#新規事業 #イノベーションのジレンマ #顧客理解

顧客に「いらない」と言われた新商品アイデアや新しいビジネス企画は、開発を見送るべきなのでしょうか?

名著『イノベーションのジレンマ』は、顧客の声に応えて成功してきた優良企業こそ、新しい市場でつまずくメカニズムを描きました。

今回は、新商品の可能性を見誤らないために、顧客の声をどう受け止め、いかに事業化につなげるかを紐解きます。

イノベーションのジレンマ

お客さんの要望に忠実に応えて成功してきた優良企業が、なぜ新しい市場への対応では遅れを取ってしまうのか――。

イノベーションのジレンマが向き合ったのはこの問いです。

優良企業を支えてきた、顧客に応える合理性

優良企業には、自社の商品を評価し、繰り返し購入してくれる顧客がいます。その要望に応えて商品を改良し、売上や利益を伸ばしてきました。

企業が次の投資を検討するときも、すでに購入してくれる顧客がいて、売上を見込める既存商品の改良は優先されます。既存顧客の要望に応える判断には、これまでの実績と収益の見通しに裏づけられた合理性があるからです。

クレイトン・クリステンセンが著書『イノベーションのジレンマ』で指摘したのは、優良企業が合理的に判断するからこそ、新しい変化への対応が遅れるという逆説です。

過去の成功が「誰に訊くか」を盲目的にする

既存顧客が具体的に見えている企業では、新商品の評価を訊く相手も、自然と既存顧客に決まります。これまで同じ顧客の声に応えて成功してきたため、新しい商品でもいつもの顧客に訊くことが当然のようになっていくわけです。

既存顧客が新商品に「いらない」と答えるのは、現在の用途や必要な性能に照らせば当然でしょう。既存市場での需要を判断するなら、その回答には十分な意味があります。

しかし、新しい商品に価値を感じる人が既存市場の外にいる場合、その人たちの評価は既存顧客への調査では得られません。既存顧客の「いらない」を理由に開発を見送れば、新しい市場の顧客と出会う前に、事業化の道を閉ざしてしまいます。

顧客の声を忠実に聞いて成功してきた企業ほど、訊く相手がいつの間にか既存顧客に固定されていきます。その成功経験が、新しい市場で生まれる変化や兆候を見逃す原因になるのです。

だからこそ、新商品アイデアや新規事業の可能性を確かめる際には、「今回も、いつもの顧客に訊けばよいのか?」と考えることが大事です。

未顧客の声を捉えても、既存事業との比較で参入が見送られる

既存顧客の「いらない」で新商品の評価を終えず、これまで接点のなかった人や企業の反応も確かめたいところです。しかし、新しい顧客のニーズを発見できても、そうは問屋が卸しません。

訊く相手と訊き方を見直し、未顧客を見つける

新商品の用途や市場を探る際には、自社の商品を利用していない人や、別の方法で不便をしのいでいる人など、これまで関係のなかった未顧客にも目を向けます。

まずは、誰がどんな状況で新商品に価値を感じるのか仮説を立て、話を訊く相手を選びます。さらに、相手から何を知りたいかに応じて、訊くタイミングや場所、質問内容なども考えるといいでしょう。

  • いつ訊くか:構想を説明した後、試作品を使った直後、一定期間使い続けた後など、何を経験した段階で評価してもらうかを決める
  • どこで訊くか:インタビューの場で経験を振り返ってもらうか、普段使う場所で様子を確かめながら訊くかを選ぶ
  • 何を訊くか:商品の評価に加え、実現したいこと、現在の対処方法、不便や妥協、新商品に魅力を感じる理由を確かめる
  • どのように訊くか:質問の順番や言葉、提示する情報、試作品を使ってもらう条件を組み立てる

聞いた声を解釈する際には、相手の置かれた状況や、何を経験したうえでの回答なのかも考慮します。商品に興味を持ったこと、実際に使って評価したこと、お金を払ってでも購入したいと言ってくれたたかは、何が前提なのかによって意味が違うからです。

こうして新商品を強く求める未顧客が見つかり、実際に購入してくれることまで確かめたとします。ところが、需要の存在を確認できても、社内では「市場として魅力が乏しい」と判断されることがあるのです。

未顧客のニーズが確認できても、市場に魅力がないと判断される

その理由は、自社の既存事業との規模の比較にあります。新商品を強く求める顧客がいても、その人数がまだ少なければ、顧客数、購入頻度、購入単価から見込まれる売上は既存事業に比べてわずかです。

一方、顧客層の人数が少ないからといって、ニーズが弱いとは限りません。少数の顧客が新商品を強く求め、現在の手段や商品に大きな不満を抱えていることもあるでしょう。

それでも、大きな既存事業を持つ企業にとっては、限られた人材・資金・時間を既存事業に振り向けるほうが、より大きな売上や利益を期待できます。新市場の顧客が商品を強く求めていても、全社の成長への貢献が小さければ、投資の優先順位は下がります。

つまり、未顧客のニーズを正しく捉え、新しい市場の兆候を発見できたとしても、既存事業の基準で投資を判断する限り、参入が見送られてしまうわけです。これもイノベーションのジレンマです。

顧客の声を聞く相手や訊き方を変えても、社内の判断基準が変わらなければ事業化は進みません。新しい顧客の声に応え、商品を育てていくためには、組織の規模や成果の評価基準まで見直すことが重要になります。

新しい顧客への対応が、合理的な選択になる仕組みをつくる

既存事業に比べて小さな市場でも、企業が積極的に取り組めるようにするには、何を変えればよいのでしょうか?

市場に見合う組織と、目標・評価基準をつくる

クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で示した解決策のひとつが、新市場の規模に組織の規模を合わせることです。全社から見れば取るに足らない売上でも、小さな組織にとっては自分たちの成長を左右する重要な成果になるからです。

そこで、新しい顧客層を担当する小さな組織を設け、既存事業から独立して判断できる権限を与えます。必要に応じて独立事業部や別会社とし、顧客への対応に必要な人材・資金・時間も確保します。

併せて、成果を評価する基準も変えます。顧客を探している段階なら、新しい顧客からの受注や、どんな用途で価値が認められたかを重視し、事業が育つにつれて継続利用や売上の伸びも評価に加えていきます。

せっかく小さな組織をつくっても、全社と同じ売上規模や利益率を求めれば、再び「市場として魅力が乏しい」と判断されてしまいます。組織の規模とともに、目標・評価基準や資源配分の決め方まで変えることがポイントです。

もっとも、新しい顧客への対応が社内で認められても、すぐに事業が軌道に乗るとは限りません。これまで接点のなかった顧客を相手にする以上、想定が外れることも織り込んでおきたいところです。

未顧客を探る失敗を、次の試行に活かせる環境を整える

既存顧客であれば、購入履歴や日頃の要望から、どんな商品が求められるかをある程度予測できます。一方、未顧客については情報が限られるため、新商品の価値がどんな人に受け入れられ、実際の購入につながるかを予測するのは難しくなります。

試作品を使ってもらっても反応が芳しくない、評価は高くても購入されない、購入後に利用が続かないといった失敗も起こるでしょう。最初の試行で成果が出なかったからといって活動を打ち切れば、何が顧客に求められているのかを十分に確かめられません。

そこで、ある程度の失敗を見込み、小さな試行を繰り返せるようにします。想定した顧客が違ったのか、商品の機能や価格が合わなかったのか、利用する場面を見誤ったのかなど、仮説のどこが外れたかを確かめ、次の検証に活かすのです。

短期的に成果が出なくても試行を続けられるよう、一定の時間と予算を確保しておきます。担当者の評価にも、何を確かめ、次の判断にどう活かしたかを含めるといいでしょう。

もちろん、失敗を際限なく許容するわけにはいきません。試行に使う費用や期間、継続するかを判断する基準も決め、得られた情報をもとに次の投資を判断します。

こうした仕組みがあれば、短期的な失敗が続いても、新しい顧客の理解を深めながら事業化を目指せます。そして、未顧客への対応で得られた成果が、担当組織の評価や全社の資源配分にも反映されるようになります。

顧客の声に応える強みを、新しい市場でも発揮する

新しい顧客からの受注や継続利用が担当組織の成果として評価されれば、その顧客の要望に応えることが日々の仕事で優先されます。全社でも顧客獲得や事業化の進展を評価し、予算や人員の配分に反映することで、新市場への取り組みを続けやすくなります。

顧客の反応をもとに商品を改良し、購入や継続利用につながるかを確かめる活動を繰り返せば、どんな人が何を求め、なぜ商品を選ぶのかという理解が深まります。既存顧客の声に応えて成長してきた企業の強みを、新しい市場でも活かせるわけです。

顧客の声を忠実に聞いてきた優良企業だからこそ、誰の声を聞き、どのような基準で新市場への取り組みを評価するかが重要になります。既存市場で培ってきた顧客理解の強みを、新しい市場での成長にも活かすのです。

まとめ

内容のまとめです。

  • 顧客の声に応えて成功してきた優良企業ほど、既存顧客の評価を優先し、新しい市場で生まれる変化や兆候を見逃してしまう
  • 新商品アイデアや新規ビジネスの可能性を探るには、既存顧客に加えて未顧客にも目を向け、誰に、いつ、どこで、何を、どう訊くかを考え、反応を確かめる
  • 未顧客に強いニーズがあっても、既存事業と比べて市場規模が小さければ、売上や利益への貢献が乏しいと判断され、事業化が見送られる
  • 新市場の規模に見合った小さな独立組織と評価基準を設け、全社では小さな売上も担当組織では重要な成果として評価する
  • 新市場の探索では失敗を許容し、次の試行に活かせる環境を整える。顧客の声に応えてきた優良企業の強みを、新しい市場において新しい顧客に対して発揮できるようにする