#マーケティング #選ばれる理由 #ブランドコンセプト
うちの商品がもっと売れるためにはどうすればいいのか…? そんなふうに思ったことはないでしょうか。
カギを握るのは、商品やサービスのブランドコンセプトにあるかもしれません。コンセプトがお客さんの心に刺さるとき、初めて 「お客さんから選ばれる理由」 が生まれます。
ご紹介したい味の素の 「ほんだし」 は、和食離れという逆風の中でコンセプトを再定義し、見落としていた需要に応えることができました。
この事例は、お客さんから選ばれるブランドになるためのヒントを与えてくれます。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
和風だしの素 「ほんだし」 の課題
ほんだしは、味の素が1970年から販売している和風だしの素です。
まずは 「ほんだし」 を取り巻く背景や課題から見ていきましょう。
市場全体のトレンド
和風だしの素の市場は、1990年代後半をピークに長期的に縮小傾向にあります (参考記事) 。
理由は、日本の食卓が多様化し、和食ばかりだけではなく洋食や中華、エスニックなどを取り入れる家庭が増えたことです。即席みそ汁や白だし、めんつゆなどの便利な和風調味料の存在感が増し、従来の顆粒 (かりゅう) だしの需要が相対的に落ちてきている状況です。
みそ汁離れと若年層の変化
和食の代表的な料理メニューのみそ汁ですが、忙しい生活の中で毎日みそ汁を作る家庭が減ってきているようです。特に若年層は、単身世帯の増加や調理習慣の変化などにより、みそ汁を作る機会そのものが少なくなっています。
みそ汁に使うというイメージが強い味の素の 「ほんだし」 は、市場全体の縮小とともに伸び悩んでいました。
味の素が実際に若年層の消費者へのインタビューを行うと、「だしの素はどれも一緒」 や 「他と何が違うかわからない」 といった声が聞かれたとのことです。長年にわたり 「かつお節の三種類ブレンド」 と 「本格的な香り」 を訴求してきたほんだしでしたが、若い世代にはその魅力が十分に伝わっていませんでした。
しかし、ほんだしは売上を反転させることに成功しました。コロナ禍以降の物価高や人口減少など、決して有利とはいえない市場環境で、味の素はどのようにしてマーケティングによって活路を見出していったのでしょうか?
詳しい内容を見ていく前に、あらためてマーケティングとは何かから整理してみましょう。
マーケティングとは
マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。
商品やサービスをつくって売るだけでなく、それらがお客さんから見て 「自分にとってメリットがある」 と感じてもらい、競合商品ではなく自社の商品を選んでもらうための取り組みを幅広く含む概念がマーケティングです。
選ばれる回数や確率を高めるためのブランドコンセプト
消費者やお客さんから 「選ばれる理由」 をつくるには、ただ商品を並べるだけでは十分とは言えません。商品やサービスの本質を示す 「ブランドコンセプト」 を打ち出し、コンセプトに消費者が共感してくれたとき、初めて消費者の頭の中に欲しいものとして存在できます。
ブランドコンセプトとは、消費者に持ってほしい商品・サービスのイメージや、顧客価値を端的に言語化したものです。
たとえばスターバックスなら 「心地よい第三の場所 (サードプレイス) 」 というコンセプトがあり、ナイキなら 「Just Do It」 のスローガンに象徴される 「挑戦」 です。
コンセプトを消費者の頭の中に作り出す
ブランドコンセプトを軸に、広告や SNS で情報発信したり、店頭での買い物体験をもたらし、実際に使ってもらう機会を増やすことが大切です。コンセプトが曖昧だと 「商品を選ぶ意味がわからない」 という状況になってしまい、購入に至りにくくなります。
コンセプトが消費者の心の琴線に触れ、本能的な部分にぐさっと刺されば、商品に関心を持ったり手に取る必然性 (選ぶ理由) を生み出します。
ブランドコンセプトを打ち出し、消費者やお客さんに共感してもらい、頭の中に鮮明にコンセプトをインプットしてもらうことにより、選ばれる確率を高めていく――。これがマーケティングの役割です。
「ほんだし」 のマーケティング施策
ではここで、ほんだしの事例に話をつなげます。
ほんだしは長年、みそ汁を手軽においしく作るというイメージが定着してきた和風だしの素でした。しかし、縮小する和風だし市場の中で生き残るために、味の素はもっと幅広い利用シーンを提案するというマーケティング戦略に舵を切りました。
「和食だけに使うもの」 という固定観念を打破
味の素が消費者調査を行い、着目したのがパスタや鍋などの和風アレンジが生きるメニューです。
CM や SNS で 「ほんだしをかけるだけでパスタが一気に和風になる」 、「重ね鍋でだしの風味を楽しめる」 などのレシピを積極的に発信し、「ほんだしはみそ汁専用」 という印象から脱却しようとしました。
「かつお節職人」 のイメージで本物感を訴求
若年層には 「だしの素はどれも一緒」 という印象が強かったため、テレビ CM や YouTube で 「ほんだし独自の製法でいぶしたこだわりのかつお節を使っているから、かつお節の香りとうまみがそのままギュッと詰まっている」 というメッセージを伝えました。
顆粒のだしの素だけど、中身は本物のかつお節を使っているという部分を伝えることで、安心して使える本格だしというブランドイメージを打ち出したのです。
ほんだしで変えてはいけない部分を、「品質へのこだわり」 とあらためて明確にした形です。ほんだしを使えばおいしい料理を作ることができるというコアバリュー (中心となる顧客価値) を訴求するという強い意思を見て取れます。
ブランドコンセプトを広げることで選ばれる理由を増やす
では、ほんだしの取り組みが示すマーケティングのポイントを整理してみます。キーワードは 「ブランドコンセプトの再定義」 です。
「みそ汁のだし」 から 「和風アレンジの万能だし」 へ
ほんだしのコンセプトは、従来は 「みそ汁を手軽においしく作る和風かつおだし」 でした。ここを 「和風アレンジを自由に楽しむだし」 へと広げ再定義することによって、消費者の 「パスタも鍋も簡単に和風にしておいしく食べたい」 というニーズにぴったりフィットするコンセプトになります。
同時に 「かつお節が原料」 という本物感もあたらめて強調することにより、ほんだしをみそ汁に使う消費者にも 「やっぱりほんだしはいいかも」 と思ってもらうことを目指しています。
コンセプトを浸透させる利用シーンの提案
ブランドコンセプトとは一言の顧客価値の言語化です。端的な表現に落とし込まれているものの、一方で抽象度が高いメッセージです。
そこでブランドコンセプトを消費者やお客さんに受け取ってもらうには、コンセプトを具体的にイメージできる商品・サービスの利用シーンを一緒に打ち出すと効果的です。
例えば、味の素はほんだしのコミュニケーションにおいて広告や SNS も連動させ、ほんだしの使い方やレシピを映像で魅力的に紹介しています。また、インフルエンサーを工場見学に招く企画などを実施し、新しい使い方のアイデアを拡散するという企画も行いました。
売場でも工夫できます。味の素はパスタコーナーや鍋関連商品コーナーにも和風だしのほんだしを一緒に置くなど、来店客 (ショッパー) がほんだしを使う場面を具体的にイメージしやすい売場づくりを進めています。
ほんだしにマーケティングの汎用的ポイント
では最後のパートでは、ほんだしから学べることを汎用化してみましょう。
- 顧客文脈まで捉えた消費者と顧客への深い理解: 味の素は生活者環境、例えば和食の頻度が減少している現状を把握し、消費者の和風アレンジニーズを発見した
- ブランドコンセプトの明確化: 「本物のかつお節を使った高品質のだし」 という軸となる特徴をもとに、「みそ汁だけではなくほんだしは幅広いメニューに使える」 という新たなコンセプトを再設定
- コンセプトを体現する使い方の提案: パスタや鍋といったほんだしの新しいコンセプトを反映する具体的なレシピを発信し、消費者が 「これなら自分でもできそう」 と思える活用シーンをアピール
- 多角的な顧客接点でコンセプトにもとづいたコミュニケーション展開: 動画広告や CM 、SNS 、店頭販促などを組み合わせ、一貫したブランドイメージをコンセプトと利用シーンで伝える
- 「お客さんから選ばれる理由」 の創出: 和食に限らず 「和風の味付けがしたいときはほんだし」 というイメージを広げ、味の素はだしの素市場を越えた需要を呼び込んだ
このように、ブランドコンセプトを軸にして、生活者環境や消費者のニーズの変化に合わせて新しい使い方を提示し続けることが大事です。
たとえロングセラー商品であっても時代に合わなくなれば、お客さんからは選ばれなくなります。
環境の変化を 「お客さんから選ばれる理由をつくるチャンス」 と捉え、ブランドコンセプトを明確にし、ときには再定義し、新しい利用用途や使い方、利用シーンを提案できれば魅力を打ち出すことができます。
まとめ
今回は、味の素の 「ほんだし」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドコンセプトとは、消費者に持ってほしい商品やサービスのイメージや価値を端的に表したもの。例えば、スターバックスの 「サードプレイス (第三の場所) 」 、ナイキの 「Just Do It」 など
- マーケティングは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 。新商品開発、価格設定、流通戦略、広告、ブランディングなども含む
- ブランドコンセプトを広げることで消費者から選ばれる理由を増やせる
- 味の素のほんだしは、和食の頻度が減る中で、消費者の 「和風アレンジ需要」 を発掘。そこから 「本物のかつお節を使った高品質のだしで、みそ汁以外の用途にも使える万能だし」 というコンセプトを打ち出した
- コンセプトを体現する使い方の提案し 「和風の味付けがしたいとき = ほんだし」 というイメージを広げ、お客さんから選ばれる理由を新たに生み出した
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