投稿日 2011/05/07

決断とリスクはワンセットである

「決断力」 (羽生善治)という本を読みました。

初版が2005年で、羽生善治氏は当時34歳でした。将棋のことが中心に書かれているものの、専門知識がなくても読み進めてしまいました。それだけ書かれている内容が将棋以外にも広く当てはまります。

今回のエントリーでは、書籍「決断力」を読んで考えたことを中心に書いています。

本書の目次です。

第1章 勝機は誰にでもある
第2章 直感の七割は正しい
第3章 勝負に生かす「集中力」
第4章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
第5章 才能とは、継続できる情熱である

■ 決断とはリスクを取ること

「将棋を指すうえで、一番の決め手になるのは何か?」

これに対する羽生さんの答えが「決断力」だそうです(p.56)。決断力はまさに本書のタイトルでもありますが、決断について最も印象に残っているのは、「決断とリスクはワンセットである」という考え方でした(p.71)。

羽生さん曰く、リスクを前にすると正直怖気づくこともあるそうです。それでも勝負をするからには、そのような場面に向き合い、決断を下すと言います。なぜか。これについては以下のように記述しています。

リスクを避けていては、その対戦に勝ったとしてもいい将棋は残すことはできない。次のステップにもならない。それこそ、私にとっては大いなるリスクである。いい結果は生まれない。私は、積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせている。(p.72)

これは本書の第2章で言及されていますが、個人的にはこの本での一番のハイライトでした。

特に、(現在の)リスクを積極的に取ることは未来のリスクを最小化する、という指摘です。これは、リスクを取らないことがリスクであるという考え方に近いです。

もちろん、自分にとって許容できないような大きなリスクを負うことは無謀なことですが、リスクを正しく評価し、その上でリスクを取る、そのために羽生さんは自らに上記引用部分を言い聞かせることで、リスクと正対しているのだと感じました。

決断とリスクについては将棋に限ったことではなく、だからこそ考えさせられる指摘でした。

■「選ぶ」情報と「捨てる」情報

決断することについて、もう一つ印象的だったのはこれです。

私はロジカルに考えて判断を積み上げる力も必要であると思うが、見切りをつけ、捨てることを決断する力も大事だと思っている。(p.169)

捨てるということに対しては、羽生さんは、情報は「選ぶ」より「いかに捨てるか」が重要とも言っています。

個人的な解釈として、「選ぶ」というのは、A と B のうち A を選んだとしても B はそのまま残しておくイメージです。一方で「捨てる」とは A だけ残し、文字通り B は捨ててしまうイメージです。

なぜ捨てるかと言うと、全部を収集し分析していては時間がかかり過ぎるからです。

例えば羽生さんの場合、将棋の局面を想定する場合も、八十通りある指し手の可能性の中から大部分を捨ててしまうそうです。八十手のうち二~三手以外はこれまでの経験から考える必要がないと判断し、候補を絞ると言います。

情報をいくら分類、整理しても、どこが問題かをしっかりとらいないと正しく分析できない。(p.129)

これが羽生さんの情報についての考え方なのです。

■ 物事を簡単に考えること、ベストを尽くせる環境、勉強法、モチベーション

上記では、決断する上でのリスクについての考え方や、時には捨てることの大切さに触れました。これ以外にも、興味深い言及があったので、最後にいくつか引用しておきます。

一般社会で、ごちゃごちゃ考えないということは、固定観念に縛られたり、昔からのやり方やいきさつにとらわれずに、物事を簡単に考えるということだ。(中略) 簡単に、単純に考えるということは、複雑な局面に立ち向かったり、物事を推し進めるときの合い言葉になると思う。そう考えることから可能性が広がるのは、どの世界も同じであろう。(p.24-25)

私は、年齢にかかわらず、常に、その時、その時でベストを尽くせる、そういう環境に身を置いている――それが自分の人生を豊かにする最大のポイントだと思っている。(p.123)

報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。(p.171-172)

これをすれば絶対に強くなるという方法はわからない。将棋は進化している。技術や社会もそうだろう。取り残されないためには油断は禁物だ。今はこれがいいという勉強法でも、時間とともに通じなくなる。変えていかなければならない。私は、年齢とともに勉強法を変えることは、自分を前に進めるための必須条件だと考えている。(p.190)

どの世界においても、大切なのは実力を持続することである。そのためにモチベーションを持ち続けられる。地位や肩書は、その結果としてあとについてくるものだ。逆に考えてしまうと、どこかで行き詰ったり、いつか迷路にはまり込んでしまうのではないだろうか。(p.195)



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投稿日 2011/05/03

大人老い易く学成り難し

勉強はやらさせるもの、辛いもの、多くの人がそう思っているかもしれません。

「勉強は楽しいものである」。野口悠紀雄氏は、著書『実力大競争時代の「超」勉強法』の中でこう主張しています。

この本のタイトルには勉強法とあり、具体的な方法も書かれていますが、なぜ勉強をするのかということをあらためて考えさせてくれた本でした。今回のエントリーでは、勉強についてあらためて書いています。

投稿日 2011/05/01

アイデアをつくるシンプルな原理と方法

「アイデアのつくり方」(ジェームス W.ヤング)という本を読みました。帯には60分で読めると書いてありますが、文庫本サイズで100ページほどで、著者自身の説明はわずか60ページ程度。早い人なら60分もかからないかもしれません。ただ、この本の内容はなかなかに深いことが書いてありました。

■アイデアをつくる原理

著者は、どんな技術を習得する場合でも大切なことが2つあると言います。第一に原理であり、第二に方法です(p.25)。これは本書の主題であるアイデアをつくり出す場合にも当てはまり、本書ではアイデア作成のための原理と方法が記されています。

それでは、アイデアをつくるための原理とは何でしょうか。著者によれば、1.アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない、2.既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい、という2点に集約されます(p.28)。要するに、アイデアは組み合わせであり、そのためには関連性を見分ける才能が重要ということです。

■アイデアをつくる方法

次に方法です。著者はアイデアの作成には一定の明確な方法に従うと言います。よって、この技術を意識して修練することでアイデアをつくり出す能力は高められるとしています。アイデア作成の方法をまとめると以下の通りです。
1.資料・データ集め
2.資料・データの咀嚼
3.問題を放棄し、心の外にほうり出してしまう
4.アイデアの誕生
5.アイデアを具体化し、展開させる

■なぜ「ステップ3」で問題を放棄するのか

あらためてこの5段階の方法を見ると、3から4に至る間になぜアイデアが生まれるのかと思ってしまうかもしれません。ここで、もう一度アイデアをつくる原理に立ち返ってみると、アイデアは既存のもの組み合わせからできるということでした。そして組み合わせがどこで発生しているかと言うと、まさに3と4の段階で起こっています。

著者によれば、アイデアが現れるのはその到来を最も期待していない時だと言います。例えばお風呂に入っている時や真夜中に目を覚ました時で、そのためステップ3において、いったん忘れろとしているのです。だから著者が薦めるのは、音楽を聴いたり、劇場や映画に出かけたり、詩や探偵小説を読んだりすることでした。ただ、これも何のためかを考えると、自分の想像力や感情を刺激するためであり、つまりは頭の中で新しい組み合わせが起こりやい状況をつくるためなのでしょう。こう考えれば、ステップ3は組み合わせをする段階とも言えます。

■アイデアは組み合わせである

アイデアは既存の要素の組み合わせであるという著者の主張は、なるほど確かにその通りかもしれません。この視点で身の回りを考えてみると、実はいろいろなものがA+Bに要因分解できることに気づきます。

例えば世界で6億人以上のユーザーがいるFacebookですが、もともとは顔写真入りの紙の学生名鑑をオンラインで実現したという名簿+ネットという組み合わせでした。もちろん、ここまでユーザーが増加した要因は様々あり、戦略的にユーザーを増やしたこと、ユーザー増に耐えうるサーバー増築、フェイスブック上の友達の更新情報が1つに集約されるニュースフィードの公開、広告によるマネタイズなど、上記のアイデア作成の方法のステップ5である、具体化・展開で成果を出した結果なのでしょう。(このあたりは書籍「フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)」に詳しく書かれています)

繰り返しになりますが、このアイデア作成の方法は意識することで能力を高められると書かれています。アイデアをつくり出すのは別に1人だけで行なうものではなく、組み合わせを複数人で実施してもいいのです。あるいは、アイデアの具体化や展開もむしろ他人の目を入れることで、より強固なアイデアになるかもしれません。

ステップ3から4の工程は、当然ながら言うほど簡単ではありません。ただ、これは今のところ人間がコンピューターに勝てる領域だと思います。コンピューターはデータの保存は得意でも、忘れることは苦手です。そして、今までにはない組み合わせを試みるのも不得手なのではないでしょうか。

「アイデアは組み合わせである」。深い内容ですね。



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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。