#マーケティング #新規事業 #横展開
新しい事業を始めるとき、どうやって勝ち筋を見出せばいいのでしょうか?
自社の強みを活かせる領域なのか、市場に十分な需要があるのか。新規事業は新しいお客さんを増やすだけではなく、既存ビジネスとの相乗効果を生み出せるかも大事です。
今回はセブン-イレブンの事例から、新規事業を成功につなげる 「勝ち筋の捉え方」 と 「既存事業への波及効果の生み出し方」 を掘り下げます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
セブン-イレブンの挑戦
セブン-イレブンは2013年に 「セブンカフェ」 という淹れ立てのコーヒーを販売し、コンビニコーヒー市場を切り拓いてきました。
手軽かつ本格的な味わいのコーヒーを提供し、ビジネスパーソンやコーヒー好きの支持を獲得。2023年10月末までに累計80億杯を販売するという成功を収めています。
そのセブン-イレブンが次なる一手として注目したのが紅茶です。
セブンが挑む 「淹れ立て紅茶」
2023年から一部店舗で 「セブンカフェ ティー」 をテスト導入し、2024年12月時点では首都圏を中心に約70店舗ほどで展開しています。2026年2月までに全国約2000店舗に順次拡大予定とのことです (リリース) 。
セブンカフェと同じオリジナルミルクを使い、北海道産の乳原料を 100% 使用している点からも品質へのこだわりを感じさせます。
セブン-イレブンは、専用マシンで茶葉そのものから抽出するという本格的な紅茶を採用しました。ティーバッグや粉末を使わず、抽出時にじっくりと蒸らすので、紅茶本来の香りと味わいをより引き出せます。
紅茶の商品ラインアップは、ダージリン・アッサム・アールグレイをベースにした 「ストレートティー」 と、アッサム・アールグレイによる 「ミルクティー」 の2つが軸です。茶葉はストレートティーがダージリン、アールグレイ、アッサムの3種類から、ミルクティーはアッサムとアールグレイの2種類から選べます。それぞれホットとアイスの両方に対応し、サイズはレギュラーとラージを用意しています。
特徴的なのは香りです。たっぷりの茶葉に熱々のお湯を注ぎ、じっくり蒸らしてから抽出していることが、香りの良さにつながっています。セブン-イレブンのお店に入り、紅茶の良い香りが迎えてくれるように感じられ、香りが紅茶のおいしさを感じる要因にもなります。
コーヒーより抽出時間はやや長めですが、香りの立ち上り具合や口当たりが良く、テスト販売店舗では 「ミルクティーの濃厚さ」 や 「ダージリンやアールグレイの華やかな風味」 が評価されました。
価格はストレートティーが税込み120円から、ミルクティーが190円からとコーヒーと同程度の手軽さを実現しました。
コーヒーとは違う飲用シーン
セブン-イレブンの淹れ立ての紅茶は、コーヒーとは利用ニーズが異なるとのことです (参考記事) 。
コーヒーが朝の目覚ましや仕事中のスイッチ役に買われる傾向があるのに対し、紅茶は午後やオフタイムのリラックスシーンで購入されることが多いようです。紅茶によってデザートとの買い合わせが増えたり、女性客や幅広い年代層への訴求が見込めたりと、セブン-イレブン全体の客数増にも貢献することが期待できます。
セブン-イレブンは、コンビニコーヒーで培ったノウハウやブランド力を活かしつつ、紅茶という新たな切り口でコンビニ市場を広げようとしています。
勝ち筋を捉えての事業領域への参入
では、今回のセブン-イレブンの淹れ立て紅茶の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
コーヒーでの実績や信頼を有効活用
セブン-イレブンが長年にわたり培ってきた利便性と顧客価値を重視する姿勢は、セブンカフェというブランドにも反映されています。
消費者から信頼があることで、今回の 「セブンカフェ ティー」 への展開がスムーズに進みます。いわば、既存顧客からの信用を土台に、新たな商品を提案した際に受け入れてもらいやすい土壌ができるわけです。
今回の場合は、コーヒーと紅茶という飲料カテゴリーの近さも相乗効果を生みます。
お客さんはセブンカフェのコーヒーを選ぶか、セブンカフェ ティーの紅茶を選ぶか、そのときの気分やシチュエーションに応じて選択肢が広がります。こうした補完関係が構築されることにより、日常生活の中で飲む楽しみが増え、セブン-イレブン全体に対する愛着や好感度が高まることでしょう。
事業領域の選択
セブン-イレブンの事例が示すのは、新規事業や新サービスを始めるにあたって、自社の強みを最大化できる近接ドメインとなる 「事業領域」 をどう見極めるかが肝心だという点です。
セブン-イレブンはコーヒー事業で確立した、淹れ立て、手軽さ、品質という要素を、ほぼそのまま紅茶に転用しつつ、紅茶ならではの抽出方法や素材へのこだわりを追加しています。
既に持っているブランド力や技術力を取り入れ、新しい事業領域で競合との違いをつくり、お客さんに価値をもたらせられるかが重要です。セブン-イレブンは専用マシンで茶葉を抽出する方法により、コンビニでありながら本格的な紅茶が飲めるという顧客価値を打ち出しました。
新規顧客獲得と既存ビジネスへの波及効果
新規事業を展開することで、新しいお客さんを呼び込むことが期待できます。
新しいお客さんの獲得
コーヒーが苦手だったり、もしくはあまり飲まないという人には、これまではセブン-イレブンのセブンカフェは縁の薄い存在でした。
ここに紅茶という選択肢が加わることで、新しいお客さんになってもらえることが期待できます。午後やオフタイムにリラックスするために、淹れ立ての飲み物を欲しいと思う顧客層をしっかりと取り込めます。
事実、セブンカフェ ティーのテスト販売では、セブンカフェのコーヒーの購入経験がない人も多く見られ、セブンカフェ ティーをきっかけに来店頻度が高まり、客数の増加にもつながったとセブン-イレブンは評価しています (参考記事) 。
コーヒーの主要ユーザーは朝から昼にかけての時間帯に集中し、眠気覚ましや集中力アップといったニーズがあります。一方で紅茶は午後の息抜きや、スイーツと一緒に楽しむゆったりしたシーンが中心であり、覚醒したいコーヒーとはまた違った、紅茶によるリラックスという顧客価値を提供する存在です。
淹れ立ての紅茶が加わることで新規顧客層の獲得が期待できます。
既存ビジネスへの波及効果
新規事業の展開は、新しいお客さんを獲得するだけでなく、既存ビジネスにも波及効果が得られます。セブン-イレブンの事例は、新規顧客の獲得とともに、既存のお客さんの来店頻度向上にも貢献し、相乗効果を生み出すでしょう。
例えば、これまではセブン-イレブンでコーヒーを習慣的に買っていた人が、たまには気分を変えて紅茶を試してみようと考えるかもしれません。朝のコーヒーが紅茶に取って代わるだけではカニバリ (共食い) ですが、朝はコーヒー、追加で夕方は紅茶となれば、1日のうちに複数回の来店機会をつくり出し、お店への足を運ぶ回数が増えます。
セブン-イレブンにとって、お客さんとの顧客接点を増やせられ、紅茶の導入に合わせてスイーツのラインアップや販促施策を強化するなど、新たな顧客接点からデザート類の売上などのクロスセルも連動して伸びる可能性があります。
セブン-イレブンの紅茶の展開は、コーヒーを軸とした既存事業で培ったブランド力を巧みに活用し、新規顧客の獲得と既存ビジネスの活性化の両輪を狙ったものです。新旧の事業をうまく手く組み合わせることで相乗効果を生めることは、新規ビジネスに取り組む際の理想的なシナリオと言えるでしょう。
自社の強みを最大限に活かせる近接領域を狙い、商品展開を行うことによって、お客さんからの選ばれる理由をまたひとつつくりだせるのです。
まとめ
今回は、セブン-イレブンの 「セブンカフェ ティー」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新しい事業領域への参入では、いかに 「勝ち筋」 を捉えられるかが大事
- セブン-イレブンは紅茶というコーヒーの近接ドメインを選び、コーヒーでの自社の強みを活用した展開を目指した
- 新規事業により新しいお客さんの獲得にとどまらず、既存ビジネスへの波及効果を狙うのが理想
- セブン-イレブンはセブンカフェの新たな顧客接点を増やしての新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客の購買頻度を高めたい考え
- 例えば、朝はコーヒー、午後は紅茶といったように複数回の来店機会をつくったり、紅茶と一緒にスイーツなどのクロスセルも促進される。新規事業と既存事業の相乗効果が期待できる
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