投稿日 2024/09/21

シューズブランド 「VIVAIA」 が活用したジョブ理論。潜在競合ではなく自分たちが選ばれるためのターゲットシーンの設定

#マーケティング #ジョブ #ワーカー

自社が提供する商品やサービスは、本当にお客さんのニーズに応えているでしょうか?

今回はアメリカ発のシューズブランド 「VIVAIA (ビバイア) 」 の事例を取り上げ、ジョブ理論を使って学べることを掘り下げます。

ジョブを起点としたマーケティングを実践し、潜在的な競合との差異化を図るためにはどうすればいいか、ぜひ一緒に見ていきましょう。

シューズメーカー 「VIVAIA」 


東急プラザ原宿 「ハラカド」 店内に出店した VIVAIA 1号店 (出典: 日経クロストレンド

アメリカに本拠を構えるシューズメーカー 「VIVAIA (ビバイア) 」 が、2024年4月に、日本で初めての常設店を 「東急プラザ原宿『ハラカド』」 にオープンしました。2022年の日本上陸以降は EC での販売をメインにし、ポップアップストアにも出店していましたが、常設店から日本での存在感を高めたい考えです。

VIVAIA の新規顧客獲得のアプローチが興味深かったです。

足の悩みを広く分析

VIVAIA は、新しいお客さんを獲得するために、靴という商品カテゴリーからいったん離れ 「消費者は足に関わるどんな悩みを抱えているか」 から発想をスタートさせました (参考記事) 。

もともと VIVAIA は、高いデザイン性やエコフレンドリーな面だけでなく、外反母趾の改善を機能的な魅力として打ち出していました。外反母趾への悩みを抱える消費者が、解決策として靴を想起し、その中で VIVAIA を選んでもらえるというのが、VIVAIA を買うよくあるきっかけでした。

VIVAIA は、新しいお客さんを増やすために、外反母趾以外にも足への悩みをより広く知ろうとしました。足の悩みを抱えている消費者が外反母趾同様に解決策として VIVAIA の靴を想起してくれれば、VIVAIA のさらなる購買につながると考えたわけです。

代替競合を探索

VIVAIA は靴というカテゴリーの外に目を向けました。足に関わる悩みというニーズが生じていないかと考え、"代替競合" を探ったのです。

その結果、代替競合として浮かび上がったのが、靴に用いるインソール (中敷き) でした。インソールが、姿勢や歩き方の悪さへの修正、骨格矯正、筋トレといったニーズの解決策として、多くの消費者にインソールが選択式として選ばれていることがわかりました。

VIVAIA の解釈は、潜在的なお客さんをインソールに奪われていると見立てました。そこで、消費者の足の悩みからくるニーズへの解決にはインソールではなく靴そのもの、すなわち VIVAIA が参入している靴カテゴリーを受け入れてくれるための糸口を探ることにしました。

ニーズが表れる状況でセグメント化

VIVAIA は、インソールのユーザーがネット上に書き込んだ数千件に達するレビューを集めて分析しました。

インソールユーザーのニーズを大きく5つに分類しました。「足の痛みの改善」 「足以外の痛みの改善」 「姿勢 / ゆがみの改善」 「体形変化の改善 / 予防」 「健康の維持・向上」 の5種類です。

これらのニーズを抱えるユーザーの多くが直面している状況 (シーン) を想定し、ニーズとシーンをかけ合わせることで、狙うべきターゲットセグメントとしたのです。

学べること


VIVIA の事例は、ジョブを起点にしたターゲティングのやり方に示唆を与えてくれます。

ジョブ理論

ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。

ジョブの定義は 「その特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。

ジョブとはもともとの英語では 「Jobs to Be Done」 と表現されます。日本語にすれば、ジョブは 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。

ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことを自分のジョブを解決するために 「雇う」 と表現することにあります。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけられるわけです。

関係性を整理すると、お客さんが雇用者、ジョブのために雇う商品やサービスが被雇用者です。商品やサービスは 「ワーカー」 となり、ジョブを片付けるために働いてくれる存在です。

VIVAIA が設定した競合ワーカー

ここで VIVAIA に話をつなげると、VIVAIA は消費者の悩みからはじめ、したいことをジョブとして捉え、体系立てて整理していきました。

VIVAIA は見出したジョブにおいて、消費者が雇用したいワーカー (ジョブを片付けるために働いてくれる商品やサービス) の候補の中で、靴の中敷きのインソールに着目しました。ジョブに対する雇う第一候補になる 「ワーカー」 がインソールたと解釈したわけです。

競合ワーカーへの勝ち筋の見出し

次に VIVAIA は、ワーカー (競合) であるインソールにまつわる、消費者の悩みやまだ解決されていない問題点を掘り起こしていきました。

そのあとに自分たちの VIVAIA のシューズが、ライバルであるインソールより優れたワーカーになるためには、どうすればいいのかの勝ち筋を見出したのです。

そしてお客さんのジョブに対するワーカーとして、自分たちが選ばれるように自社商品が魅力的に見えたり、想定するお客さんに自分ごと化されるような画像やメッセージを添えて広告を展開しました。

ジョブ起点のターゲット顧客設定

VIVAIA の事例からの学びの汎用化すると、マーケティングにおけるターゲティングに示唆があります。

お客さんを定めてターゲット顧客を決める場合、一般的にはたとえば 「Z 世代」 や 「20 ~ 30代女性」 などの属性情報を使って顧客グループをつくります。

それに対して今回の VIVAIA の事例では、まず 「状況」 から入ったところが注目に値します。

状況とは顧客文脈のことですが、多くの人に共通するであろう状況、そこで発生している悩み、悩みから生じる欲求を VIVAIA はジョブととらえました。ジョブは大きくは5つに整理され、「足の痛みの改善」 「足以外の痛みの改善」 「姿勢 / ゆがみの改善」 「体形変化の改善 / 予防」 「健康の維持・向上」 です。

ジョブを起点に考え、自社がワーカーとしての存在感を高めるためにどうすればいいかというアプローチです。

この方法では、属性情報からの人のターゲット設定はそのあとに来ます。

捉えたいジョブを共通して持っている人たちをターゲット顧客にまとめるという順番です。状況とジョブを起点にしたターゲット顧客の設定になっています。

ジョブからはじめるマーケティング

まとめると、次のような進め方でマーケティングをやっていくといいでしょう。

  1. 顧客文脈や状況から、ジョブをとらえる
  2. そのジョブにおいて、雇う候補となっている複数のワーカー (競合) を見つける
  3. 直接的な競合だけではなく潜在的な競合も把握し、競合ワーカーに対する自社商品やサービスの優位性を見極める
  4. その優位性を魅力や価値に思ってくれるであろう人をターゲット顧客にし、商品訴求や価値提案をする

まとめ


今回はシューズブランドの VIVAIA の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ジョブとは 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 のこと。商品やサービスはジョブを解決するための手段として 「雇う」 と捉える。商品はジョブに対してワーカーの役割を果たす

  • ジョブを捉えることで、一般的な属性情報によるターゲティングではなく、状況とジョブを起点にし、お客さんが直面する問題や欲求に対してより適切な解決策を提供できる

  • ジョブから始めるマーケティングの流れは、
    ① 顧客文脈や状況からジョブを特定する
    ② ジョブを解決するワーカー候補を洗い出す
    ③ 競合ワーカーとの勝ち筋を明確にする
    ④ ワーカーとして魅力に思ってくれる人たちをターゲット顧客にし、ジョブに対して商品を訴求することで、顧客価値を自分ごと化してもらう


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。