投稿日 2025/10/02

その当たり前、もう古くないですか?ベースホーム 「おひとりさまの家」 に学ぶ、常識を疑い、変化をチャンスに変える方法

#マーケティング #固定観念 #顧客理解

売り手が 「当たり前」 と思っている常識が、実はすでに現実と大きくかけ離れていることがあります。このギャップに気づかないまま商品開発やマーケティングを続けていれば、チャンスを見逃してしまうかもしれません。

では、時代や環境の変化に合わせてビジネスをアップデートするには、どうすればよいのでしょうか?

今回は 「おひとりさまの家」 というユニークな住宅商品から、学べることを掘り下げます。

ベースホーム 「おひとりさまの家」 


出典: @Press

住宅販売の BASE MAKE を運営するベースホーム石川店が、単身世帯や小規模家族用の住宅 「おひとりさまの家」 の販売を始めました。

特徴はコンパクトな注文住宅です。具体的には、床面積は20坪 (約66平方メートル) ほどで、ファミリー向け住宅の平均的な広さの半分ほど。価格も1400万円程度からとお手頃です。

防音室やサウナ、大型バイクを室内に置けるスペースを設けるなど、趣味やライフスタイルを楽しむための工夫が随所に見られます。防音室やバイクガレージに加え、ペットと暮らすためのアイデアや教室を開業するためのレイアウトなど、多彩なバリエーションが用意されています。

石川県は2024年に能登地震の被害を受けた地域でもあり、耐震構造や災害対策へのニーズが高まっています。「おひとりさまの家」 では災害拠点並みの耐震基準をクリアするなど、セキュリティ面も強化しました。

学べること


では 「おひとりさまの家」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

その 「常識」 は本当に今の 「事実」 か

かつて家といえば、親2人に子ども2人という4人家族向けの家が標準的なイメージでした。多くのハウスメーカーや不動産関連企業は、4人家族というファミリー像を前提とした商品設計・販売戦略を続けてきました。

しかし、実際の日本の世帯構成は今や違います。1人世帯や2人世帯が6割以上を占め、4人以上の世帯は2割弱にまで減少しました。4人家族はマイノリティの部類に入るのです。

それでも昔からある 「家 = 4人家族向け」 という発想は、まだ根強く残っていることでしょう。固定観念が悪いわけではありませんが、生活環境が変わっている中で 「今も昔と同じニーズがあるはず」 と思い込むのはリスキーです。

ベースホームの 「おひとりさまの家」 は、実は日本での最大セグメントともいえる単身・少人数世帯を的確に捉えた注文住宅なのです。

もし 「家はファミリー向けが当たり前」 という固定観念にとらわれたままだったら、最も大きいボリュームゾーンである単身・二人世帯という大きな市場ニーズを見過ごしていたことでしょう。今は少数派となったファミリー層ばかりを追いかけてしまっては、ビジネスチャンスをみすみす逃しているのと同じです。

業界やビジネスにおける 「常識」 は、本当に今の 「事実」 と合致しているのか――。一度立ち止まって、客観的なデータと照らし合わせてみる必要がありそうです。

思い込みより 「事実」 。データに基づいた現実対応が道を拓く

固定観念という色眼鏡を外して市場や顧客のリアルな姿を見るためには、事実や現実を客観的なデータにもとづいて把握することが大事です。事実に即して戦略を立て、行動に移していくことが、変化に適応するビジネスとするための鉄則です。

ベースホームは 「単身世帯には、コンパクトで手頃な価格の一戸建て住宅のニーズがあるはずだ」 という仮説にたどり着いたのでしょう。

 「おひとりさまの家」 は地震で被災した能登地方の石川で展開されています。被災によって住まいを失った方、あるいは一人暮らしになった高齢者の方々にとって、高額な住宅の再建は大きな負担です。そこに、比較的安価でかつ災害拠点と同等の耐震基準を満たす 「おひとりさまの家」 は、生活再建の希望となります。これも地域の現実に寄り添った対応と言えます。

長年の勘や経験が役立つ場面もあります。一方で客観的なデータや揺るぎない事実にもとづいた判断が、ビジネスの舵取りにおいては重要です。思い込みや感覚だけで突っ走るのではなく、まずは事実はどうなっているのかを徹底的に調べることから始めてみるといいでしょう。

 「思い込み」 と 「現実」 のギャップこそ、チャンスの宝庫

想定 (思い込みや過去の成功体験) と、事実 (現在の市場データや顧客のリアルな声) の間には、多かれ少なかれギャップが存在します。

ギャップは問題として認識されがちですが、見方を変えれば、このギャップこそが新しいビジネスチャンスが眠る宝の山になります。

他の誰もがまだ気づいていない、あるいは見過ごしている事実にいち早く気づき、そのギャップを埋めるような新しい価値を提供する――。ベースホームの 「おひとりさまの家」 は、住まいと世帯にまつわるギャップをビジネスチャンスと捉え、変化に適応した事例です。

変化の激しい時代だからこそ、思い込みと事実のギャップに敏感になることが大切です。ギャップを発見したら、ピンチではなくチャンスかもしれないと前向きに捉えることで、宝の山への切符が手に入ります。

変化を過度に恐れるのではなく、むしろ楽しむくらいの気持ちで世の中の動きにアンテナを張り、データと向き合い、常識を疑ってみる。そうすれば、きっと新しい道が拓けてくるはずです。

 「顧客は誰か」 を問い続ける

あらゆるビジネスは、突き詰めれば 「誰に、どんな価値を提供して、喜んでもらうか?」 という問いに集約されます。

誰にの部分である 「自分たちの顧客は誰なのか?」 を明確に定義することが、ビジネスのスタートラインです。

 「おひとりさまの家」 は、この問いに対して答えを出しています。おひとりさまと言われる単身世帯、そして少人数世帯です。しかし、それだけではありません。さらに解像度を上げて、どのような単身・少人数世帯なのかを具体的に描いています。

例えば、大きすぎず、高すぎない、コンパクトで手頃な価格の家を求めている人、また、気兼ねなく自分の趣味 (バイク, 音楽, ペット, サウナなど) をとことん楽しめる空間が欲しい人、他には、(特に被災を経験した地域では) 万が一の時にも安心できる耐震性の高い安全な住まいに暮らしたい人です。

このように注力顧客を明確にし、お客さんが抱える具体的なニーズを理解することにより、初めて "刺さる" 商品やサービスを生み出すことができます。

自社のビジネスでは、「顧客は誰か?」 という問いに、どれだけ明確に答えられるでしょうか?

なんとなく 「〇〇 な人たち」 と曖昧に捉え、顧客像がぼやけていては効果的なアプローチは望めません。

顧客は変わり続ける。変化に合わせて価値定義をアップデートする

一度 「顧客は誰か」 を検討し、商品開発やマーケティングを成功させたとしても、それで今後も安泰とは限りません。

時代の変化は想像以上に早く、人々のライフスタイルや価値観も変わります。数年前までは 「ネットは苦手」 と言っていた人が、コロナ禍を経てネット通販を活用するようになったケースは枚挙にいとまがありません。

住宅市場でも 「夫婦2人 + 子ども2人」 をターゲットにプランをつくったのに、想定よりも早く子どもが独立してしまうこともあれば、逆に親世帯と合流して二世帯になるケースもあるでしょう。もしかすると 「おひとりさまの家」 も、数年先にはまた別の方向性に進化するかもしれません。

ここで重要なのは 「環境や顧客は必ず変わる」 という前提でいることです。必要があればビジネス戦略を早めに切り替える柔軟性を持つことも大事です。

 「顧客は誰か?」 という問いは、一度答えを出したらそれで終わりというものではありません。ビジネスを続ける限り、常に問い続け、環境の変化に合わせて顧客像と顧客価値を再定義し、アップデートしていく必要があるのです。

まとめ


今回は、ベースホームの 「おひとりさまの家」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 固定観念を疑い、事実を見る。過去の成功体験や業界の常識にとらわれず、また、思い込みや感覚ではなく、収集・分析した客観的な事実にもとづき、市場や顧客の 「今」 を客観的に把握する

  •  「顧客は誰か」 を常に問う。自分たちのお客さんは誰なのかを明確にし、お客さんが本当に求めているニーズや課題を深く理解する

  • 変化とギャップにチャンスを見出す。市場や顧客の変化によって 「想定」 と 「現実」 の間にはギャップが生まれる。これを問題ではなく、新たなビジネスチャンスと捉える視点を持つといい

  • 変化に適応し、自ら進化し続ける。市場環境や顧客は絶えず変化するという前提に立ち、戦略や提供価値を定期的に見直し、柔軟にアップデートしていく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。