#マーケティング #顧客接点 #顧客理解
お客さんのことを本当に理解できているでしょうか?
多くの企業が 「顧客理解」 の重要性を口にしながらも、実際にはお客さんとの距離が遠くなっているのが現実です。もしかすると、お客さんとの間に見えない壁があり、大切な何かを見落としているかもしれません。
その壁を乗り越え、お客さんと直接的な接点をつくるヒントが、ある出版社のユニークな書店運営に隠されています。
今回は、この事例を紐解きながら、顧客接点を持つ価値と、マーケティングの根幹である顧客理解を深める旅にご案内します。
アンダンテ
アンダンテは出版社が運営する本屋さんです。
産業編集センターが自社ビルを活用して開業した書店で、「旅と暮らしの本屋」 と謳っています。旅・暮らしのテーマに特化し、自社の刊行物だけでなく幅広い出版社の本をラインナップしているのが特徴です。
旅に関係する本、暮らし関連の本が中心なので、趣味や実用の書籍、地域ガイドやエッセイなどで棚が構成されています。こだわりを打ち出し、訪れた人が楽しくお客さんと店員さんと対話や交流も生まれているようです。
アンダンテは自社ビルの一階を店舗にし、運営スタッフには自社の編集者や営業担当者があたるなどコストを抑えています。厳しいと言われる書店経営に参入した背景には、単なる書籍販売にとどまらない狙いがありそうです。
では、アンダンテの事例から学べることを掘り下げていきましょう。顧客接点を直接持つことの重要性を学べます。
顧客接点を直接持つことの意義と重要性
アンダンテの取り組みは、企業が顧客と直接つながることの意義を教えてくれます。
顧客ニーズの発見と企画開発
消費者やお客さんと直接触れ合うことで得られる恩恵は、顧客の生の声を拾えることです。
アンダンテでは、来店客との会話やどんな本が手に取られるかといった書店でのお客さんの振る舞いや様子から動向から、人々が本に何を求めているのかへのリアルなニーズや関心のありかを探ることができます。
例えば、旅や暮らしの中でもあるテーマに関する本の問い合わせが多いことがわかれば、「このテーマは読者が求めているのに、本格的に扱った本がまだ世の中には出ていないのかもしれない」 といった気づきにつながるでしょう。こうした一次情報は、出版社として新しい書籍の企画に活かせる貴重なインプットとなります。
顧客関係の深まり
直接的な顧客接点は、お客さんとの間に信頼関係を築くきっかけにできます。
アンダンテのような旅や暮らしの本というテーマ性の高い場で、経験知識が豊富な店舗スタッフと会話を交わすことは、来店客にとって他にはなかなかできない体験です。
興味のある本を買うだけにとどまらず、アンダンテでの体験を通じてテーマ性のある本、店員、さらには書店自体への親近感・愛着が深まり、ファンのような濃いお客さんになってくれる可能性が高まります。
ブランド価値の向上
ブランドとは究極的には消費者やお客さんの頭の中にある、その商品やサービス、あるいは企業への総体的なイメージです。イメージがポジティブなもので、好ましい感情 (例: 好き, 共感, 満足, 誇り, 憧れ, 応援したい気持ちなど) が商品・サービスに伴っていれば、高級商品ではなくてもそれは立派なブランドです。
ブランドは商品やサービスへの体験を通してお客さんの頭の中に 「良い記憶」 としてつくられます。ポジティブな記憶と相まって、約束や信頼が生まれます。
アンダンテは 「旅と暮らしの出版社」 としてのこだわりを、店舗の雰囲気や独自の選書、スタッフの対応により、アンダンテでの買い物体験や読書体験によって、ブランドをつくろうとしています。
言葉だけでなく、五感で感じられる体験を提供することで、ブランドイメージはお客さんの頭の中に刻まれます。
マーケティングにおける顧客理解の位置づけ
では、マーケティング全体の文脈で顧客理解がどのように重要なのかを整理してみましょう。
マーケティングとは何か
あらためてマーケティングとは何でしょうか?
マーケティングについては、様々な方が色々な表現をされていますが、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。
お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できるわけです。
お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。
顧客理解の重要性
選ぶという行為の主体者はお客さんです。マーケティングの出発点は、お客さんを深く知ることにあります。
誰に、なぜ選ばれるのか。あるいは、なぜ選ばれないのか。その理由をお客さんの立場に立って、解像度高くお客さんのことを理解することが重要です。
出版社である産業編集センターがアンダンテという書店を運営するのは、消費者やお客さんとの直接の接点をつくり、来店客への観察や対話から顧客ニーズや顧客文脈を探ろうとしているのは、顧客理解を深めるためなのです。
終わりなき顧客理解の旅
お客さんを理解することは、あらゆるビジネスの基本です。そして、大事なのは顧客理解の探求に終わりはないということです。
変化し続けるビジネス環境と顧客
ビジネスをやっていく上で忘れないようにしたいのは、「お客さんの理解にはどこまでいっても終わりがない」 ということです。
私たちのまわりの社会環境、経済情勢、技術、規制やルール、ライフスタイルは常に変化しています。当然、その環境の中で生活する消費者、事業を展開する企業の価値観、心理、取っている行動や習慣、困りごと、ニーズも変わり続けます。
昨日まで有効だった "答え" が、今日にはもう古くなっているかもしれないのです。
理解のギャップを埋め続ける
仮に今の時点でお客さんのことをよく理解できたとしても、その直後から少しずつ、確実にお客さんは変化していきます。
よって、顧客理解ができたからといってそこでやめてしまうと、変わり続ける 「お客さんの行動や心理の実態」 と 「自分たちの認識」 のギャップが生まれ、かい離していくのです。
このギャップが大きくなると、提供する商品やサービスがお客さんの求めるものとズレてしまい、自分たちがお客さんから 「選ばれる理由」 を失いかねません。
常に顧客理解から始まる
マーケティングは顧客理解に始まり、決して完ぺきになることはないので、お客さんの理解は続いていきます。
アンダンテのように顧客接点を持ち続けること、他にも市場調査やデータ分析、消費者やお客さんについての観察、ときにはお客さんと同じことをやって顧客文脈を深く理解することなど、こうした活動を継続することはビジネスを成功させるためには欠かせない要素です。
そう考えると、マーケティングとはまさに 「終わりなき顧客理解の旅」 のようなものなのです。
まとめ
今回は、出版社が運営する書店の 「アンダンテ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客理解はマーケティングの出発点。お客さんから選ばれる理由をつくるための基盤となる
- 顧客との直接的な接点を持つことで、生の声や行動観察から得られる。一次情報からの顧客理解が新たな商品・サービス開発への洞察をもたらす
- 継続的な顧客理解は、変化し続ける消費者の価値観やニーズと自社認識とのギャップを埋める
- マーケティングは 「終わりなき顧客理解の旅」 。環境変化に合わせて顧客理解をアップデートし続けることが持続的なビジネスの成功のカギを握る
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