投稿日 2010/07/03

音楽配信サービスの新潮流

音楽配信サービスはiTuensを中心とするダウンロード型が主流でしたが、ストリーミング型やソーシャル型など新しい動きが見られます。今回の記事では、そのへんの状況を整理してみました。



■ダウンロード型音楽サービス

米Wall Street Journalが10年6月21日(現地時間)に報じた記事によると、Googleが今年末にも音楽ダウンロードサービスの提供に向けて準備しているとのことです。ただ、記事でもvague(漠然とした)とあるように、どのレコードレーベルと契約がなされるかやサービス内容はまだ明らかになってはいません。関係者の話では、Webだけではなくアンドロイド端末へのサービス提供を目指しているそうです。この動きは、音楽サービスにおいてもiTunesをもつアップルとの競争が激しくなることを予感させます。

iTunesの仕組みを簡単に整理してみると、次のようになります。
・ 音楽をiTunes StoreからダウンロードしたりCDから自分のPCへ取り込む
・ 聞きたい曲をPC上のiTunesからiPodやiPhoneに同期させる



■ストリーミング型音楽サービス

このように、iTunesに代表される音楽ダウンロードサービスでは、音楽を自分のPC内などでデータとして所有しています。一方で、ダウンロード型とは発想が180度異なる音楽サービスに、ストリーミング型音楽配信というものがあります。このストリーミング型の特徴は以下のようになります。
・ 音楽はデータセンター上に存在する
・ 利用者はデータセンターにアクセスし音楽を再生させて聴く

iTunesなどと決定的に異なるのは、PC内に音楽を保存することはなしに音楽を聴く点です。いわゆるクラウドコンピューティングの仕組みを使った音楽配信サービスです。

ストリーミング型の音楽配信サービスの例として、ヨーロッパにはSpotify(スポティファイ)があります。サービス開始の2008年からわずか1年半で利用者は800万人に達したようです。日経ビジネスオンラインによると、スポティファイはへはユニバーサル・ミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメント、EMI、ワーナーミュージックの4大レコード会社などが楽曲提供に応じており、最新のヒット曲からクラシックまで、800万曲を超える楽曲が提供されているようです。

スポティファイのサイトを見てみると、利用できる機器はパソコンの他にも、ネット接続が可能なスマートフォンであれば、ノキア、サムスン電子、ブラックベリー、iPhoneなど主要な機種にも対応していることが確認できます。

料金プランは数曲ごとに広告が挿入される無料サービス以外にも、広告挿入のない月額4.99ポンドや月額9.99ポンドの有料サービスもあります。ちなみに月額9.99ポンドを支払い「プレミアム会員」にならないとスマートフォンでの利用ができないようです。また、プレミアム会員限定のサービスとして、音質も向上するほか、地下鉄等のネットが接続できないオフライン環境においても音楽が聴くことができるようです。

ただ残念なのは、現在スポティファイを使用できるのはイギリス、スウェーデン、フランス、スペイン、フィンランド、ノルウェーだけなようで、日本では利用できません。



■ソーシャル型音楽サービス

このスポティファイですが、今年の4月27日のニュースリリースに、友人と音楽を通してつながりを強化するためのソーシャル機能(Spotify Music Profile)を追加するバージョンアップの実施を発表しています。ニュースリリースによると、Facebookと連携することにより、友人と音楽を共有できるようになるようです。これは、友人たちの間で流行っている曲を知ったり、自分の好きな曲を紹介できたりと、音楽というコンテンツを通じて情報交換を強化できる仕組みだと思います。

もう一つ、ソーシャル音楽サービスとしておもしろそうなのは、Skype(スカイプ)創業者が新たに立ち上げた「Rdio」です。ストリーミングを軸とした音楽配信サービスで、PCのほか、iPhone、ブラックベリーなどにも対応しています。注目したいのは、こちらもソーシャル機能を持っていることです。Rdioでは自分のコレクション、作成したプレイリスト、最近聴いた曲、頻繁に聴く曲やアルバムが全て他のメンバーに公開できるとともに、他のメンバーを、ツイッターのようにフォローする機能があります。



■課題とか

ストリーミング型の音楽配信、音楽のソーシャル機能など、これからも気になるサービスですが、一方で普及するためには課題もあると思います。

まずは著作権です。ストリーミング型の配信というのはもはや音楽を「所有」せずに、クラウド上の音楽を聴くサービスです。ソーシャル機能が追加されても同様で、友人同士で音楽を共有する時にもこれまでであれば音楽をコピーしていましたが、そのコピーももはや不要です。従来の著作権の枠を超えたもので、著作権の考え方が変わる可能性があるかもしれません。

ボトルネックになりそうなのは通信インフラです。スポティファイのような音楽ストリーミングで気になるのは、聴いている音楽の音がとぎれてしまわないかということです。これはダウンロード型にはない弱みです。音がとぎれないためにも、通信環境はWi-Fiが必須ではないでしょうか。私は現在iPhoneを使っていますが、家ではWi-Fi、外では3GSでの通信となっています。理想は屋外でもWi-Fiを使いたいのですが、使える場所が本当に少ないです。スタバでも使え、ミニストップでも使えるようになるようですが、まだまだ少なく仕方なく3GSを使っている状況です。

音楽というのは個人の趣向がよく表れる要素だと思います。自分のプレイリストを公開することで同じような音楽への好みをもつ人たちとつながることができます。これって、一人一人が音楽の聴き手であると同時に自分の好きな音楽を配信するDJのような存在でもあり、今までになかった音楽の発見や楽しみが広がる気がします。



※参考情報

Google Plans Music Service Tied to Search Engine (Wall Street Journal)
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704895204575321560516305040.html

欧州発! ビジネス最前線 “iチューンズ殺し”の衝撃 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100603/214766/

Spotify (スポティファイ)
http://www.spotify.com/

スポティファイのニュースリリース (ソーシャル機能追加)
http://www.spotify.com/int/about/press/spotify-launches-next-generation-music-platform/


投稿日 2010/07/01

ローカリズムのグローバル化


■まとめ

今回の記事のまとめです。

・ 企業のグローバル化には3段階ある
・ 中国での賃上げ労働争議と海外の人材登用
・ ローカリズムのグローバル化とは



■3段階の企業のグローバル化

NTTドコモの「iモード」を立ち上げた一人でもある夏野剛氏は、著書「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」(ソフトバンククリエイティブ)において、企業のグローバル化には次のように3段階あるとしています。

(1)国内製造輸出型
*グローバルマーケットはあくまで売り先の市場としか考えていない
*経営体制や企業哲学などはグローバル化していない場合がほとんど

(2)製造拠点のグローバル化
*人件費などの製造コストの低減のために工場を海外に移す
*日本国内のやり方、哲学を海外に移転しようとする

(3)グローバル企業化
*一部本社機能も必要に応じて海外に移すことも厭わない
*経営体制や企業哲学は世界で通用する、世界中の従業員を動かす独自性が要求される



■中国での賃上げをめぐる労働争議

ここ最近気になる出来事として、中国で賃上げをめぐる労働争議やストが相次いでいるニュースをよく目にします。中国の消費者物価指数(CPI)が上昇する一方で、賃金が据え置かれたままの状況では、相対的には減収しているようにも感じられ労働者の不満が労働争議につながるというのもわかる気がします。

ただ、日経新聞の10年6月27日の朝刊国際面の記事では、「一連の労働争議の根本的な問題は労組。労組のあり方を変えない限り、スト問題は解決しない」(北京の日系企業幹部)と報じています。というのも、工場に労組があったとしても、共産党や企業経営者寄りで従業員の賃上げ交渉の受け皿になっていないためだそうです。この記事では、「”労働争議が中国進出リスク”と言われるようになれば、長い目で見ればマイナス」であると懸念しています。



■海外の人材登用

そんな中、コマツが2012年までに、中国にある主要子会社16社の経営トップ全員を中国人にする方針を決めたようです(日経10年6月29日朝刊)。コマツ以外にも、海外の人材を積極に登用している例として、トヨタ自動車、伊藤忠商事、資生堂、花王などが取り上げられていました。

日本企業では人事異動の一環として日本人が数年間、現地法人のトップや幹部を務める例が多いようですが、現地市場に精通した人材を積極登用して権限を委譲し、経営の意思決定を速めるのがコマツの狙いのようです。記事では、「中国で相次ぐ日系工場でのストライキの背景には現場の社員との対話不足も指摘され、経営層の現地化を求める声がある。現地生え抜きの人材が要職につけば社員の意欲向上にもつながる」と期待しています。



■ローカリズムのグローバル化

フジサンケイビジネスアイの「論風」に、グローバル企業のマネジメントについてのある記事が掲載されました。投稿者である日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)会長の田下憲雄氏によると、中国市場に進出する日本企業の重要課題として以下のポイントを挙げています。
・ 「マネジメントの現地化」と、それを可能にする人材の確保と育成
・ そのための仕組みの構築と、それをサポートする日本人人材の育成

同氏の言う 「マネジメントの現地化」とは、経営にかかわる重要な意思決定をローカルの経営者と社員に任せ、投資回収の責任を委ねること。すなわち、様々なリスクに対して迅速かつ的確な判断を行いながら、事業を創造することができるのはローカル人材だと認識し、そうした人材の確保・育成に取り組むことであると説明されています。

従来の日本企業の課題は、海外で活躍できる日本人を確保・育成することだと言われていましたが、このように中国そしてアジアの現地人材をグローバル人材として育成することも必要で、そのための日本人人材の育成も課題になってきそうです。この状況について田下氏は、「ビジネスを本当に成功させることができるのは、ローカリズムとローカル人材をグローバル化することに成功したときではないか」という言葉で表現しています。



■最後に

冒頭で企業のグローバル化を3段階で見た時に、少しずつですが、「(2)製造拠点のグローバル化」から「(3)グローバル企業化」に変わってきていることを感じます。世界の情報がこれだけ瞬時に伝わる状況の中、今後は日本人だけで現地法人を運営することがリスクになってきそうです。

そうなると、販売やマーケティングにおいても日本国内の考え方だけではなく、現地の事情や国民性に合わせた展開を考える必要があるのかもしれません。



※参考情報

【論風】インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とマネジメントの現地化
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100312/bsg1003120501001-n1.htm


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投稿日 2010/06/27

LEGOに見るユーザーイノベーション

デンマーク語で「よく遊べ」を意味する"leg godt"。この言葉がもとになる社名の玩具メーカーがあります。世界130ヶ国以上で販売を展開しているLEGO。デンマークに本社を置くレゴは、世界に4億人ものレゴブロックユーザーを持つそうです。

日経ビジネス2010.5.24号に「4億人が遊ぶ最強玩具『レゴ』 ヒット商品は素人(ユーザー)に学ぶ」という特集が組まれていました。この記事の中で、「ユーザーイノベーション」というレゴが考えるマーケティングが取り上げられています。



■ユーザーイノベーションのきっかけ

日経ビジネスの記事では、レゴの商品開発について書かれていました。商品のアイデアを外部、つまり顧客であるユーザーにも求めており、同社のクヌッドストープ社長は「レゴのニーズは誰よりもファンが知っている」と言います。個人的に注目したのは、顧客から欲しい商品のアイデアを聞くだけではなく、一部の商品では実際の開発まで顧客に関わらせている点です。

ですが、もともと同社は積極的に顧客の声を活用しているわけではなかったようです。分岐点になったのは、98年に発売された「マインドストーム」。マインドストームとは、レゴでロボットを組み立てられる商品セットで、ロボットを制御するソフトウェアが組み込まれています。レゴはプログラムを内蔵させ、実際にロボットを動かす仕組みを用意していました。

同社にとって予想外だったのは、一部のファンがこのブログラムを解析し自分の好きなように書き換え、さらにはそのコードがネット上に公開されたことでした。こうなるとコード情報は瞬く間に広まり、次々にオリジナルな動きをするロボットがユーザーの間で開発されます。当初、この状況にレゴ経営陣は激怒し訴訟も辞さない構えまで見せたそうです。

しかし、この流れに逆らえないと見るや、レゴはある決断をします。ひとまず様子見をし、さらにはソフト改良を奨励する姿勢までとったのです。今では、レゴが開設するネットサイト「LEGO CUUSO(レゴ空想)」にユーザーが自分の欲しいレゴ製品を提案し、他の会員からの一定の支持が得られればレゴが商品化を検討するというビジネスモデルに取り組んでいます。このように、レゴが認定したファンを開発メンバーに迎えるような関係を築いているのです。これについてクヌッドストープ社長は「我々は顧客の欲しいレゴを提供する。それを、レゴが作ったか、顧客が作ったかということにこだわりはない」と言っています。



■ユーザーイノベーションとは

上記はレゴの例ですが、ここではユーザーイノベーションをもう少し一般化してみます。日経ビジネス記事には以下のような「レゴが考えるマーケティングの3ステップ」が記載されていました(図1)。


前述のマインドストームの開発者であるソレン・ルンド氏は、企業のマーケティングには顧客との関わり度合により、3段階があると解説します。

(1)マスマーケティング
*定量・定性調査により消費者データを集め、それらを基に商品を開発
*今でも主流のマーケティング手法

(2)コミュニティマーケティング
*商品やサービスの固定ファンの声を拾い上げ、商品開発につなげる

(3)ユーザーイノベーション
*企業と顧客が一体となって商品開発を行なう
*顧客との距離を縮めるのに重要なのは、双方向のやりとりを繰り返すこと



■ユーザーイノベーションの実践

記事にもあり個人的にも同意なのは、「ユーザーイノベーションは新商品を開発する上でのあくまで1つの手法にすぎない」という点です。これは例えばアップルの事例を考えると、その企業内に確固たる哲学があり圧倒的な使いやすさやサービス提供などの商品力があれば、不要ですらあるように思えます。

一方で、企業だけでは顧客の求めているニーズに必ずしも沿った商品開発ができるとは限らないこともあり、この場合にはレゴのようなユーザーを商品開発に巻き込むことも有効なのではないでしょうか。

無論、言うが易しで実践するにはリスクも当然存在します。このような中、リスク以上のリターンをを得るために重要なこととして、記事では次のように書かれています。
・ 中には苦情の声もあるが、真摯に対応すること
・ 企業として顧客に何を提供したいかのメッセージを明確にする
(世界観をしっかりと顧客に提示する)

企業としての顧客への提供価値。これがぶれることなく顧客との双方向の対話ができて、初めてユーザーイノベーションが実践されるのではないでしょうか。


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。