#マーケティング #離反顧客 #本
せっかくお客さんになってくれたのに、いつの間にか離れていってしまう…。そんな悩みを抱えた経験はないでしょうか?
新規顧客の獲得に力を入れる一方で、既存顧客がなぜ離れるのかに目を向けることができていない企業は少なくありません。見過ごされがちな要因が積み重なり、対処しないままでは気づけばお客さんは競合へと流れてしまいます。
今回は、 「こうして顧客は去っていく - サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング (宮下雄治) 」 という本を取り上げます。
この本から離反顧客をテーマに、どうすればお客さんを維持できるかを掘り下げます。
顧客離反のメカニズムや顧客満足を高めるための方法など、ぜひ一緒にお客さんの継続利用を促すヒントを学んでいきましょう。
離反顧客を防ぐカスタマーサクセス
離反顧客 (商品やサービスを使わなくなってしまう顧客) の存在は、ビジネスの成長を阻む要因のひとつです。
ビジネスの現場では 「購入していない人・企業をいかに自社に振り向かせるか」 に重点が置かれがちです。もちろん新規顧客をどう獲得するかは大事ですが、いざ商品やサービスを手に取った (利用を開始した) お客さんに対してもしっかりと目を向ける必要があります。
新規顧客への適切なサポートや配慮ができていないと、せっかくの新しいお客さんがすぐに離れてしまいます。その分だけ新規獲得にかけたコストを無駄にしてしまいます。
こうした状況を防ぐために欠かせないのがカスタマーサクセスの考え方です。
商品・サービスを売って終わりにするのではなく、利用開始後にお客さんが自社の商品をスムーズに使いこなし、得られる顧客価値をすぐに実感できるように、企業側が積極的にサポートしていきお客さんの成功に導くのです。
そこでポイントになるのは、離反理由を理解することです。
チリが積もった先の顧客離反
たとえば、こんな例を見てみましょう (参考: 書籍 「こうして顧客は去っていく - サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング (宮下雄治) 」 ) 。
アプリきっかけでスーパーに行かなくなったある消費者
都内に住む女性 A さんは、よく通っていたスーパーマーケットのお店がアプリを新しくリリースし、使い始めました。
このアプリでは会員限定のクーポンが充実していて、A さんは最初は満足して利用していたそうです。
しかし、レジで毎回支払い用のバーコードを表示する度にポップアップ広告が表示され、バーコードが隠れてしまうので、その都度ウィンドウを閉じるというひと手間が気になり始めます。その操作の負担感が毎回の会計時に発生し、煩わしく思い始め、回を重ねるごとにストレスを感じるようになりました。
これがきっかけになり、他のスーパーマーケットに行く機会が増え、これまで利用頻度の高かったそのスーパーにはめっきり行かなくなってしまったのです。
企業と顧客の認識のズレ
商品やサービスの利用を続けるかどうかは、ときとしてこうした 「些細なストレス」 が引き金となり、お客さんが離れてしまうケースがあります。
先ほどの女性 A さんのように、スーパーのアプリによる買い物のレジでの不快感が積み重なり、買い物のたびに感じる小さなストレスに我慢できなくなって足が遠のいてしまったわけです。
企業側からすると 「ほんのひと手間で済むはずの操作」 だとしても、ユーザー視点では大きな負担となり、使うたびにネガティブな感情が上乗せされてしまい、離反の要因になるのです。
ピークエンド効果
ここでつながるのが 「ピークエンド効果」 という理論です。
行動経済学者のダニエル・カーネマンが提唱したこの理論によると、人の記憶や印象は "最も感情が動いた瞬間 (ピーク) " と "最後の瞬間 (エンド) " のふたつの影響が大きいとされます。
ピークエンド効果をビジネスの文脈に当てはめると、顧客体験において 「強く印象に残る場面 (ピーク) 」 と 「最後の瞬間 (エンド) の体験」 をいかにプラスの感情でしめくくれるかが、リピートや継続利用を左右するということです。
先ほどの女性 A さんのケースを考えると、買い物中の会計が 「ピーク」 になっています。本来なら、クーポンを活用するお得な瞬間はポジティブな感情が生まれるはずです。しかし、彼女にとっては毎回表示されるポップアップ広告がストレスとなり、ポジティブな感情が打ち消されてしまいました。
さらに会計を終えて店を出る 「エンド」 の段階でも、煩わしさやストレスが尾を引いてしまっているため、トータルでの買い物体験がマイナスに傾き、離反へとつながってしまったのです。
これは映画やドラマ、小説にも通じる話です。物語全体がおもしくても、クライマックス (ピーク) とラスト (エンド) が期待外れだと 「なんだか微妙だった」 という印象になりがちです。逆に、途中に少し物足りない部分があったとしても、ピークとラストの印象が良ければ 「とても満足した体験」 として認識されることでしょう。
不満はないのに離れてしまう?消極的離脱理由
お客さんが離れてしまう理由は、必ずしも商品やサービスへの不満だけではありません。特に不満を感じていないにも関わらず、消極的な理由で離れてしまうお客さんも少なくないのです。
具体的には次の5つです。
- とくに自社商品に不満はないが、他社の商品・サービスに魅力を感じたため
- とくに不満はないが、商品・サービスのマンネリ化を感じたため
- とくに不満はないが、経済的事情や生活環境の変化のため
- とくに不満はないが、満足もない
- とくに不満はないが、なんとなく
消極的な離脱は、お客さんが積極的に不満を訴えるわけではないため、企業側は気づきにくく、対策も難しい点が特徴です。こうした消極的な離脱理由によって去るお客さんの存在は、業界やビジネスによって程度の差こそあれ、一定の割合を占めています。
顧客満足度に影響する 「期待水準」 と 「知覚水準」
お客さんが商品やサービスに対して抱く満足度は、「期待水準」 と 「知覚水準」 という2つの要素によって左右されます。
期待水準
期待水準とは、顧客が商品やサービスに対して事前に抱いている、その商品やサービスから得られるであろうという期待のレベルのことです。期待水準は、広告、口コミ、過去の経験、ブランドイメージなど、様々な情報源から形成されます。
例えば、高級ブランドの腕時計を購入する場合、高い品質、デザイン性、持っていることでのステータスなどを期待するでしょう。そのブランドが長年培ってきたイメージや、過去の購入経験があればそれも含めて形成された期待価値への水準です。
知覚水準
一方、知覚水準とは、顧客が実際に商品やサービスを体験し、得られた感覚や印象のことです。五感 (視覚, 聴覚, 嗅覚, 味覚, 触覚) によって得られる主観的な評価です。
同じ商品やサービスであっても、人によって知覚する内容は異なります。個人の価値観、過去の経験、その時の状況など、様々な要因によって影響を受けるためです。
期待水準と知覚水準の関係性
顧客満足度は、この期待水準と知覚水準の比較によって決まります。
- 知覚水準が期待水準を上回った場合 (知覚水準 > 期待水準) : お客さんは期待以上の価値を感じ、高い満足度を得る
- 知覚水準が期待水準に満たなかった場合 (知覚水準 < 期待水準) : 期待したものが得られず、不満を感じる
前者の例として、期待が低かった場合でも、実際の体験が想像以上に良ければ 「意外に良かった」 という気持ちから満足度が高まります。一方で、後者の例は、事前に高い期待を抱いていたのに、実際はそれほどでもなかった感じられたとしたら、不満が募ってしまうでしょう。
顧客満足度を高めるためには、お客さんからの期待水準を適切にそろえ、期待を上回るような価値を提供し、知覚水準が期待水準を超えるようにすることが重要です。
顧客満足度を高めるための視点
継続的な顧客満足や喜びを提供するためには、提供する商品やサービスが次の5つをひとつでも多く満たすことです。
- 新しい価値や体験を提供することで顧客の飽きを防止し、新鮮な驚きをもたらす
- 例: 季節限定の商品、限定デザイン、新機能の追加
✓ 驚きをともなうこと [サプライズ]
- 予想外の喜びや発見から顧客に感動を与える
- 例: プレゼント、手書きのメッセージ、特別なサービス特典
✓ 労力が軽減されること [エフォートレス]
- 顧客負担を最小限にし、スムーズな利用体験をつくる
- 例: 直感的で簡単な操作、自動化、カスタマーサポートの充実
✓ 嗜好にマッチしていくこと [パーソナライズ]
- 個々の顧客の好みやニーズに合わせ、パーソナライズされた体験にする
- 例: レコメンド機能、カスタマイズできる商品、パーソナルなメッセージ
✓ 洗練されていること [ソフィスティケイト]
- 高品質で洗練されたデザインや機能にする
- 例: 高級感のある素材、美しいデザイン、丁寧な仕上げ
もしこれらの要素が欠落すると、お客さんは 「マンネリ」 「今ひとつ」 「手間が増える」 「自分に合っていない」 「安っぽい」 といったネガティブな印象になりがちです。その結果、一度は関心を持ったり購入した商品・サービスでも、リピート購入にはならず離れていってしまいます。
顧客満足度を高めるためには、5つの要素を取り入れ、お客さんに継続的な喜びや満足感を提供することが重要です。
まとめ
今回は、離反顧客をいかに減らし最小化するかについて考えました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ネガティブ体験: ネガティブな顧客体験の蓄積。企業が想定していない不便さや不満を見逃してしまい、お客さんが我慢できなくなると離れていく
- 消極的離反: 特に不満がないにも関わらず、他の選択肢に目を向けたり、サービスのマンネリ化を感じすると、離れてしまう
- 期待水準と知覚水準のギャップ: 顧客が期待する価値と、実際に得た顧客価値の間にギャップがあると、不満につながる
✓ 顧客満足度を高めるためのポイント
- 新しいお客さんを獲得してそこで終わらせず、お客さんを長く大切にする (カスタマーサクセス)
- 新鮮さ、驚き、手間いらず (エフォートレス) 、パーソナライズ、洗練さといった要素を商品やサービスに盛り込む
- 顧客の期待価値 (期待水準) に対して、それを上回る顧客価値 (知覚水準) を提供する
この本は、お客さんの離反というテーマで、マーケティングへの学びが得られる一冊でした。よかったらぜひ読んでみてください。
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