投稿日 2024/09/07

パーソル 「退職のホンネ」 。見過ごされがちな離反顧客の本音を探る方法

#マーケティング #顧客理解 #離反顧客

今までのお客さんが去っていく本当の理由を、どれだけ把握できているでしょうか?

今回は、退職予定者の本音に迫るサービスを例に、マーケティングへの示唆として 「離反顧客の離れていく理由」 を探る方法を考えます。

離反というお客さんの行動の背後にある顧客心理を理解し、ビジネスにどう活かすかせばいいのでしょうか?

退職のホンネ


パーソルホールディングス傘下のパーソルワークスデザインが、退職の本音を見える化するサービスを始めたと発表しました (リリース) 。

サービス名は 「退職のホンネ」 で、退職の本音を可視化するサービスです。



退職のホンネの特徴は2つあります。

  • 退職予定者への調査 (インタビューとアンケート) で退職要因を可視化
  • 調査で得た退職予定者の声と市場データを比較し組織状況を把握。課題の洗い出しから改善を支援


順番に補足しますね。

心理師による退職の本音を引き出すインタビュー

インタビューでは、パーソルワークスデザインで提供するアバター心理支援サービス 「KATAruru (かたるる) 」 を活用します。

インタビューは専門家である心理師が第三者として実施し、退職予定者の話を傾聴し、本当の退職理由を引き出すことを目指します。退職者によっては心理的負担が大きい退職の話について、専門の心理師が共感しながら話を聴くことで、穏やかな気持ちで退職の理由などを伝えられる場にします。

また、アバターを用いることで、秘密性を保ったままリラックスして対話に臨め、より本音を語りやすい環境を作ります。

退職予定者の声を数値化・見える化するアンケート

インタビューで退職予定者が自身の気持ちや考えを整理できた後に、アンケート調査を行います。

アンケート結果を通して退職予定者の本音や入退職時の企業の印象から現在の変化、退職予定者の傾向を数値化します。

自社傾向の把握や市場比較ができる分析レポート

インタビューとアンケートの情報を集計・分析し、レポートが作成されます。

分析ではたとえば、退職理由と退職予定者の属性情報をクロス集計し、他社平均と比較することで自社の傾向を把握することができます。

見過ごされてきた退職者把握をビジネス機会に

パーソルワークスデザインが2023年2 ~ 3月に、直近1年以内に正社員で勤めていた会社の退職者を対象にした調査によると、退職時に社内アンケートに答えたという人は1割に満たず、人事面談の実施率も3割だったとのことです (参考情報) 。

こうした状況を受け、社員の定着率の低さに悩む企業に需要があるとみて、パーソルワークスデザインは2026年までに3000人の 「退職のホンネ」 の利用を目指しています。

退職予定の社員への面談やアンケートをもとに退職要因を分析して、企業の組織課題の改善や社員の働きがいの向上に役立ててもらうことを狙います。

マーケティングに学べること


ではパーソルワークスデザインの 「退職のホンネ」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

退職者を 「離反顧客」 と置き換えると

退職のホンネでは退職予定者を対象としますが、対象者を 「離反顧客」 に置き換えると、退職のホンネの仕組みにはマーケティングへの示唆があります。

自社商品・サービスから離れ競合商品にスイッチしてしまいそうな人、すでに去っていってしまった離反顧客の心理までを理解することで、見出した洞察を商品やサービス、マーケティングにどう活用するかにヒントが得られます。

パーソルワークスデザインの独自調査によれば、退職時に社内アンケートに答えた人は1割未満、人事面談の実施率も3割程度でした。これと同じ構図は離反顧客にも当てはまることでしょう。

見込み客となる新規のお客さんや既存のお客さんにユーザー調査をすることはあっても、離反顧客への調査の実施は少ないはずです。

退職のホンネからの示唆

退職のホンネの仕組みで参考になるのは、次のようなことです。

  • 離反顧客の本音に迫るために、直接の当事者ではなく第三者的な立場から親身に聞く場をつくる
  • インタビューとアンケートの両方で情報を取る (定性調査と定量調査) 
  • 離反顧客の状況や行動、心理を探ることで多角的に理解する
  • 集計・分析から洞察を得て、ビジネスへの改善につなげる

相手の本音に迫る

まず重要なのは、離反の本音にどれだけ迫れるかです。

退職の場合、退職者が企業を去る本当の理由は、従来の人事面談やアンケートだけでは表面的な理解にとどまることでしょう。これは、お客さんが商品やサービスを離れるときにも同じように言えることで、お客さんが感じている真の不満や本当の望みは簡単には得られにくいものです。

退職のホンネでは、専門の心理師が第三者として退職者へのインタビューを実施することで、本音を引き出そうとしています。

このアプローチは、離反顧客の実際の声を聞くためにも応用できます。中立的な第三者が介在することで、よりオープンな離反顧客を理解することが期待できます。

定性調査と定量調査の併用

次に、退職のホンネが行っている退職者の意見を定性調査 (インタビュー)、定量調査 (アンケート) の両方から収集する手法も、離反顧客の分析に取り入れるといいでしょう。

直接のインタビューにより理解を深く掘り下げつつ、アンケートを通じて得られた数値データからは、全体の傾向やパターンを把握することが可能です。定性と定量の2つのアプローチを組み合わせることで、お客さんの離反という行動の背後にある心理を多角的に分析でき、離反への因果関係を見出せます。

洞察のビジネス活用

退職のホンネでは、退職者のインタビューとアンケートから得た洞察を、組織改善への示唆と対処すべき課題につなげています。

退職の理由として頻繁に挙がる事象を特定し、問題点を究明、解決策を捉えることで、他の潜在的な退職者の流出を防ごうという狙いです。退職のホンネで分析された退職理由をもとに、企業は労働環境の改善、マネジメント体制の見直し、人事評価や報酬体系の調整などを行うことで、結果として社員満足度を向上させることができるでしょう。

調査をして終わりにせず、次に活かす仕組みは、ビジネスやマーケティングにもぜひとも取り入れたいことです。

たとえば、離反顧客からの声をフィードバックとして受けとめ、製品の質を向上させたり、顧客サービスを改善したりすることで、顧客満足度を高め、これからの離反率を下げ、お客さんとの関係構築につなげるわけです。

まとめ


今回は、パーソルワークスデザインの 「退職のホンネ」 から、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 離反顧客の本音に迫るために、直接の当事者ではなく第三者的な立場から親身に聞く場をつくってみる
  • インタビューとアンケートの両方を実施し、定性調査から心理までの深い理解や行動への因果関係、定量調査から全体傾向やパターンを見出す
  • 離反顧客の状況や行動、背後にある心理を探ることで多角的に理解する
  • 集計・分析から洞察を得て、ビジネスへの改善につなげる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。