#マーケティング #ジョブ #ワーカー
取り上げたいのは、コンビニエンスストアに設置されているマルチコピー機です。
マルチコピー機が、今やアイドルやアニメキャラクターなどを応援する 「推し活」 にとって、なくてはならない存在になっているという話です。
この現象をマーケティングの 「ジョブ理論」 で掘り下げると、商品が顧客に選ばれる本質が見えてきます。
コンビニのマルチコピー機と推し活
シャープ製のマルチコピー機は全国約3万2000店舗のコンビニに設置され、市場の約 60% を占めています (参考情報) 。
コピー機能だけでなく、ブロマイドや限定コンテンツをプリントできる 「コンテンツプリントサービス」 が推し活ユーザーに支持されています。
マルチコピー機が本格的に推し活のために利用されるようになったのは、2018年頃からです。
エンターテインメントユニット 「すとぷり」 のオリジナルブロマイドが、店頭販売で2億円超の売上を記録したことがきっかけでした。当時の女子中学生を中心に、150円から200円というお小遣いの範囲で購入できる価格設定がヒットの要因となりました。
その後、コンテンツプリントサービスの売上は順調に成長。2023年には2019年比で約2倍になりました。ゲーム実況者、2.5次元アイドル、韓流アイドル、YouTuber など、様々なジャンルのコンテンツが提供されるようになっています。
では、コンビニのマルチコピー機が 「推し活」 の必需品になっているという話から学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの 「ジョブ理論」 の観点から学びが得られます。
ジョブ理論
ジョブ理論は消費者や顧客の 「ジョブ」 に焦点を当てるマーケティング理論のひとつです。
ジョブとは
ジョブの定義は、「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。
ジョブは英語では "Jobs to Be Done (JTBD) " といいます。日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。
ジョブには 「人が置かれた状況をどう変えたいか・より良く進歩したいか」 という視点が含まれます。
商品・サービスはジョブを完了させる 「ワーカー」
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることにあります。お客さんが商品を働き手である 「ワーカー」 として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了し、顧客の状況が進歩するという考え方です。
お客さんが商品を買って期待するのは進歩であって、商品そのものではありません。この認識が大事です。
コンビニのマルチコピー機への当てはめ
ではジョブ理論を、マルチコピー機の事例に当てはめてみましょう。
マルチコピー機を 「雇用」 する人 (注力顧客)
この事例の顧客は、アイドル、アニメキャラクター、ゲーム実況者、YouTuber などを熱心に応援する推し活に励むファン層です。
その範囲は女子中高生から社会人、首都圏の人から地方に住んでいる人まで多岐にわたります。
ファンが遂げたい 「進歩」 とは?
ジョブを捉えるためには、ジョブがどのような 「状況」 で生じているかを理解することが大事です。状況という原因があってジョブという結果が表れるという因果関係です。
お客さんが心から雇用したいと思い、そして繰り返し雇用したくなる働き手である 「ワーカー」 となるためには、お客さんの片づけるべき 「ジョブの文脈」 まで深く理解することが重要です。
マルチコピー機を 「雇用」 するのは、ただ単に 「紙に何かを印刷したい」 からではありません。特定の 「状況」 において、以下のような 「ジョブ (遂げたい進歩) 」 を抱えています。
[ジョブ 1] 推しへの想いをカタチにして、もっとつながること
SNS で見た推しの素敵な画像のことを、デジタルデータだけでは物足りず、「いつでも見返せるように手元に置きたい」 「スマホケースに入れて持ち歩き、日常を共にしたい」 という進歩です。
所有欲や愛情表現に関連する感情的なジョブです。
[ジョブ 2] コンサートで推しに自分の存在をアピールすること
もうすぐ開催されるコンサートという状況においては、多くのファンの中で埋もれたくなく、「自分の手作りの応援グッズで想いを伝え、推しに気づいてもらいたい」 という進歩への望みです。
[ジョブ 3] ファンとしてのアイデンティティを確立・共有すること
雑誌の特典や期間限定コンテンツが発表された状況では、ファンなら当然持っていたいという思いから、「限定グッズを確実に手に入れ、ファンである証としたい」 、また 「それを SNS で報告し、仲間と喜びを分かち合いたい」 という気持ちです。
推し界隈への所属欲求や自己実現につながるジョブです。
最適なワーカーとなるマルチコピー機の 「ジョブスペック」
マルチコピー機は、こうしたファンのジョブをスムーズに完了させるための、優れた 「ジョブスペック (機能・特性) 」 を備えています。
[ジョブスペック 1] 高い利便性 (24時間365日・全国約3万2000店舗)
ファンが 「推しのグッズが欲しい!」 と思った瞬間に、日中でも深夜でも、自宅や学校、職場の近くでマルチコピー機を使ってジョブを完了することができます。
地方在住のファンが抱えていた 「自分の地域では買えない」 という不満を解消します。
[ジョブスペック 2] 手軽さと経済性 (1枚から・お小遣い価格)
コンビニのマルチコピー機の1枚150円からという価格は、「すとぷり」 のヒット要因にもつながったように、10代の学生の推し活ファンでも自分のお小遣いの範囲で気軽に試せる 「雇用コスト」 の低さを実現しました。
[ジョブスペック 3] 多様なアウトプットによる高度なジョブ解決
普通のコピー印刷だけでなく、スマホのデコ用のためのシール紙印刷、他には、コンサート用のうちわに描く文字もマルチコピー機が活躍します。
マルチコピー機のアプリ 「コンビニビジ文字プリント」 を使って、作成した絵柄を A3 サイズで印刷シートにプリントし、うちわに貼り付けて使用するという使い方です。
このように、多様な印刷方法があることで、ファングッズを自作して推しを応援するというジョブをサポートします。
[ジョブスペック 4] クリエイター側 (推される側) のジョブも解決
マルチコピー機を利用するのは推している側だけではありません。推される側にとっても雇用をする働き手となっています。
例えば、マルチコピー機に搭載されている 「シェア機能」 を活用したクリエイターとファンの新しい関係構築です。
マルチコピー機には、クリエイターが作ったデータを API (アプリケーション・プログラミング・インターフェース) サーバーを経由してコンビニ店舗でプリントできるように、ファンやフォロワーに番号を提供する機能があります。インフルエンサーにお金は入るわけではありませんが、自分の作品をファンに広めるというジョブに対応する手段としてマルチコピー機が活用されています。
代わりに何が "解雇" されるかという視点
ジョブを完了させるワーカーには、通常は複数の雇用候補がいます。
よって、「当社の商品が新たにワーカーとしてお客さんに雇用されるためには、今雇用している何が解雇されなければいけないか?」 という競合を捉える視点が大事になります。
既存の他のワーカーでは解決されていない未充足なジョブを捉え、自分たちが新たにワーカーになり、その代わりに何が解雇されるかというリプレイス (置き換え) の視点を持ちます。何らかの選択を行う瞬間には、お客さんの頭の中でワーカーを選ぶための綱引きが行われていることがイメージしやすくなります。
マルチコピー機の場合、ファンがこれらのジョブを片付けるために、それ以前から存在した 「ワーカー (代替手段) 」 がありました。
しかし、それらのワーカーには解決できない 「未充足ニーズ」 があったため、ファンはそれらを解雇し、新たにマルチコピー機を雇用することになったのです。
では、具体的に何が解雇されたのでしょうか。
公式グッズ (通販・店舗) が解雇された理由
一般的に、推し活では時間と場所の制約があります。
チケットやグッズの販売時間が限られ、売り切れも早いものです。地方在住者は、店舗が都市部にしかなければ気軽にはお店に買いに行けません。価格も高く、特に学生には手が出しづらいというのもあります。また、画一的な商品しかなく、オリジナリティが出せず他のファンと同じものになってしまうという不満もありました。
自宅のプリンターが解雇された理由
自宅の普通のプリンターでは、品質と手間の問題がありました。
写真用紙やシール紙で綺麗に印刷するのは難しく、インクや用紙の管理も面倒だったりします。そもそも家にプリンターを所有していないというのもあることでしょう。機能の限界もあり、A3 サイズのような大きな印刷はできないことがあります。
専門の印刷業者が解雇された理由
業者に印刷を注文すると、ロットとスピードの問題が発生します。
1枚だけという注文は割高か、そもそも受け付けてくれません。注文から納品まで時間がかかり、突発的なニーズに応えられないという問題もあります。
対して、コンビニのマルチコピー機は、これらの既存のワーカーが抱えていた 「時間・場所・価格・品質・手軽さ・少量印刷」 といった未充足ニーズを解決したのです。
まとめ
今回は、コンビニのマルチコピー機と推し活の話を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の 「ジョブ (遂げたい進歩) 」 に焦点を当てる。お客さんが本当に求めているのは 「ある特定の状況で遂げたい進歩」 。商品やサービスは、ジョブを完了させるために顧客に 「雇われるワーカー」 として捉える
- ジョブが生まれる 「状況 (顧客文脈) 」 を理解する。ジョブは特定の状況という原因があって生まれる結果。お客さんに最適なワーカーとして繰り返し雇ってもらうためには、ジョブが生じる背景となるジョブの文脈を把握する
- 既存のワーカーの 「未充足ニーズ」 を見つける。新しい商品やサービスが選ばれるのは、既存の解決策 (ワーカー) では満たされていない未充足ニーズがあるから。自社の商品が新たに雇用されるためには、今ある何が解雇されるのかというリプレイスの視点を持つ
- お客さんにとっての最適なワーカーとなるために、「誰が顧客か」 「どんな状況でどのような進歩を求めているか」 「既存の方法の何が未充足か」 「どうすればジョブをスムーズに終わらせられるか」 という視点で商品やサービスを具体的に設計する
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