#マーケティング #戦略 #LTV
顧客数は増えているのに、なぜか利益が伸び悩んでいる…。
新規のお客さんばかりを追いかけて、いつの間にか長年のロイヤル顧客との関係が希薄になってはいないでしょうか?
顧客数という数字だけでは、見落としてしまう本当の課題が潜んでいるかもしれません。
化粧品大手ポーラも同じ課題に直面していました。コロナ禍という環境変化の中、EC 強化で新規顧客は増加したものの、収益は低迷。そこで打ち出したのが原点回帰による直販強化です。
ポーラの事例から、顧客の 「量」 と 「質」 を見極める視点、そして自社の強みを見つめ直す重要性について考えます。
ポーラの原点回帰からの直販強化
化粧品大手のポーラが戦略転換に乗り出しました。グループ会社オルビスの V 字回復を実現した小林琢磨氏が2025年1月に新社長に就任し、低迷するポーラ本体の改革に着手しました。
ポーラにとっては 「原点回帰」 となる直販の強化です。既存のロイヤル顧客を維持しながら LTV (生涯顧客価値) を高める戦略を打ち出し、再投資を積極的に行っています。
ポーラは高価格帯の化粧品を取り扱い、長年にわたり訪問販売を中心に顧客基盤を築いてきました。
コロナ禍以降は EC への投資を拡充し、新規顧客獲得にも力を入れていましたが、新社長のもとで打ち出した方針は 「リアルな場での接客こそが LTV を伸ばすカギである」 というものです。直販チャネルに再び注力することによって、既存顧客との関係を深め、離れてしまったロイヤル顧客の回帰も狙っています。
商品提供だけでなく、エステ体験やカウンセリングといったポーラならではの価値も見直しました。ブランドの原点である丁寧な接客を取り戻すことによって、LTV を軸に収益構造を立て直す考えです。
学べること
それでは、ポーラの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
消費者環境の変化と自社顧客状況の構造的な把握
市場の変化は常に起きていますが、その変化が自社の顧客にどのような影響を与えているかを構造的に把握することが、有効な次の一手を打つための第一歩です。
■ インバウンド需要依存からの反動減
かつての訪日観光客による爆買いにより、ポーラもその恩恵を受けました。一時は接客の質にかかわらず商品がどんどん売れるという商況でした。
しかし、インバウンド需要が落ち着くと、当然のように売上にも影響します。加えて、需要が高まっていた時期には対応に追われ、長年支えてきたロイヤル顧客のケアが後回しになってしまいました。
■ コロナ禍による接客機会の喪失
ここにダメ押しとなったのがコロナ禍です。
対面接客を行ってきたポーラは、百貨店が休業したり、ビューティーディレクター (美容販売員) の活動が制限されたりするなどにより、既存顧客との接点が減少。インバウンドの落ち込みに加え、ロイヤル顧客とのつながりも薄れてしまったことが、長期的な減収減益につながりました。
■ 顧客の 「量」 と 「質」 を分けて可視化
コロナ後の反転を目指すために打ち出したのが、顧客を 「量」 と 「質」 に分けて捉え直す取り組みです (参考情報) 。
全体では顧客数は回復していましたが、内訳をみると LTV の高いロイヤル顧客が減少し、新規やライト層が増えていました。最終的な利益を支えるのは多くのリピート購入が期待できるロイヤル顧客です。この構造的な顧客状況を見極めることが重要でした。
戦略の明確化
顧客構造の現状を把握したポーラが次に取ったのは、事業方針の軸足を 「LTV 向上」 へと移すことでした。具体的な戦略や資源配分の指針となるものです。
■ 過度な新規獲得施策からのシフト
コロナ禍で接客機会が失われた反動もあって、ポーラは EC 投資に頼った新規顧客の獲得策を行っていました。その一方で LTV の高いロイヤル顧客が離れてしまえば、長期的な収益基盤が揺らいでしまいます。
そこでポーラは新社長の方針として、長年のロイヤル顧客を大切にする、(特に以前はロイヤル顧客だった) 休眠顧客を呼び戻すという転換が明確に示されました。
■ ロイヤル顧客への提供価値の定義
ロイヤル顧客を引き留めるには、選ばれ続けるに値するだけの顧客価値を提供することが必要です。
ポーラは、ロイヤル顧客が離反した背景を分析する中で、ポーラに求めていたのは高品質な化粧品だけではなかったことを再認識しました。ビューティーディレクターとの信頼関係にもとづくパーソナルなカウンセリング、エステなどを通じた心地よい体験、自分に寄り添ってくれる安心感といった、人と人とのつながりや体験価値こそが、ロイヤルティの源泉だったわけです。
インバウンド対応やコロナ禍で、これらの価値提供が十分にできていなかったことを認識し、あらためてポーラならではの顧客価値を再定義しました。そして、その価値を再びロイヤル顧客に届け、関係性を再構築することを目指しました。
原点回帰の直販強化と戦略的投資
LTV 向上という方針、そしてロイヤル顧客への価値提供という戦略にもとづき、ポーラが選択したのは原点回帰となる直販チャネルへの再投資でした。
■ 直営店・百貨店などリアルチャネルへ再投資
ポーラといえば、ビューティーディレクターによる対面販売から、お客さんとの関係を築いてきた会社です。
ポーラはコロナ禍で一時的に縮小した接客・販売体制を立て直し、強化していく方向に舵を切りました。具体的には、直営店の改装や百貨店での接客スペース強化など、リアル販売チャネルに投資を振り向けました。
■ 共通 ID 「ポーラ プレミアム パス」 を軸にした顧客データ統合
リアルでの接客機会が増えても、顧客理解が深まらなければ LTV は向上しません。
そこでポーラは、直営店や百貨店、EC も横断する共通 ID を導入し、顧客データを一元化しました。購入履歴やエステ利用状況などを統合して可視化し、ロイヤル顧客に最適な提案を行う体制を整備しています。オンラインとオフラインをまたぐシームレスな顧客情報の管理です。
■ 伝統のエステサービスの深化やランドマーク型サロンの整備
もうひとつの投資先としてポーラが注力しているのが、エステサービスを含むサロン運営です。
ポーラは創業以来、エステを中心とする総合的なビューティーケアも提供してきましたが、近年はインバウンドや EC 需要が膨らんだことでやや注目度が下がっていました。ポーラはエステが強みであるという原点回帰の発想のもと、旗艦店 「ポーラ ギンザ」 をリニューアルするなど、ブランドの象徴となるサロンの展開に乗り出しています。
施術やカウンセリングによって、客単価やリピート率を引き上げることが可能なリアルチャネルは、LTV 向上に貢献することでしょう。
汎用的に学べるポイント
ポーラの事例から、ビジネスに活かせる普遍的な学びを整理してみましょう。
■ 環境変化の察知
ビジネスでは、環境変化へのすみやかな察知と、次の一手を検討し実行するスピード感が求められます。
ポーラはインバウンド需要が急拡大し、やがてコロナ禍で急激に萎んだという外部環境の変動を捉えました。コロナ禍で対面販売の弱みが顕在化し、既存顧客との接触が減少したことを把握したわけです。
■ 顧客理解と構造的な把握
顧客数が増えたとしても、LTV が高くないライトユーザーばかりでは長期的に利益を確保できません。
顧客全体を 「量」 だけで捉えるのではなく、中身の 「質」 も見ることが大事です。どの顧客層が利益の源泉となっているかを把握し、顧客理解にもとづいて戦略を組み立てることが重要になります。
■ 戦略の立案 (方向性の明確化)
ポーラは新社長の下、一時的に EC に偏っていた方針を転換し、ポーラの原点である直販チャネルへ再投資するという明確な方向性を打ち出しました。
チャネル別や部門別の細分化された KPI (重要業績評価指標) を追うのではなく、企業全体として何を目指すのか (LTV 向上) 、どの領域に注力するのか (直販店やリアル接点の強化) を示したわけです。顧客への提供価値の定義を明確にするというのもポイントです。
■ 戦略にもとづいた意思決定と実行
戦略が決まれば、投資配分や組織体制も戦略に合わせることが重要です。定めた戦略にもとづき、リソース (ヒト・モノ・カネ・情報) を配分し、具体的な施策に落とし込んで実行します。
ポーラの場合は、EC 重視の施策にあてていた予算をリアルチャネルへ再び振り分けることです。実行にあたっては、顧客データ活用やエステサービス強化など、具体的かつスピード感のある施策を打ち出しました。
これらのポーラの取り組みは、業種や企業規模に関わらず、事業を成長させていくためにヒントになるプロセスです。
まとめ
今回は、化粧品会社のポーラの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 環境変化への迅速な対応。環境変化をすみやかに捉え、影響を受ける自社の構造を見直す。変化と事象解釈・洞察を戦略に転換することが重要
- 顧客の量だけではなく質も重視する可視化と戦略立案。顧客数にとどまらず、LTV の高いロイヤル顧客 (質) を識別し、優先的に対応する
- 自社の強みへの原点回帰。一時的な市場トレンドに振り回されず、自社の本質的な強みや価値提供に立ち返ることが長期的成功につながる
- 顧客価値の定義の明確化と明確な経営方針の確立。全社的な目標 (LTV 向上など) を定め、部分最適ではなく全体最適の視点で戦略の整合性をとる
- 戦略に合わせたリソース再配分と実行。定めた戦略にもとづき、人・モノ・金・情報などのリソースを効果的に配分し、組織全体で一貫性とスピード感を持って実行する
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