投稿日 2022/02/08

日清の 「カップヌードルをぶっつぶせ」 に学ぶ、成功体験を捨てる方法


今回は、「成功体験の自己否定の先にある再定義」 という話です。

✓ この記事でわかること
  • 「カップヌードルをぶっつぶせ」 に込められた意思
  • 日清が実現する完全栄養食とは?
  • 「ぶっつぶせ」 の先にある本質
  • マーケティングに学べること

日清の社運をかける取り組みをご紹介し、やっていることの本質は何かを掘り下げています。そこから、マーケティングの観点で学べることを見ていきます。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

カップヌードルをぶっつぶせ


日経新聞で、日清食品の社長である安藤徳隆氏 (創業者の安藤百福氏の孫にあたる方) へのインタビュー記事を読みました。


約6年前から日清食品が掲げている 「Beyond Instant Foods (インスタント食品を超える) 」 があり、ここには、時代に合った新しい食文化を生み出す会社になりたいという意思を見て取れます。

以下は日経の記事からの引用です。

―― 「Beyond Instant Foods」 への思いはとても強く感じます。

日清食品は新しいイノベーションを求め、父 (日清食品 HD 社長の安藤宏基氏) の代で 「カップヌードルをぶっつぶせ」 と宣言するなどチャレンジングな企業です。ただ、「ぶっつぶせ」 といいながら、カップヌードルの国内年間売上高1000億円の達成や世界累計販売500億食といった基盤を作ってしまった。

次を託された我々の世代はカップヌードルをぶっつぶさないといけないし、「ぶっつぶせ」 と言っている人もぶっつぶさないといけない。今ある価値は最大化し、今はない価値も生み出さないといけません。

カップヌードルは創業者が作ったものです。「50年おめでとうございます」 と言われると、「50年間、イノベーションができていない」 ような気もして腹が立ちます。

新規事業の完全栄養食品


カップヌードルをぶっつぶすために日清が取り組んでいることの1つが完全栄養食品です。

おいしさと栄養の両立


先ほどの記事から引用します。

自らの成功を他社に潰されるくらいなら自分たちで潰していこうという思いが強いです。会社として大きくなったのは大きな成功ですが、次の世代の我々としては (安住しては) 「まずい」 と思っています。

―― 新規事業として必要な栄養素をバランス良くとれる 「完全栄養食」 を進めています。

世界でも完全栄養食はまだ確立されていません。ビタミンやミネラルなど必須栄養素を詰め込みすぎると、苦みやえぐみが強くなる難しさがあります。完全栄養食に挑戦しているスタートアップ企業もあります。単品の商品であれば作りやすいかもしれませんが、様々な食事を置き換えていくのは技術的に非常に難しい。

日清食品は昨年、減塩や油を使わずとも、油の味わいを感じられるようにするなど、即席麺の技術を一般の食事に応用しておいしさと両立した完全栄養食に成功したため、事業化を目指しています。
出典: 日経

10年プロジェクトにふさわしいテーマ


日清食品 HD 社長の安藤宏基氏 (先ほどの日清食品社長の安藤徳隆氏の父) は、日経新聞の別のインタビューで次のように語っています。

―― 新規事業の完全栄養食への取り組みは。

10年プロジェクトになる。22年は 「完全栄養食」 を事業化してゆく年になる。カップヌードルを含む全ての食品で、必要な栄養素をバランス良く取れるようにしたい。

料理人がつくる料理はおいしさを求めてつくるため、栄養のバランスが取れているとは限らない。その料理を、栄養学的にバランスがとれたものにする。社食や介護現場での提供に加え、カップヌードルも含めスーパーやコンビニなどで販売するメニューの開発も進むだろう。

―― カップヌードルも健康を軸に進化するのでしょうか。

 「完全栄養食」 は日本を未病対策先進国にするとの大きなテーマがある。日清食品は食べ物がなかった時代に 「食足世平 (食が足りてこそ世の中が平和になる) 」 としてインスタントラーメンを開発した。「完全栄養食」 はおいしく好きなだけ食べても健康体でいられるという大きなテーマへのチャレンジだ。

すぐに結果が出るものではないが、10年プロジェクトにふさわしいテーマだ。既存事業の実質的成長を示す 「既存事業コア営業利益」 の 5 ~ 10% を開発投資に充てる。

自己否定と再定義


日清食品が Beyond Instant Foods でやろうとしていることの本質は、「自己否定と再定義」 です。

カップヌードルをぶっつぶせと過激な表現を使っているように、これまで自分たちがやってきたこと、成功体験の否定です。

ただし、自己否定やぶっつぶすこと自体は目的ではありません。プロセスであり、目的を達成するための手段です。

その先が大事で、お客へ世の中への価値提供の再定義です。自分たちはどんな価値を提供するために社会に存在するのか、存在意義にまで立ち返ります。

日清食品の場合は 「Beyond Instant Foods」 を掲げ、具体的な取り組みの1つが新規事業の完全栄養食なのです。


学べること


では最後に、今回の日清の話から学べることを整理してみましょう。

一言で表現するなら、学びは 「自分たちの提供価値を本質レベルで言語化する重要性」 です。

本質レベルとは、価値の定義を 「こういう商品やサービスを売っている」 という表面的なことではなく、商品・サービスによってお客が得ている価値です。具体的な利用用途において使うことでの便益 (ベネフィット) 、それがないとどう困るか、使用中や後に感じるうれしさや楽しさの感情的な価値までです。

要するに、自分たちは何屋さんなのか、存在意義は何かを提供価値の視点から言語化することが大事です。


再定義と変化への適応


存在意義の言語化のためには、時には今回の日清食品のように自己否定まで必要になります。

というのは、外部環境や市場が変わるからです。技術は進歩し、人々の生活スタイル、価値観は常に変化しています。

今まではお客や世の中から価値だと思ってもらえても、つまり自分たちの存在意義があっても、これから先もそうだとは限りません。だからこそ場合によっては、過去の成功体験を捨てて提供価値の再定義を続けることが大切なのです


まとめ


今回は日清食品の 「Beyond Instant Foods」 から、成功体験を捨てる自己否定と、その先を描くことの重要性を見てきました。

最後にまとめです。

自己否定と再定義
  • 日清食品が Beyond Instant Foods でやろうとしていることの本質は 「自己否定と再定義」 にある
  • 自己否定はプロセスで、目的を達成するための手段
  • その先が大事で、お客へ世の中への価値提供の再定義。存在意義 (どんな価値を提供するために社会に存在するのか) にまで立ち返る

再定義と変化への適応
  • 外部環境や市場は変わり、技術は進歩し、人々の生活スタイル価値観は常に変化している
  • 今まではお客や世の中から価値だと思ってもらえても、これから先もそうだとは限らない
  • 時には、過去の成功体験を捨て、本質レベルでの提供価値の再定義を続けることが大切


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。