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なぜアマゾンは 「今日中」 にモノが届くのか という本をご紹介します。
エントリー内容です。
- 本書の内容と特徴。本書からの学び
- アマゾンの企業理念。顧客への提供価値。アマゾンが長期視点で投資しているもの
- 創業当時と変わらないビジネスモデル。アマゾンが徹底的にロジカルにやっていること
本書の内容と特徴
以下は、本書の内容紹介からの引用です。
アマゾンジャパン立ち上げメンバーとして、サプライチェーン部門マネージャを務めた著者が明かす。世界 No.1 の物流戦略とロジカル経営。アマゾン一強時代に日本企業はどう戦っていくべきか?
「速く・確実に・高品質のモノが届く」 現代社会のインフラとも呼べる存在のアマゾンは、どうしてそんなに速くモノを届けられるのか。一体、どんな人間が、どんな仕組みで、どんな仕事をしているのか。
本書では、今まで謎に包まれてきたアマゾンの実態について解き明かしていきます!
本書の特徴は、著者の林部健二氏が、アマゾンの 「中の人」 だったことです。
過去にアマゾンで物流をサプライチェーン・マネジメントのマネージャーや、採用担当の実務もされており、そこでの経験からアマゾンの内情が詳細に書かれています。
アマゾンの EC というネット小売の強さを、物流の視点で紐解いた内容です。なお、物流、物流に関する人材やシステム、業務オペレーションに焦点が当たっているため、それ以外のアマゾンの強さを知るには、別の機会が必要です。
本書からの学び
この本から学べたのは、アマゾンが 「顧客志向」 と 「長期志向」 の2つを徹底し、ブレない経営をしていることです。
他社からすると、アマゾンの投資は常軌を逸しているように見えますが、アマゾンの視点から見れば正しいことをやっています。
自分たちが顧客から選ばれるための 「強み」 を実現するために、源泉となる独自資源をどうつくるか、結果的に競合や他社からは見えない競争優位をどう築くかです。
独自資源を構築するための投資の判断基準は、自らの企業理念に沿ったものか、理念を成し遂げるために顧客への提供価値を実現するものかです。
まずはアマゾンの企業理念と提供価値について見ていきます。
アマゾンの企業理念
アマゾンの企業理念は、以下の2つです。
- 地球上で最もお客様を大切にできる企業であること
- 豊富な品揃えをする
企業理念の原文はこちらです。
Our vision is to be earth's most customer-centric company; to build a place where people can come to find and discover anything they might want to buy online.
顧客への提供価値
アマゾンが掲げる顧客への提供価値は、3つです。
- 品揃え
- 安い
- 早い
理念にもあるようなアマゾンに行けばあらゆる商品があり、欲しいものが安く買えること、そして、少しでも早く買ったものが手元に届くことです。これが、アマゾンのユーザー体験で、顧客にとってのアマゾンを利用する価値です。
アマゾンが長期視点で投資しているもの
アマゾンはこの提供価値を実現するために、未来を見据えて投資をしています。
本書で詳しく書かれているのは、アマゾンが特に以下を重視して投資をしていることです。
- 人材
- 物流
- システム
以下、それぞれについての補足です。
1. 人材
アマゾンは、どの部門でも 「人」 が重要だと考えています。たとえ優れた仕組みやシステムがあっても、それを運用し、さらに改善していくのは人だからです。まず人材ありき、という考え方が根底にあります。
アマゾンの物流倉庫にはロボットが導入されており、確かに機械にも投資をしていますが、優先順位はまずは人なのです。
ロボットを効果的に働かせるのも、トラブルに対処するのも、さらなる効率化の案を出すのも、人間です。優秀な人材を物流に投入し、人を育て続けています。そのうえで、ロボットを導入しているのです。
2. 物流
アマゾンが物流に大きな投資をするのは、物流を改善すれば顧客満足度を上げることができるからです。
顧客満足度が向上するのは、具体的には次のユーザー体験からです。
アマゾンのウェブサイト上に掲載している商品の数が多いだけでなく、それらが在庫切れになっておらず、顧客が欲しいタイミングで購入でき、できるだけ早く顧客の手元に届くことです。
アマゾンにとって、唯一の顧客との物理的な接点は、顧客の手元へ商品を届けるときです。このサービスレベルを最大限まで上げるために、物流に投資をしています。アマゾンは、物流を単なるコストセンターではなく、お客の満足を満たすための投資であると捉えているのです。
アマゾンは、長期的な視点で未来を見据えて、物流への莫大な投資を行ってきました。投資の積み重ねで、今のアマゾンの物流システムがあります。
3. システム
アマゾンでは、顧客の注文を満たす主なシステムは、注文管理システム、物流管理システム、購買管理システム、配送管理システムがあります。他にも需要予測のシステムや、社内の問題報告のための課題管理票のシステムなどもあるようです。
多数のシステムがアマゾンの日々のオペレーションを支えています。新しくシステムを構築したら終わりではなく、日々改善しているとのことです。
興味深いエピソードだったのが、アマゾンの中では、常に人とシステム (機械) との戦いが起こっているという話でした。
アマゾンでは、人の手作業で行っている仕事をシステムや機械で自動化できれば、どんどん自動化されていくそうです。人が行うよりシステムや機械のほうが、時間的にもコスト的にも効率化できるからです。
アマゾン内の文化として、各社員は自動化できることを見つけたら、自動化の提案を出すことが根付いているそうです。
もし自分が気付かなかったとしても、あるいはあえて見過ごそうとしていたとしても、他の人が自動化の提案を出します。自分が今まで行ってきた仕事が自動化され、自分の仕事がなくなっていきます。
誰かがなくなった分の別の仕事を与えてくれるわけではありません。自分で自分の仕事を探す必要が出てきます。アマゾンでは、自分の存在意義を自分で作らないといけないという状況なのです。
創業当時と変わらないビジネスモデル
本書に直接そのものは書かれていませんが、アマゾンのビジネスモデルからは、アマゾンをよく理解することができます。
以下の図は、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが、創業当時にレストランのナプキンに描いたとされるビジネスモデルです。「セレクションの充実」 からスタートするモデルです。

この図からわかるのは、アマゾンが以下のように持続的に成長できる仕組みをつくり上げていることです。
- 多くの商品を取り扱い 「品揃え」 が増えると、お客にとっての選択肢が増えて 「顧客の体験」 がよくなる
- 満足度が上がると 「トラフィックが増える」 。アマゾンサイトに多くの人が訪れる
- アマゾンで商品を売りたいという 「売り手の増加」 。品揃えが増えるので、顧客体験は向上する
- 売上や成長は 「低コスト構造」 につながる。低コストによって、「低価格」 を実現する
- 豊富な品揃えと低価格が、さらに顧客体験を良くする
アマゾンが、「顧客視点」 と 「長期視点」 で未来を見て投資をしている、人材、物流、システムは、いずれもこのサイクルを加速させ、アマゾンの成長に寄与しています。
アマゾンが徹底的にロジカルにやっていること
アマゾンの経営や日々のオペレーションは、超という言葉が付くほどロジカルに行われています。印象的だったのは2つです。
- KPI で徹底的に管理されたオペレーション
- 情を挟まないサプライヤーや配送業者との付き合い
1. KPI で徹底的に管理されたオペレーション
アマゾンの経営の特徴で思ったことは、とにかくロジカルであることです。感情で動くのでもなく、前例や商慣習に縛られるのでもなく、その時々の状況をデータで判断し、改善に向けて最良の策を実行します。
アマゾンでは、全てのオペレーションが徹底的に数値管理されているようです。
数値管理は週次、月次、四半期、年次という単位で報告されます。報告会では、該当するオペレーション部門内の人間だけで評価をするのではなく、数値に強い財務や別部署の人間も参加し、活発な議論や厳しい意見が交わされます。
各 KPI の責任者は、数値の目標と実績の乖離の説明し、改善が必要であれば改善につながるアクションの計画を求められるとのことです。
数値だけを報告して実際の改善活動は行わないといった多くの企業に見られる形式的なものではありません。アマゾンでは、直接部署の評価基準、人事考課にまで影響を与える設計となっているそうです。
本書で紹介されていた KPI は、以下でした。引用します。
KPI としては、たとえば、システムの稼働状況や、どのくらい正しく表示できていたか、ショッピングのセッション数がどのくらいあったか、注文数、CVR (コンバージョンレート、サイトを訪れた人のうち購入に至った割合) 、新規顧客の比率、価格、サードパーティー比率、コスト、不良資産率、在庫欠品率、配送ミスや不良品率などが設定されており、上流から下流まで全体のビジネスの状況を見えるようにしています。
(引用:なぜアマゾンは 「今日中」 にモノが届くのか)
2. 情を挟まないサプライヤーや配送業者との付き合い
アマゾンは、サプライヤーや配送業者との付き合いに、「しがらみ」 を持ち込みません。
例えば、長年 A 社にお世話になってきたから、急に他社に乗り換えることはしづらいとは考えません。一般的な日本企業であれば、もし乗り換えるとしても、少しずつ割合を変えるなど穏便なやり方をするでしょう。
しかし、アマゾンは取引先選定に、そうした感情的な要素を持ち込みません。顧客 (アマゾン利用者) にとって利益になるかどうかが判断基準です。より安く、より早く、顧客のもとに商品を届けるという理念を遂行するためです。
本書では、非情とも思える義理人情を挟まないアマゾンの合理的なやり方が詳しく書かれています。
最後に
本書がおもしろく読めるのは、アマゾンの強さが、外の人間には見えないところでどうやって実現されているかを、具体的に知ることができるからです。
アマゾンの利用者や競合からは見えない競争優位を、アマゾンはどんな判断で未来に向けて投資をしてきたかです。
普段からアマゾンを当たり前のように使っている1人の利用者として、アマゾンの中のことを興味深く知ることができた本です。