#マーケティング #差異化 #POPとPOD
ヒット商品の裏側には 「負けないための基本」 と 「勝つための独自性」 を同時に成立させる巧みな戦略があります。
もし自社商品・サービスに、そのカテゴリーでお客さんから求められる最低限の条件が欠けていれば購入候補から外れ、逆に独自の魅力がなければ埋もれてしまいます。
今回は、JBL の最新スピーカーを事例に、基本機能で競合に劣らない土台を築き、その上に独自の価値を積み上げるというマーケティングを紐解きます。
ワイヤレススピーカー JBL Flip 7
JBL Flip 7 は、2025年4月に発売された JBL の最新ワイヤレススピーカーです。
JBL はアメリカのオーディオブランドの老舗で、イヤレススピーカー市場で高いシェアを誇ります。JBL Flip 7 はその人気シリーズの最新モデルにあたります。
実勢価格19,800円という手頃な価格帯ながら、Bluetooth と USB Type-C の両方に対応し、どこでも音楽を楽しめる汎用性の高さが特徴です。IP68 相当の防水・防じん性能により、浴室やキッチン、アウトドアでも安心して使用できます。
AI Sound Boost という JBL 独自の新技術が搭載されています。音楽信号をリアルタイムで解析し、歪みを抑えることにより、小音量でも細部まで聞き取りやすく、大音量でも伸びやかな音質を実現します。
他には、JBL Flip 7 は最新の音声配信技術 Auracast (オーラキャスト) に対応し、複数のスピーカーに同時配信ができます。
9色のカラーバリエーションと着脱可能なカラビナ・ストラップが付属し、自分のライフスタイルに合わせた使い方ができる点も魅力です。
では、ワイヤレススピーカー JBL Flip 7 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からは、競合商品との差異化をどのようにつくり、そして違いをいかにお客さんへの価値に結びつけるかという視点で学びが得られます。
差異化の2つの要素
差異化を図っていくにあたって重要な考え方が、「POP と POD」 です。
POP は 「負けない要素」
POP (Points of parity) は、あるカテゴリーにおいて商品やサービスが 「最低限として満たすべき基本的な要素」 を指します。
POP は自社だけではなく競合も同じように満たすものです。POP はお客さんがそのカテゴリーの商品・サービスを買うかどうかを考えるときに必須の条件となります。
POD は 「勝てる要素」
一方の POD (Points of difference) は 「自社商品を競合から差異化する要素」 です。その商品が市場においてユニークな特徴を持ち、お客さんにとって独自の価値になるので、お客さんから競合商品ではなく自社商品が選ばれる理由となります。
たとえば、他には決してないほどの高コスパ、高い技術に裏打ちされた使いやすさ、自分好みに合わせたカスタマイズ性です。
POP と POD を整理すると、次のようになります。
- POP (Points of parity) : カテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- POD (Points of difference) : 自社商品・サービスの差異化になり他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
JBL Flip 7 の POP と POD
では、ここでワイヤレススピーカーの JBL Flip 7 に話をつなげます。
実際に Flip 7 がどのように POP と POD をつくり出しているかについて、具体的に見ていきましょう。
ワイヤレススピーカーとしての POP
2025年のワイヤレススピーカー市場において、Bluetooth 接続はあって当たり前の機能です。USB Type-C も、もはや基本仕様となっています。JBL Flip 7 はこれらを実装済です。
接続性の面では、ユーザーの不満を生まない状態をつくりました。
必須の Bluetooth 接続はもちろん、パソコンには便利な有線接続という両方のニーズに対応しています。ロスレス再生にも対応することによって、音質にこだわるユーザーの最低限の条件もクリアしています。
これらは一見地味に見えますが、どれか一つでも欠けていれば、購入候補から外される可能性がある重要な要素です。
次に防じん防水性能です。音楽を楽しむ場所が多様化した現在、防水機能は 「あると便利」 から 「なければ困る」 レベルに昇格しています。
浴室やキッチンでの使用が一般化し、アウトドア需要も高まる中、JBL は IP68 という最高レベルを実装。どんな環境でも安心して使えるという基本的な信頼性を確保しています。
あたかも家を建てる時の基礎工事のように、これらの POP を確実に満たすことで、JBL Flip 7 は消費者が買うかどうかを検討する際の選択肢から外される可能性を下げ、競合とがっぷり四つに組める 「負けない状態」 を築いているのです。
選ばれるための独自価値 POD
この強固な土台 (POP) の上に、JBL Flip 7 は 「他とは違うユニークな価値 (POD)」 を積み上げています。
POD が、消費者に 「数ある製品の中から Flip 7 を選びたい」 と思わせる動機となります。
利用シーンを広げる携帯性
JBL Flip 7 はサイズがただ小さいだけではありません。持ちやすい筒型、触り心地の良いファブリック素材はもちろん、着脱可能なカラビナと短いストラップも携帯性を高めます。
スピーカーをテーブルの上に置くだけでなく、リュックにぶら下げる、テントのポールに吊るす、浴室のフックに掛けるといった、いろいろな使い方が生まれます。他社製品にはない独自の利便性という価値をもたらします。
技術に裏打ちされた音質機能 AI Sound Boost
どのスピーカーのメーカーも高音質を訴求する中で、JBL Flip 7 の AI がリアルタイムで歪みを抑えるという機能は POD のひとつとなりえます。
AI Sound Boost の機能によって、小さい音量でも音楽の細部や迫力が感じられ、大音量でもクリアで伸びやかなサウンドが楽しめるという価値になります。
マルチ配信 Auracast による新しい音楽体験
先進的な技術である Auracast への対応も、JBL Flip 7 の POD です。
Auracast とは、複数のデバイスに音声を同時に配信できる機能のことです。Auracast があることにより、その場にいる複数の人が自分のワイヤレスイヤホンや補聴器などで聞けるようになります。
例えば、家中の複数のスピーカーから遅延なく同じ音楽を流す、ラジオポッドキャスト、YouTube の音声を家族それぞれのイヤホンやスピーカーに飛ばすといった、新しい音楽体験をもたらします。
今までに味わったことのない体験価値を提供することで、スピーカーとしての魅力を際立たせます。
アプリと豊富なカラーバリエーション
JBL Flip 7 の専用アプリ 「JBL Portable」 でのイコライザー調整や、9色という豊富なカラーは、自分好みのスピーカー環境をつくりたいという消費者心理に応える POD です。
音質を自分流にアレンジできたり、自分の部屋やファッションに合う色を選べることは、JBL Flip 7 を自分のための特別なものとして感じさせ、愛着を深めるでしょう。自分ごと化を促す仕掛けが、他社製品との違いをつくります。
POP と POD の相乗効果
事業戦略や商品・サービス開発においては、まずカテゴリーにおける基本的な期待値 (POP) を確実に満たし、その上で自社ならではの強み (POD) を明確にして磨き上げる、というステップで設計・実行していくことが成功のカギを握ります。
POP があってこその POD
基本的な不満を取り除き、POP となる最低限で満たす基本的な顧客価値がなければ、どんなにすばらしい機能を追加しても意味がありません。家を建てる時に、基礎工事がしっかりしていなければ、その上に立派な建物は建てられないのと同じです。
もし、POP が満たされていない状態で、いくら魅力的な POD を追加しても、お客さんや利用者はその機能の価値を体験する前に、商品やサービスに嫌気がさして離脱してしまうことでしょう。
逆に、POP だけでは、機能や体験が他社と代わり映えしないという POD がない状態となり、わざわざその商品・サービスを選ぶ強い動機にはなりません。
基礎部分となる POP の上に差異化要素となる POD があるからこそ、消費者は数ある商品やサービスの中から、自社の商品・サービスを選び、使う理由が生まれるわけです。
POP と POD で 「選ばれる理由」 をつくる
POP によって 「最低限の顧客体験」 を確実に保証し、さらに POD によって 「他にはない独自の魅力」 を提供するという両輪を効果的に回すことがポイントです。
POP でお客さんの期待に応え (マイナスをゼロに) 、POD で顧客の期待を超えた共感や驚きを生み出す (ゼロをプラスに) 。POP と POD のかけ合わせによって、他とは一線を画す優れた顧客体験をつくり出します。
POPで 「負けない状態」 をつくり、そのうえで POD を追求し 「勝てる状態」 にする――。POP 上に自社ならではの強みや独自性 (POD) を打ち出し、差異化要素を磨き上げることで、お客さんから 「選ばれる理由」 をつくるのです。
まとめ
今回は、ワイヤレススピーカー JBL Flip 7 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングでは差異化の概念として POP と POD の2つがある
- POP (Points of parity) はカテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- 一方の POD (Points of difference) は、自社商品・サービスの差異化になり、他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
- POP が土台となる顧客価値を保証しつつ、POD からの他にない差異化を図ることが大事。POP があってこその POD という差異化要素が生きる
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