投稿日 2022/02/16

30万本売れた 「からっぽペン」 に学ぶ、余白と非効率からのブランドのつくり方


今回のテーマはマーケティングのブランドです。

✓ この記事でわかること
  • 30万本売れた 「からっぽペン」 とは?
  • ヒット理由
  • ブランドのつくり方
  • ① 共創を生む余白設計
  • ② 非効率な体験からの愛着形成

おもしろいと思った人気の文房具を取り上げ、ヒットの理由を掘り下げています。

見出した本質からマーケティングのブランディングで学べることを一緒に見ていきましょう。よかったら最後までぜひ読んでみてください。

累計30万本突破の 「からっぽペン」


今回ご紹介したいのは文房具の 「からっぽペン」 です。


インクが入っていない空のペンに自分でインクを入れて、オリジナルのペンを作ることができる商品です。ペンの内側には縦に長く綿が入っていて、その綿をインクに浸して吸い上げる仕組みになっています。


ヒットの理由は?


ではからっぽペンのヒット理由を掘り下げていきましょう。以下は日経クロストレンドの記事からの引用です。

墨、書道用具、文具メーカーの呉竹 (奈良市) が販売する 「からっぽペン」 が、累計販売本数30万本を突破した。

 (中略) 

呉竹の Web サイトではインクの割合を変えてつくれる84色を紹介していて、キットに付属の説明書に印刷された QR コードからチェックできる。それぞれのインクの配分は 「レシピ」 として共有され、コロナ禍で家の中でできる趣味として取り入れやすい。

 (中略) 

84色の 「レシピ」 では、バランスよくベーシックな色を中心に紹介したが、ユーザーが独自に試行錯誤してレシピに載っていない色をつくりたくなる仕掛けにもなっている。

非効率からの愛着


からっぽペンの特徴は自分好みの色のペンが作れることです。利用者はペンというモノを買っていますが、やっていることは 「コト消費」 です。

からっぽペンの本質は 「非効率からの愛着」 と見ました。

始めから完成品 (インクが入ってすぐに使える状態のペン) を買うほうが確かに合理的です。しかし、あえて自分でインクを吸収させる一手間があることで効率は犠牲になりますが、自分だけのオリジナルのペンが手に入ります。

自らの手で作った自分だけのペンに他にはない思い入れが生まれるのです。

インク沼にハマる人たち


思い入れはどれくらいかと言うと、「インク沼」 と表現される愛好者がいます。

カートリッジ式のペンは、「インク沼」 と呼ばれる、インクを楽しむコアなファンからの 「からっぽペンにお気に入りのインクを足して使いたい」 という声に応えた。

インク沼に "つかっている" 人の中には、1度のイベントで10万円以上をインクの購入につぎ込む人もいるという。インクファンの間では集めたインクをお裾分けするのも楽しみの1つ。それまでのからっぽペンは中の綿ごと使い切りだったが、再利用ができるカートリッジ式の登場で、インクを交換しやすくなったという声を聞くという。

 「SNS を見ると、自分で作ったもの、手で書いたものを写真に撮って上げている人が多い。自分がアナログで作ったもののオリジナル感をデジタルを使って配信したいのだと感じる」 (武藤氏) 。PC やタブレットなどのデジタル機器が日常化しても、アナログ文具に魅力を感じる人は少なくない。

 「自分が気に入った、いい文具を買いたい」 と SNS で発信する人が増えており、文具市場をにぎわしている。

ブランディングに学べること


からっぽペンから学べるのはマーケティングでのブランド構築です。

非効率からのブランディング


インクが入っていない空のペンに自分でインクを入れるという手間、別の表現をすれば自分の手で完成させる体験によって自分だけのペンができあがります。

あえて非効率なところがあるからこそ他のペンとは独自化され、「自分で作ったからっぽペンを使いたい」 「このペンが好き」 という感情移入がされたブランドになるわけです。

参加できる余白


ポイントは買い手 (利用者) に 「参加できる余白」 を意図的につくっていることです。

ここで言う 「参加できる余白」 とはからっぽペンを買った人が自分でインクを入れ、最後は自分の手で完成させるプロセスです。

買い手と売り手の共創という一緒にペンを完成品にする共同体験がペンへの愛着を生みます。この愛着が深いほど思い入れが強くなり、利用者の中でブランドになるのです。

この意味でブランドとはあくまで買い手の頭の中にできあがる価値イメージです。その商品やサービスならではの体験をし、その時に好ましい感情移入が商品・サービスにされるという1つ1つの積み重ねから価値イメージが形成され、結果としてブランドになります。

ブランドができる流れは 「体験 → 深い感情移入 → 特別な存在」 です。


まとめ


では最後に今回のまとめとして、学べることを整理しておきます。

✓ からっぽペンからの学び
  • ヒット理由は 「非効率からの愛着」 。自分の手で完成させる一手間の体験が愛着を生み、特別な存在になる
  • 意図的に買い手や利用者が参加できる 「余白」 をつくっておく。参加することで、売り手と買い手の共同体験ができる
  • 共創からの体験からブランドがつくられる。「体験 → 深い感情移入 → 特別な存在」 がブランド構築の流れ


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。