#マーケティング #使い方 #贈り物マーケティング
商品の形や使い方を見直すことで、お客さんにとってこれまで以上の商品の魅力を高められる可能性があります。
ご紹介したい老舗会社のふくやの 「缶明太子 油漬け」 は、常温で長期保存できる新しい工夫により、明太子に贈り物としての存在感を打ち出しました。
今回は、この事例の背景から見ていき、「顧客価値の再定義」 をキーワードに掘り下げます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
ふくや 「缶明太子 油漬け」
ふくやは、辛子明太子の老舗メーカーです。ふくやが2016年に発売したのが、常温保存ができる 「缶明太子 油漬け」 です。
累計販売数が100万個を突破
一般的には明太子というと冷蔵または冷凍での保管をし、生のままの食感と風味を楽しむことが普通です。一方の 「缶明太子 油漬け」 は加熱処理と油漬けによって長期保存が可能になり、常温で3年間も保存できるという特徴をもっています。
一缶あたり約750円ほどの価格で、やや高級な部類の缶詰といえます。しかし、手に取りやすいサイズ感とスタイリッシュなパッケージデザイン、上質な味わいが評価されて、気軽に贈るギフトとして人気が上昇しました。2024年度には累計販売数が100万個を突破する勢いを見せ (参考記事) 、明太子は生ものであるという固定観念から覆すような商品です。
「缶」 にすることで広がった利用シーン
「缶明太子 油漬け」 は、加熱済みのほぐし明太子を綿の実 (コットンシード) 由来の油に漬けているため、生の明太子に比べるとややタラコのような食感に近い仕上がりです。スプーンですくってご飯にかけるほかに、パスタやパン、さらにはうどんやお好み焼きなど幅広い料理にアレンジしやすいのも魅力です。
消費者からは 「明太子をほぐす手間がいらない」 や 「いろんな料理に使いやすい」 という声が寄せられ、常備できる万能調味料・食材のような感覚で使われています。
ほかには、業務用として 「缶明太子 油漬け」 は飲食店やパン屋さんでも使われています。ふくやは同じ中身の袋入り版を業務向けに卸すことで、明太子パンやパスタソースとしての利用を広げました。常温保存が可能になったことにより、飲食店の仕入れや在庫管理にとってもメリットがあります。
贈り物としても重宝
さらに 「缶明太子 油漬け」 が人気を集めている理由のひとつには、贈り物にあります。
常温保存ができるため、手軽なギフトとしてや、おみやげにも人気です。
冷蔵や冷凍が不要なので、お店でも常温の棚に置けるので取り扱いが簡単です。消費者にとっても常温のまま遠方に持っていくことができ、何日か先に渡す手土産にも便利です。賞味期限が長く (3年) 、贈られた側も調理や保管がしやすいです。
形状変化と新しい使い方
では、ふくやの 「缶明太子 油漬け」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
形状変更がもたらす価値の再定義
ふくやの 「缶明太子 油漬け」 が、消費者や顧客にとって価値を生み出すのは、マーケティングの観点から見ると 「商品の意味合い」 が変わるためです。
生のままの明太子を冷蔵や冷凍で消費する場合、すぐに冷蔵庫に入れなければ明太子が傷んでしまうのではと気を遣います。また、贈答用にしても、贈る人はクール便など配送手段を選ぶ必要があり、贈られた側も保存の手間がかかります。
しかし形状が缶詰になると、長期保存ができ常温でも大丈夫になるので、贈られた側は好きなタイミングで食べられるようになるわけです。
手に取りやすいサイズの缶詰であることから、気軽に贈れるプレゼントという意味合いを備えます。高価な生の明太子セットを贈ると受け取る側は恐縮してしまうかもしれませんが、缶詰サイズならその心配も減り、ちょっとしたセンスのいいものとして贈るシーンも生まれることでしょう。
新しい使い方の提案
ふくやの 「缶明太子 油漬け」 は、商品の使い方を変えたというのもポイントです。
生の明太子の場合、切り身をごはんに乗せて食べるという使われ方が中心でした。「缶明太子 油漬け」 はほぐして油漬けにすることでご飯用だけにとどまらず、パスタのソース、パンに塗るスプレッド、うどんに混ぜる味付けなど、多様なアレンジができるようになりました。常温保存ができるので、キッチンの棚にストックしておいて、思い立ったときにさっと取り出せるのが便利です。
これまでよりも食べるシーンや使うシーンが増えるということは、商品と接触する機会が増え、認知してもらえる瞬間がそれだけ多くなるということです。明太子を食べ慣れていなかった人や、初めて 「缶明太子 油漬け」 に触れる人でも、多様な利用シーンから一度試してみるというトライアルが起こるでしょう。
使い方が豊富であるという要素が、新しい購買理由を提供し、ふだん料理をあまりしない人でも楽しめたり、贈り物に買う、非常食としてもストックしておけるといった様々な選ばれ方をもたらすのです。
商品の意味合いを変える 「贈り物マーケティング」
贈り物としての 「缶明太子 油漬け」 が特に示唆的であるのは、贈りやすさが新たな顧客価値を生み出している点です。
明太子に缶詰という手軽さと常温保存できる要素が合わさり、カジュアルな贈り物やちょっとしたお礼、友人や同僚へのお土産など、多彩な場面へと使われ方が広がりました。
贈られることでトライアル利用につながる
贈り物には 「トライアル利用の促進」 という効果があります。
誰かに贈る際には、自分でも 「まずは味見してみようか」 と試すことも少なくないでしょう。また、贈られた側も初めてその商品を知る機会が生まれます。
そこから 「思いのほか良い」 や 「色々と使いやすい」 などと気に入れば、自分でもう一度買うというリピート購入の可能性が高まります。贈り物として選ばれるデザインやパッケージにすることが、新規顧客を開拓するフックになるのです。
ギフト向けプロモーション施策による後押し
ふくやの例では、SNS や口コミを通じて、「自分用に買ってみたら良かったので、お土産やプレゼントとしてもリピートした」 という消費者の声が見られました (参考記事) 。
贈り物として訴求するマーケティングは、イベントや季節に合わせたプロモーション施策を行うと効果的です。たとえばバレンタインやホワイトデー、母の日・父の日、クリスマスなどのギフト需要が高まるシーズンにキャンペーンを展開するというふうにです。
また、お歳暮やお中元ほどフォーマルでなくても、ちょっとした誕生日祝い、引越し・結婚、出産のお返しなどの贈答シーンに合わせた訴求を行うことによって、トライアル購入の裾野を広げることができます。
新規顧客獲得とブランド認知向上へ
贈り物マーケティングでは、実際に 「もらった人」 から 「買う人」 への変化が起こりやすい点が魅力です。
そのプロセスは 「缶明太子 油漬け」 に当てはめると次のように整理できます。
- 贈り手が商品を発見・購入
まず贈り手自身が 「おしゃれな缶明太子があるらしい」 や 「常温で長期保存できるから手土産にいいかも」 と興味を持ち、購入に至る - 受け取り手が商品を知りトライアル利用
贈られた人は商品を初めて知る。食べてみたら 「これなら料理にも使いやすい」 、「美味しいし、また欲しい」 と感じる - リピート購入・口コミの発生
もらった側が自分用にリピートしたり、別の友人へ贈ったりして口コミが広がり、新規顧客が増える
商品を1回使って良さを知ってもらえさえすれば、追加購入やロイヤルユーザーにつながることも期待できます。その1回の利用を促すきっかけが 「ギフトとしての購買」 になるというわけです。
贈り物マーケティングによって、従来の自社商品やサービスとは異なる選ばれ方を促せます。ギフト用としても商品の位置づけを再定義し、パッケージデザインやプロモーションを工夫することで、既存顧客の人たちだけではなく、カジュアルギフト層や日常的な需要を取り込むことができます。
まとめ
今回は、ふくやの 「缶明太子 油漬け」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 商品の形状やデザインの変更により、従来の用途や保存方法といった制約をなくせ、新たな利用シーンや顧客ニーズを生み出せる
- また、商品の使い方の工夫により、お客さんが気軽に試せるトライアル利用の機会が増えるなど、商品の利便性や接触頻度を向上させることが期待できる
- 顧客価値を再定義し、そこから贈り物にも活用できるなどのマーケティングで新たなプロモーション施策にもつなげられる。ブランド認知の向上や新規顧客の獲得、持続的なブランド成長に寄与する
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