#マーケティング #顧客設定 #出店戦略
自社のビジネスで 「顧客は誰か」 と聞かれたとき、明確に答えられるでしょう? 「30代の会社員」 「子育て中の母親」 といった漠然とした答えになっていませんか?
良い商品なのに売れない、広告の効果が薄いという事象の根本的な原因は、注力顧客の解像度が低いことにあるかもしれません。
成田空港には最高で880万円を超えるワインを売る店があります。なぜこんな高額商品が空港で売れるのでしょうか?
その裏には 「誰に、どこで売るか」 を徹底的に考え抜いた戦略にあります。
この事例から、顧客の解像度を高め、最適な場所とタイミングで商売をする方法を考えます。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT
2024年11月、成田空港第1ターミナルにオープンした高級なお酒専門店が 「THE LIQUOR NARITA AIRPORT」 です。LIQUOR は 「リカー」 と読みます。
場所は第1ターミナル国際線の保安検査を通過した先の、中央ビル3階にあります。
約400平方メートルの売り場にウイスキーやワインなど360種類、約1万本の酒類を取り揃えています。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT では専門知識を持つスタッフが常駐し、来店客の要望に応じて商品を提案します。
驚くべきは、その価格帯です。100万円を超えるワインが珍しくなく、最高額商品はフランスの 「ロマネ・コンティ」 で884万3000円。スコッチウイスキーではアジアに数本しかないとされるビンテージのロイヤルサルートが400万円台、ザ・マッカランの M シリーズなど、超がつく高級酒が並びます。
実は、成田空港では以前から100万円台のお酒が売れるなど、訪日外国人による高級酒への底堅い需要が確認されていました。しかし、一度売れると次の入荷がわからないという問題を抱えていたのです。
円安を背景にインバウンド需要が拡大し、特に富裕層の購買意欲が高まる中、この商機を確実にするために、高級酒の調達力と販売力を強化した専門店として THE LIQUOR NARITA AIRPORT をオープンするに至りました。
では、THE LIQUOR NARITA AIRPORT の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
顧客は誰か?
売りたい商品があっても、それを必要としているお客さんがいなければ、売ることはできません。
お客さんを定める
ビジネスの第一歩は 「お客さんが誰かをはっきりさせること」 です。これができていないと、どんなにすばらしい商品を持っていても、買ってはもらえないでしょう。
お客さんが誰なのかを決めることはマーケティングの一丁目一番地です。
マーケティングの目的があり、目的を達成するための戦略を立て、戦略から施策を実行し展開していくにあたって、最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 なのです。
顧客解像度を高める
「顧客は誰か」 という問いかけは、あらゆるビジネスに当てはまります。自分たちのビジネスがどういうものかを知るために良い方法は、「顧客は誰か」 という問いを投げかけることです。
様々なお客さんをひとくくりにせずに、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながります。
お客さんは誰かを決めることはマーケティングの成功のカギを握ります。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT の顧客設定
THE LIQUOR NARITA AIRPORT は、「顧客は誰か」 という問いに対し、明確な答えを持っています。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT が注力する顧客は、ただ単にお酒が好きな人や、漠然とした旅行客ではありません。顧客像の解像度をもう少し高めた 「インバウンド (訪日外国人) の富裕層」 に狙いを定めています。
注力顧客を絞り込むことにより、お客さんを明確にすることで、自社のビジネスの輪郭をはっきりとさせることができます。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT のケースでは、日本人富裕層はターゲットから外しています。
日本人であれば、成田空港から出国前の状況で高額な買い物をせずとも、懇意にしている百貨店の外商などを通じて、より時間をかけて希少な酒を手に入れることができます。日本人の富裕層にとって、空港で買う必然性は低いわけです。
また、一般的な旅行客もターゲット顧客ではありません。数十万円から数百万円という価格帯は、通常の旅行土産の予算をはるかに超えています。
このように、買ってくれないであろう人たちを最初から除外し、本当に価値を感じてくれるであろう顧客は誰なのかを突き詰めた結果が、インバウンドの富裕層という THE LIQUOR NARITA AIRPORT の顧客設定につながったのです。
顧客がいる場所で商売をする
「顧客は誰か」 が明確になれば、次の問いは 「その顧客はどこにいるのか」 です。
魚がいる釣り堀で魚を釣る
ビジネスを釣りに、お客様を魚に例えるのは適切ではないと思いますが⋯、インバウンドの富裕層という釣りたい魚が最も多く集まる釣り堀はどこかと考えることができます。
来日した富裕層は日本各地の高級旅館や観光地に滞在しますが、日本に入国・出国する際には、ほぼ例外なく国際空港を利用します。高級旅館やホテルと提携する選択肢もありましたが、それでは特定の施設の利用者にしかリーチできません。
その中でも、各種統計が示すように成田空港は外国人入国者数が日本一です。成田空港は、ターゲット顧客が最も高い確率で通過する場所なのです。
場所の解像度をさらに高める
THE LIQUOR NARITA AIRPORT は出店場所を成田空港という大枠だけでなく、「第1ターミナル、国際線の保安検査を通過した先のエリア」 に定めました。この立地選定には意味があります。
保安検査後というのがポイントです。
ここでは大きな荷物は預け、手にはパスポートと搭乗券だけの状態です。チェックインも完了し、これから飛行機に乗るまでの時間をリラックスして過ごそうという心理状態にあります。高額な商品でも、じっくりと吟味し、購入を検討する心理的な余裕が生まれる瞬間です。
さらに、このエリアは免税エリアでもあります。
富裕層にとって、高額商品であればあるほど免税のメリットは大きくなります。884万円のロマネ・コンティであれば、免税による価格差は88万円以上です。最高の品揃えを、最も有利な条件で購入できます。
購入した商品をすぐに機内に持ち込めるという利便性も見逃せません。数百万円の酒を日本国内で持ち歩く必要がなく、安心して購入できる環境が整っています。
このように、THE LIQUOR NARITA AIRPORT は 「顧客は誰か」 を徹底的に考え抜いたからこそ、「その顧客が、いつ、どこで、どのような心理状態でいるか」 まで解像度高く想定し、最高のタイミングと場所でアプローチするという合理的な出店戦略が実現したのです。
顧客戦略の3つのステップ
THE LIQUOR NARITA AIRPORT の事例から、ビジネスに応用できる顧客戦略の原則が見えてきます。
成功する顧客戦略には3つのステップがあります。
顧客の解像度を高める
第1のステップは、顧客の解像度を極限まで高めることです。
例えば 「20代女性」 という漠然とした設定では戦略は立てられません。「25歳・年収500万・丸の内勤務・独身・週末は美術館巡り」 というレベルまで具体化することで、注力顧客のことが具体的に考えられます。
顧客属性だけでなく、行動パターンや価値観まで明確にすることが重要です。THE LIQUOR NARITA AIRPORT の場合は、「日本を訪れ、成田空港を利用する外国人富裕層」 まで絞り込みました。
顧客動線を見極める
第2のステップは、お客さんの必然的な動線を発見することです。
想定する注力顧客が必ず通る場所はどこか、いつ、どんな心理状態でそこにいるのかを考えます。
インバウンド富裕層が多く通る場所が成田空港でした。観光地や宿泊先は人によって異なりますが、国際空港は例外なく通過する場所です。
最適な顧客接点をつくる
第3のステップは、最適なタイミングで顧客接点をつくることです。
購買意欲が高まるであろう瞬間を狙い、競合が少なく注力顧客に接触できる場所を選びます。
成田空港での保安検査後のエリアは、この条件を満たしていました。リラックスした心理状態で、免税メリットを享受でき、競合店舗も限られる環境です。
これらの3つのステップを踏むことにより、「顧客は誰か」 という概念的な問いが、「成田空港の保安検査後エリアを通過するインバウンド富裕層」 という具体的な指針に変わります。戦略が戦術に結びつき、実行可能な施策が明確になります。
THE LIQUOR NARITA AIRPORT の事例は、マーケティングの基本に忠実であることの重要性をあらためて教えてくれます。「顧客は誰か」 を問い続け、その解像度を高めることこそが、ビジネスを成功させる第一歩なのです。
まとめ
今回は、THE LIQUOR NARITA AIRPORT の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の輪郭を明確にする。「誰に売るか」 だけでなく 「誰には売らないか」 を定義することによって、ビジネスの対象が明確になる。お客さんのことをひとくくりにせず、属性、行動、価値観まで解像度を高める
- 顧客の 「必然的な動線」 を発見する。定めた注力顧客が、物理的あるいはデジタル上で 「必ず通過する場所」 や 「利用するサービス」 はどこかを突き止める。そこが最も効率的な顧客接点となる場所 (チャネル)
- お客さんの動線の中で、自社商品と顧客文脈がフィットし、購買意欲が高まるであろう瞬間を見極める。そのタイミングと場所でアプローチすることで、購入の可能性を最大化できる
- 「顧客は誰か」 という問いへの答えが、「どこで、何を、どのように売るか」 という具体的な戦術を導く。戦略と戦術に整合性を持たせる
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