#マーケティング #ヒト・コト・ココロ #ターゲットモード
ノンアルコール飲料というと、運転をする予定の日や体調が気になるとき、お酒の代わりとして我慢して選ぶもの、というイメージが強いかもしれません。
ところが最近は、休みの日をちゃんと楽しみたいから、あえてノンアルを選ぶ人が増えているようなんです。
その新しい飲み方を象徴しているのが 「キリン グリーンズフリー」 です。今回はグリーンズフリーの事例から、誰に、どんな体験を、どんな気分として味わってもらうのかという、「ヒト」 「コト」 「ココロ」 をつなげるマーケティングを学んでいきます。
休日ノンアラーに選ばれる 「キリン グリーンズフリー」
出典: サイト
「キリン グリーンズフリー」 は、休みの日に自分らしい時間を過ごしたい人たちから支持を集めているノンアルコール飲料です。どんな商品なのか、2026 年のリニューアルの中身から紹介します。
2026 年のリニューアルで磨いたリフレッシュ感
キリン グリーンズフリーが発売されたのは 2020 年です。麦芽やホップを原料にしながら甘味料を使わずに仕上げ、ビールらしさに加えて、気分転換やリフレッシュという心理的な価値を大切にして開発されました。
2026 年のリニューアルでは、製法と香料が見直されました。新しく使われたコーヒーチェリー香料は、キリンホールディングスが 2025 年に開発した環境配慮型の素材で、ノンアルコール商品に使うのは今回が初めてです。
コーヒーチェリー香料がコクや飲み応えを支え、希少なネルソンソーヴィンを含む 3 種のホップによる爽やかな味わいは引き継がれました。パッケージにはホップのこだわりが明記され、ロゴもフラッグ型に変わって、軽やかさと品質感を両立した見た目になっています。
では、実際にどんな人がどんな場面で飲んでいるのか、キリンビールの調査をもとに見ていきましょう。
調査が浮き彫りにした 「休日ノンアラー」
キリンビールが 2026 年 4 月に行ったアンケート調査では、休日にノンアルコール飲料を飲むことがある人は、ノンアルユーザー全体で 71% だったのに対し、グリーンズフリーユーザーでは 94% にのぼりました (参考情報) 。休みの日にこそノンアルを飲むこうした人たちは、「休日ノンアラー」 と呼ばれています。
「休日こそ 100% の自分でいたい」 という考えに共感する人も、全体の 88% に対してグリーンズフリーユーザーでは 96% でした。「とてもそう思う」 と答えた人に絞ると、全体の 39% に対してグリーンズフリーユーザーは 54% と、差がさらに開きます。
休日にノンアルコール飲料を飲むタイミングを訊くと、全体では 「夕食時」 が 45% で最も多くなっています。一方でグリーンズフリーユーザーは 「自宅でくつろぐとき」 が 54% と最も高く、夕食時を上回りました。
飲む動機を見ても、グリーンズフリーユーザーは 「リフレッシュしたいから」 が 43.9% 、「休日こそ 100% 満喫したいから」 が 41.8% でした。後者は全回答者では 15% なので、違いははっきりしています。
ではここからは、グリーンズフリーの事例を 「ヒト・コト・ココロ」 の 3 つの観点で掘り下げていきます。
ヒト・コト・ココロ
この 3 つは今回の学びのキーワードです。
ヒト - 注力顧客を心理まで掘り下げる
商品をつくるとき、最初に考えたいのは誰のための商品なのかということですよね。顧客は誰かという 「ヒト」 の観点から、グリーンズフリーがお客さんをどう捉えているのかを確認してみましょう。
■ グリーンズフリーが見ている顧客像
キリン グリーンズフリーが注力顧客として想定しているのは、仕事や家事で一人何役もこなす、多忙な毎日を送る人です。商品開発のときには、そうした人がすき間時間にリフレッシュできる飲みものをつくりたいというキリンの開発担当者たちの思いがありました。
注目したいのは、ノンアルを選ぶという行動に加えて、なぜノンアルを選ぶのか、休日をどう過ごしたいのかという心理面まで踏み込んでいる点です。休日には自分らしく過ごしたいという、ウェルビーイング (心身ともに満ち足りた状態) を大切にする志向も、顧客像のなかに含まれています。
顧客をもう一段くわしく捉えるために、ここで 「ターゲットモード」 という考え方を紹介させてください。
■ 注力顧客に加えて 「ターゲットモード」 を定める
ターゲットモードとは、同じお客さんでも置かれた状況によって心理状態が変わることを前提に、どのモードのお客さんに向けた商品なのかを定める考え方です。平日は仕事の効率や成果を気にしているモードでも、休日になると自分らしさやリフレッシュを大事にするモードに切り替わりますよね。
キリン グリーンズフリーが狙いを定めているのは、「休日モードに切り替わった人のモード」 です。
年齢や職業といった属性に加えて、状況と心理モードをセットで捉えていることが、グリーンズフリーの顧客の捉え方の特徴です。
誰に向けた商品なのかが見えてきたところで、次はその人にどんな時間を過ごしてもらうのかを考えていきます。
コト - 商品を通じた体験を描く
体験という 「コト」 の観点から、グリーンズフリーが提供している休日の過ごし方を具体的に追ってみます。
■ グリーンズフリーが提供する休日の体験
キリン グリーンズフリーが提供しているのは、自宅でくつろぐ休日に、気分を晴れやかにする時間です。
たとえば、午前中の掃除をひと段落させた後のお昼や、昼下がりに外出から帰ってきたとき、夜に予定が残っている夕方などを思い浮かべてみてください。お酒を飲むには早かったり、後の予定を考えて控えたかったりする場面でも、グリーンズフリーなら気分を切り替える 1 杯になります。
飲んでも酔わないので、ビールやワインのようにその後の予定を気にしなくて済みます。休日の過ごし方を制限せずにリフレッシュできることも、選ばれている理由のひとつです。
■ 休日の体験から逆算した味づくり
グリーンズフリーの中身を見ていくと、味や香りの工夫がどれも休日のリフレッシュ体験につながっています。3 種のホップによる爽やかな味わいはリフレッシュしたい気分に応え、コーヒーチェリー香料のコクや飲み応えは、ノンアルでも物足りなさを感じさせない満足感をもたらします。
甘味料を使わないすっきりした口あたりは、和洋中どんな食事にも合わせやすく、くつろぎの時間にも食事の場面にもなじみます。
体験の中身が見えたら、最後はその体験の後に、お客さんがどんな気分になっているのかも考えてみましょう。
ココロ - なりたい気分を言葉にする
なりたい気分という 「ココロ」 の観点から、グリーンズフリーが応えている気持ちを掘り下げてみます。
■ グリーンズフリーが応える 「100% の自分」 という気分
キリン グリーンズフリーが応えているのは、「休日こそ 100% の自分でいたい」 という気分です。仕事や家事でいくつもの役割をこなす平日の毎日から離れて、休みの日くらいは素の自分に戻りたいという願いに寄り添っています。
お客さんの言葉に置き換えるなら、「酔わないけれど、気分は晴れる」 「休みの日をただぼんやり過ごしつつも、ちゃんと味わいたい」 といったところでしょう。グリーンズフリーを手に取る人は、晴れやかで前向きな気分になれることを期待しています。
この気分に応えることがなぜ大切なのかは、商品の価値を 2 つに分けてみるとよくわかります。
■ 機能的価値の先にある心理的価値が選ばれる理由になる
グリーンズフリーでいえば、ノンアルでビールらしい味わいが楽しめることが機能的価値で、自分らしさを取り戻すリフレッシュ感や晴れやかな気分が心理的価値です。
機能的価値だけで比べられると、味や成分のスペック競争に巻き込まれてしまいます。心理的価値まで踏み込んでいれば、「休日に気分を晴らしたいならこれ」 と思い出してもらえる理由が生まれます。
ここまでヒト・コト・ココロを 1 つずつ見てきましたが、最後に 3 つをつなげて考えてみましょう。
ヒト・コト・ココロをつなげる
■ 3 つがつながると選ばれる理由が生まれる
キリン グリーンズフリーでは、休日ノンアラーというヒト、休日のリフレッシュ体験というコト、100% の自分でいられる気分というココロが、一直線につながっています。休日モードの人だから自宅でくつろぐ時間に飲みたくなり、その時間を過ごすことで素の自分に戻れる、という流れです。
選ばれる商品は、誰に売るかを決めるところにとどまらず、どの状態のその人に、どんな体験をつくり、どのような気分の変化を生み出すかまで決めています。どれか 1 つでもずれると、誰の何のための商品なのかがぼやけてしまうでしょう。
では最後の問いとして、自社の商品やサービスで考えるときは、どこから手をつければいいのでしょうか?
■ 自社の商品やサービスへの当てはめ方
ヒト・コト・ココロの 3 列をつくり、今の答えを書き出してみるといいでしょう。確かめたいのは次の 3 点です。
- 注力顧客とそのモードを、具体的な状況まで言えるか
- 商品を使う体験を、いつ・どこで・どんなふうにというシーンで描けるか
- 使った後にお客さんが浸る気持ちを、一語で言えるか
書き出してみて空欄や言葉に詰まるところがあれば、そこが次に深掘りしたいポイントです。3 つの答えが一本の線でつながると、商品の中身をどう磨くか、マーケティングコミュニケーションで何を伝えるかの方向性が見えてきます。
まとめ
キリン グリーンズフリーの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- マーケティングでは 「ヒト・コト・ココロ」 を一本の線でつなげる
- ヒトは属性情報だけの描写にとどまらず、置かれた状況や心理的なモードまで掘り下げて顧客解像度を上げる
- コトは利用シーンをもとに、お客さんが手にする体験として描く
- ココロは商品・サービスを使うことによって、なりたい・なれる気分を言語化する

