#マーケティング #ジョブ #モーメント
衣服のシェアリングサービス 「エアークローゼット」 が、新しいサービスをはじめました。
今回は、ジョブ理論を使って、エアークローゼットのサービス開始の背後には、どのような狙いがあるかを解説します。
エアークローゼットが出産後の復職時の服選びをサポート
株式会社エアークローゼットは、衣服のシェアリングサービスを手掛ける企業です。月額制のファッションレンタルサービス 「airCloset (エアークローゼット) 」 を運営しています。
エアークローゼットが、出産・育児後に仕事に復職する女性を対象に、新たな取り組みを開始しました (リリース) 。
出産後の復職ママの服を選んで提供
このサービスは、出産と育児休暇明けの女性が仕事に復帰するにあたり、職場で着る洋服を1カ月間無償で提供するというものです。
育児休暇が終わった女性が復職する際の悩みの1つに、仕事服の準備があります。エアークローゼットは 「体形の変化で手持ちの服が着られなくなった」 や 「子連れでゆっくり試着して選ぶのが難しい」 といった声に応える形で、このサービスを提供します。復職を控えた女性がスムーズに職場復帰できるようサポートします。
利用者は、出産前後での体形の変化や好みに合わせたコーディネートができ、手間をかけずに仕事用の洋服を準備することができます。
利用方法
このサービスは、転職サイト 「サンゴポート」 を通じて仕事が決まった復職者が対象で、エアークローゼットの新規ユーザーだけでなく既存ユーザーも使えます。
今回の出産後の復職ママの服を1ヶ月無償で提供するというサービスは、2024年10月31日までの期間限定で提供されます。
利用者は、レギュラープラン (月額1万800円) を含む3種類のプランから選びます。無償期間の1ヶ月がすぎれば、2ヶ月目以降も続けて利用したい場合は、料金は利用者が負担します。
エアークローゼットは今後の利用動向を見ながら、この無償提供期間を延長するかどうかを検討する予定です。また、復職をテーマにした他社との連携も模索しており、より多くの復職者をサポートするための取り組みを広げていく意向です。
学べること
エアークローゼットが出産後の復職ママの服を選んで1ヶ月無償提供するというサービス事例から学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの観点からは、ターゲットユーザーの 「ジョブ」 と 「モーメント」 を的確に捉えた事例です。
ジョブ理論
ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。
クリステンセンはジョブの定義を、「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」 とし、次のように表現しました。
the progress that the customer is trying to make in a given circumstance — what the customer hopes to accomplish. This is what we’ve come to call the job to be done.
ある状況において顧客が行おうとしている進歩、つまり顧客が達成したいと考えていること。これが、私たちが 「やるべき仕事 (job to be done) 」 と呼ぶようになったものだ。
ジョブはもともとの英語では 「Jobs to Be Done」 と表現されます。日本語にすれば、ジョブは 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。
ジョブ理論で特徴的なのは、人がジョブを解決するために商品やサービスのことを 「雇う」 と表現する点にあります。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけられるわけです。
そこで、ここではジョブのために雇う商品やサービスの総称として、「ワーカー」 と表現することとします。ジョブを片付けるために働いてくれるイメージからワーカーとしました。
育児休業後に復帰する女性のジョブ
エアークローゼットの事例につなげると、育児休業後に仕事に復帰する女性のジョブはどのようなものでしょうか?
ジョブとして奥にある望みは、入社や部署異動とまではいかないものの、「復帰という新しい門出を晴れ晴しく迎えて再出発したい」 という気持ちです。
女性が持つこのジョブへの "ワーカー" になろうとしているのが、エアークローゼットの今回のサービスの狙いです。
ジョブが顕在化する瞬間 (モーメント)
次が 「モーメント」 です。
モーメントとは日本語で瞬間という意味がありますが、ジョブの文脈でのモーメントは、「ジョブが具体的に顕在化する (発生する) 生活者の場面やシチュエーション」 です。
たとえば、健康食品メーカーにとっては、「今まで不の健康な生活を変え、健康的になりたい」 という生活者のジョブは、「健康診断の結果が手元に返ってきた瞬間 (モーメント) 」 に一年の中でも最も強く引き起こされるでしょう。
自社商品・サービスにとっては、モーメントは商品のことを思い出したり買うきっかけ、使われるシーンなどの日常のなかでの、顧客接点となる瞬間です。
ビジネス事業者は、狙うジョブが表れる生活者のモーメントを的確に捉えることで、ブランドへの接点や関与への機会をつくることができます。
エアークローゼットが捉えるモーメント
再び話をエアークローゼットに戻すと、捉えたいモーメントは 「育児休暇明けで仕事に復帰する新しい生活がはじまり、気持ちは上がっているのに、その気分にぴったりの仕事に来ていく服がない瞬間」 です。
出産前によく着ていた仕事用の服はあるものの、体型の変化や好みにもの合わなくなければ、そうした服を無理やり着ると気持ちが盛り上がらないという残念な瞬間とも言えます。
モーメントでのジョブを捉えるマーケティング
こうしたモーメントをポジティブなものに変えるために、エアークローゼットは無料での産後の復職時のコーディネートの洋服を提案しようというわけです。
今まで一度もエアークローゼットを使ったことのない未顧客には、エアークローゼットを知ったり使うきっかけになります。また、既存ユーザーには、久しぶりにまたエアークローゼットを再開したい、これからもずっと使いたいと思うようになってもらえるでしょう。
マーケティングの観点からは、新規顧客の獲得、休眠顧客の復帰、既存顧客の顧客ロイヤルティ向上のいずれにつながることが期待できます。
まとめ
今回はエアークローゼットのユニークなサービス事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントとして、ジョブとモーメントについてまとめておきます。
- ジョブ (Jobs to Be Done) は 「その状況で人が遂げたい進歩」 。片付けたい用事や済ませたい仕事という意味合いを持つ。が持つ本当の望みや不満などを解消したい気もち
- 商品やサービスはジョブを解決するために雇うもの。ジョブに対して、商品やサービスは雇われるので 「ワーカー」 と表現できる。ジョブを片付けるために働いてくれる存在
- モーメントとは、ジョブが具体的に顕在化し発生するお客さんの場面やシチュエーション。自社商品・サービスにとっては、モーメントは商品のことを思い出したり、買うきっかけになる、使われるシーンなどの日常のなかでの、顧客接点となる瞬間
- ビジネス事業者は、狙うジョブが表れるお客さんのモーメントを的確に捉えることで、ブランドへの接点や関与への機会をつくることができる
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