#マーケティング #ジョブ理論 #顧客価値
自社商品やサービスのお客さんの本当のニーズを捉えられているでしょうか?
お客さんの言動だけではなく、置かれている状況や心理までを理解することができれば、商品・サービスが選ばれる理由が見えてきます。
そこで今回は、お客さんの 「ジョブ」 を見つけ、現在の 「ワーカー」 にはない優位性を打ち出すことで、自社商品がお客さんにとって魅力的な存在にする方法を 「ジョブ理論」 を使って解説します。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
カンロの挑戦
お菓子メーカーのカンロは、若者のアメ離れが進む中、Z 世代向けの商品開発に力を入れてきました。
Z 世代向けのアメ商品
2023年には 「Z 世代 飴の原体験共創プロジェクト」 を始動。社内の若い社員や現役高校生と共に、商品開発に取り組みました。
このプロジェクトでつくられた商品には、10代のピュアな心情を表現したアメ商品の 「透明なハートで生きたい」 があります。
他にも、移り変わる空の色をイメージしてつくられた 「空色ラムネ」 など、Z 世代を対象とした、エモーショナルなコンセプトの商品をカンロは市場に投入してきました。
アメの文化をつくる
カンロは Z 世代向けの商品開発には手ごたえはありつつも、ここまで注力してきたのにもかかわらず、若者だけにフォーカスをしすぎないようにと考えているようです (参考記事) 。
Z 世代向けの商品開発やマーケティングばかりに専念するのではなく、「継続的にアメを食べてもらうためにアメの文化をつくる」 という本質的な活動のほうに比重を置くためです。末永くアメを食べてもらうために、従来とは異なるアメのニーズを発見することが必要になるという認識からです。
前代未聞の挑戦だった 「味のしない?飴」
創業から100年以上たったカンロが、これまで一度も出したことがなかったような挑戦的な商品を発売しました。
具体的には2023年7月にローソンで限定販売した 「味のしない?飴」 です。
ローソン側から企画を持ちかけられ、製造をカンロが担ったローソンとカンロのコラボ商品です。アメの味をなくすというのは、カンロとしても前代未聞の企画商品でした。
一見するとただ話題性を狙っただけの 「ネタ商品」 に見えるかもしれませんが、カンロには明確な狙いがありました。消費者のアメ離れが進む中、新たなニーズを発見するきっかけにつなげることでした。
カンロのマーケティング本部長の方は、次のようにコメントしています。
我々が想定した以上に、「こういうものを探していた」 という声をたくさんいただいた。例えば、「のどが痛くてをなめていたいが、甘いものや味があるものを食べ続けるのはしんどい。だから味がないととても助かる」 という人が多くいた。まさにこれがニーズだ
マーケティングへの学び
ではカンロの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
既存の解決策の 「不」
体調が悪く風邪などで喉を痛めている時に、アメを舐めるのはよくされることです。
しかし、アメの中には消費者にとって潜在的な不満が生じていました。というのも、喉が痛くてアメを舐めたいのに、アメの味が甘いので 「アメをずっと食べ続けるのはしんどい」 と消費者は感じていたからです。
とはいえ、アメにフルーツなどの味があることは当たり前で、消費者はアメとはそういうものだととらえ、この問題を解決することをあきらめていました。
ではこの状況をさらに深掘りするために、マーケティングの概念の1つである 「ジョブ理論」 に当てはめて考察を続けます。
ジョブ理論
ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。
ジョブとはもともとの英語では 「Jobs to Be Done」 と表現されます。日本語にすれば、ジョブは 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。
クリステンセンはジョブの定義を、「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」 とし、次のように表現しました。
the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.
ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。
ジョブ理論で特徴的なのは、人はジョブを解決するために商品やサービスを 「雇う」 と表現することにあります。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけられるわけです。
そこで、ここではジョブのために雇う商品やサービスの総称として、「ワーカー」 と表現することとします。ジョブを片付けるために働いてくれるイメージからワーカーとしました。
ワーカーが役割を十分に果たしていなかった
話をアメに戻すと、消費者が思う 「風邪などで喉が痛いときに、痛みを少しでもやわらげたい」 というのがジョブです。
このジョブに対して、ワーカー (ジョブを解消するための雇うもの) としてのアメは、甘い味によって 「ずっとなめているのがしんどい」 と感じられていました。つまり、ワーカーの役割を十分に果たしていなかったわけです。
この状況が示すのは、消費者のジョブに対するより良いワーカーになれるポテンシャルがアメにはまだ潜在的にはあったということです。
消費者が持っていたジョブである 「喉の痛みを少しでもやわらげたい」 への解決策には、実は 「ずっと舐め続けられる味のないアメ」 がワーカーとしてより適していたのです。
ジョブを起点にする機会発見
この事例からの学びを汎用化すると、次のような流れが見えてきます。
- 想定するお客さんの状況、行動や習慣、心理、価値観を深く理解する
- 理解した顧客文脈からお客さんの 「ジョブ」 をとらえる
- ジョブに対する今の 「ワーカー (ジョブを片付けるために雇うもの) 」 を把握し、既存ワーカーにおける不便さや不満を洗い出す
- 自分たちがワーカーとして選んでもらうための優位性をつくる
- お客さんにとって魅力的なワーカーとして、価値があると思える商品・サービスを訴求する
お菓子メーカーのカンロが、アメを Z 世代だけに偏りすぎることなく、アメの文化をつくるために多くの世代に食べてもらうために、従来のアメがまだ 「ワーカー」 としての役割を十分に発揮していないジョブ (喉の痛みをやわらげたい) を新たに見出しました。
このように、ターゲット顧客のジョブは何かを起点にすることで、ビジネス機会を見つけることができます。
ジョブという顧客心理を掘り下げて理解することによって、ジョブとワーカー (商品) をつなげていくところにマーケティングの役割があります。
まとめ
今回はお菓子メーカーのカンロの事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントのまとめとして、ジョブとワーカーの概念を使ったマーケティングのプロセスです。
- 想定するお客さんの状況、行動や習慣、心理、価値観を深く理解する
- 理解した顧客文脈からお客さんの 「ジョブ」 をとらえる
- ジョブに対する今の 「ワーカー (ジョブを片付けるために雇うもの) 」 を把握し、既存ワーカーにおける不便さや不満を洗い出す
- 自分たちがワーカーとして選んでもらうための優位性をつくる
- お客さんにとって魅力的なワーカーとして、価値があると思える商品・サービスを訴求する
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