外に出てしまうこともあるはずです。紫外線対策への意識が高まるほど、塗らないことへの親の罪悪感も強まっていきます。

子どもの 「使わない要因」 を解消したデザインの工夫

では、ビオレ キッズスタンプ UV はこうした親子のすれ違いをどう解消したのでしょうか?

肉球型ノズルが 「塗る」 を 「スタンプする」 に変える

商品の最大の特徴は、ノズルを肌に押し当ててボトルを軽く握ると、大小 5 つの円で構成された猫の肉球型に日焼け止め液が出ることです。

子どもにとっては、日焼け止めを塗る作業というよりも、猫の足あとのスタンプを押す遊びのようになります。動作の意味づけが変わることで、嫌がっていた行為が積極的にやりたい行為に変わるわけです。発売前のモニター調査でも、自ら進んで塗りたがる子どもの様子が見られたそうです。

肉球型のスタンプにした発想のもとには、2021 年に発売された 「ビオレ u 泡スタンプハンドソープ にくきゅう」 があります。

当時、2 歳の子どもが 「返したくない」 と言うほど好評で、今回のビオレ キッズスタンプ UV の商品開発に生かされました。猫の足あと以外の候補にスマイル・ハート・星・花など、他の案もあった中で、過去商品の知見をもとに肉球型が選ばれました。

子どもの力加減でも扱えるボトル形状

もうひとつのビオレ キッズスタンプ UV のデザインの工夫は、ボトルの形状にあります。

当初は、ビオレの日焼け止めでよく採用されるチューブ型の案が出ていたそうです。

ところが、握る力の加減が子どもには難しいことが開発段階での検証の中で分かってきました。様々な年齢の子どもで試した結果、最終的にたどり着いたのが断面が均一な楕円形のボトルです。

ボトルはやや硬めで、強めに握っても容器が凹みすぎず、液体を出しすぎてしまうことがありません。一方で、子どもの力でも出しにくいわけではない絶妙な硬さに調整されています。子どもが自分の力で扱えるという発想がデザインの工夫の根っこにあります。

親子に 「使いたい」 を生む使い方の良さ

見た目のデザインに加え、ビオレ キッズスタンプ UV には日焼け止め商品として使い続けてもらう工夫も施されています。

スタンプで適量が分かる基準

日焼け止めは、どれくらい塗れば十分なのか判断しづらい商品です。特に子どもの肌の場合、大人以上に量の感覚がつかめません。

ビオレ キッズスタンプ UV は、パッケージや公式サイトで 「子どもの腕なら 10cm 間隔でスタンプすれば適量」 と説明しています。また、肉球のスタンプの跡が肌に残るため、間隔の目安が見た目でわかりやすいです。

これは親にとっての安心材料になります。「ちゃんと塗れているだろうか」 という不安が解消されます。

親子で共有できる設計と副次的な大人需要

ビオレ キッズスタンプ UV は子ども向けに開発された商品ですが、大人にも届きました。液体の出しやすさは大人の力加減でも自然に使えるよう試行錯誤されており、SPF50 PA+++ という日焼け止めとしての高い機能性もあります。

大人への広がりを後押ししたのが、花王の社内デザイナーによる SNS アカウント 「花王でつくるデザイン」 の投稿でした。腕に肉球型のスタンプを押す動画は Instagram のリールで 510 万回再生、16.3 万いいねを獲得。インフルエンサーが商品を紹介しさらに波及し、ファミリー層以外にも認知が広がっていきました。

SNS には 「45 歳児ですが使わせてください」 や 「日焼け止めが苦手な大人が毎日使っています」 といったコメントが並びます。花王はあくまで子ども向けに開発した結果と位置づけていますが、購入層の広がりが拡散の勢いを後押ししたのは確かでしょう。

事例から読み解くマーケティングの学び

では最後のパートでは、ビオレ キッズスタンプ UV から学べるポイントを 3 つに整理します。

機能性以前の 「使われない」 課題を捉える

日焼け止めカテゴリーでは、これまで機能性の進化が中心に置かれてきました。紫外線防止効果や肌へのやさしさ、べたつきにくさ、塗りやすさが、商品の競争軸として磨かれてきたわけです。

ところが子ども向けの場合、それだけでは解けない問題が残っていました。それが、そもそも使ってもらえないという、商品利用や機能性のもっと前にある解決すべき問題です。必要性はあるのに生活の中で定着しないというカテゴリー特性でした。

同じ構造は、日焼け止め以外の他のカテゴリーにも当てはまります。買いたい人はいるのに使用場面を考えると手が止まっているという商品があるなら、なぜ使われないのかという問いから始めることが大事です。

顕在ニーズの裏にある潜在ニーズまで踏み込む

親の顕在ニーズは、子どもに使える日焼け止めがほしいというものです。しかしその裏には、子どもに嫌がられず自然に紫外線対策をしたい、親子で揉めたくない、外出準備をスムーズにしたいといった思いが隠れています。

ビオレ キッズスタンプ UV の上手さは、注力顧客である子どもの使わない理由をなくしつつ、同時に親の購買意欲も高まることを意図的にやっていることです。子どもの 「使わない要因」 を解消しつつ、子どもだけではなく親の潜在ニーズも同時に満たしたことが、商品の支持構造を強くしました。

デザインと使い方で 「使われない理由」 を 「使いたい理由」 に変える

この事例で印象に残るのは、デザインの捉え方の広さです。

デザインというのを見た目だけにせず、使い方や使用場面の体験まで含めて捉える発想があります。猫の肉球というモチーフ、日焼け止めを腕などにスタンプするという楽しさ、10cm 間隔という適量の基準というわかりやすい説明が組み合わさることによって、商品が自然と使いたくなり、かつ使いやすいものになりました。

ビオレ キッズスタンプ UV の事例は、使われない理由をなくし、そして使いたい理由を高めた商品開発です。べたつく、面倒、楽しくないという子どもの感情を、肉球が出てきて楽しい、自分で押してみたい、遊び感覚で使えるという感情に変換しているのです。

興味を持ってもらい、期待を高め、行動への物理的・心理的ハードルを下げ、手にとってもらいやすくすることで、商品は 「使いたくなるもの」 に変わります。

まとめ

花王 「ビオレ キッズスタンプ UV」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

ポイントをまとめておきます。

  • 商品やサービスがお客さんに 「使われない」 という問題に正面から向き合うことが大事
  • 注力顧客の使わない理由をなくすことで、注力顧客だけではなく、隣接する顧客の潜在ニーズも同時に満たせる可能性を秘める
  • デザインを見た目だけにとどめず、使い勝手の良さを向上させ、商品を 「使いたくなるもの」 に変える