投稿日 2025/10/15

シャウエッセン。コアバリューとブランドコンセプトで 「らしさ」 を守りながら変わるロングセラーの秘訣

#マーケティング #ブランド #コアバリュー

ロングセラー商品の秘訣は何だと思いますか?

昔からの伝統を頑なに守り続けることでしょうか?それとも市場の変化に合わせて常に変化し続けることでしょうか?

これらはどちらも正解なのです。ブランド戦略の本質とは 「変えないもの」 と 「変えるべきもの」 を区別することにあります。

今回は、ブランドのコアバリューを守りながら新たな挑戦を続けるブランディングについて、ソーセージのロングセラーブランド 「シャウエッセン」 の事例から紐解きます。

日本ハムの 「シャウエッセン」 


粗びきウインナーの代名詞ともいえる日本ハムの 「シャウエッセン」 。1985年の発売以来、多くの食卓で愛され続け、2025年には発売40周年を迎えるロングセラーブランドです。

そんなシャウエッセンにも近年は課題がありました。成熟したウインナー市場への対応、長年のファン層の高齢化に伴う若年層の消費者ニーズの掘り起こしなど停滞した市場を打破する必要に迫られていました。

この状況をなんとかすべく、シャウエッセンはこれまで自らに課してきた 「掟」 とも言えるルールを破るような大胆な挑戦を始めました。

具体的には、ピザへのトッピング、新しいフレーバーの追加、さらにはウインナーの枠を超えたミートローフやベーコン風商品の開発など、矢継ぎ早に新商品を投入。そして2025年3月には、長年こだわってきた 「粗びき」 とは対極にある、ほそびきタイプの新商品 「ほそびきウインナー なめらか feat. シャウエッセン」 を発売しました。

ほそびきウインナー なめらか feat. シャウエッセン (出典: 日経クロストレンド


シャウエッセンの挑戦


シャウエッセンの一連の挑戦を読み解く上で重要なのが、「コアバリュー」 と 「ブランドコンセプト」 というマーケティングの概念です。

シャウエッセンのブランドコンセプト

シャウエッセンには長年変わらない 「4つのこだわり」 が存在します。

  • 天然羊腸を使用した 「パリッ!!」 とした弾ける食感
  • 粗びきの豚肉を 100% 使用
  • 独自のスモーク製法による風味
  • 水あめなど日本人の口に合う隠し味の活用


これらはシャウエッセンのコアバリューです。こうした要素をシャウエッセンの中心を通す軸として守り抜くことによって、商品拡張をしても消費者からは 「やっぱりシャウエッセンだよね」 と思ってもらえることでしょう。

ブランドのコアバリューによってシャウエッセンの 「食卓にちょっとした特別感を与えるウインナー」 という言語化され磨き込まれたブランドコンセプトが打ち出されます。

ブランドの中心軸以外では新しい挑戦や変化を加える

シャウエッセンはこれらを 「変えない軸」 を明確にした上で、それ以外の部分では時代の変化や消費者ニーズに合わせて柔軟に変化を加えました。

かつて日本ハムの社内にはシャウエッセンの扱いについて不文律がありました。シャウエッセンを切ってはいけない、味を変えてはいけない、電子レンジで温めてはいけない (推奨する調理方法はボイルのみを徹底) といった厳格なルールが存在していたのです。

こうした 「掟」 はシャウエッセンの品質とブランドイメージを守るためのものでしたが、時代の変化とともにブランドの成長を妨げる足かせにもなり得ます。

そこでシャウエッセンは、2018年頃から掟を戦略的に破り始めます。例えば、

  • ピザ用にスライスしたシャウエッセンを発売
  • スパイシーなホットチリ味
  • 電子レンジ調理解禁の宣言


こうした一連の施策はシャウエッセンのイメージを一新しました。

ブランド拡張の商品バリエーション

また、日本ハムはウインナーの枠を超えたシャウエッセンの肉を使った商品として、ハム風やベーコン形の商品もラインナップに加えました。「シャウベーコロン」 や 「シャウスライス」 などです。商品名からシャウエッセンの派生商品であることがわかります。

これらはウインナーとは別カテゴリーの商品ですが、シャウエッセンのコアバリューにもとづき、味や食感の基本コンセプトを大きく外さないことで、新鮮さと安心感を両立することを目指しています。

既存のブランド資産、具体的には知名度や信用を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用するアプローチをとる 「ブランド拡張」 です。

すでにお客さんが知っていて信用しているので、そのブランドから新しいカテゴリーやジャンルの新商品が出たら、期待値が自然と高まり買ってもらえることが期待できます。

ブランド拡張のポイント


シャウエッセンの事例は、既存ブランドを活用して新商品や新カテゴリーに展開する 「ブランド拡張」 の好例です。

シャウエッセンの取り組みから、ブランド拡張を成功させるためのポイントを整理してみます。

変えない軸の明確化

ブランド拡張において重要なのは、ブランドの核となる価値であるコアバリューをブラさないことです。

シャウエッセンが一連の 「掟破り」 に挑戦してもなお、お客さんからの信頼を失わないのは、「パリッ!!とした食感」 「粗びきポーク 100% (ほそびき除く) 」 「スモークの薫り」 「独自のコクとスパイス」 という4つのコアバリューを堅持しているからです。

コアバリューを守り続けるからこそ 「シャウエッセン = あの独特の歯ごたえと肉の旨味」 というブランドイメージへの認識が崩れません。

軸以外の部分は時代や顧客ニーズに応じたアップデート

消費者のライフスタイル、価値観や嗜好、今回の場合で言えば味の好みは時代とともに変わります。

例えば健康志向が高まれば脂質や添加物を抑えた商品、時短ニーズが高まれば電子レンジでもおいしく食べられるようにしたいなどです。

シャウエッセンは、顧客層の高齢化への対処と若年層の取り込みという課題に対し、ホットチリなどの新しいフレーバーを打ち出しました。

また、朝食や弁当が中心だった喫食シーンを夕食やおつまみへと広げるために、夜味やほそびきウインナーを開発。調理法も、かつては 「黄金の3分間ボイル」 を推奨していましたが、時代のニーズに合わせてレンジ調理を解禁しました。

このように調理方法や食べるシーンに合わせた新しい提案を行っています。

既存ファンの信頼を保ちながら新規層を拡大

ブランド拡張は、既存顧客を維持しながら新しい顧客層を獲得するという二兎を追うアプローチです。

シャウエッセンは、コアバリューを守ることで長年のファンの期待に応えつつ、新しい味や食べ方の提案によって、これまでアプローチできていなかった30 ~ 40代の男性層などを新規顧客として取り込むことに成功しています。

また、シャウブランドとしてミートローフ・シャウベーコロン・シャウスライスや、「feat. シャウエッセン」 のほそびきウインナーのように、本流のシャウエッセンとは少し距離を置いた商品を新たに展開することによって、ブランドイメージの拡散を防ぎつつ、新しいカテゴリーへの進出を図る工夫も見られます。

コミュニケーションでもコアバリューを軸に据える

ブランド拡張の商品を消費者や顧客に伝えて受け入れてもらうためには、コミュニケーションも重要になります。

いかに柔軟な商品展開をしても、消費者が 「これは本当にシャウエッセン?」 と感じ、今までのシャウエッセンのブランドイメージと大きく異なり、混乱を生んでしまえば意味がありません。

シャウエッセンは 「美味なるものには音がある」 という発売当初からの味覚と聴覚への訴求を一貫して伝え続けています。

さらに、ここ最近ではシャウエッセンの 「掟破り」 を逆手に取ったユニークなコミュニケーションも展開しています。

電子レンジ調理解禁時の 「宣言」 や、パッケージ変更時の 「断髪式」 になぞらえた広告、焼き調理を推奨する 「夜味」 の宣言文などです。

こうした遊び心のあるコミュニケーションは、シャウエッセンへの注目や親近感を高めたことでしょう。シャウエッセンらしさという軸は決してブラすことなく、伝え方を工夫しています。

シャウエッセンの事例が教えてくれるのは、コアバリューからのブランドコンセプトを軸にしながら、新たな挑戦を重ねていくことの大切さです。ブランドの根幹を守り抜きつつも、固定観念を打ち破る柔軟さこそが、長年支持されるブランドの秘訣です。

まとめ


今回は、日本ハムのシャウエッセンを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドの中核的な価値となる 「コアバリュー」 を明確に定義し、コアバリューを一貫させることが長期的なブランドにつながる

  • コアバリューを起点に、消費者やお客さんの頭の中につくりたいブランドの本質的なイメージとなるのが 「ブランドコンセプト」 

  • 時代の変化や消費者ニーズの進化に応じて、コアバリュー以外の部分は柔軟に変化させる

  • 既存顧客の信頼を損なわないよう軸となる価値を保ちつつ、新しい顧客層を獲得するための提案を行うバランスが重要になる

  • コミュニケーションにおいても、ブランドの一貫性を保ちながら、表現方法や媒体は時代に合わせて新しい要素を取り入れることにより、ブランドの親近感と認知を高めていく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。