投稿日 2016/12/25

エネルギー視点で見る現代社会と人類史がおもしろい


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エネルギー論争の盲点 - 天然ガスと分散化が日本を救う という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の趣旨
  • 現代社会とエネルギー、人類史とエネルギー
  • 技術革新の本質、エネルギーの本質


本書の趣旨


この本の趣旨は2つです。

  • 2011年の東日本大震災以降に見られた 「原発 vs 再生可能エネルギー」 という議論は不毛である
  • 今後のエネルギー供給の安定性と二酸化炭素削減を両立するためには、「天然ガスの活用」 と 「資源分散型のスマートエネルギーネットワークをいかに確立するか」 が重要である

興味深く読めたのは、これら2点の前提として多くのページが使われていた 「そもそもエネルギーとは何か」 という根源的な部分でした。

エネルギーが現代社会に果たしている役割、エネルギーが人類の歴史に影響を与えたかです。エネルギーに関する本質でした。


現代社会とエネルギー


なぜエネルギーが、現代社会にとっては重要なのでしょうか。

それは、安く安定した大量のエネルギー供給がなければ、現代文明は一日たりとも維持できないからです。

現代人の生活はあらゆる物資に囲まれています。これらを生産し、輸送のために膨大なエネルギーが使われています。食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶など、あらゆるものです。

本書によると、日本の場合、全エネルギー消費の約半分が物の生産に使われ、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2になります。

現代文明の特徴は2つです。都市部への人口集中と、高度に組織化された産業システムです。

都市部に人口が集中したため、私たちが口にする食料を都市部だけで生産しまかなうこと、生活に必要な資源を都市部で調達することは不可能です。

都市の外部で食料が生産され、日々運ばれてきています。そのためにエネルギーが必要です。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが消費されます。

都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な産業システムを支えているのが、エネルギーです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っています。


人類史とエネルギー


人類の歴史をエネルギーの観点から俯瞰する内容も、興味深く読めました。

一般的に動物は、一個体が一個体分を維持できるエネルギー源 (食料) を獲得できれば、長期的な生存が可能となります。

獲得エネルギーが一個体以下であればいずれは絶滅します。一個体以上のエネルギー源を一定期間にわたり獲得できれば、その動物の個体数は増加します。

人類の歴史を、狩猟採集、定住農耕、産業革命以降で見れば、人口増大は一人あたりのエネルギー獲得に影響を受けました。本書で書かれていたことを整理すると、以下の通りです。

  • 狩猟採集時代:人口増は年率でほぼゼロであった。人は自分が生きていくためのエネルギー源しか持てず、一人の人間は、平均してほぼ一人の人間しか養うことができなかった
  • 定住農耕時代:一人の農業労働による食料生産量が、狩猟採集時代の数倍~10倍程度に増加。人口が増加し、農業生産や食料獲得に従事しない余剰人口が拡大。王や貴族などの支配者、土木工事や道具製作者、宗教家や芸術家などの職業も登場
  • 産業革命:石炭というエネルギー源が大規模に使用され始める。機械利用による道具生産、土木工事、サービスが急拡大。規模の大きな農業生産と遠隔地からの食料獲得が可能になり人口増加。都市での人口密度の拡大、公衆衛生と暖衣飽食が実現し、人口爆発へ

産業革命後、増加した余剰人口と高効率の化石エネルギー利用により、更に道具と土木工事、生産活動、サービスが拡大します。

人類は、これらを世界規模で市場交換をするようになりました。現代の経済であり、現代文明の本質であると著者は言います。


技術革新の本質


技術革新の本質は2つです。エネルギー消費の増大と、エネルギー源の高効率化です。


1. エネルギー消費の増大

人類史において、文明化の段階は、農業開始、産業革命、現在の情報革命です。

エネルギー消費の視点では、産業革命によって、農業社会に比べて人類のエネルギー消費は3~4倍に増加しました。現在は、産業革命と比べ40倍に増えているようです。一人当たりエネルギー消費で見ても4倍に増加しました。


2. エネルギーの高効率化

産業革命前でのエネルギー源の主流は薪炭でした。

産業革命で石炭が使われるようになり、その後、より効率のよい石油がエネルギー源になります。

本書では、エネルギーの効率さを比較するために 「エネルギー算出 ÷ 投入比率」 という指標が用いられています。これは、1単位のエネルギーを取り出すのに (算出) 、何単位のエネルギーが必要になるか (投入) という比率です。

産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭では、この比率が2~3倍でした。石炭では40~50倍まで効率がよくなります。1単位の石炭があれば、40~50単位の石炭が取れるということです。

石油では、中東などの巨大油田では100~200倍になるとのことです。太陽光のエネルギー算出/投下比率は10倍、風力は15倍程度と説明されています。


エネルギーの本質を見失わないように


現代文明は高度に組織化され、秩序化された巨大な人口維持システムです。エネルギー源を大量投入しないと、維持できない仕組みになっています。

本書からの引用です。

いくら家庭で無駄な電気をこまめに消したり、自動車をやめて電車に乗ったりしても、現代社会が鉄とコンクリートに代表される、エネルギー源を大量消費してしか製造できない膨大な量の基礎物質によって成り立っている以上、本質的にこの構図は変わらないのだ。

(引用:エネルギー論争の盲点 - 天然ガスと分散化が日本を救う)

もう1つ、印象的だった箇所の引用です。

エネルギー源は、文明とその成長・進化・変遷に本質的に欠くことのできない要素であり、文明が高度になればなるほど、すなわち人工物に頼れば頼るほど、膨大な低エントロピーのエネルギー源 (高効率・高密度のエネルギー) を外部から注入しなければならない。

それができなければ、私たちの社会はたちまち崩壊する運命にある。

だから、文明にとってエネルギー問題は単にトイレットペーパーがなくなるとか、車が動かなくなるとか、冷暖房できなくなるとか、テレビやパソコンが動かなくなるといった次元の問題、すなわちみんなが多少節約すれば解決するような問題だとは、到底考えられないのである。

(引用:エネルギー論争の盲点 - 天然ガスと分散化が日本を救う)



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。