#マーケティング #顧客設定 #顧客理解
いま 「自社のお客さんは誰ですか?」 と聞かれたら、すぐに明確に答えられるでしょうか?
ご紹介したいハウス食品の 3 色カレーの事例は、「誰に向けて、どんな価値を届けるのか」 を突き詰めることの重要性を教えてくれます。
顧客は誰かを明確に定めることにより、戦略も施策も成果も変わる。その本質を事例から学びます。
ハウス食品の 3 色のカレー
出典: 日経クロストレンド
ハウス食品の "3 色のカレー" が、定番商品になって 3 ヶ月弱で約 100 万個の販売を記録しました。
3 色のうち、ホワイトカレーとブラックカレーの 2 つは期間限定での販売から、定番化を希望する声が多数寄せられたことを受け定番化。その後、レッドカレーも定番商品に加わりました。
ホワイトカレーは、色が付くターメリックなどのスパイスを減らしました。クミンやカルダモンなどでカレーらしい風味を表現した白いカレーです。
ブラックカレーは、カレーソースを焦げる直前まで煮込み、炒め玉ねぎの香ばしさとチャツネやごまのコクを加えた黒いカレーです。
レッドカレーは、エビのパウダーやエキスでエビのうまみを引き出しながら、パプリカやカラメルで赤さを引き立てました。
具材を工夫しても全体が茶色くなってしまうカレーに、白・黒・赤という視覚的なインパクトと楽しさを持たせた点がユニークです。
ハウス食品の 3 色のカレーが実現した、3 ヶ月弱で 100 万個という販売実績の裏には、徹底した顧客理解がありました。
顧客は誰か?
ビジネスの第一歩は、商品を必要としているお客さんが誰かをはっきりさせることです。
注力顧客を明確にする
ハウス食品の 3 色のカレーは、一見すると 「カレー好き」 や 「家庭で料理をする人」 を広くお客さんに想定しているように見えます。しかし、ハウス食品は顧客設定を曖昧にしませんでした。
2023 年、ハウス食品は 料理をする人の約 4 万人規模の消費者データを分析しました (参考情報) 。
分析を経て消費者を 7 つのセグメントに分類しました。
人数構成の割合が多い順に、「簡単派」 「堅実食生活」 「手料理こだわり」 「節約志向」 「料理エンジョイ」 「中食・料理チャレンジャー」 「タイパ (タイムパフォーマンス) 志向」 の 7 つです。
- 簡単派: 料理へのこだわりは低く、自身のプライベートや趣味に集中し、日常を充実させている
- 堅実食生活: 料理はさほど好きではないが、家族の健康のために料理をする
- 手料理こだわり: 料理することが好きで、おいしくする工夫をする
- 節約志向: 食への金銭的優先度は低く、安くお得な市販品を賢く活用
- 料理エンジョイ: 料理にあまり慣れていないが好奇心旺盛。流行りや見栄えのいい料理が好き
- 中食・料理チャレンジャー: 新しいメニューにはチャレンジしたい意向を持つ
- タイパ志向: 食事・調理に時間をかけたくない。効率よく食卓をつくっている
7 つのセグメントに分けて調査を続けた結果、従来のハウス食品のカレールウの購入者は 「堅実食生活」 や 「手料理こだわり」 の消費者に集中していることが判明しました。
これは重要な発見であると同時に、他のセグメントにはまだアプローチできていない未顧客が存在することを示唆していました。
そこでハウス食品が次に目を付けたのが 「料理エンジョイ層」 です。料理にあまり慣れていないが好奇心旺盛で、流行りや見栄えのいい料理が好きという特徴を持つ人たちです。
顧客解像度を高める
よく陥りがちなのは、カレーは家庭料理だから、主婦・主夫なら誰でもターゲット顧客というような、顧客解像度の粗い顧客定義です。
しかしハウス食品は、食卓の華やかさや見栄えを重視し、料理そのものをイベントとして楽しむ消費者という、具体的な顧客像を注力顧客として定義しました。
明確な顧客設定が、マーケティング戦略の出発点となります。お客さんをひとくくりにせず、自社のお客さんの解像度を高めるほど、戦略と実行施策の中身を議論し決めやすくなるのです。
注力顧客を 「料理エンジョイ層」 と定めた後、ハウス食品は顧客解像度をさらに高めました。
2024 年にかけて、各セグメントごとにインタビュー調査を行い、生活者の意識や行動の背景を掘り下げました。
料理エンジョイ層の人たちを深く理解しようとしたからこそ、ハウス食品は従来の味の訴求よりも 「見た目の楽しさが刺さるのではないか 」 という重要な洞察にたどり着きました。
一般的にカレーは、どんなに具材を工夫しても全体が茶色っぽくなり、食卓が地味になります。一方で 「料理エンジョイ層」 の消費者は、SNS で共有したくなるような映えや、季節イベントを盛り上げる特別感を重視する人たちです。
この見立てが、ホワイト、ブラック、レッドという 「色で遊べるカレー」 という商品コンセプトにつながりました。コンセプトが、深い顧客理解にもとづいています。
顧客理解にもとづいた施策
さらに、聴力顧客の行動についても解像度を高めました。
料理エンジョイ層は、レシピ動画メディアで新しいレシピを探す、季節のイベントに合わせて料理を楽しむといった行動特性があることを掴んでいました。
この理解によって、次のような施策が生まれました。
- レシピ動画メディア 「クラシル」 と共同でレシピコンテストを実施
- 公式サイトでハロウィーンやクリスマスといったイベントに合わせたアレンジレシピを公開
- お月見、ハロウィーンなど季節のイベントに合わせた継続的な情報発信
9 月のお月見に合わせて提案している 3 色のカレーのアレンジレシピ (出典: 日経クロストレンド)
これらの施策は、顧客像が曖昧なままでは出てこない、的を射た打ち手だったと言えるでしょう。実際に、季節のイベントのタイミングで Web サイトのページビュー数が伸びるという結果も出ました。
ビジネスの起点は顧客
マーケティングの戦略を立て、施策を実行していくにあたって、最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 です。
顧客定義から戦略が生まれる
ハンス食品の 3 色のカレーの事例の本質は、マーケティングの王道とも言えるプロセスに集約されます。
まず、顧客定義を明確化しました。「誰に売るか」 を曖昧にせず、7 つのセグメントから料理エンジョイ層を注力顧客として定めました。
次に、商品戦略を最適化です。注力顧客の価値観である 「見栄え重視」 に合わせ、カレーの味だけでなく 「色」 という視覚的な楽しさをもたらすカレー商品を開発しました。
そして、販促戦略を最適化しました。注力顧客の行動特性のレシピ動画を参考にするという特徴に合わせ、Web サイトや動画メディアを活用したプロモーションを展開しました。
このように、商品開発から販促に至るまで、すべての施策が一貫して 「料理エンジョイ層」 という顧客定義と、注力顧客への理解と洞察にもとづいています。
新規顧客の開拓に成功
ハウス食品の 3 色のカレーは、カレールウを日頃購入していない人の割合が、ハウス食品の他のカレーブランドより高く、狙い通り新規顧客を開拓できているという成果を上げました (参考情報) 。
消費者を 7 つのセグメントに分けた際、どのセグメントの消費者がどれぐらいの割合で商品を購入したかを独自に推計し、閲覧できるシステムをつくり、社内で共有したとのことです。
それによると、カレールウ購入者全体に占める料理エンジョイ層の割合と比べて、3 色のカレー購入者の料理エンジョイ層の割合が高くなりました。しかも、その割合は 2024 年よりも高まっていることが分かっています。
定番商品化後、よりターゲット層にリーチできるようになったと解釈できます。
3 ヶ月で 100 万個販売という実績は決して偶然ではなく、顧客定義が戦略の起点となり、すべての活動が連動したから生まれた必然的な成果なのです。
顧客定義の重要性
「顧客は誰か」 という問いは、あらゆるビジネスの根幹をなします。
事例が示すように、自分たちのビジネスがどういうものかを深く知るためには、顧客は誰かという問いを突き詰めることが有効です。
様々なお客さんをひとくくりにせず、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスが持つべき独自の特徴や強みを明らかにすることにつながります。
どんなにすばらしい商品を持っていても、それを必要としているお客さんが誰かをはっきりさせなければ、買ってはもらえません。お客さんが誰なのかを決めることはビジネスの一丁目一番地です。
ハウス食品の成功は、お客さんを誰と定めるかによって、戦略の質も施策の精度も、そして最終的な成果も大きく変わるという、マーケティングの本質をあらためて教えてくれる事例です。
まとめ
今回は、ハウス食品のホワイト・ブラック・レッドの 3 色のカレーの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネスの第一歩は、商品を必要としているお客さんが誰かをはっきりさせること。「顧客は誰か」 が最初の問い
- お客さんをひとくくりにせず、顧客理解の解像度を高めるほど、価値観や心理、行動特性への洞察が深まり、的を射た商品開発や施策につながる
- 顧客定義を起点として、商品戦略と販促戦略を最適化し、すべての活動を一貫させることが成果を生みます
- 顧客理解が価値創造の起点であり、成長の原動力。お客さんの行動や意識の変化を読み解き、なぜその選択をするのかを深掘りすることで、商品やブランドの方向性が導かれる

