投稿日 2025/10/01

センスに頼らない。「出世魚」 モデルで捉えるインサイト

#マーケティング #インサイト #本

センスのある人は、特別な才能を持っている――。そんなふうに感じたことはないでしょうか?

企画やアイデアを考える場面で、どうしても自分の発想が平凡に思えてしまうかもしれませ。しかし実は、センスには "型" があるのです。


こちらの書籍、センスのよい考えには、「型」 がある (佐藤真木, 阿佐見綾香) では、感性だけに頼らずに再現性のある方法によって、「人を動かすアイデア」 を生み出す考え方と方法がわかりやすく解説されています。

センスに自信がない方こそ必読の一冊です。

今回は、誰でも実践できるアイデア創出やインサイト発掘の方法をご紹介します。

本書の概要



この本は、広告やマーケティングの現場で活躍するふたりの著者が、直感やひらめきによると思われがちなセンスを、実は誰にでも再現可能な 「型 (フレームワーク) 」 として捉えられることを提案します。

全6章にわたり、インサイトの定義やその価値を解説し、続いて実践に役立つ具体的な手法が紹介されます。

  • 第1章『インサイト』って何?

     「インサイト = 人を動かす隠れたホンネ」 という概念を定義し、重要性を解説。センスを生む源として、表面的なデータだけでは見つからない "裏側" に隠れた心の動きがあることを示す

  • 第2章『インサイト』の見つけ方──『出世魚モデル』

    インサイトを発掘するために著者が開発した 「出世魚モデル」 を披露。違和感の正体を探り、アイデアの種を言語化する方法が丁寧に説明される

  • 第3章 実践『インサイト』の育て方

    見つけたインサイトを、ビジネスアイデアや企画へと発展させる段階の具体的テクニックを紹介。直感を磨くためのトレーニング法や、裏側からアイデアを考える手法などが詳しく解説する

  • 第4章 逆説モデル──『出世魚モデル』を高速化する

     「出世魚モデル」 を簡略化した 「逆説モデル」 を提示。常識をあえてひっくり返し、新鮮で意外性のある発想を生み出す方法が解説される

  • 第5章『インサイト』を見つけるためのトレーニング

    インサイト思考を日常的に鍛えるための練習方法にフォーカス。日常の中や映画・小説などで心が動いた瞬間をメモする習慣づけによって、自分だけの視点を養うコツを学べる

  • 第6章『インサイト』を使うときに本当に大切なこと

    実際にインサイトを使う際に注意すべき心構えや、余分な情報をそぎ落として本質を伝える 「引き算の発想」 などが紹介される


このように本書は 「センスのある発想には型がある」 という前提のもと、ステップを踏んでインサイト思考を身につけられるようになっています。

インサイト


本書でいうインサイトとは、「人を動かす隠れた本音」 のことです。

人を動かす隠れた本音

たとえば、人が何気なく発する言葉の裏には、実際には本人自身も気づかない深い欲求、不満が隠れている場合があります。

こうした隠れた本音を言葉にできると、マーケティングや企画において成功する可能性が高いと本書は言います。人の裏側にある本当の気持ちにフォーカスし、動かす本音が何かを見極めることができれば、格段に説得力のある施策や企画が生まれるのです。

相手の心の奥底にある本音を的確に捉えることにより、心に響くメッセージが生まれ、行動変容をもたらします。

機能するインサイトの5つの条件

効果的なインサイトには、次の5つの条件が備わっています。

  • 聞き手の内面に驚きや新たな発見をもたらす
  • 発想を拡げるインスピレーションを感じさせる
  • 自分自身が心から納得できる
  • 一行で明快に表現でき、誰もが理解できる
  • 人間らしい本質が含まれている


なお、インサイトと似ているようで異なるものとして本書では、ニーズ、ファインディングス、常識や定説を挙げています。これらはあくまで表層的な情報や既に分かっている事実であり、裏側に隠れた本音とは言えません。

表面的な情報を超えて、裏側に潜む真実に迫ることがインサイトの活用で重要なことです。

インサイトを発掘する方法


では、人を動かす隠れた本音であるインサイトをどうやって発掘していけばいいのでしょうか?

出世魚モデル

この本で提案されているのが、インサイトを発掘するための具体的な手法である 「出世魚モデル」 です。

ちなみに、「出世魚モデル」 という名前ですが、出世魚は、成長とともに名前が変わる魚のことです。ブリが有名で、稚魚から成魚になるまでに何度も名前が変わります。出世魚モデルも同じように、最初の小さな気づきが段階を経て大きなインサイトに成長していく様子を表現しています。

出世魚モデルでは、日常の中でふと感じた違和感を起点に、表面的な常識とその裏側に隠れた本音を結びつけるプロセスを、5つのステップに分けて進めます。

  1. 日常の中の違和感に目を向ける [気づき・違和感]

    なんとなく 「ん?」 と感じるモヤモヤや疑問を見逃さないことが始まり。小さな違和感がインサイトの種になる

  2. 違和感を抱いた常識に疑問を向ける [常識・定説]

    自分や世間が当たり前だと思っている前提、常識を洗い出す。そこに潜む問題点や矛盾を捉えることによって、裏側にある本音 (インサイト) に近づいていく

  3. 常識の裏に隠れている本音を捉える [発想・問い]

     「本当にそうなの?」 と、常識を疑い新しい問いを立てる。ここで切り込む視点や切り口が新しい発想の起点になる

  4. 隠れた本音を自分の納得いく言葉にする [言語化]

    探り当てた隠れた本音を、短いフレーズに落とし込む。言語化が曖昧だとほかの人にも伝わりにくいので、ここでしっかり磨き込むのがポイント

  5. 言語化したインサイトを共有する [確認・検証]

    せっかく見つけたインサイトも周囲に伝わらなければ価値を生まない。データや事例も交えて検証し、インサイトへの共感や納得感を高める


本書で紹介されているノンアルコール飲料や、アルコールを飲みたいのに体質的に飲めない人のインサイト発掘では、次のように出世魚モデルが使われました。

  1. 気づき・違和感: 飲めない人って、飲める人からなんか決めつけられてない?
  2. 常識・定説: 「飲めない人は飲み会がキライ」 と思われがち
  3. 発想・問い: 飲めない人は、実は飲み会そのものがキライなわけではないのでは?
  4. インサイトの言語化: 「飲める人ばかり楽しんで、ずるい!」 
  5. 確認・検証: 定量データや定性情報、海外の事例などで、インサイトへの仮説の裏付けを取り、説得力を高める

逆説モデル

本書では 「出世魚モデル」 を簡略化した 「逆説モデル」 も紹介されています。

    みんな・世の中は、○○ だと思っているかもしれないけれど (常識・定説) 、実は / 本当は、□□ ではないか?と自分は思う (問い・言語化) 。


一文で 「常識 (表側) 」 と 「インサイトへの仮説 (裏側) 」 を端的に並べて見せるのが逆説モデルです。短時間でアイデアを出す際に有効です。

表側と裏側

インサイトを発掘するためのポイントは 「表側」 と 「裏側」 を意識することです。表と裏の対比構造がインサイト探索の基本となります。

違和感をとっかかりに、常識や定説として誰もが認識している表側を把握します。その上で、見出した常識に対しあらためて疑問や問いを持ち、隠された本音に迫っていくというアプローチです。

自分の経験や体験に根ざしたリアルな違和感や感覚を大切にし、自分の本音や想定するお客さん・消費者の本音を探ることで、深い洞察にたどり着くことができます。

自分が想定顧客の当事者でない場合でも、どれだけお客さんの切実な気持ちに近づけるかが重要です。周りの人が発するちょっとした愚痴や不満、ときには魂の叫びのようなものにはインサイトへの種が隠れています。

インサイトの言語化

インサイトの発見は 「感覚や言葉へのわずかなズレ」 に気づく作業でもあります。

例えば、ノンアルコール飲料の話では、アルコールのことを 「嫌い」 と最初は消費者心理を捉えていましたが、実際には 「 (アルコール飲料を飲み会の場で好きなだけ飲めて) ずるい」 と感じるほうが本音にあった表現でした。

微妙なニュアンスを精確に捉えて表現を工夫することがポイントです。ほんの少し言葉を変えるだけで、発想がまったく別のものに生まれ変わる可能性があります。

インサイト思考のプロセスでもっとも時間をかけたいのが、こうした言語化です。

人の感情は多様かつ曖昧で、ときに矛盾も抱えています。だからこそ、似たような言葉の中からどれがインサイトを表現する最適な言葉を磨くプロセスが欠かせません。著者いわく 「インサイトは言語化が9割」 と言っても過言ではないほど大切なことです。

普段から言葉への解像度を高める方法やトレーニングには、次のようなものがあります。

  • 類義語をリストアップして、ニュアンスの微妙な違いを意識する
  • ざっくりとした言葉で満足せず、こだわり続ける
  • 反対語や対比表現を考える
  • 自分の強い感情が生まれたときに、それを言い表してみる
  • 他者との対話を通じて、自分の感覚や周りの感覚にピタッと合う表現を見つける


言語化が、発掘したインサイトを実際に人々の心に響く価値あるコンセプトへと変換していきます。

まとめ


今回は、書籍 センスのよい考えには、「型」 がある (佐藤真木, 阿佐見綾香) を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • インサイトとは、人々の行動の裏にある、本人さえも意識していない 「隠れた本音」 や深層心理

  • インサイト発掘の出発点は、日常の中で感じる 「なぜだろう?」 や 「何か違う気がする」 といった些細な違和感や疑問に気づきこと。それを深掘りすることがインサイト発見につながる

  •  「出世魚モデル」 でインサイトを発掘できる。違和感 → 常識 → 疑問 → 言語化 → 検証 の5ステップで、気づきを本質的なインサイトに変えていく

  • 違和感を抱いた対象に関する世の中の常識や当たり前 (表側) を疑い、本当はどうなのかと問いを立てることで、隠された本音 (裏側) を探り当て、具体的な言葉に落とし込む

  • 言語化の重要性。発見したインサイトは、その本質を的確に捉えた言葉で表現することが重要。微妙なニュアンスにこだわり言葉を磨くことにより、共感を呼び、人を動かす力を持つようになる

  • インサイト思考を鍛える方法は、普段から自分の感情の動きや他者の言動に注意を払い、なぜそう感じるのかを言語化する習慣をつける。また、常識を疑う視点を持ち、様々な物事の "裏側" を考える訓練も有効


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。