投稿日 2022/02/11

ふるさと納税の自販機に学ぶ、「戦わない戦略」 と 「信念と目的があっての手段」 という話

出典: 日経

おもしろいと思った、その場で 「ふるさと納税ができる自販機」 を取り上げます。

✓ この記事でわかること
  • 静岡県藤枝市が設置したふるさと納税の自販機
  • ふるさと納税自販機の狙いとは?
  • 戦わない戦略
  • 信念があっての手段。手段の目的化には注意しよう

ふるさと納税ができる自販機から、戦略やビジネスで大事なことを掘り下げます。

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ふるさと納税ができる自販機


静岡県藤枝市が民間企業と連携し、市内にふるさと納税の寄付手続きができる自動販売機を設置しました。

出典: PR TIMES

設置場所は、JR 藤枝駅南口のオーレ藤枝内です。

寄付金額は1万円から20万円程度で、現金のほかクレジットカードにも対応しています。納税から受け取れる返礼品は、市内のホテル宿泊券やゴルフクラブ利用券、日本酒など14品とのことです。

利用方法は、

  1. タッチパネルで返礼品を選択
  2. 住所を登録
  3. 寄付方法の選択と支払い
  4. レシートをスタッフへ渡す
  5. その場での返礼品の引き渡しか、後日発送を選択
  6. 税控除に必要な書類は自宅に郵送で届く
出典: PR TIMES

自販機によって、藤枝市を訪れた人がその場で簡単に寄付できる仕組みで、税収増が期待できます。

おもしろいと思ったのは、自動販売機で納税された金額の一部が設置場所の管理者にも入る仕組みです。ネットでのアフィリエイトと同じイメージです。


自販機を設置した狙い


以下は、担当者へのインタビュー記事からの引用です。

ふるさと納税ができる 「自動販売機」 が藤枝市に登場…返礼品には何がある? 設置の理由も聞いた|FNN プライムオンライン

ーー ネットでもふるさと納税できるのでは?

ネットで簡単にできるのですが、その結果、自治体が返礼品のお得度ばかりを競うようになってしまいました。EC サイトの影響もあり、ショッピングモール化していると思いました。藤枝市もそこに出品はしているのですが、ふるさと納税の本来の目的は 「地域を応援すること」 だと思い、実際に足を運んでいただいた時に納税できればと思いました。

ふるさと納税の利用が増え、インターネット上では自治体間の競争が過熱化するなか 「藤枝市に実際に来て魅力を感じてくれた人に応援してもらいたい」 (市担当者) と話している。

 (中略)

私たちは "共感納税" という言い方をしていますが、藤枝市に訪れた時、気にいったら納税をいただければと思います。藤枝市は都会すぎず、田舎すぎず、子どもが楽しめる大きな公園もあります。たくさんある魅力を楽しんでいただければと思います。

ふるさと納税の 「そもそもの目的と現状の乖離」 が自販機設置の背景でした。目的とはその地域を納税によって応援することです。

藤枝市に訪れてもらい、体験から共感され、その時に納税をしてもらえればという思いが込められています。


戦わない戦略


ふるさと納税の自販機が興味深いのは、返礼品への過熱競争とは一線を画していることです。ここに 「戦わない戦略」 があると見ました。

ふるさと納税の原点に立ち返り、いかにお得な返礼品を用意できるかの争いからは降り、「藤枝市に実際に訪れた人が、藤枝のことを本当に良いと思えることを大事にしたい」 という考え方をしています。これを 「共感納税」 と表現しています。

訪問して楽しかったり、藤枝市を魅力に思った時の気持ちから、藤枝市に納税したい意向の受け皿として自販機があるわけです。


学べること


では最後に、ふるさと納税の自販機から学べることを整理してみましょう。

一言で表現するなら、学びは 「手段の目的化にならないようにしよう」 です。

今回の事例に当てはめれば、ふるさと納税における 「過度な返礼品競争」 が手段の目的化です。

返礼品は確かに納税者にとっては見返りとして貰えるものなので大事ではあります。しかし、ふるさと納税の本来の役割は、国民1人ひとりが自分の意思で納税先の地方と税の使用対象を選べることです。自分にゆかりがあったり、応援したい地方にお金をまわすのがふるさと納税です。

こうしたふるさと納税の目的にあらためて立ち返ると、訪問者が払いやすい場所とタイミングにできる自動販売機は、ふるさと納税のあり方に一石を投じます。ふるさと納税自販機という手段の先には、本来のふるさと納税はこうあるべきという信念があります。

今回の話から学びとして残しておきたいのは、「自分たちのやっている手段が、いつしか目的にすり変わっていないか」 を問うこと、そして 「手段の目的化が起こらないように、目的に立ち返る重要性」 です。


まとめ


今回はふるさと納税ができる自販機から、戦略とビジネスで大切なことを見てきました。

最後にまとめです。

ふるさと納税の自販機
  • 静岡県藤枝市が設置。現金かクレジットカードで自販機からふるさと納税の手続きができる
  • 設置の狙いは、ふるさと納税の本来の目的である 「地域を応援すること」 「共感納税」 の実現
  • 返礼品への過熱競争とは一線を画している。戦わない戦略がある

学べること
  • 自分たちのやっている手段がいつしか目的にすり変わっていないかを問いてみる
  • 手段の目的化が起こらないように、目的に立ち返ることが大事


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。