投稿日 2018/03/26

書評: 奈落の底からはい上がる ブランド再生ストーリー (フミ・ササダ) 。ブランドの本質を小説ストーリーで学べる本


Free Image on Pixabay


奈落の底からはい上がる ブランド再生ストーリー という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容
  • ブランドのつくり方。ブランドについて思ったこと
  • 全社プロジェクトマネジメント


本書の内容


著者は、フミ・ササダ氏です。明治ブルガリアヨーグルトやキリン氷結などを手がけた方です。

以下は本書の内容紹介からの引用です。

創業25年目を迎えた生活用品メーカー、クリンビュー。

掃除用具カテゴリは低価格路線をひた走り、大口取引先であるホームセンターから取引停止を言い渡される。その窮地を救うべく、バブル入社のダメ部長・土門明夫が立ち上がった。

 「ブランド委員会をつくろう」 -- 。

集められたのは、4人の女性社員。掃除オタク、アイドル追っかけ、お局マーケター、ゆとり社員。ブランドのいろはも知らなければ、覇気もやる気もない。そんな彼女たちを動かしたのは、一匹の 「猫」 だった…!

楽しく、やさしく、面白く学べる。 ストーリー仕立てで分かりやすい、ブランディングのノウハウ。

この本には、ブランドの実践的な説明がわかりやすく書かれています。学術的なブランドの定義ではなく、ビジネスの実務家として役に立つブランド論を理解できます。

ビジネス小説の形式で、ストーリーの随所にブランドについての説明が具体的に書かれています。


ブランドのつくり方


ここからは、ブランドがどうつくられるかについてです。


ブランドは心の中でできる


印象的だったのは、「製品は工場でつくられ、ブランドは心の中でつくられる」 というブランドの考え方です。

ブランドとは、人が商品やサービスをどう認識しているか、どのような知覚や連想を持っているかです。ブランドは人の心や頭の中にできあがると捉えると、ブランド戦略や施策の難しさをあらためて考えさせられます。

製品であれば工場でつくられるので、生産管理や在庫管理は自分たちでできます。しかしブランドは顧客の心の中にできるので、自分たちが意図したブランド像の維持や管理が本質的に難しいのです。


 「ブランドコア」 からのブランド設計


ブランディング活動では、各施策にブレがないようにするために、「ブランドコア」 を明確にすることが重要です。

本書で解説されるブランドコアには、ビジョン・ミッション・バリューの3つの構成要素があります。3つは、次のように連動します。

  • ブランドビジョン:ブランドが実現したい世界観
  • ブランドミッション:その世界観を実現するために、ブランドとしてやること (何をするか・やらないか)
  • ブランドバリュー:ミッションを通じて、顧客に提供する価値

本書のストーリーでは、自社ブランドを以下のように再定義しました (ネタバレになるので読み飛ばしていただいて結構です) 。

  • ブランドビジョン:掃除を通じて家族の会話や笑顔を増やし、日常生活が豊かになっている。人々が家にいる時間を楽しくすごしている
  • ブランドミッション:掃除を楽しくするための環境を整え、家庭で楽しく掃除をする方法を世の中に広める
  • ブランドバリュー:使うことによって家族とのコミュニケーションが深まる価値。幸せや愛情を感じられる掃除の新習慣という価値


ブランド再定義のプロセス体験


小説のストーリーを読み進めれば、自社ブランドの再定義 (リポジショニング) のプロセスを疑似体験することができます。

ストーリー設定は、既存ブランドが低迷し、会社の存続を懸けて新しいブランドを立ち上げるというものです。ブランドの理論的な説明だけに終わらず、具体的にどのようなやり方で、ブランド再定義を企業として取り組むかを学べます。

他のビジネス小説では、商品やサービスの売上の低迷をコンサルティングによって V 字回復させる、マーケティングを駆使して成功させるというテーマはあります。しかし、苦境に陥った会社や商品の再生を、「ブランド」 という切り口で書かれているビジネス小説は、ありそうでないユニークな作品です。


ブランドについて思ったこと


本書の 「ブランドとは顧客の心の中にできるもの」 という考え方は、ブランドの本質を突いています。

 「心の中にできる」 とは、見方を変えれば商品・サービス、あるいは企業に対して感情を抱いているということです。

つまりブランドとは、「消費者のポジティブな感情を伴う商品・サービス」 です。感情とは、好き・満足感・共感・憧れなどです。

そしてブランディングとは、商品・サービスにブランド側が意図する感情を持ってもらうことです。感情移入を起こしてもらうように働きかけることです。

では、商品・サービスへのポジティブな感情は、どのように形成されるのでしょうか?

私が考えるのは、商品・サービスへの感情形成は、「ブランドへの共感と、ブランドからもたらされる価値を体験することによってできる」 ということです。

先ほど、ブランドコアは、以下の3つの要素があると書きました。

  • ブランドビジョン:ブランドが実現したい世界観
  • ブランドミッション:その世界観を実現するために、ブランドとしてやること
  • ブランドバリュー:ミッションを通じて、顧客に提供する価値

このブランドコアは、感情移入を起こすことにつながります。

  • ブランドへの共感:ブランドビジョンとミッションに共感してもらう
  • ブランドがもたらす価値の体験:ブランドバリューを体験してもらう

ブランドビジョンというブランドが描く世界観と、ブランドミッションというブランドが何をするかに共感されるか、ブランドバリューというブランドがミッションを通じた提供価値を体験し、好きや満足感などの感情を抱いてくれるかです。


全社プロジェクトマネジメント


ブランド再生のプロセスに加えて、全社プロジェクトマネジメントを具体的にどう進めるかも、小説のストーリーから参考になります。

部門を越え、組織を横断したプロジェクトの意義や、取り組む上で何が障害になるかが、わかりやすく書かれています。

具体的には、次のようなことです。全社プロジェクトに関わった方であれば、誰しもが一度は遭遇することを、ストーリーで具体的に描かれます。

  • プロジェクト開始の段階で、メンバー間の認識や温度差の違いをどう合わせていくか
  • 問題の洗い出しと焦点の絞り方
  • 問題に対する課題設定
  • ワークショップの進め方
  • プロジェクト外の社内からの批判を受けた場合に、どのように周囲の理解を得るか
  • プロジェクトでつくりあげたプランを各部門に落とし、どう実行するか。社外の関係者をどう巻き込むか


最後に


今回は、奈落の底からはい上がる ブランド再生ストーリー という本を読んで、印象的だったこと、ブランドについて思ったことを書きました。

小説のストーリーは、設定や登場人物のキャラクターが最初は馴染みにくいと感じました。しかし、読み進めるうちに、ブランドやプロジェクトマネジメントについて気づきが得られ、考えさせられる本でした。

ブランドとは何か、ブランドをつくるとは何をすることなのかを学べる本です。



最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。