投稿日 2025/10/06

麻雀の M リーグに学ぶ、「パーセプションチェンジ」 と 「独自ブランド資産の構築」 からの相乗効果リブランディング

#マーケティング #パーセプションチェンジ #独自ブランド資産

自社のブランドが思うように認知されていないと感じることはないでしょうか?

もしかすると、消費者の 「思い込み」 によって、ブランドの購入や成長の機会が阻まれているのかもしれません。

そうした思い込みや、ともするとネガティブなイメージや認識を 「パーセプションチェンジ」 で転換し、「独自ブランド資産」 を育てることで、強いブランド基盤を築けます。

今回は、パーセプションチェンジと独自ブランド資産が相互に高め合い、ブランド成長の好循環を生む仕組みを、麻雀の 「M リーグ」 の実例をもとに紐解きます。

麻雀の M リーグ


出典: M リーグ

M リーグは2018年に創設された麻雀のプロリーグです。

複数の企業がチームオーナーとなり、ドラフト会議で指名されたプロ雀士 (M リーガー) たちが、年間チャンピオンを目指してチーム対抗戦を繰り広げます。

試合の模様は主に ABEMA で中継されます。その視聴者数は年々増加し、特に若年層からの支持が厚く、麻雀の新たなファン層を獲得しています。

発足当初の M リーグ、というより麻雀そのものには大きな壁がありました。世間一般に根付いていた賭博への悪印象、他には不健康 (たばこ, 徹夜でプレイする)、閉鎖的、いかがわしいといったネガティブな麻雀のイメージです。

M リーグにとっては、リーグのこと以前に麻雀へのこうした人々からのイメージを変えない限り、幅広い層に受け入れられるスポーツエンターテイメントとしての地位の確立は難しい状況でした。

そこで M リーグは、麻雀を 「老若男女が楽しめる頭脳スポーツ」 として再定義し、麻雀の魅力を広く伝えようと動き出します。その具体的なアプローチが、今回の話のメインテーマになります。

パーセプションチェンジ


M リーグ成功の要因に 「パーセプションチェンジ」 があります。まずは概念の意味から確認し、M リーグが具体的に何を行ったのかを見ていきましょう。

パーセプションチェンジとは

マーケティングにおけるパーセプションチェンジは、商品やブランドに対する人々の 「認識や価値観を変化させること」 を指します。

既存のイメージを再定義したり、新しい使い方や魅力を伝えたりすることにより、消費者の頭にある固定概念を塗り替えるアプローチです。

消費者やお客さんの頭の中にある 「〇〇 とは、こういうものだ」 という常識、思い込みや固定観念を良い意味で壊し、その商品やブランドが持つ本質的な価値や新しい魅力を理解してもらうことを目指します。頭の中の 「商品への意味合い」 を上書きするのがパーセプションチェンジです。

例えば、高価で特別な日の飲み物という認識だったシャンパンを、日常のちょっとしたご褒美という認識に変えるといったことがパーセプションチェンジにあたります。

M リーグはいかにして 「麻雀の認識」 を変えたか

では、M リーグの事例にパーセプションチェンジを当てはめてみましょう。

M リーグでは、麻雀を 「ギャンブル」 から 「頭脳スポーツ」 へと認識を転換させるために、さまざまな取り組みを実施しました。

具体的には 「ゼロギャンブル宣言」 です。M リーグ発足とともに違法賭博との決別を宣言し、小学生を対象とした大会など健全性をアピールしました。

メディアでの演出も積極的に行っています。

出典: MarkeZine

専用スタジオや AR 技術で選手やチーム名を魅力的に見せ、熱のこもった実況と解説によって麻雀のおもしろさや戦略性を強調しています。

また、パブリックビューイングやファンイベントも積極的に開催。選手とファンが直接交流できる機会を創出し、コミュニティ感を醸成しました。

出典: MarkeZine

他には、チーム戦の採用したのもパーセプションチェンジにつながったことでしょう。

M リーグは企業がスポンサーとして麻雀のチームを持ち、ドラフト制度で選手を獲得する方式を導入しました。個人戦での賭け麻雀というイメージを払拭することを目指し、プロスポーツさながらの運営スタイルを確立しました。

こうした打ち手によって、麻雀のことを 「怪しい賭博行為」 ではなく 「プロスポーツ競技」 として捉える文化をつくり、今では20 ~ 30代の若年層も視聴するコンテンツへと変貌したのです。

独自ブランド資産


パーセプションチェンジが成功すると、形成されるのが 「独自ブランド資産」 です。

ここでは、独自ブランド資産について整理したうえで、その後に M リーグがどのようなブランド資産を積み上げてきたのかを見ていきます。

独自ブランド資産とは

独自ブランド資産 (Distinctive Brand Assets (DBA) ) とは、ほかのブランドと区別するための固有の特性を意味します。

具体的には、ブランド名やロゴはもちろん、特定の色使い、形状、サウンド、キャラクター、メッセージなどが含まれます。重要なのは、これらの要素が消費者やお客さんの記憶の中でブランドと強く結びついているかどうかです。

独自ブランド資産は、お客さんの頭の中に 「ブランドへの道筋」 をつくります。ロゴを見ただけで、色を見ただけで、音を聞いただけで、瞬時にそのブランドを思い出すというふうにです。

ブランドが連想され思い出してもらいやすいほど、そのブランドがお客さんから選ばれる機会を増やします。

M リーグの独自ブランド資産の積み上げ

M リーグでは、パーセプションチェンジの取り組みとともにブランド要素を統合的に設計し、ファンやスポンサーが M リーグをイメージしやすい状態をつくり上げました。

次のような様々な要素が M リーグならではの独自ブランド資産として機能するようになりました。

1つ目は M リーグのロゴおよび名称です。

最も基本的な独自ブランド資産として、M リーグはリーグ名としてだけではなく、プロフェッショナル、クリーン、エンタメ性の高い頭脳スポーツといった、M リーグが築き上げてきたポジティブな価値観と強く結びついています。また、「M リーガー」 という呼称もそうです。M リーグで麻雀を戦うプロ選手を指すこの言葉も、ブランド資産として定着しつつあります。

2つ目は各チームロゴ、ユニフォームやチームカラーも M リーグの独自ブランド資産の構築に一役買っています。各チーム固有のロゴやユニフォームは、ファンがチームを区別でき、応援しやすい状態をもたらします。

3つ目としては ABEMA の放送スタイルもブランド構築につながっています。M リーグを放映する特徴的なスタジオセット、洗練されたグラフィック、熱のこもった実況や解説のトーンなども、視聴者にとっては 「これぞ Mリーグ」 と感じさせる、視覚的・聴覚的な要素です。

4つ目はパブリックビューイングなどの各種イベント、コミュニティです。M リーグならではのファンとの交流体験も、参加者にとっては記憶に残る M リーグでのブランド体験となります。

これらの独自ブランド資産は、M リーグを麻雀の大会という枠にとどめず、M リーグというブランドとして認識してもらうための重要な "目印" として機能します。

パーセプションチェンジと独自ブランド資産の相乗効果


ここまで見てきた 「パーセプションチェンジ」 と 「独自ブランド資産」 は、別々に存在するものではなく、密接に連携します。相互に影響し合いながらブランドを育てていくことが重要です。

新しい認識がブランド資産に新たな意味を宿す

もし、M リーグが麻雀への賭博というネガティブなパーセプションを変えることに失敗していたら、いくら立派なロゴやユニフォームを作ったとしても、それらが今のようなポジティブなイメージとなる独自ブランド資産になることはなかったでしょう。むしろ、ネガティブなイメージを増幅させてしまったかもしれません。

M リーグが 「クリーンなプロ頭脳スポーツ」 という新しい認識 (パーセプション) を人々の頭の中に持ってもらえることを目指したからこそ、M リーグのロゴは 「プロ麻雀の象徴的な印」 となりました。

また、M リーグの各チームのユニフォームは 「応援したい対象」 となり、ABEMA での M リーグの放送内容は 「観ていて楽しい知的・戦略的なエンタメ」 として認識されるようになったわけです。

パーセプションチェンジが実現することにより、新しい認識がブランド資産に新たな意味を宿します。それはあたかも、書き換えられた認識の "受け皿" の役割をロゴなどのブランド資産が果たすわけです。

独自ブランド資産がパーセプションをさらに強化する

一度ポジティブな意味を帯びたブランド資産は、今度は人々のパーセプションをさらに強化・定着させる役割を果たします。

独自ブランド資産が新しいパーセプション (認識) と結びつくことで、独自ブランド資産を目にすれば、ブランドイメージが思い起こされるトリガーとなるからです。

M リーグのロゴやユニフォーム、特徴的な放送スタイルなどに繰り返し触れることによって、視聴者は 「M リーグ = エキサイティングな頭脳スポーツ」 という認識を無意識のうちに刷り込まれていきます。新しく M リーグや麻雀そのものに興味を持った人も、M リーグのブランド体験を通じてブランドに触れ、ポジティブな印象を持つことが期待できます。

好循環のサイクル

このように、M リーグの成功の裏には、

  • パーセプションチェンジ: 麻雀に対するネガティブな認識を壊し、頭脳スポーツという新しい価値認識に変えた

  • 独自ブランド資産の形成: その過程で、リーグロゴ、チーム、ユニフォーム、放送スタイル、各種イベントなどが M リーグに結びつき独自のブランド資産として構築された

  • 相互作用: 独自ブランド資産に繰り返し接し、ブランド体験が生じることで、麻雀の頭脳スポーツとしてのパーセプションがさらに強化・定着していく。同時に独自ブランド資産も強くなる (消費者や顧客の頭の中に築かれる) 


という、パーセプションチェンジと独自ブランド資産の構築の好循環があったことがわかります。

これは、エンタメやスポーツに限らず、他のビジネスやブランド構築において応用できます。

自社の商品やサービスが、消費者や顧客に 「どのように認識されているか? (既存のブランドイメージ) 」 、そしてそれを 「どう変えていきたいか? (パーセプションチェンジ) 」 、そのために 「どのようなブランドに育てていくか? (独自ブランド資産構築) 」 。これらをひとつずつ考えることが、ブランディングにおいて重要です。

まとめ


今回は、麻雀のプロリーグである 「M リーグ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • パーセプションチェンジとは、商品やブランドに対する固定観念や思い込みを良い意味で壊し、新しい価値観や魅力を伝えることで認識を変えていくこと

  • 独自ブランド資産 (DBA) は、ロゴ、色、形状、サウンド、キャラクターなど、消費者や顧客の記憶の中でブランドと強く結びついた固有の特性や要素

  • 新しい認識がブランド資産に新たな意味を与える。パーセプションチェンジによってロゴや名称などがポジティブな印象と結びつき、記憶を呼び起こす強力なフックになる

  • 意味を帯びた独自ブランド資産は、顧客が触れるたびに望ましい認識を想起させるトリガーとなり、パーセプションを強化・定着させる

  • このようにパーセプションチェンジと独自ブランド資産の構築は相互に作用し合う。ブランドの認知、好意、支持の拡大を促す好循環を生み出す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。