投稿日 2022/02/06

Asics と Casio の歩行アプリ 「Walkmetrix」 に学ぶ、無料から有料課金につなげる方法


今回のテーマは、無料サービスからのビジネスのつくり方です。

✓ この記事でわかること
  • アシックスとカシオの歩行アプリ 「Walkmetrix (ウォークメトリックス) 」 でできること
  • アシックスにとっての Walkmetrix の狙いとは?
  • マーケティングに学べること

おもしろいと思った健康アプリを取り上げ、マーケティングの視点でアプリの意味、学べることを解説しています。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

アシックスとカシオのウォーキングアプリ


今回ご紹介したいのは、アシックスとカシオが共同で提供するウォーキングアプリです。名前は 「Walkmetrix (ウォークメトリックス) 」 です。

出典: Walkmetrix

Walkmetrix のアプリから、ウォーキングのプログラム作成や記録・管理、自分の歩行タイプを知ることができます。G-SHOCK 「GSR-H1000AST」 と併せて使えば、ウォーキング時の心拍数が測定され、アプリ内で記録・確認ができます。

Walkmetrix の主な機能は3つで、プログラム機能、アクティビティ機能、ライフログ機能です。


* * *

ではここからは Walkmetrix を、アシックスにとっての意味合いや狙いについて掘り下げていきます。


アシックスにとっての意味合い


整理をすると大きく3つです。

✓ アシックスにとっての意味合い
  • 独自資産の有効活用
  • 外部パートナーからの能力の獲得
  • 無料提供からのビジネス拡大

順番に見ていきましょう。

独自資産の有効活用


アシックスは長年研究してきた知見やデータを Walkmetrix に有効活用しています。

具体的にはおよそ5000人分の歩行データからアプリに使われるアルゴリズムを開発し、運動プログラムやアドバイスの内容に活かしています。

以下は日経新聞からの引用です。

 「歩行の分析には長年研究をして蓄積してきた知見を活用している」 とアシックススポーツ工学研究所の市川将マネジャーは話す。

約5000人分の歩行データを元に同アプリのアルゴリズムを作成した。歩く速さや歩幅を同世代の平均と比較し、「歩幅を大きく伸ばした方が様々な筋肉を使うため運動効果が高い」 (市川氏) という。

他社にはないデータ、ノウハウや知見だからこそ、差異化されたアプリと価値を提供できます。

外部パートナーからの能力の獲得


その一方で、アシックスが Walkmetrix の全てのことをやっているわけではありません。

先ほどと同じ日経の記事からの引用です。

両社はウオーキングの記録・分析アプリ 「ウォークメトリックス」 を10月にリリースした。

 「体力向上」 「リフレッシュ」 など目的ごとにメニューを用意。アプリは歩いた距離などを記録でき、歩行スピードや歩幅を元に歩きの質を採点して助言もする。カシオがアプリ全体の設計を担い、アシックスは歩きの採点機能などを担当した。

アシックスはカシオと共同開発をしていて、カシオの G-SHOCK と連携させ、心拍数を測定し記録できる機能を Walkmetrix に入れています。

アシックスはスポーツ用品メーカーで、自社で一からデバイスを開発するのにはお金も時間もかかります。カシオという外部パートナーから、アシックスは自分たちが持っていない能力 (ケイパビリティ) を獲得しているのです。

無料提供からのビジネス拡大


アシックスは Walkmetrix を無料で提供しています。

無料サービスの先には、ビジネスの拡大を見据えています。

アシックスはアプリを通じてシューズの購入を勧め、物販につなげる狙い。ユーザーが選択したアプリの使用目的に合わせて最適な製品を提案する。例えば体力向上を選んだ場合はより速く歩けるシューズ、リフレッシュを選べば履きやすさを重視したモノを勧める。

今後はカシオと開発した、歩行姿勢などを捕捉するウエアラブル端末と連携させる予定だ。分析精度を高め、個人ごとに最適なシューズを提案できるようにする。サービスと製品で顧客を囲い込み、自社の電子商取引 (EC) サイトでの継続購入につなげたい考えだ。

現在は無料でアプリを使えるが、今後は有料プランの導入やコーチングサービスへの送客で課金するビジネスを目指す。将来的には集めた歩行データを保険会社に外販することも検討する。

アシックスにとっての Walkmetrix の狙いは2つです。

1つは既存ビジネスであるシューズの販売です。アプリユーザーの関心が高いアシックスのシューズ、例えば体力向上のためにより速く歩けるシューズ、ゆっくりと散歩するのに合った履きやすさを重視したシューズをすすめます。

もう1つが新規のビジネスを生み出すことです。具体的には有料でのコーチングサービス (ノウハウ自体の有料サービス提供) 、Walkmetrix から集まるデータの外部販売です。

以上の既存と新規の事業につながるからこそ、Walkmetrix は無料で良いと割り切れるのです。


学べること


では最後に Walkmetrix から、マーケティングの観点で学べることを整理してみましょう。

一言で表現すれば、学びは 「無料サービスは意図を持って提供しよう」 です。

一時的な集客や会員登録ために、無料で商品やサービスを提供することはよくある方法です。一概に悪いわけではありませんが、今回の Walkmetrix からの学びとして残しておきたいのは 「無料サービスの先を見据えること」 です。

後に続く 「売りたい商品」 があって、その布石としてあえての無料サービスなのです。点ではなく線で設計することが大事で、これが Walkmetrix から学べる無料から有料サービスのつくり方です。


まとめ


今回はアシックスとカシオのウォーキングアプリ Walkmetrix から、マーケティングや商品開発に学べることを掘り下げました。

最後にまとめです。

アシックスにとっての Walkmetrix の意味合い
  • 独自資産 (長年の研究からの知見やデータ) の有効活用
  • 外部パートナーからの能力の獲得。カシオの G-SHOCK やアプリ設計ノウハウ
  • 無料提供からのビジネス拡大。シューズ販売 (既存) と、有料コーチングやデータ外販 (新規) につなげる

無料から有料サービスのつくり方
  • 無料サービスは意図を持って提供することが大事
  • 後に続く 「売りたい商品」 があって、その布石としてあえて無料サービスとする
  • 点ではなく線で設計し、無料サービスの先を見据えよう


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。