今回は2つのテーマのかけ合わせで、野球とマーケティングです。
✓ この記事でわかること
- 最後の4割バッターの教え
- 新庄選手が見破った 「ミスターパーフェクト」 の投手のクセとは?
- 投手のクセの本質
- マーケティングへの横展開。投手のクセをマーケティングに当てはめると?
- 顧客インサイトを見抜く方法
おもしろいと思った野球の話から、マーケティングに学べることを解説しています。
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
最後の4割バッターの教え
この話は、指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論 (野村克也) という本を読んで、おもしろいと思ったことです。
該当箇所を引用すると、
大リーグで最後の4割打者といわれたテッド・ウィリアムズの 「打撃論」 を手にする機会があったので、何気なく目を通してみた。するとハッと驚くことが書かれていた。
要約すると、次のようなことである。「投手は捕手のサインを見終わって振りかぶるときには、直球を投げるか、変化球を投げるか 100% 決めているはずだ。そこに小さな変化が出てくる。それで私は投手の投げてくる球種が 80% 分かる」
私は一明の光が差し込んだ気がした。小さな変化とはすなわち、「クセ」 のことである。今でこそ、データで配球を読むことは日常茶飯事だが、当時はそんなことを指摘する人は誰もいなかった。
私の場合、カーブがくると分かっていれば打てたが、「次はストレートだ」 と思っているところにカーブがきたらまったく歯が立たなかった。だからこそ、投手が事前に何を投げてくるのかが分かれば、しめたもの。クセの発見は私の打撃向上にひと役、いやそれ以上の役割を果たしたのだ。
実際にベンチで投手をつぶさに見ていたら、ほとんどの投手は何らかのクセを持っていることに気がついた。どうしてここに着眼しなかったのだろう、もっと早く気づくことができなかったのかと、私は悔やんだ。
クセを発見するたびに、野球の楽しさが増してきた。たとえ一線級の投手が出てこようとも、ストレートと変化球を投げるときのクセが一目瞭然だったので、打席に立って狙い球を絞り、鮮やかにスタンドに持っていくことがしょっちゅうあった。
最後の4割打者のテッド・ウィリアムズの打撃論は、投手が投げる球種の 80% はわかる、というものでした。
投げる時にはどんなボールを投げるかを決めているので、そこには小さな兆しが表れます。それを見抜けば、おおよその球種は判断できると。
野村さんは現役時代にご自身でも取り入れるために、相手投手のクセをつぶさに観察しました。クセを見抜けてからは野球の楽しさが増し、狙い球を絞ることができホームランを打てるようになったとのことでした。
新庄選手もやっていた
ビッグボスこと新庄さんも、現役時代に同じことをやってました。
こちらはネットの記事からです。
プロ野球界のレジェンド槙原寛己でも乗り越えられなかった?! "クセ" の分析からわかること|DIAMOND Chain Store
「ミスターパーフェクト槙原」 の中で新庄さんが得意げに話していたのは、槙原さんの現役時代のクセについてだ。入団当初は通算159勝、59セーブを挙げることになる凄い投手を苦手にしていたが、クセを見抜いてからは一転、カモにしていたのだという。
「分かっちゃったんですよ。槙原さんの場合、ストレートを投げるときには左肩が 5㎜ くらい小さく動く。でもスライダーの時は動かない。だから動かない時のスライダーをイチニのサンで打っていた」 (新庄さん) と笑いながら話していた。
そういえば、プロ野球選手のクセについて、阪神タイガースや西武ライオンズで捕手の強打者として大活躍した田淵幸一さんも感慨深げに昔を振り返っていた。
「巨人の堀内恒夫投手はカーブを投げる時に顎がちょっと上がるんだ。直球の時は、そのままなんですぐに分かる。ずいぶん打たせてもらったなあ」
投手のクセの本質
ではここまでの話を一度整理するためにも、「投手のクセとは何か」 を掘り下げてみましょう。
共通するのは大きく2つです。
微妙な変化
1つはとても些細なことです。特定の球種の時だけに 「顎が少し上がる」 とか 「左肩が 5mm 動く」 くらいのわずかな兆しです。
打者の誰もが気づいているわけではなく、野村さんのように意図的に発見しようとして観察したからこそ、ようやく見抜けるレベルです。
プロ野球ではピッチャーマウンドからバッターボックスまでは 18.44m あります。この距離で 5mm のような投手のクセをとらえる勝負をしているのです。
ピッチャー自身も気づいていない
もう1つの投手のクセの特徴は、ピッチャー本人が気づいていないことです。
カーブなどの今から投げる球種が頭の中にあり、少しでも良いボールを投げるために自然と身体の特定の部位が反応し、それがわずかな変化を起こすわけです。
* * *
マーケティングへの横展開
ここまでの野球の話を、マーケティングに転用してみます。
バッターをマーケターに当てはめれば、向き合う相手である投手は 「お客」 や 「生活者」 と置き換えることができます。
では、投手のクセは何になるかというと、「お客さん自身も気づいていない変化」 や 「無意識に持っている奥にある気持ち」 です。既に顕在化しているニーズではなく、潜在的で奥にある望みや不満を 「投手のクセ」 と見ることができます。
奥にある気持ちとは、顧客や生活者自身が普段は自覚していませんが、そうだと気づけば 「そうそう、これに困っていた」 とか、「確かにこれは欲しいかも」 と思え買いたくなる気持ちです。これをマーケティングでは 「顧客インサイト」 と呼びます。心のツボと表現したりもします。
顧客インサイトは投手のクセと同じで、顧客インサイトとは 「本人も普段は気づいていないこと」 「簡単にはわからず、深い顧客理解によって初めて見いだせるもの」 です。
投手のクセは、打者にとっては見抜くことができれば優位になる勝負のカギとなる情報でした。
マーケティングの顧客インサイトも同じです。インサイトは、マーケティングの顧客理解の肝です。
顧客インサイト見抜く方法
では最後に、本人も自覚できていないような顧客インサイトを、どうやって発見すればいいかを考えてみましょう。
結論、次の3つポイントです。
✓ 顧客インサイト見抜く方法
- 人間へのあくなき興味を持つ
- マーケターが自ら見出す
- 自分自身のインサイトを掘り下げてみる
それぞれ順番に解説しますね。
人間へのあくなき興味を持つ
顧客インサイトを見つける動機は、突き詰めると人間へのあくなき好奇心です。
人を理解したいという根源的な欲求が、顧客インサイトを見つけるドライバーになります。
もちろん仕事や会社のビジネスのための業務ですが、いつしか仕事を忘れて一人の人間として顧客に向き合うようになり、純粋な人間への興味が顧客インサイトの発見につながります。
マーケターが自ら見出す
顧客インサイトは、お客さんからそのものずばりを教えてもらえるものではありません。
マーケターが主体的になって見出すものです。
顧客へのインタビューや観察を通して、その後の分析や検討から色々と考え抜いた後に、最後にふと降りてくるように顧客インサイトが突然表れるようなものです。
試行錯誤から、能動的に見出すのが顧客インサイトです。
自分自身のインサイトを掘り下げてみる
顧客インサイトを見つける良いトレーニングになるのは、普段から自分の中にある顧客インサイトの深掘りです。
自分という一人の人間に向き合うことが、顧客インサイトの理解につながります。
例えば、自分の行動で、選び方、買いものなどを、なぜ自分はそうしたのか、奥にある自分の隠れた気持ちや価値観は何かを掘り下げます。
インサイトを見つけるきっかけになるのは、何気ないところです。自分の行動、発言、気持ちの中にヒントがあります。
ともすれば素通りしてしまうところに、何かひっかかりを感じたこと、違和感の中に顧客インサイトが隠れています。
まとめ
今回は、野球の投手のクセからマーケティングに着想を広げて、顧客理解の肝になる顧客インサイトに学べることを見てきました。
最後にまとめです。
投手のクセ
- 特定の球種の時だけに 「顎が少し上がる」 とか 「左肩が 5mm 動く」 くらいのわずかな兆し
- 打者の誰もが気づいていなく、つぶさに観察しようやく見抜ける変化
- ピッチャー自身も気づいていない
マーケティングへの横展開
- 投手のクセは、「お客さん自身も気づいていない変化」 や 「無意識に持っている奥にある気持ち」 とできる
- 投手のクセは、打者にとっては見抜くことができれば優位になる勝負のカギとなる情報
- マーケティングの顧客インサイトも同じで、マーケティングの顧客理解の肝
顧客インサイト見抜く方法
- 人間へのあくなき興味を持つ
- マーケターが自ら主体的に見出す
- 自分自身のインサイトを掘り下げてみる
ニュースレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスのヒット理由がわかり、マーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、今日から活かせる学びを毎週お届けします。
レターの文字数はこのブログの 2 ~ 3 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方には、レターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから無料の購読登録をしていただくと、マーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!