投稿日 2024/09/27

モーメントで顧客の心をつかむ!40年愛されるチョコパイに学ぶ、深い絆を生み出す秘訣

#マーケティング #ブランドパーパス #モーメント

自社のブランドは、お客さんの心に寄り添えているでしょうか?

自社のブランドパーパス (存在意義) を明確にした、優れた商品を開発したーー。しかし、それだけでは十分ではないかもしれません。本当の意味でお客さんとつながるためには、もう一歩踏み込んだアプローチが必要なのです。

そのカギとなるのが 「モーメント」 です。

そこで今回は、ロッテのチョコパイの事例を取り上げ、モーメントをとらえる重要性を解説し、顧客ニーズに合わせたマーケティングを展開するためのヒントをお届けします。

チョコパイ


出典: MarkeZine

1983年に発売されたチョコパイは、2023年で40周年を迎えた手軽に食べられるケーキのお菓子です。

チョコパイの歴史

発売当初の1980年代、日本ではケーキが高級品とされ、一般家庭では憧れの存在でした。そんな中、ロッテはケーキをもっと手軽に自宅で楽しめるようにとの思いからチョコパイを生み出しました。

その後には大袋タイプの 「パーティーパック」 が登場。これにより多くの人々がチョコパイに親しむきっかけとなり、チョコパイは 「ちょっとしたご褒美感のある3時のおやつ」 というポジションを確立していきました。

2000年代になるとチョコパイは新たな需要を捉えます。ふたくちサイズの 「プチチョコパイ」 を発売し、仕事や読書中などさまざまなシーンで手軽に食べられるおやつとして20 ~ 30代の働く女性から支持を得ました (参考記事) 。

2010年代に入るとコンビニスイーツが流行するなか、チョコパイはブランドリニューアルを行いました。パッケージデザインを一新し、ケーキ店とのコラボ商品を投入することで、専門店の味を手軽に楽しめるようにしました。

40周年でリニューアル

40周年を迎えた2023年、チョコパイはさらなるリニューアルを実施しました。背景には、長年愛され続けるためにお客さんが求める価値は何かを再考する必要があったことと、コロナ禍で人々が 「親しみやすさ」 や 「安心感」 を強く求めるようになった点がありました。

そこでチョコパイは安心感は維持しつつ、新たに 「驚き」 と 「わくわく感」 を提供することを目指しました。これを象徴するのがチョコパイ 「プレミアムシリーズ」 の投入です。

出典: MarkeZine

チョコパイのプレミアムシリーズは、事前調査や SNS の反応でも 「見たことがない」 「新鮮」 といった評価が得られた商品です。

チョコパイのターゲット層と喫食シーン

チョコパイが想定するターゲットを見てみましょう。

チョコパイのメインターゲット層は30 ~ 40代のお母さん層です。

ターゲット顧客のニーズは大きく2つあり、1つは子どもに手軽なおやつを与えたいというもの。もう1つが自分自身へのご褒美としてのニーズです。

近年は共働き家庭が増え、忙しいお母さん層から自分へのご褒美を求めるニーズが高まっているととらえ、チョコパイは、子どもへのおやつとして与えつつ、お母さん自身の贅沢なご褒美としても楽しめるように 「プレミアムシリーズ」 があるという商品ラインナップです。

ブランドパーパス

ブランドパーパスとは、ブランドが社会に対してどのような貢献をするのか明文化した理念です。

チョコパイのブランドパーパスは 「どんなときもそっと寄り添い まぁるい心でつながる」 というものです。

パーパスとして掲げているのは、チョコパイは家族の絆を大切にするブランドだということです。

パーパスの中に入っている 「まぁるい」 が特徴的です。「まぁるい」 にはチョコパイの形状を指すだけでなく、優しく包み込む心、そして家族がひとつにつながるようにという意味が込められています。チョコパイが、寄り添い見守ってくれるような安心感を与えられるブランドでありたいと思いが入っています。

学べること


ではチョコパイから、学べることを掘り下げていきましょう。

この事例から学びを掘り下げるために、「モーメント」 という切り口で考えていきます。

モーメントとは

マーケティングの文脈でのモーメントとは、お客さんのニーズが具体的にあらわれる 「瞬間」 です。日常生活の中で起こる、「これをしたい」 とか 「これを食べたい」 というような瞬間のことです。

お客さんが商品やサービスのことを知ったり、思い出す瞬間、買う場面、商品を使う具体的な状況やシーンがモーメントです。このようにモーメントは顧客心理が生まれたり、表に出てくる、あるいは心理が変化する瞬間です。

モーメントの具体例と活用

1つ具体的な例でモーメントをとらえてみましょう。

たとえば、一年間で最も健康意識が高まるモーメントは、健康診断の結果が返ってきていくつかの項目に 「C」 や 「D」 をあるのを見て、ちょっとこれは食生活や生活習慣を見直さないとやばいかもと思った瞬間です。

こうしたシチュエーションにおいて、健康食品メーカーが 「健康的になれる食品」 ということを的確に訴求できれば、健康意識が高まっているタイミングなので普段よりも意識を向けてもらいやすいでしょう。

売り手にとっては、お客さんが商品の広告などのメッセージを受け取りやすく、購入する可能性が高い瞬間になります。

モーメントが発生した時に、自社商品やサービスのことを思い出してもらったり、購入候補の中に入る、あるいは実際に使ってもらうことを目指すのがマーケティングの役割です。

生活者は常に商品やサービスのことを四六時中で考えていることはありません (売り手はいつも考えてます) 。知ったり思い出すには何かしらのきっかけをマーケティングからつくるわけです。

チョコパイのモーメント

では、チョコパイをモーメントの観点で掘り下げていきましょう。

ターゲット顧客である30 ~ 40代の母親にとっての 「チョコパイを子どもに食べさせたい」 というニーズ、もう1つの 「自分へのご褒美にちょっとした贅沢なものを食べたい」 というニーズは、具体的にどんなモーメントであらわれるのでしょうか?

モーメントをいくつか考えてみましょう。

子どもが食べるという瞬間 (モーメント) については、たとえば、こんなシーンがチョコパイにつながるモーメントです。

  • 子どもが友だちからチョコパイをもらってきて、久しぶりにチョコパイを見た
  • くじ引きなどの景品のお菓子にチョコパイがたまたま入っていた
  • 子どもが最近おやつの時間にチョコパイを食べているのをよく見かける
  • 職場でのケータリングのお菓子の中にチョコパイが入っていた


もう1つの自分へのご褒美ニーズにつながるモーメントは、

  • ようやく今週も一週間が終わった金曜日の夜という瞬間
  • 仕事でうれしいことがあった
  • 甘いものが無性に食べたくなった


こういうシチュエーションで、チョコパイが食べる候補に入ることを狙います。

また、チョコパイのプレミアムシリーズと出会うモーメントとしては、

  • スーパーやコンビニでチョコパイのプレミアムシリーズが出ていることを初めて知った
  • 広告や SNS でチョコパイのプレミアムシリーズを目にした


以上のように、モーメントには直接商品に触れるものもあれば、自社商品が選ばれる可能性のある上位レベル (例: 甘いお菓子を食べたい) でのモーメントもあります。

パーパスとニーズをモーメントでつなぐ

こうして見ていくと、モーメントとは自社商品や自社ブランドとお客さんを 「結ぶ瞬間」 です。

潜在的な欲求 (例: 顧客インサイト) が顕在化し、ニーズとして表に出たときにブランドパーパスを体現できる瞬間がモーメントなのです。

チョコパイのブランドパーパスは、「どんなときもそっと寄り添い まぁるい心でつながる」 でした。パーパスとして掲げる 「寄り添う」 と 「まぁるい」 を実現する瞬間が、チョコパイがとらえたいモーメントという構図です。

ブランドのパーパスをつくる、顧客ニーズを理解する。それぞれをやったとして、大切なのはその2つを 「モーメント」 という生活者やお客さんの文脈において生まれる瞬間に結びつけることです。

まとめ


今回はロッテのチョコパイを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • モーメントは日常生活の中で起こる 「これをしたい」 、 「これを食べたい」 というような、顧客の潜在的な欲求が顕在化する瞬間

  • モーメントはブランドパーパスを体現できる瞬間でもあり、ブランドと顧客をつなぐ架け橋となる。ブランドパーパスとはブランドの存在意義であり、ブランドが社会に対してどのような貢献をするのか明文化した理念

  • お客さんのモーメントを理解し、顧客ニーズに寄り添った商品開発やマーケティングを展開することで、お客さんとの絆を築く


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。