投稿日 2010/10/03

エジプト旅行記①

先月、一週間の休みをとりエジプトに行ってきました。

 
スフィンクス(左) / カフラー王のピラミッド(右)

日本とは、文化・歴史・習慣・人種・気候など全くの異世界でした。現地で思ったことや感じたこと、考えたことを備忘録として記しておきます。


■エジプトの人々

あくまで旅行中に出会った・見かけた人たちだけですが、彼らの特徴はとても人懐っこいこと。目が合うだけで笑顔を向けてくれるだけではなく、手を振ったり、「Welcome to Egypt」などと声をかけてくる。また、「Japanese?」と聞かれ、そうだと答えると「コンニチハ」とあいさつをしてくる。子供たちも同様で、とても愛くるしい笑顔をくれる。ちなみに、向こうがよく使ってきた日本語は、コンニチハ・サヨナラ・センエン(1000円)・ヤスイ・ヤマモトヤマが多かったです。

一方で、バスの窓から見ていて印象に残ったのは、カフェや町中で座っているエジプト人。彼らはタバコを吸っているくらいで、特に話をするわけではなくただ座っているだけの人たちが多かった。現地ガイドに聞いてみたところ、仕事の休憩としてカフェなどに来ているとのことだったけど、それにしてもただ座っているだけの人が多いなという印象だった。


■物売り

どこの遺跡に行っても必ずと言っていいほど出入口やバスの駐車場にいた物売り。売っているのは観光客相手の土産物で、見かけたものだけでも、ツタンカーメンとかファラオやピラミッドなどの置物、アクセサリー、キーホルダー、Tシャツ、スカーフ、帽子、カレンダー、パピルスの絵やしおり、ラクダのぬいぐるみ、定規(?)、マグネット、ガラス細工などなど。売り方の特徴はおもしろくて、一番多かったのは「1dollar」と連呼してくる物売り。あまりに「1ダラー」ばかり言ってくるので、途中からはワンダラワンダラ・・という呪文にしか聞こえなかったり。それ以外には、ヤスイヨ・Noタカイ・センエンがよく使われている印象。

こちらが買う気がないとすぐに次の観光客に移るけど、ちょっとでも興味を示すとそのしつこさはすごかったです。狙った獲物は決して離さないというか、買わないとそのまま観光客のバスまで乗り込んでくるんじゃないかと思ったほど。ガイドさん曰く、ほとんどが偽物とのことだったので一個も買わなかったけど、どんなものを実際に売っているのかちょっと手に取ってみたかったのが今更ながらの心残り。


■買い物での値段交渉

特に観光客相手のお土産は、あまり定価という概念がないように感じました。というのも、交渉次第で価格は全然違ったりするから。例えば、始めは1個1000円と声をかけられます。で、こちらが「高い」と言うと、2個1000円 ⇒ 1個1000円のハンブンなどと下がっていき、最後には1ドルと破格の値段を提示してきたりします。もっとも、現地のガイドさんに聞いてみると、さすがに1ドルは安いようですが、2,3ドルくらいでも利益は出るようです。

上記は露店でのやりとり例ですが、わりとちゃんとしたお土産屋でも定価の10%オフは基本で、現地の雰囲気に慣れてくるとそこからどれだけ下げるかを、まるでゲーム感覚でやりとりするのがとてもおもしろかったりする。最終的には下がるのは数百円の世界だけど、現地の人とのコミュニケーションが旅行の楽しさの1つだと思っています。最後はお互いおもしろかったということで握手で終わるので、買ったモノより買うプロセスが楽しい。


つづく


投稿日 2010/10/02

サウスウエスト航空の戦略と日本への LCC


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アジア最大級の LCC (ローコストキャリア) であるエアアジア X が、今年の12月9日より羽田-クアランプールを結ぶ直行便の就航を発表しました。

さらに同社は就航記念キャンペーンとして、同区間を片道5000円で提供するとあり話題を呼んでいます。通常は最低でも1万5千円程度ですので、3分の1の価格です。

ちなみにローコストキャリア (格安航空会社) には明確な定義はないようですが、Wikipedia には効率化の向上によって低い運航費用を実現し、低価格かつサービスが簡素化された航空輸送サービスを提供する航空会社と書かれています。


サウスウエスト航空の競争戦略


LCC と聞くと思い浮かぶのは、アメリカのサウスウエスト航空、とりわけ同社のとった競争戦略についてです。このあたりについては、ストーリーとしての競争戦略 - 優れた戦略の条件 に詳しく紹介されています。
投稿日 2010/09/16

世界で増加する「遺伝子組み換え作物」と日本の食料安保

9月14日付の日経新聞朝刊一面に、非遺伝子組み換え作物についての記事がありました。


■全農が米国で非組み換えトウモロコシを安定調達へ

タイトルは、「非組み換えトウモロコシ安定調達 全農、米で契約栽培」。この記事では、全国農業協同組合連合会(全農)が遺伝子を組み換えないトウモロコシを米国で契約栽培し、安定調達につなげると報じています。

なぜ全農は非組み換えトウモロコシを調達する必要があるのでしょうか。同記事ではその理由を、米国では遺伝子組み換え品の作付けが急増しており、非組み換え品の調達難に陥りかねないと判断した、と書いています。その背景として、米国ではガソリンに混ぜるバイオ燃料用のトウモロコシ需要が急拡大しており、農家は栽培に手間がかからず多くの収穫を見込める遺伝子組み換え品に移行していると指摘。ちなみに、米国のトウモロコシ作付面積に占める非組み換え品比率は約1割とのこと。逆に言えば、全農がわざわざ一定量を確保するために調達を図らなければいけないほど、米国では非組み換え作物の栽培が減少していると言えそうです。


■増え続ける遺伝子組み換え作物

遺伝子組み換え作物(Genetically Modified Organism 以下GM作物)については、日経ビジネス2010.7.19の特集記事「食料がなくなる日」でも取り上げられていました。日本にいるとあまり実感はありませんが、世界的に見ると、GM作物の作付けは増加し続けており(図1)、2010年現在で世界25ヶ国、1億3400万ヘクタールとなり、1996年と比較し約80倍に拡大しているようです。

GM作物の作付け面積の推移

出所:国際アグリバイオ事業団(ISAAA)

では一体なぜ、これほどまでに増加しているのでしょうか。さらに言えば、消費者や環境活動家らの反対運動が続くにもかかわらずです。日経ビジネスの記事では、その理由をGM作物により農家の負担が軽減することと、収穫量の増加を挙げています。農家の負担というのは、例えば害虫に耐性のあるGM作物であれば農薬をまく回数が減り、その分の作業負担やコストも低減できます。また、枯れにくいGM作物であれば収穫増も期待できます。それ以外にも、気候変動の影響を受けにくい点も挙げています。このように、なぜGM作物を作るかについて、記事で取材したアメリカのある農家のコメントがそれを象徴しています。「儲かるからだよ」。


■GM作物をめぐる論争

一方で、前述のようにGM作物に対しては、健康や環境に悪影響があるのではないかという意見もあり、こと日本においては遺伝子組み換え食品への意見はこれが主流であるように思います。スーパーで売られている豆腐などは、ほぼ全て「遺伝子組み換えではありません」と記載されています。

GM作物についてWikipediaを参照すると、その論点となっているのは次ようなものがあるようです。「生態系などへの影響」、「経済問題」、「倫理面」、「食品としての安全性」など。そもそもとして、特定の遺伝子組換え作物の安全性を指摘するのではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているという主張も見られます。


■食料安保と遺伝子組み換え作物

農水省のHPには食料安全保障について、次のような言及がなされています。「食料安全保障とは、予想できない要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために、食料供給を確保するための対策や、その機動的な発動のあり方を検討し、いざというときのために日ごろから準備をしておくことです。」

個人的には、この食料安保を実現するためには、食糧の入手先の多様化だと思っています。つまり、農水省が食料安保と結びつける自給率向上ではなく、輸入も含めた国内外からの食料の担保です。そもそも自給率などという指標を国の政策に採用しているのは日本だけであり、現在カロリーベースで40%ですが、例えば家畜用の飼料を国産のものに切り替えれば数値自体はすぐに上がるような指標です。40%だけ聞くと低いように感じますが、生産額ベースでは70%であり、自給率向上は自国だけで国民の食料をまかなうという考え方で、うがった見方をすれば食料政策において自国さえよければという鎖国をするようなものだと思います。

話を食料安保に戻すと、そのためにはGM作物も論点に入ってしかるべきだと思っています。農水省のGM作物の取組みを見てみると安全性評価を続けていますが(管轄は農水省以外にも環境省や厚生労働省など複数の省庁が絡んでいる)、国民の関心はあまり高くないように感じます。

農水省が表明するように、海外で生産された飼料用のトウモロコシや油糧用のダイズ・ナタネなどの遺伝子組み換え農作物はすでに輸入され利用されているのが現状です。世界ではGM作物が増加している中、本当に日本は今後も遺伝子組み換え作物=Noというままでいいのか。国民も含めた議論がもっとあってもいいように思います。


※参考情報

記者が見た米国農家の今 「人が食べる遺伝子組み換え作物を植え始めた」 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100716/215463/

遺伝子組み換え作物、事実上の勝利 安全性への懸念をよそに栽培農家は世界中で急増 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071214/143127/

遺伝子組み換え作物 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%8F%9B%E3%81%88%E4%BD%9C%E7%89%A9#.E8.AB.96.E4.BA.89

食料自給率の部屋 (農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html

「遺伝子組換え農作物」について pdf (農林水産省)
http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/information/pdf/gm_siryo.pdf


投稿日 2010/09/11

ホリエモンの「拝金」は今まで読んだことのない小説

ホリエモンこと堀江貴文氏の小説「拝金」。以前から気になっていたものの、なかなか買うまでには至りませんでした。

そんな中、Business Media 誠の記事に拝金について堀江氏へのインタビュー記事が掲載されており、結果から言うとこのインタービュー記事を読み買うことを決めました。その理由は、インタビュー記事の中で語られていた拝金について感じた、今までにない小説形式。具体的には、「間延びさせないストーリー展開」と「フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式」です。


■間延びさせないストーリー展開

「拝金」はライブドア事件を題材にしているので、主人公はITベンチャー企業を立ち上げ、数年で上場。時価総額を急激に拡大させていき、そしてプロ野球チームや放送局の買収を試みるというストーリーです。しかし、この小説の特徴として、1~2時間程度でさらっと読めてしまう点があり、それでいて上記のようにポイントはいくつもありかつ中身が薄いようには思いませんでした。

これは、インタビューで堀江氏自身も語るようにあえて間延びさせないようなストーリー展開を図っているからで、その意図を次のように語っています。
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芝居や映画を見に行っても思うことなのですが、ボリュームを増やすためなのか、役者の出番を作るためなのか、2時間ものにしたいからなのかよく分からないのですが、つまらないシーンが結構続くんですよね。あれが本当に必要かと言うと、いらないと思うんです。僕はそういうことを一切やりたくなかったので、どこを読んでも間延びしないようにしています。それが本来の小説なんじゃないかなと思っています。商売として考えた場合は、間延びさせた方がいいのかもしれないですが、一読者の立場からすると、間延びしない世界の方が正しいんです。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

全体のストーリーの中に枝葉の部分が少なく、ここは賛否両論だと思いますが個人的には同意する考え方です。


■フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式

インタビュー記事では、なぜこの小説を書こうと思ったかについて触れています。堀江氏は「ハゲタカ」という小説について「ITベンチャー企業像に違和感を持った」と指摘しています。社長室にある神棚やITベンチャー企業社長がピストルで殺されそうになるシーンなどがそれです。また、島耕作シリーズについても暴力団がたびたび登場することについても同様の指摘をしています。このように主人公がピストルで殺されそうになるようなあり得ない設定がなくとも、実際にあった自分が経験した面白いエピソードをつなぎ合わせるだけで、いいものが書けるはず。これが小説を書く動機の最も大きい要素と語っています。

小説に登場する人物やお店、または主人公と主要人物との出合うシーンや、上場の様子など、これらはまったくの作り話はほとんどないようです。一方で100%本当の話でもなく、これらは著者が体験したことをモチーフに組み合わせたり一部分だけ変更させたりすることでつなぎ合わせ小説にしたと言っています。

結果的に本書の最後に、本作品はノンフィクションであると書かれていますが、実際は複数のフィクションのハイブリッド化なので読み手にとって、なかなかにリアルな印象を与えてくれました。


■実際に「拝金」を読んでみて

例えばアマゾンのレビューを見てみると、「拝金」について低評価を与えている読者もいます。その理由で一番目立つのが文章表現が稚拙だという指摘です。確かに、小説で使われるその著者独特の言い回しやうまい言い方だと思わせる表現がほとんどなかったように思いました。しかし、個人的には文章への細かい部分の表現にこだわっていない(?)からこそ、スピード感を持って読めました。つまり、人によっては拝金の文章表現が低評価につながりましたが、自分にはそうはならなかったのです。むしろ、短時間でさくっと読めてよかったとさえ思っています。

特に印象的だったのは、主人公(というか堀江氏)のメディアへの意見です。特筆すべきは、ライブドアがニッポン放送の株式を取得することでフジテレビを買収しようとした05年の頃に、おそらく堀江氏が持っていた意見が現在でもそのまま当てはまることです。ネタバレになるので、これ以上は書きませんが、この部分については現代ビジネスの記事で堀江氏と田原総一朗氏の対談記事でも書かれていますので、参考に下記にリンクを付けておきます。ちなみに、拝金を読んでからこのインタビュー記事を読むとよりリアルに感じられおもしろかったです。


※参考情報

これがITベンチャーのリアル――堀江貴文氏が語る、小説『拝金』の裏側 (Business Media 誠)
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1008/24/news011.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」(ページ8~9) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966

堀江貴文インタビュー vol.3「堀江さんと孫さんとはどこが違うんですか?」(ページ1~3) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1027


拝金
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堀江 貴文
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投稿日 2010/09/05

「アップルvsグーグル」 3つの論点とその先

常に革新的な製品・サービスを提供してくれるアップルとグーグル。書籍「アップルvsグーグル」(小川浩・林信行 ソフトバンク新書)には両者の状況がうまく整理されており、いくつかのおもしろい論点が書かれていました。


■クローズドなアップルvsオープンなグーグル

これは両者の思想の違いであり、相容れない考え方です。アップルの一社クローズドな状況とは、例えばハードを制御するOSに見ることができます。Mac用のMac OS XやiPhone/iPad用のiOSはアップルの製品にしか搭載されていません。アプリなどのソフトや電子書籍等のコンテンツも然りで、アップルはこれらを自社のiTunesやApp Storeでしかユーザーは手に入れることはできません。

一方のグーグル。同じOSでもグーグルのアンドロイドは他社にも解放しています。だからスマートフォンの1つであるアンドロイド携帯と言っても、様々なメーカーがつくっておりグーグルはアップルのように管理する姿勢は見られません。

iPhoneやiPadが売れれば売れるほど、その売上はアップルに入ってきますが、アンドロイド携帯はそうではありません。アンドロイド携帯の売上はそれをつくったメーカーのもので、グーグルは直接売上を手にするわけではないのです。

これはグーグルが掲げるミッションに由来しています。彼らは次のような使命をかかげています。
Google's mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful. (Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである)
つまり、グーグルの考え方はアンドロイドも含めてグーグルの諸サービスを一人でも多くの人に使ってもらい、そうすれば「世界中の情報整理」に少しでも近づけるというものです。故に、極論を言ってしまえば、このミッションのためにはアンドロイド携帯の売上よりもアンドロイドが広く使われることが彼らにとっては重要なのだと思います。そういう意味では、グーグルというのは、そのミッションに実に忠実に運営されている組織なのです。


■アップルは道具vsグーグルは素材

アップルとはどのような企業なのでしょうか。一言で表現するのは難しいですが、特徴は人々に驚きを与える製品をつくっていることだと思います。特に最近の動きを見ていると、ユーザーの予想を超えるものを次々に打ち出している印象があります。具体的には、iPadの発売後すぐにiPhone4が、また先日9月1日(現地時間)に新しいiPodとiTunes10への音楽SNS機能追加、そしてApple TVなどです。もう少し言うと、アップルの製品は洗練されたソフトと美しいデザインを有し、個人が手で実際に直接手で触れて、時には持ち歩くこともできます。

このように道具をつくるのがアップルだとすると、グーグルがつくるのは素材であると本書では表現しています。あらためて考えてみると、グーグルが提供してきたサービスはどれも私たちが直接手で触れることができるものではなく、身体性を伴わない情報ばかりです。グーグルの検索サービス、グーグルドキュメント、グーグルマップなど、私たちに情報という素材を提供してくれるものです。

前述のグーグルのミッションを考えると彼らのやるべきことは、(1)誰もが使ってくれる技術を生み出すこと、(2)それを誰でも使えるように提供すること(オープンに配信)、の2つではないでしょうか。


■アップルのゴミをつくらない戦略vsグーグルの数打てば当たる戦略

アップルの戦略はとても美しく、ワクワクさせてくれるものだと思っています。なぜなら、自分たちの戦略が最大限に効果を発揮するセグメントを見つけ、そこに彼らの叡智であり技術を集中させるからです。また、彼らの製品にはアップル(というかジョブズ)自身が満足し、自身を持っている製品だけを提供していると思います。

それではグーグルはどうでしょうか。彼らのやり方は、その時点では世の中にはなかったりおもしろいと思ったものをとりあえず試して、その中で目途が立ちそうなものを事業として形成していくと考えられます。例えば、グーグルストリートビューは、あれば便利ですが実際に道路に専用の車を走らせて映像を撮るという発想は、グーグルにしかできないことだと思っています。グーグルブックも同様で、世界中の書籍をスキャンし電子化するということは、考えただけでも途方もないことのように感じます。しかし、それを実際に実行に移しているのがグーグルなのです。話をグーグルの戦略に戻すと、彼らのやり方はある程度は流れに任せて進化させており、民主的な方法だとも言えそうです。


■グーグルの使命を阻むもの

今回取り上げている書籍「アップルvsグーグル」では、グーグルのミッションを妨げているものは大きく3つある(あった)としています。(1)企業のイントラネット、(2)モバイルインターネット、(3)クローズドなメガSNS。

(1)企業イントラネットについては、最近では日本企業でもグーグルのGmailを業務用に使って
いたり表計算ソフトやワープロソフトを導入する事例を聞くようになりました。また、(2)モバイルインターネットは、iPhoneという強力な壁があるもののアンドロイド携帯で巻き返しを図ろうとしています。

では、(3)クローズドなメガSNSはどうでしょうか。個人的には、この領域はグーグルにとって頭の痛いものであるように思います。具体的にはFacebookやTwitterであり、日本ではmixiやモバゲー、GREEなどのソーシャルゲームのSNSも含まれます。

フェースブックがクローズドな点やツイッターも含め、ユーザーは情報をリアルタイムで共有しかつ次々に伝搬していきます。最近になって、グーグルはリアルタイム検索をリリースしましたが、それでもまだグーグルはこれらの中の情報を整理しきれていない印象があります。例えば、フェースブックのLikeボタン(いいね!ボタン)などの情報です。


■今後はどうなるのか

一方でアップルについてこれらメガSNSとの関連を見てみると、アップルと彼らの相性はいいように思います。というのは、アップルはツイッターやフェースブックのアプリを配信しており、iPhoneというモバイルとSNSやツイッターは連携がとれており、とても使いやすい道具だと感じるからです。

個人的に思うのは、アップルとグーグルというのはある領域によっては対決の構図があるものの、一方で、相互に依存していることです。グーグルにとって、アップルのiPhoneが売れるほど他の競合であるメーカーがアンドロイド携帯の開発を加速させてくれます。またアップルにとっては、iPhoneにグーグル検索やグーグルマップが使われていることを考えると、どこか協力体制も築いているとも見えます。(もちろんネットTVなど、新しい対決も発生するでしょうが)

しばらくは、アップルとグーグルだけの対決ではなく、そこにフェースブックやツイッター、Foursquare(フォースクエア)などの位置情報サービス、Groupon(グルーポン)などのクーポン系サービスといった、新しいソーシャル系サービスが複雑に絡む状態が続くような気がしています。結末はどうなるかは予想がつかないですし、そんな時代に生きることは幸運であり、そのプロセスを体験できることにワクワク感があります。


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投稿日 2010/09/04

「性」による「生」のための「死」

書籍「ヒトはどうして死ぬのか -死の遺伝子の謎-」(田沼靖一 幻冬舎新書)には、次のような言葉が書いてありました。「性」による「生」の連続性を担保するためには「死」が必要である(p.147)

この本はアポトーシスという細胞の死亡プログラムの説明に始まり、「人はなぜ死ぬのか」という問いを生物学的に、そして哲学的に考察されていました。予想以上におもしろかったです。


■「性」による「生」

有性生物は、父親と母親から一組ずつの遺伝子をそれぞれ受け継ぎます。よって、子の遺伝子は父親のそれとも母親のそれとも異なる新しい遺伝子の組み合わせとなります。このメカニズムは別の見方をすると、「性」によって遺伝子のシャッフルが行われていると捉えることもできます。

このような有性生殖によって、子孫が新しい遺伝子組成を持つことのメリットはどのようなものでしょうか。それは多様性です。つまり、子孫の多様性により、ある子孫は環境の変化に適応でき、また、ウイルス等の外敵に対する抵抗力を持つことを意味します。これが、私たち人間を含む有性生物の「『性』による『生』の連続性を担保する」という戦略ではないでしょうか。


■「性」による「生」のための「死」

では、「生」のための「死」とはどういうことでしょうか。生きるために死ぬと言われると、一見すると矛盾しているようにも聞こえますが、書籍「ヒトはどうして死ぬのか」を読むとその意味がわかります。ここで言う「死」とは、細胞の死を指していて、「生」のための「死」が意味するのは、人間が生きるためには時として細胞は自ら「死」を選んでいるというものです。

今回取り上げている書籍「ヒトはどうして死ぬのか」によれば、我々の細胞の死は3つのパターンがあると説明されています。3つとは、アポトーシス、アポビオーシス、ネクローシス。簡単にまとめると下表のようになります(表1)。


このうち、アポトーシスとアポビオーシスは、遺伝子に支配された細胞の死としています。そして、「生」のための「死」を考える上では、アポトーシスがポイントとなります。またアポトーシスは本書のキーワードでもあります。

アポトーシスとは、細胞の自殺であると著者は言います。ではなぜ細胞は自ら死の道を選択するのでしょうか。本書では、アポトーシスには「生体制御」と「生体防御」という2つの役割があるとされています。

生体制御とは、個体(例えば人間)の完全性を保つ役割です。どういうことかと言うと、もし細胞が無限に増殖すれば私たちの身体は無限に大きくなりますが、そうならないのは個々の細胞が個体全体を認識し不要な細胞が自ら死ぬことで、人間としての個体を保っているのです。

もう1つの役割である生体防御では、例えばウイルスやガン細胞などの内外の敵が現れた場合、敵による異常をきたした細胞がアポトーシスによりその細胞を消去することで、個体全体を守る機能を果たしています。

ちなみに、私たち人間の成人の身体は約60兆個の細胞でできているそうです。うち、1日で死ぬ細胞数は3000億~4000億個ほどで、重さにして約200gとのことです。これにより、老化した細胞や発ガン性物質により異常となった細胞が消去されます。こうして私たちの身体では日々新しい細胞へと入れ替わっており生きているのです。つまり、人間の「生」のための細胞の「死」なのです。


■ヒトはどうして死ぬのか

ここまで、「死」を細胞のレベル、とりわけアポトーシスという細胞自らの死を見てきました。そこで、今度は「死を人としての死」を考えてみます。「ヒトはどうして死ぬのか」という本の特徴は、なぜ人は死ぬのかについて生物学的な側面と哲学的な側面の両方から書かれている点だと思います。

本書によると、動物の最大寿命と細胞上限分裂の回数は比例していると言い、それによると人間の最大寿命は120歳のようです。もちろんこれは理論上の数字であり、実際には紫外線・化学物質や暴飲暴食・ストレスなどの様々な後天的な環境・生活要因で、人間は最大寿命まで生きることができないのが現実です。

本書を読んで考えさせられたのは、「人はなぜ死ぬか」という命題についての哲学的考察でした。細胞のアポトーシスについてあらためて考えてみると、アポトーシスとは、ある細胞が自ら死を選択することで全体の細胞(例えば人間)が生きているという構図です。すなわち、個が利他的に振る舞うことで全体は利己的な存在でいられるのです。

では個を人間と捉えると、全体は何になるのでしょうか。それは人間の集合である人類と捉えることができると思います(なお、本書では全体を地球にしていますがこの記事の文脈上、全体を人類としました)。細胞はアポトーシスにより全体である人を生かしました。これと同じことが、人間と人類においても当てはまるのではないでしょうか。


■生きるとは何か

これは、自分の死生観とも言えることですが、生きることとは次の世代に何を残すかだと思っています。残すというのは、直接的には子孫を残すことであり、間接的には自分の経験や考え・意見、あるいは生き様を他人の心の中に残すことだと考えています。

子孫を残すことだけであれば、例えば産卵後すぐに死んでしまう鮭などと同様に生殖期間だけでその役割を果たすことができます。しかし、人間は生殖期を終えてもその後も何年も生きることができる動物です。この意味を考えたとき、前述の間接的な役割もまた大きいのではないでしょうか。これが、人間が社会の中で生きることの意味でもあるように思います。


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投稿日 2010/08/28

書籍 「死刑絶対肯定論」 の内容整理とそこから考えたこと


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死刑絶対肯定論 - 無期懲役囚の主張 という本をご紹介します。



著者の立場と本書の特徴


著者の考察の深さや受刑者達のリアルな実態、また具体的な提言など考えさせられる内容が多く、読んで良かったと思う本でした。

本書の特徴は著者自身が無期懲役の囚人であることです。罪状は二件の殺人です。2010年現在は、刑期十年以上かつ犯罪傾向が進んだ者のみが収容される LB 級刑務所で服役しています。

著者は 「死刑絶対肯定論」 という本書のタイトル通り、死刑在置論者です。本書では 「死刑こそ人間的な刑罰である」 とさえ言っています。

読み進めていくと、現役受刑者にしか持てない視点で書かれている内容が数多く出てきます。詳細は後述しますが、だからこそ説得力のある内容の本だと思いました。
投稿日 2010/08/22

春夏連覇の興南高校と「もしドラ」に共通する組織マネジメント

今年の甲子園は沖縄の興南高校が県勢初の夏の甲子園制覇、そして松坂大輔擁する98年の横浜高校以来の春夏連覇で幕を閉じました。

昨日の決勝戦は興南の強力なバッティングが目立ちましたが、個人的には我喜屋監督の存在も忘れてはいけないなと思っています。同監督の組織マネジメントついて、日経ビジネス2010.6.14号が記事で取り上げていました。記事のタイトルは「組織マネジメント  企業流改革で日本一に」。勝つ組織を短期間で作り上げる秘訣を、監督の語録から探っていくというものです。


■我喜屋監督の組織マネジメント

我喜屋監督の組織マネジメントのベースには、興南高校卒業後の社会人野球選手や監督以外にも、サラリーマンとしての職務の経験があるようです。
投稿日 2010/08/18

Appleはスマート自動車iCarをつくれるか?

アップル製品の情報を取り扱っている「Patently Apple」というブログがあります。今年の8月5日付で、アップルが自転車の特許を申請したと報じており、米国特許商標庁が公開した設計図のような図も掲載されています(図1)。


 出所:www.patentlyapple.com


■iBikeはアップルによるスマート自動車iCarへの布石?

このアップルによる特許申請の記事について日本のYUCASEE MEDIAは、以下のように説明しています。「車輪、ハンドルなど様々な部位に、さらにはナイキのシューズにセンサーを入れて、そこから出されるデータをiPodで集計する。これによって、速度はもちろんのこと、風速 、距離、時間、高度、標高、傾斜、減少、心拍数、消費電力、変速機などの基本データが分かる。さらには、予想進路、心拍数をパワーとスピードなども分かる。」

アップルのスマート自転車(iBike?)の記事を見た時に、始めは唐突な印象がありました。しかし自分なりにいろいろ考えると、これはスマート自動車iCarの布石なんじゃないかなと思えてきます。


■スマート自動車iCarへの布石だと考える理由

これまでは個人におけるネットとの接点はPCが主でした。そしてここ数年の潮流としてモバイルや最近はiPadなどのスレート媒体にシフトしつつある状況です。一方で、今後のネット接続デバイスとして利用が増えていくのはテレビなどの家電と自動車だと思っています。つまり、今以上に「いつでもどこでもネット」という環境で、我々がネットの存在に気づかないくらい私たちの生活はますますネットと密着するようになるのではないでしょうか。

現在の自動車業界を考えると主流なのはガソリン自動車で、今後もそう簡単にガソリンを動力とする車はなくならないと思いますが、ガソリン車から電気自動車(もしくは燃料電池車)への流れは少しずつとはいえ確実に進んでいます。例えばブレーキも電子制御システムが採用されるようになり、これは換言すると要は車の電子化で、そうなるとネットとの親和性が高くなるはずです。

そう考えると、上記で挙げたPC・モバイル・TVなどの家電・自動車の4つのデバイスにおいて、最後の自動車でもアップルがスマート自動車であるiCarを考えているとしても、違和感なく話が入ってきます。

話をiBikeに戻すと、アップルはスマート自動車iCarを開発するにあたり、いきなりスマート自動車の開発はリスクも伴うので、まずは自転車のiBikeというスモールスタートのための特許申請なのではないかと思ったのです。


■アップルのスマート自動車iCarとは

仮にアップルがスマート自動車iCarを開発するとして、iCarとはどのような自動車になるのでしょうか。iBikeがiCarへの布石であるとするならば、前述の速度・風速 ・距離・時間・消費電力などの基本データは踏襲されそうです。

さらには、これまでのiPodやiPhoneが登場した時のインパクトを考えると、既存の自動車とは一線を画すような予感もします。既存の自動車をあらためて考えてみると、車を運転するとは「ハンドル、アクセル、ブレーキで車をコントロールすること」です。もう少し詳細に見れば、ギアチェンジ(あるいはバック/停止)の操作、ミラーで周囲を把握し、スピードメーターで速度が、カーナビで行先や現在位置が確認できます。iCarでは、これら既存の自動車とは異なるユーザーインターフェイスを持つことも想像できます。もしかしたら、アクセルを踏むという操作はなく、iPhoneやiPadに見られるようなもっと直観的に操作できる車かもしれません。(一方で、既存の運転方法とあまりに変えすぎると、交通事故の要因になりかねませんが)

安全面ではどうでしょうか。今以上の車の安全性向上にも期待したいところです。もしアップルがiCarというスマート自動車を出してくる際は、これまでにない使いやすさ+安全性についてスティーブ・ジョブズは相当にこだわってくるような気もします。


■そもそもアップルはスマート自動車の開発は可能なのか

とは言いつつも、アップルはスマート自動車の開発は本当に可能なのかという懸念は残ります。なぜかと言うと、ここ最近見られるアップルのクローズドな姿勢を考えると、iCarもアップル独自開発となりそうで、果たしてアップルだけでそもそも自動車が作れるのかというのが疑問だからです。

自動車のデザインや機能、ユーザーインターフェイスはアップルらしい斬新なものが出来上がるかもしれませんが、設計や動力システムの構築などの基幹部分は今のアップルの力だけでは難しいような気もします。

よく言われるのが、アップルのiTunesやApp Store、iOSによる一社クローズドな姿勢に対して、グーグルはアンドロイドOSやクロームの提供、グーグルTV開発状況を見てもオープンな姿勢です。グーグルはすでにGoogle Maps等の車との相関性の高そうなサービスを提供していることも考えると、もしかすると、スマート自動車開発はグーグルにこそ相応しいのかもしれません。

他方、これとは違う可能性として、いっそのことアップルとグーグルともう一社くらい(テスラとか?)での合弁会社からスマート自動車を開発したらどうか、なんてこともあるかもしれません。自動車市場であればアップルとグーグルが組んだとしても、例えばモバイル広告のように独占禁止法に抵触することもなく、アップル+グーグルによるスマート自動車はなかなかおもしろい存在になりそうです。

果たして、iBikeの今後やその先の可能性はどのようなカタチで進むのでしょうか。


※参考情報

Apple Introduces us to the Smart Bike (Patently Apple)
http://www.patentlyapple.com/patently-apple/2010/08/apple-introduces-us-to-the-smart-bike.html

アップルが「スマート自転車」の特許申請 (YUCASEE MEDIA)
http://media.yucasee.jp/posts/index/4368


投稿日 2010/08/15

梅棹忠夫とドラッカーから考える情報革命のこれから

今回のエントリー記事では、梅棹忠夫、ドラッカーのそれぞれの著書から情報革命にいたる歴史を大きな流れで整理し、あらためて情報革命について考えてみます。


■人類の産業の展開史 (梅棹忠夫)

梅棹忠夫の著書「情報の文明学」(中公文庫)によると、人類の産業の展開史は次の三段階を経たとしています。(1)農業の時代、(2)工業の時代、(3)精神産業の時代(以下、情報産業とします)。「情報の文明学」がおもしろいのはここからさらに進めて、この3つの時代の生物学的意味を考察している点です。ここで言う生物学的意味というのは、受精卵が発生から自らが展開していく過程のことで、具体的には人間の体が形成されるまでの、内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つの胚葉です。以下、本書から抜粋してみます。

(1)農業の時代
生産されるのは食糧であり、この時代は人間は食べることに追われている。農業の時代を人間の機能に置き換えれば、内胚葉からできる消化器官系統の時代であり、三分類で言えば内胚葉産業の時代である。(p.133)

(2)工業の時代
工業の時代の特徴は生活物資とエネルギーの生産。人間の手足の労働を代行し、これは筋肉を中心とする中胚葉諸器官の機能充足の時代を意味する。よって、工業の時代とは中胚葉産業の時代である。(p.133)

(3)情報産業の時代
外肺葉系の諸器官は皮膚や脳神経系、感覚諸器官を生み出す。情報は感覚、脳神経に作用し、情報産業の時代は外肺葉産業の時代である。(p133-134)

以上について著者の梅棹忠夫は、食べることから筋肉の時代へ、そして精神の時代へと産業の主流が動いてきたとし、三段階を経て展開する人類の産業史は、「生命体としての人間の自己実現の過程」とも捉えることができると総括しています。(p.134)


■産業革命とIT革命 (ドラッカー)

次はドラッカーです。ドラッカーは著書「ネクスト・ソサエティ」で産業革命とIT革命について比較し、次のような内容を書いています。

(2)産業革命
産業革命が、実際に最初の50年間にしたことは産業革命以前からあった製品の生産の機械化だけだった。鉄道こそ、産業革命を真の革命にするものだった。経済を変えただけでなく、心理的な地理概念を変えた。(p.75-76)

(3)IT革命
今日までのところ、IT革命が行なったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけだった。情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じである。eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には1つの経済、1つの市場しかない。(p77-79)


■インターネットの2つの特徴

梅棹忠夫の言う情報産業、あるいはドラッカーの言うIT革命を語る上で、欠かせない存在はインターネットだと思います。もはや自分の生活や仕事においてなくてはならない存在ですが、私はインターネットの特徴は「双方向性」「個の情報発信」だと考えています。この2つの特徴の例としては、例えばmixiやFacebookのようなSNSやツイッター、あるいはソーシャルゲームなどで、ネットによりこれまでにはなかった「つながり」が実現しています。


■これまでになかった「つながり」とは

これまでになかった「つながり」をもう少し掘り下げてみます。例えば前述のSNS。SNS上では、過去から現在に至る自分の人間関係がフラットに並んでいます。例えば、小中学校時代の友達、高校や大学の友達、社会人になってからの知人もいれば、趣味を通して知り合った友人もいます。また、お互いに会ったことがない人でも、SNS上でつながることもでき、これら友人・知人がSNS上に並んでいます。SNSや携帯がなかった時には、中学校を卒業すれば次に会い近況を話す・知る時は5年後の成人式だったかもしれませんが、SNSでつながっていれば、(全てではないですが)お互いの状況を確認することもできます。

SNSが長い時間軸にわたる人間関係が並び情報がストックされるイメージな一方で、ツイッターはリアルタイムでその時その瞬間でつながるフローのイメージです。お互いがツイッターを使っているという前提はありますが、ツイッターで「○○なう」とつぶやけば状況が、楽しいやおいしいとつぶやけば感情が瞬時に伝わります。もしネットがなければ、「昨日、××を食べておいしかった」などとなり、おいしいという感情がその場にいない友人にリアルタイムでつながることはできないでしょう。


■情報革命のこれから

上記のドラッカーが言及するIT革命も考慮すると、eコマースでは買い手と売り手の距離をなくしましたが、ネットによる「つながり」ではこれまでにはなかった人と人との距離感を生み出しているように思います。やや大げさかもしれませんが、既存の人間関係の距離感を破壊していると感じます。

ここまでは「つながり」について人と人との場合を見てきましたが、「双方向性」と「個の情報発信」は何も人だけとは限らないと思います。モノと人やモノとモノのつながりも考えられます。例えば、デジタル家電と人がネットを媒体につながることや、異なる複数の家電が情報のやりとりをする可能性も十分にあります。単なる想像ですが、外部から携帯で連絡すれば、冷蔵庫と台所と電子レンジが連携し勝手に料理を作ってくれるとか、自動車と自動車がつながれば車同士の交通事故が無くせるかもしれないなど、いろんな可能性があります。

梅棹忠夫は先述の「情報の文明学」において、工業の時代になり農業は飛躍的に生産性が向上し、情報産業の時代でも工業だけでなく農業も大発展を遂げた書いています。ネットによるこれまでにない人と人、人とモノ、モノとモノがつながることで、情報革命はこれからも進化が続きそうです。


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投稿日 2010/08/08

コンテンツとして考える「花火大会」と今後の存続

昨日の8月7日は大規模な花火大会が全国各地で実施されたようです。東京では「江戸川区花火大会」、大阪は「なにわ淀川花火大会」、愛知では「岡崎観光夏まつり」が開催されました。


■花火の歴史

花火についてWikipediaをあらためて見てみると、発祥の地は中国で、一説には、作られ始めたのは6世紀に中国で火薬が使われるようになったのとほぼ同時期だそうです。日本での歴史を見てみると、花火が製造されるようになったのは16世紀の鉄砲伝来以降で、当初は主に戦のためのものでした。

今のように娯楽としての花火は江戸時代になってからで、江戸の庶民にとっては人気があったとされています。ちなみに、「たまやー」とは花火師の玉屋のことで、鍵屋とともに、江戸の時代では二大花火師の地位を築いたと言われています。


■花火大会の集客力

日本人には古くから愛され、夏の風物詩の代名詞とも言える花火大会ですが、ちなみに去年の「江戸川区花火大会」の来場者は139万人だそうです。考えてみれば、わずか1、2時間程度の花火を見るためにこれだけ多くの人が、同じ場所に集まり同じ花火をリアルタイムで楽しむというのは、あらためて花火大会の集客力のすごさを感じます。

同じ場所に・同じものを・リアルタイムに楽しむ、を他に考えてみるとぱっと思いつくのは、プロ野球やサッカーなどのスポーツ観戦、あとはアーティストなどのコンサートがあります。ただ、観客動員数を見ると、スポーツ観戦は日本では最大でも5万人規模であり、ライブとかコンサートでも5-10万人くらいだと思います。花火大会は、入場料などが基本タダ、河川敷や土手など観客スペースが大きい、などの人が集まりやすい条件があるとはいえ、一度にこれだけの人数の人が足を運ぶというのは、コンテンツとしては稀有な存在だと思います。


■花火大会とお金

一方で、花火大会に行くと気になることとして、今後の存続に不安を感じる点です。というのも、前述のように花火大会を見に行っても基本的には入場料などの費用は不要だからです。あれだけ多くの人が来ているにもかかわらず、花火大会へ直接お金がまわっていないのです。

花火大会を開催するためには、花火を製造・打ち上げる花火師の存在は不可欠であり、それ以外にもスタッフや警察による当日の交通規制や警備、あるいは観客場所の整備や仮設トイレの設置も必要です。これらの経費はどこから出ているかというと、協賛金や自治体からの予算であり、おそらく昨今の景気状況を考えれば、予算の確保も難しくなってきているのではないでしょうか。(個人による募金も実施しているようですが、量だけを考えればそれほど期待できないように思います)


■協賛企業としての魅力は

個人の利用料金は基本的に無料で、企業などの協賛金で支えられている代表的なコンテンツには民放テレビがあります。そういえばテレビの影響力・リーチ力の大きさは、ホリエモンこと堀江貴文氏が田原総一朗氏からのインタビューで、「全国民である1億人にリーチできるメディア」と表現しています。これが欲しいために、05年当時に社長を務めていたライブドアでフジテレビを買収したかったと語っています。(このインタビューはおもしろかったです。記事URLは最後に貼ってあります)

では花火大会はどうでしょうか。もちろんテレビと単純には比べられませんが、テレビ番組では協賛企業によるCMがばんばん流れているのに対して、花火大会では協賛企業の存在を意識する場面がほとんどないように感じます。企業が協賛金を出すということは、花火大会を応援したいという気持ちもあるとは思いますが、一方で、企業である以上は投資対効果も求めなければならないはずです。ROI(Return On Investment 投資収益率)においてどこまで効果があるのかを知りたいところです。


■花火文化の存続を

花火は日本では伝統的な文化であり、先述のように夏の風物詩として人々にひと時のやすらぎを与えてくれる存在だと思います。一瞬の輝きに対して歓声が起こり、花火の音の後の静寂に拍手が鳴り響きます。英語では花火をFireworksと言い、火の「work」と表現しますが、日本語では同じものを「花」と表現する文化です。この花が枯れないよう、毎年夏にはこれからも咲き続けてくれることを願うばかりです。


※参考情報

「江戸川区花火大会」 江戸川区ホームページ
http://www.city.edogawa.tokyo.jp/chiikinojoho/event/hanabi8/

花火 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB

東京/花火大会2010 (じゃらんnet)
http://www.jalan.net/jalan/doc/theme/hanabi/13.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」|現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966


投稿日 2010/08/07

書籍「文明の生態史観」に見るシンプル化

世界を区分する時に、東洋と西洋という分け方があります。この分け方は私たちには当たり前すぎるくらいなんの疑問も持たない区分かもしれません。しかし、「文明の生態史観」(梅棹忠夫 中公文庫)では、これとは全く異なる考え方を提示しています。


■第一地域と第二地域

この本の内容を一言で表現するとすれば、東洋と西洋ではなくA図のような「第一地域」と「第二地域」に分けられるということです。第一地域は西ヨーロッパと日本。第二地域はその間に挟まれた全大陸であるとしています。これが本書の主題です。


このA図について少し補足すると、斜線で表されている大陸を東北から西南に走る大乾燥地帯が存在します。筆者によると、この乾燥地帯は歴史にとって重大な役割を果たしたと説明されています。なぜなら、乾燥地帯は悪魔の巣、すなわち暴力と破壊の源泉だったから。ここから遊牧民その他による暴力が表れ、その周辺の文明の世界を破壊したという歴史です。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受けることになりますが、ここが第二地域の特徴です。

第二地域の特徴をもう少し見ると、A図では四つの地域にわかれています。(Ⅰ)中国世界、(Ⅱ)インド世界、(Ⅲ)ロシア世界、(Ⅳ)地中海・イスラム世界。これら第二地域に関して、「古代文明はこの地域から発生。しかし封建制を発展させることなく、巨大な専制帝国をつくった。多くは第一地域の植民地や半植民地となり、数段階の革命をへて、新しい近代化の道をたどろうとしている」と説明されています。

翻って第一地域。その特徴は暴力の源泉から遠く、破壊から守られ中緯度温帯地域の好条件であったとしています。

なお、「文明の生態史観」ではA図から発展する考え方を表したものとして、以下のB図も提唱しています。東ヨーロッパや東南アジアが区分され、西ヨーロッパは日本より高緯度の部分を多く持っているのがA図に比べたB図の特徴です。



■シンプルに考えること

この第一地域と第二地域に分ける考え方は非常にシンプルなものです。もちろん、上記のような図では世界を詳細には説明できるとは思いません。この点は著者も十分承知しており、「この簡単な図式で、人間の文明の歴史がどこまでも説明できるとは思っていない。細かい点を見れば、いくらでもボロがでる」と書いています。個人的に思うのは、この分け方は主にヨーロッパとアジアを中心とするユーラシア大陸の分け方なので、中南米やアフリカ、そしてアメリカを加えると修正点も出てくるかもしれません。特にアメリカについては、ヨーロッパ等に比べるとその歴史は浅いものの、現在を語る上では欠かせない存在です。

ただ、この本を読んで思ったことは、複雑なものごとを捉える時にはシンプルに考えることが大事だなという点です。複雑系をシンプルに表現するということは、物事の枝葉をそぎ落とし本質に迫るということだと思います。逆に言えば、本質を把握できないと正しくシンプルに表現できないのではないでしょうか。


■現場の情報

もう一つ、この本を読む中で考えさせられたことは、自分の目で現場を見ることの大切さでした。本書の冒頭で、著者は次のように説明しています。「私が旅行したアジアの国々についての印象。もう一つは、私のアジア旅行を通してみた日本の印象を書こうと思う」。実際に本書では著者が訪れたアジアを中心とする多くの国々のことが書かれており、それは自分の目で見た世界でした。これらの情報を踏まえての第一地域と第二地域が説明されており、説得力を感じます。

自分の目で見る、直接触れるなどの体験は、大切にしたいものです。


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投稿日 2010/08/06

書評: リ・ポジショニング戦略 (ジャック・トラウト / スティーブ・リブキン)

「リ・ポジショニング戦略」(ジャック・トラウト、スティーブ・リブキン 翔泳社)という本を読みました。リポジショニングやリデザインは、今の自分の仕事におけるテーマと言っていいものです。


■ポジショニングとリ・ポジショニング

両者を簡単に説明すると以下のようになります。

ポジショニング : 潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかと差別化すること
リ・ポジショニング : ポジショニングイメージの刷新

ちなみにリポジショニングについては、本書では次のように説明されています。「市場の消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくものだ」。一度消費者が持ったイメージというのはなかなか変わらないというのは同意できる考え方です。著者は、リポジショニングにおける大事な点は一貫性であり、あきらめずに同じことを何度も続ける必要があるとしています。


■「戦略BASiCS」に見る一貫性

書籍「経営戦略立案シナリオ」(佐藤義典 かんき出版)では、戦略策定のための「戦略BASiCS」というフレームが紹介されています。BASiCSはそれぞれ以下の要素の頭文字をとったものです。

◆Battlefield(戦場・競合)
どこで戦うか。戦場は顧客の心に中に存在する選択肢。よって、競合を決めるのは顧客である。

◆Asset(独自資源) & Strength(強み・差別化)
戦略は、自らの強みを活かして差別化していくことが基本。差別化するとは、競合より高い価値を顧客に提供することである。差別化を長期的に支えるのが「独自資源」。つまり、独自資源と差別化は連動する。

◆Customer(顧客)
顧客の価値に合わせ、経営戦略も顧客の視点で考える。

◆Selling Message(メッセージ)
「価値」を伝えるメッセージ。差別化ポイントを価値に翻訳して顧客に伝えるもの。

この戦略BASiCSを考える際には、5つの要素の「一貫性」が非常に大切であると著者は説明します。例えば、顧客を絞ると、戦場(市場)や顧客が決まります。同時に、自らの強みが差別化され、強みは独自資源によるものでなければいけません。また、顧客へ届けるメッセージも差別化が顧客にとっての価値を表現する必要があります。


■リ・ポジショニングと戦略BASiCS

「リ・ポジショニング戦略」を読んでいて、ふと「戦略BASiCS」が頭に浮かびました。リポジショニングは「言うが易し行うが難し」だと思いますが、リポジショニングを考える際には戦略BASiCSがヒントになるかもしれません。例えば、独自資源や強みにそぐわないリポジショニングであれば、いずれはその地位は失われるはずです。自社の強みに合ったリデザインであっても、そもそもとして顧客にとっての価値は少なく魅力的でなければ、単に自社の強みを自慢したいだけにしか映りません。

ポジショニングをすることで顧客に選ばれたとしても、いつかは陳腐化してしまいます。リポジショニングに成功したとしても、一度くらいではいずれ陳腐化するのでしょう。

「リ・ポジショニング戦略」の帯には、次のような言葉が書いてありました。「マーケティングは人々の認識との戦いである」。今思うのは、戦いの修飾語に「終わりのない」という言葉がつくのかもしれないということです。



投稿日 2010/07/31

今さら電子書籍を考える

米アマゾンは7月28日、キンドルの新機種を発表しました。同社のベゾスCEOによると、ダウンロードと読書をさらに容易にすることで、アップルのiPadとの差別化を図るという考えを示しています。興味深いのは、ツイッターやFacebookとの連携機能が加わり電子書籍にもソーシャルの流れが見えてきたことです。また、日本語を含む複数の言語が新たに追加されたようです。

今回は、少し今さら感もありますが電子書籍について考えたことを記事にしてみます。


■電子書籍の所感

このパラグラフの前提として、現在の自分の電子書籍端末は、スマートフォン(iPhone)とPCだけです。本当はiPadなどのタブレットPCやキンドルなどの電子書籍専用端末から読んだ上で述べたほうがいいのですが、今の電子書籍に対する印象は概ね以下の通りです。

(1) 速読しづらい
本を読むということだけに特化すれば、紙の本が圧倒的に優れていると思います。ケータイ小説などは別ですが、ある程度の文量になると一定時間内に読める量では紙の本に分があります。また、ページをめくるという行為が紙のほうが繰りやすいことも関係していそうです。(紙の本は三次元で読書できるのに対して、電子書籍は二次元です)

(2) 紙のほうが頭に入りやすい(理解しやすい)
これは(1)とも関わってきますが、電子書籍で読んでいると内容が頭に入ってきにくい時があると感じます。電子書籍を読むということに慣れていないだけだといいのですが、本の内容にもよりますが理解度でも紙と電子書籍で差があるように思います。

(3) 電子書籍は読むより保存に向いている
(1)(2)も合わせて考えると、電子書籍の強みは「保存」と「検索」です。紙という物質で存在するのに対して、電子書籍はデータで保存できます。故に電子書籍端末に紙では持ち歩けないほどの量を入れておくことができ、データであることで検索との相性も良い。例えば、後からあらためて読みたい箇所を探すのは、紙の本では苦労することが多い一方で、電子書籍なら検索で一発で探せるはずです。


■日経電子版モデル

さて、今年に入り日経新聞が新たに電子版を創刊しました。電子版を読むには、電子版のみを購読するか紙+電子版をセット(Wプラン)で購買するかのどちらかです。

この紙+電子版をセットで売るというビジネスモデルは書籍にもあってもいいかもしれません。というのは、上記の電子書籍の3つの所感を踏まえると、紙と電子書籍は自分の中で役割が異なるので、であれば両方買うのはありだと思うからです。役割が異なる点を少し具体的にイメージしてみると以下のようになります。
 ・ 紙の書籍:基本読むのは紙のほうで
 ・ 電子書籍:旅行など紙を持ち運びづらい場合に紙の代用として。保存用

ちなみに日経Wプランは紙の新聞購読料金に追加1000円で紙と電子版の両方なので、だいたい25%プラスでお金を支払うイメージです。日経電子版は紙の新聞にはない情報が含まれていることを考えると、例えば本の定価のプラス20%くらいの値段で紙の本+電子書籍が買えるのではれば個人的に結構魅力です。あるいは、紙の本を先に買って内容がよければ後から電子書籍を買えば、電子形態で保存しておき、紙の本は売ってもよさそうです。

(もっとも、自分で本を「自炊」するという手間をかければいいという気もしますが)


■マトリクスから考える本との関わり

ここまで考えてきた電子書籍の役割を考慮し、位置づけを整理してみました(図1)。



横軸は自分にとってのストックかフローかどうか。フローは返却したり売ったりと、常に手元にはない状況を指しています。縦軸は上質か手軽かで分けていますが、上質は自分にとって思い入れのあるものであったり、貴重な資料など。今のところ、こんな具合で本との関係ができればなと思います。

こうしてあらためて見てみると、自分が読む本という形態が電子書籍だけになるという状況は当分はなさそうな気もします。技術が発達し電子書籍端末で紙並の読み方が可能になったり、電子書籍でしかできない体験(ソーシャル機能による本を通じた今までにない「つながり」)ができるようにならない限りは。


投稿日 2010/07/27

リバース・イノベーション

■カギはリバース・イノベーション

「これからの時代は先進国中心の研究体制では勝ち抜けない」。日経ビジネス2010.7.19の「賢人の警鐘」では、ゼネラル・エレクトリックCEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトが抱く危機感から始まります。

では、どうするのか。カギは「リバース・イノベーション」だと言います。
投稿日 2010/07/25

「情報」と「情報入手媒体」を考える

前回の記事では、「新聞消滅大国アメリカ」という本から新聞やジャーナリズムについて取り上げました。今回の記事でも同じテーマをもう少し考えてみたいと思います。


■情報入手媒体という意味では新聞衰退は仕方ない

私は新聞は宅配でとっていますが、なぜ自分は新聞を買っているのかを考えてみると、(当然ですが)紙面に書いてある情報を手に入れるのが目的です。朝刊で言うと前の日の夜中までくらいの情報をその日の朝に得るためです。ただ、新聞以外にもテレビやネットを利用し情報を入手しているので、必ずしも新聞でなければいけないことはないのが正直なところです。

「新聞消滅大国アメリカ」に書かれいるように、新聞業界は縮小傾向にありこの流れはある程度は仕方ないのではないでしょうか。ただし、それは新聞という情報媒体についてであり、情報提供者である新聞記者や編集者がいなくなっていいというわけではないと思っています。

その理由は、新聞から得られる情報(ニュース記事等)は自分一人ではとても入手しきれない貴重な情報だからです。もちろん、ネット上には無料でニュース記事が多くありますが、それも元をたどると新聞記事がネットでも転用されたものだったりします。


■ジャーナリズムに期待すること

ここで、このニュースなどの情報についてあらためて考えてみると、大きくは2つに分けることができると思っています。すなわち、「事実」としての情報とその事実に基づく「分析や見解・意見」です。また、記者が情報を得る方法も例えば、「人に聞く」という取材と、「調べる」という2つを考慮すると、新聞やネットに掲載されている情報は下図のように整理できそうです(図1)。


マトリクスの各情報が今後も私たちが入手できること、これが報道やジャーナリズムにこれからも期待したいことです。


■情報入手媒体の整理から

ここまで、新聞等で掲載される情報について見てきました。情報について大事な点だと思うことにその伝達手段があります。受け手の側から言うと情報を何から得るかということ。ぱっと思うつく自分の情報入手する媒体を整理すると、以下のようなマトリクスで分けられました(図2)。なお、人から直接聞く情報や店頭などの現場からの情報は含めていません。


横軸は、ストック情報かフローかどうか。フローというのは、基本的には情報を蓄積せずに流れていくものです(もちろん、新聞や雑誌の切り抜き、ツイッターのアーカイブ、テレビの録画でストックすることはできます)。縦軸は静的な情報か動的なものかです。静的な情報の例としては文字などのテキスト情報が画像、動的な情報例は動画や音声情報も入れていいと思います。

こうして見ると、「新聞消滅大国アメリカ」の題材でもあった(紙の)新聞は、情報を入手する多くの手段の1つにすぎないことがわかります。となると、私たちにとってはこれら複数の選択肢がある状況においては、他の情報媒体と差別化された「強み」を持たなければいずれ消滅する可能性もあるのではないでしょうか。


■ずっと続く情報入手媒体の検討

私にとって紙の新聞は通勤時の情報入手媒体としては、読む・持ち運ぶという点で現時点で優れていると思っています。また、値段的にも、一日当たり120-150円ほどで、費用対効果もそれなりにあります。ただし、将来的も同じかと言われると、個人的にはやや悲観的な立場なのかもしれません。現在は値段的には決して高くはないと思っていますが、これからの技術革新による全く新しい仕組みができれば、もっと安いコストで情報が入手できることもあり得ます。そうなると、150円程度とはいえ無理に紙媒体の新聞を維持すると、無駄なコストが発生してしまいます。

「知的生産の技術」(梅棹忠夫著 岩波出版)という本には、情報にどう対処するかについて書かれた示唆に富む言葉があります。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15より引用)
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ちなみにこの本は、1969年に出版されたており当時はPCが全くPersonalな存在ではなかった時代ですが、この指摘は現在においても通じることだと思います。(紙の)新聞が自分の情報を入手する手段にとして必要なものなのかどうかを検討するのは、もしかしたらそう遠くはない将来なのかもしれません。


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新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
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投稿日 2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
鈴木 伸元
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投稿日 2010/07/19

書籍 「トレードオフ」

トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか「愛される商品」となるか、「必要とされる商品」になるか。

成功したければこのどちらかを選択しなければならず、両方を追い求めることは幻想にすぎない。また、決して中途半端ではいけない。

書籍「トレードオフ」(ケビン・メイニー著 プレジデント社)には、このような主張がされています。

この本は、「愛される商品:上質」、「必要とされる商品:手軽」と位置づけ、「上質」か「手軽」のどちらをとるか(トレードオフ)が大事であると説明されています。

■ 上質とは

上質の例として、音楽のコンサートが考えられます。

好きなアーティストのコンサートに行くことで、アーティストの演奏だけではなく、照明や音響効果、観客との一体感、あるいはコンサートに行ったことを知りあいに自慢できることも含め、これらの経験が音楽における「上質」であるとこの本では説明されています。

このように上質であることの要素に「経験」が挙げられますが、上質は以下の式に分解できるとしています。

上質 = 経験 + オーラ + 個性

上質な商品が醸し出す「オーラ」や、自分に合うか・自分らしさを引き立ててくれるかかどうかという「個性」です。これらがそろっていることで上質であると説明されています。

著者は、上質なものを換言すると「愛される商品」かどうかだと言います。

■ 手軽とは

上質とトレードオフにあるのが「手軽」です。

手軽とは、望むものの手に入りやすさ・使いやすさ、つまり、簡単に手に入るという意味としています。音楽の例では、上質はコンサートでしたが、手軽は iTunes でのダウンロードとなります。手軽を要因分解すると、次のようになります。

手軽 = 入手しやすさ + 安さ

上質の式と見比べることで、手軽な商品やサービスには上質の要素である個性やオーラが入り込む余地はほとんどないことがわかります。逆も同様で、すなわち、両者はトレードオフの関係にあり、上質と手軽を天秤にかける必要があることを意味します。

著者は、手軽なものを換言すると「必要とされる商品」かどうかだと言います。

■ トレードオフ

本書には、iPhone、キンドル、スターバックス、COACH、格安航空会社、ATM など、数多くの事例が取り上げられています。中には期待された商品であったにもかかわらず、すぐに廃れてしまったものもあります。著者は、上質と手軽のどちらか一方を極めることが非常に難しいことであると主張します。

なぜ、それほどまでに難しいのか。その理由は2つあります。

(1)上質と手軽の定義は時間の経過とともに変わる
理由の1つ目として、上質・手軽ともにあくまで相対的なものだからです。上質や手軽を引き上げるのは、テクノロジーやイノベーションです。新しい商品やサービスが従来の市場を壊してまったく新しい市場を創造し、上質さと手軽さをめぐる人々の選択を一変させる場合があるのです。

(2)上質か手軽かは企業が自ら判断できない
もう1つの理由は、上質か手軽かの判断はあくまで消費者がするという点です。さらに言えば、同じ商品やサービスでもそれを上質と感じるか、手軽なものだと思うかは人それぞれだということです。ここで示唆されることは、上質と手軽はセグメントごとに考えなくてはならない点です。

■ 個人にあてはめる

本書の最終章は「あなた自身の強み」です。すなわち、上質か手軽かの概念を自分自身の持ち味や強みの考え方にも適用できると書かれています。著者曰く「世の中で活躍著しい人々は、上質または手軽のどちらかをきわめているものだ」。

注意しなければいけないのは、個人の場合でも上記の上質/手軽を極めることが難しい理由が当てはまることです。(1)上質/手軽は時間とともに変わる、(2)上質/手軽の判断は自分でできない。個人的には、(1)に留意したいと思いますし、故に企業や個人に関係なく、ライバルに追い抜かれないためには、成長が欠かせないと言えそうです。


トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
ケビン・メイニー(著) ジム・コリンズ(序文) 内田和成(解説)
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投稿日 2010/07/14

ソフトバンク孫社長の「300年ビジョン」から考えたこと

少し前の話になりますが、6月25日にソフトバンクの孫正義社長による「ソフトバンク新30年ビジョン発表会」が実施されました。

発表会はユーストリームでも中継され、多数のブログでも関連記事がエントリーされています。発表内容は、孫さん自身が「僕の人生の中で、おそらく今日が一番大切なスピーチ」「30年に一度の大ぼら」と発言したこともあり、なかなかおもしろかったです。今回の記事では、発表内容の気になった部分や考えたことを書いてみます。



■「新30年ビジョン」の概要

発表の目的は、この先30年のビジョンを示すことで、「ソフトバンクをどんな会社にしたいのか」「どういう思いで事業を行っていきたいのか」の発信および共有だと思います。

アジェンダはソフトバンクの、①理念(何のために・どんなことのために事業を行っているのか)、②ビジョン(この30年先の人々のライフスタイル展望と、それに対する取り組み)、③戦略(成し遂げたいことをどのように行うか)でした。



■おもしろかった300年ビジョン

「新30年ビジョン」の発表の中に、この先の300年に対するビジョンがありました。個人的にもおもしろかったなと思う部分です。ちなみに、発表会の主題は「30年ビジョン」なのに、なぜ300年ビジョンも取り上げているかというと、孫さん曰く「30年というのは300年の中での1つのステップに過ぎない」という位置づけで、まずは300年という大きな方向性を定めてから30年を考えるという趣旨だからです。発表資料スライドには、「迷ったときほど遠くを見よ」とも書かれていました。

300年ビジョンの中で興味深かったのは、次の項目です。
・ コンピューターが人間の脳を超える
・ 脳型コンピューターについて
・ その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

以下、それぞれについて簡単に記しておきます。


○コンピューターが人間の脳を超える

コンピューターでの計算には二進法が用いられています。コンピューターがトランジスタ化され、このトランジスタがくっつく・離れるという原理です。一方、脳細胞にあるシナプスでは、シナプスがくっつく・離れるというこれも二進法と捉えることができます。つまり、コンピューターと脳細胞は二進法という同じメカニズムを持っているのです。

我々人間の大脳には約300億個のシナプスがあると言われています。コンピューターのワンチップの中に入っているトランジスタの数は増加し続けており、いつかはこの300億という数字を超えます。ソフトバンクの試算では、それが2018年に起こると言います。ここでは、2018年という時期は大きな意味はなく、いずれトランジスタの数が人間の脳が持つ300億のシナプスの数を超えるということが重要だと思います。つまり、コンピューターのワンチップが、人間の脳細胞の能力を超える能力を持つ可能性があるのです。



○脳型コンピューターについて

孫さんは脳の定義を、「データとアルゴリズムを自動的に獲得するシステム」としました。ここでいうデータとアルゴリズムはそれぞれ、知識と知恵を指しています。そして、人間の脳の働きとしては、知識(データ)、知恵(アルゴリズム)、感情(ゴール)の3つがあると説明しました。孫さんは、300年以内にこの脳の働きをするコンピューター、つまり脳型コンピューターが出現すると言います。


○その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

300年ビジョンで紹介された技術にはクローンがありました。これ以外にも、テレパシーのような人体間通信についても言及しています。脳と通信するチップを持ち、そのチップが他人の持つチップと無線で通信する仕組みです。すなわち、チップが媒体となり脳と脳が結ばれるようになります。



■300年ビジョンから考えたこと

目の前の仕事など普段とは全く異なる、ちょっと大きな視点で考えることは結構楽しかったりします。


○人間を超える脳型コンピューターと人類の存在意義

知識、知恵、感情の3つのうち、人間が現在のコンピューターに勝っているのは知恵、感情の部分だと思っています。知識、すなわち保存できるデータ量や、計算速度はもはやコンピューターには絶対に勝てません。しかし、知識と知識を紐づけたり、情報の体系化、仮説立案、新たな発想・アイデアの考案など、この領域はコンピューターに対する人間の脳の強みと言っていいものです。

しかし、仮に孫さんの言うように、コンピューターが知識、知恵、感情を持ち、その能力で人間を超えた時、果たして、人間の強みは何になるのでしょうか?

人間は地球上ではあらゆる生物の頂点に立っている存在です。高度に発達した知能とそれに基づく科学技術によるところが大きいと思います。しかし、「脳型コンピューター > 人間の脳」ということになれば、これまでの人間が頂点にいるという図式が変わってしまうのではないでしょうか(脳型コンピューターを持つロボットが人間などと同様の「生物」として扱っていいかどうかの議論はさておき)。

もしこのような状況になったとすると、これこそが「人類史上最大のパラダイムシフト」だと思わずにはいられません。少し大げさかもしれませんが、これまで当たり前のように君臨していた頂点を譲る時、人類の存在意義があらためて問われるような気がします。


○クローンとテレポーテーション

技術的には例えば髪の毛一本から人間の複製ができてしまうと言います。孫さんがクローンについて触れた時にふと思ったのが、クローン技術を応用すれば人や動物の移動手段に使えそうだなということです。例えば、A地点からB地点に移動したい場合に、
・ A地点で採取したDNA情報をB地点へデータ送信
・ そのDNAデータからB地点でクローンを瞬時に作製
・ クローンの作製が確認できれば、A地点のクローン元を消去する
という感じで、ほぼ瞬間移動の完了です。要はPCの中でやっているファイルとかの「カット(切り取り)&ペースト」を、クローン技術を使って現実世界で行なうイメージです。

もちろん、現在各国の政府が人間のクローンだけは禁止していることからも、それ以上にこの話は全くの非現実的な考えです。何かの不備で移動に失敗すれば怖すぎる話ですし、PC内でファイルが壊れるのとは訳が違います(でもたぶん、DNA情報が残っているので、クローンでの復元ができそうですが)。



■最後に

科学技術はともすればもろ刃の剣だと思います。人や動物を殺す道具にもなり、地球を破壊してしまう力も持ちます。一方で、現在の我々には解決できないであろう大地震などの自然災害、未知のウイルス、テロ、隕石、など、科学技術はこれらのものを解決する可能性も持ちえます。孫さんの言う「情報革命」により、もっと便利な世の中になるかもしれません。

変化の激しい世の中ですが、時々は上記の30年・300年のような大きい視点で考える機会を持ちたいなと思います。



※参考資料

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part1
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-87.html

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part2
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-88.html

「新30年ビジョン」プレゼン資料 (PDF)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/pdf/next_30-year_vision.pdf

動画&プレゼン資料 (ソフトバンクHP)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/index.html

USTREAMでの動画アーカイブ
http://www.ustream.tv/recorded/7882795


投稿日 2010/07/11

イースター島に見る文明崩壊


イースター島 Anakena にて撮影 (2009年11月)


文明崩壊を招く5つの要因


書籍 文明崩壊 - 滅亡と存続の命運を分けるもの によると、文明の崩壊を招く要因は5つあるとされています。

  • 環境被害
  • 気候変動
  • 近隣の敵対集団
  • 友好的な取引相手 (近隣諸国からの支援減少など)
  • 環境問題への社会の対応

本書の主題は、文明繁栄による環境負荷がやがては崩壊につながることです。



多数の事例の1つに、イースター島を扱っています。イースター島は上記の5つの要因のうち、 「環境被害」 と 「環境問題への社会の対応」 が当てはまる事例で取り上げられています。

今回のエントリーは、イースター島での文明崩壊について書いています。なお、記事内の画像は昨年2009年にイースター島に訪れた時の現地の写真です。
投稿日 2010/07/03

音楽配信サービスの新潮流

音楽配信サービスはiTuensを中心とするダウンロード型が主流でしたが、ストリーミング型やソーシャル型など新しい動きが見られます。今回の記事では、そのへんの状況を整理してみました。



■ダウンロード型音楽サービス

米Wall Street Journalが10年6月21日(現地時間)に報じた記事によると、Googleが今年末にも音楽ダウンロードサービスの提供に向けて準備しているとのことです。ただ、記事でもvague(漠然とした)とあるように、どのレコードレーベルと契約がなされるかやサービス内容はまだ明らかになってはいません。関係者の話では、Webだけではなくアンドロイド端末へのサービス提供を目指しているそうです。この動きは、音楽サービスにおいてもiTunesをもつアップルとの競争が激しくなることを予感させます。

iTunesの仕組みを簡単に整理してみると、次のようになります。
・ 音楽をiTunes StoreからダウンロードしたりCDから自分のPCへ取り込む
・ 聞きたい曲をPC上のiTunesからiPodやiPhoneに同期させる



■ストリーミング型音楽サービス

このように、iTunesに代表される音楽ダウンロードサービスでは、音楽を自分のPC内などでデータとして所有しています。一方で、ダウンロード型とは発想が180度異なる音楽サービスに、ストリーミング型音楽配信というものがあります。このストリーミング型の特徴は以下のようになります。
・ 音楽はデータセンター上に存在する
・ 利用者はデータセンターにアクセスし音楽を再生させて聴く

iTunesなどと決定的に異なるのは、PC内に音楽を保存することはなしに音楽を聴く点です。いわゆるクラウドコンピューティングの仕組みを使った音楽配信サービスです。

ストリーミング型の音楽配信サービスの例として、ヨーロッパにはSpotify(スポティファイ)があります。サービス開始の2008年からわずか1年半で利用者は800万人に達したようです。日経ビジネスオンラインによると、スポティファイはへはユニバーサル・ミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメント、EMI、ワーナーミュージックの4大レコード会社などが楽曲提供に応じており、最新のヒット曲からクラシックまで、800万曲を超える楽曲が提供されているようです。

スポティファイのサイトを見てみると、利用できる機器はパソコンの他にも、ネット接続が可能なスマートフォンであれば、ノキア、サムスン電子、ブラックベリー、iPhoneなど主要な機種にも対応していることが確認できます。

料金プランは数曲ごとに広告が挿入される無料サービス以外にも、広告挿入のない月額4.99ポンドや月額9.99ポンドの有料サービスもあります。ちなみに月額9.99ポンドを支払い「プレミアム会員」にならないとスマートフォンでの利用ができないようです。また、プレミアム会員限定のサービスとして、音質も向上するほか、地下鉄等のネットが接続できないオフライン環境においても音楽が聴くことができるようです。

ただ残念なのは、現在スポティファイを使用できるのはイギリス、スウェーデン、フランス、スペイン、フィンランド、ノルウェーだけなようで、日本では利用できません。



■ソーシャル型音楽サービス

このスポティファイですが、今年の4月27日のニュースリリースに、友人と音楽を通してつながりを強化するためのソーシャル機能(Spotify Music Profile)を追加するバージョンアップの実施を発表しています。ニュースリリースによると、Facebookと連携することにより、友人と音楽を共有できるようになるようです。これは、友人たちの間で流行っている曲を知ったり、自分の好きな曲を紹介できたりと、音楽というコンテンツを通じて情報交換を強化できる仕組みだと思います。

もう一つ、ソーシャル音楽サービスとしておもしろそうなのは、Skype(スカイプ)創業者が新たに立ち上げた「Rdio」です。ストリーミングを軸とした音楽配信サービスで、PCのほか、iPhone、ブラックベリーなどにも対応しています。注目したいのは、こちらもソーシャル機能を持っていることです。Rdioでは自分のコレクション、作成したプレイリスト、最近聴いた曲、頻繁に聴く曲やアルバムが全て他のメンバーに公開できるとともに、他のメンバーを、ツイッターのようにフォローする機能があります。



■課題とか

ストリーミング型の音楽配信、音楽のソーシャル機能など、これからも気になるサービスですが、一方で普及するためには課題もあると思います。

まずは著作権です。ストリーミング型の配信というのはもはや音楽を「所有」せずに、クラウド上の音楽を聴くサービスです。ソーシャル機能が追加されても同様で、友人同士で音楽を共有する時にもこれまでであれば音楽をコピーしていましたが、そのコピーももはや不要です。従来の著作権の枠を超えたもので、著作権の考え方が変わる可能性があるかもしれません。

ボトルネックになりそうなのは通信インフラです。スポティファイのような音楽ストリーミングで気になるのは、聴いている音楽の音がとぎれてしまわないかということです。これはダウンロード型にはない弱みです。音がとぎれないためにも、通信環境はWi-Fiが必須ではないでしょうか。私は現在iPhoneを使っていますが、家ではWi-Fi、外では3GSでの通信となっています。理想は屋外でもWi-Fiを使いたいのですが、使える場所が本当に少ないです。スタバでも使え、ミニストップでも使えるようになるようですが、まだまだ少なく仕方なく3GSを使っている状況です。

音楽というのは個人の趣向がよく表れる要素だと思います。自分のプレイリストを公開することで同じような音楽への好みをもつ人たちとつながることができます。これって、一人一人が音楽の聴き手であると同時に自分の好きな音楽を配信するDJのような存在でもあり、今までになかった音楽の発見や楽しみが広がる気がします。



※参考情報

Google Plans Music Service Tied to Search Engine (Wall Street Journal)
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704895204575321560516305040.html

欧州発! ビジネス最前線 “iチューンズ殺し”の衝撃 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100603/214766/

Spotify (スポティファイ)
http://www.spotify.com/

スポティファイのニュースリリース (ソーシャル機能追加)
http://www.spotify.com/int/about/press/spotify-launches-next-generation-music-platform/


投稿日 2010/07/01

ローカリズムのグローバル化


■まとめ

今回の記事のまとめです。

・ 企業のグローバル化には3段階ある
・ 中国での賃上げ労働争議と海外の人材登用
・ ローカリズムのグローバル化とは



■3段階の企業のグローバル化

NTTドコモの「iモード」を立ち上げた一人でもある夏野剛氏は、著書「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」(ソフトバンククリエイティブ)において、企業のグローバル化には次のように3段階あるとしています。

(1)国内製造輸出型
*グローバルマーケットはあくまで売り先の市場としか考えていない
*経営体制や企業哲学などはグローバル化していない場合がほとんど

(2)製造拠点のグローバル化
*人件費などの製造コストの低減のために工場を海外に移す
*日本国内のやり方、哲学を海外に移転しようとする

(3)グローバル企業化
*一部本社機能も必要に応じて海外に移すことも厭わない
*経営体制や企業哲学は世界で通用する、世界中の従業員を動かす独自性が要求される



■中国での賃上げをめぐる労働争議

ここ最近気になる出来事として、中国で賃上げをめぐる労働争議やストが相次いでいるニュースをよく目にします。中国の消費者物価指数(CPI)が上昇する一方で、賃金が据え置かれたままの状況では、相対的には減収しているようにも感じられ労働者の不満が労働争議につながるというのもわかる気がします。

ただ、日経新聞の10年6月27日の朝刊国際面の記事では、「一連の労働争議の根本的な問題は労組。労組のあり方を変えない限り、スト問題は解決しない」(北京の日系企業幹部)と報じています。というのも、工場に労組があったとしても、共産党や企業経営者寄りで従業員の賃上げ交渉の受け皿になっていないためだそうです。この記事では、「”労働争議が中国進出リスク”と言われるようになれば、長い目で見ればマイナス」であると懸念しています。



■海外の人材登用

そんな中、コマツが2012年までに、中国にある主要子会社16社の経営トップ全員を中国人にする方針を決めたようです(日経10年6月29日朝刊)。コマツ以外にも、海外の人材を積極に登用している例として、トヨタ自動車、伊藤忠商事、資生堂、花王などが取り上げられていました。

日本企業では人事異動の一環として日本人が数年間、現地法人のトップや幹部を務める例が多いようですが、現地市場に精通した人材を積極登用して権限を委譲し、経営の意思決定を速めるのがコマツの狙いのようです。記事では、「中国で相次ぐ日系工場でのストライキの背景には現場の社員との対話不足も指摘され、経営層の現地化を求める声がある。現地生え抜きの人材が要職につけば社員の意欲向上にもつながる」と期待しています。



■ローカリズムのグローバル化

フジサンケイビジネスアイの「論風」に、グローバル企業のマネジメントについてのある記事が掲載されました。投稿者である日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)会長の田下憲雄氏によると、中国市場に進出する日本企業の重要課題として以下のポイントを挙げています。
・ 「マネジメントの現地化」と、それを可能にする人材の確保と育成
・ そのための仕組みの構築と、それをサポートする日本人人材の育成

同氏の言う 「マネジメントの現地化」とは、経営にかかわる重要な意思決定をローカルの経営者と社員に任せ、投資回収の責任を委ねること。すなわち、様々なリスクに対して迅速かつ的確な判断を行いながら、事業を創造することができるのはローカル人材だと認識し、そうした人材の確保・育成に取り組むことであると説明されています。

従来の日本企業の課題は、海外で活躍できる日本人を確保・育成することだと言われていましたが、このように中国そしてアジアの現地人材をグローバル人材として育成することも必要で、そのための日本人人材の育成も課題になってきそうです。この状況について田下氏は、「ビジネスを本当に成功させることができるのは、ローカリズムとローカル人材をグローバル化することに成功したときではないか」という言葉で表現しています。



■最後に

冒頭で企業のグローバル化を3段階で見た時に、少しずつですが、「(2)製造拠点のグローバル化」から「(3)グローバル企業化」に変わってきていることを感じます。世界の情報がこれだけ瞬時に伝わる状況の中、今後は日本人だけで現地法人を運営することがリスクになってきそうです。

そうなると、販売やマーケティングにおいても日本国内の考え方だけではなく、現地の事情や国民性に合わせた展開を考える必要があるのかもしれません。



※参考情報

【論風】インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とマネジメントの現地化
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100312/bsg1003120501001-n1.htm


夏野流 脱ガラパゴスの思考法
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投稿日 2010/06/27

LEGOに見るユーザーイノベーション

デンマーク語で「よく遊べ」を意味する"leg godt"。この言葉がもとになる社名の玩具メーカーがあります。世界130ヶ国以上で販売を展開しているLEGO。デンマークに本社を置くレゴは、世界に4億人ものレゴブロックユーザーを持つそうです。

日経ビジネス2010.5.24号に「4億人が遊ぶ最強玩具『レゴ』 ヒット商品は素人(ユーザー)に学ぶ」という特集が組まれていました。この記事の中で、「ユーザーイノベーション」というレゴが考えるマーケティングが取り上げられています。



■ユーザーイノベーションのきっかけ

日経ビジネスの記事では、レゴの商品開発について書かれていました。商品のアイデアを外部、つまり顧客であるユーザーにも求めており、同社のクヌッドストープ社長は「レゴのニーズは誰よりもファンが知っている」と言います。個人的に注目したのは、顧客から欲しい商品のアイデアを聞くだけではなく、一部の商品では実際の開発まで顧客に関わらせている点です。

ですが、もともと同社は積極的に顧客の声を活用しているわけではなかったようです。分岐点になったのは、98年に発売された「マインドストーム」。マインドストームとは、レゴでロボットを組み立てられる商品セットで、ロボットを制御するソフトウェアが組み込まれています。レゴはプログラムを内蔵させ、実際にロボットを動かす仕組みを用意していました。

同社にとって予想外だったのは、一部のファンがこのブログラムを解析し自分の好きなように書き換え、さらにはそのコードがネット上に公開されたことでした。こうなるとコード情報は瞬く間に広まり、次々にオリジナルな動きをするロボットがユーザーの間で開発されます。当初、この状況にレゴ経営陣は激怒し訴訟も辞さない構えまで見せたそうです。

しかし、この流れに逆らえないと見るや、レゴはある決断をします。ひとまず様子見をし、さらにはソフト改良を奨励する姿勢までとったのです。今では、レゴが開設するネットサイト「LEGO CUUSO(レゴ空想)」にユーザーが自分の欲しいレゴ製品を提案し、他の会員からの一定の支持が得られればレゴが商品化を検討するというビジネスモデルに取り組んでいます。このように、レゴが認定したファンを開発メンバーに迎えるような関係を築いているのです。これについてクヌッドストープ社長は「我々は顧客の欲しいレゴを提供する。それを、レゴが作ったか、顧客が作ったかということにこだわりはない」と言っています。



■ユーザーイノベーションとは

上記はレゴの例ですが、ここではユーザーイノベーションをもう少し一般化してみます。日経ビジネス記事には以下のような「レゴが考えるマーケティングの3ステップ」が記載されていました(図1)。


前述のマインドストームの開発者であるソレン・ルンド氏は、企業のマーケティングには顧客との関わり度合により、3段階があると解説します。

(1)マスマーケティング
*定量・定性調査により消費者データを集め、それらを基に商品を開発
*今でも主流のマーケティング手法

(2)コミュニティマーケティング
*商品やサービスの固定ファンの声を拾い上げ、商品開発につなげる

(3)ユーザーイノベーション
*企業と顧客が一体となって商品開発を行なう
*顧客との距離を縮めるのに重要なのは、双方向のやりとりを繰り返すこと



■ユーザーイノベーションの実践

記事にもあり個人的にも同意なのは、「ユーザーイノベーションは新商品を開発する上でのあくまで1つの手法にすぎない」という点です。これは例えばアップルの事例を考えると、その企業内に確固たる哲学があり圧倒的な使いやすさやサービス提供などの商品力があれば、不要ですらあるように思えます。

一方で、企業だけでは顧客の求めているニーズに必ずしも沿った商品開発ができるとは限らないこともあり、この場合にはレゴのようなユーザーを商品開発に巻き込むことも有効なのではないでしょうか。

無論、言うが易しで実践するにはリスクも当然存在します。このような中、リスク以上のリターンをを得るために重要なこととして、記事では次のように書かれています。
・ 中には苦情の声もあるが、真摯に対応すること
・ 企業として顧客に何を提供したいかのメッセージを明確にする
(世界観をしっかりと顧客に提示する)

企業としての顧客への提供価値。これがぶれることなく顧客との双方向の対話ができて、初めてユーザーイノベーションが実践されるのではないでしょうか。


投稿日 2010/06/26

政府の役割と成長戦略とは



「断絶の時代」という著書において、ドラッカーは政府の役割を次のように言及しています。
The purpose of government is to make fundamental decisions, and to make them effectively. The purpose of government is to focus the political energies of society. It is to dramatize issues. It is to present fundamental choices. 
政府の仕事は、意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うことである。社会における政治的なエネルギーを結集させることである。問題を浮かび上がらせることである。選択を提示することである。  
「断絶の時代」p.252から引用

日経新聞の10年6月24日付の朝刊の「経済教室」は、「新成長戦略 ~方向性を問う~」という企画で、早稲田大学・谷内満教授の投稿でした。タイトルは「『供給サイド』こそ重視を」。サブタイトルは「カギ握る規制緩和 法人減税は財源が必要」でした。

記事内容はとてもわかりやすく、かつ簡潔にまとまっていたように思いました。記事内容を参考にしつつ、状況整理をしてみます。

■日本の課題 (低成長・低生産性国)

1990年代の日本経済について、「失われた10年」と評してきましたが、最近では00年代も合わせて「失われた20年」という表現を目にします。

このように過去20年の間、日本は長期的な低成長国に陥っています。一方で、「経済教室」記事では、日本は欧米諸国と比べ、低生産性国である指摘しています(図1)。


従って、谷内教授は「高齢化が急速に進む日本では、生産性を高めて経済成長を引き上げることが、極めて重要な課題」であると述べています。

■政府の役割

○民主党の「成長戦略」

では、日本が経済成長を図るうえで、政府の役割はどのようなものなのでしょうか。6月18日に閣議決定された「新成長戦略」が公表されました。その中で、「強みを活かす成長分野」として以下の7分野を挙げています。
  1. グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
  2. ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
  3. アジア経済戦略
  4. 観光立国・地域活性化戦略
  5. 科学・技術・情報通信立国戦略
  6. 雇用・人材戦略
  7. 金融戦略

○政府には成長産業は選べない

上記の各分野の専門家ではないので、中身の詳細の是非は省略しますが、そもそもの論点として「政府が今後の成長産業を選定できるのか」という議論があります。

正直なところ、個人的にはこれは難しいと思っています。というのも、成長産業はわざわざ政府が選ばなくても、市場原理に任せておけば自然と投資資金が回ってくるはずで、それを政府がやるということは税金が使われることにもなり、リスクをとって失敗した場合も結局は国民が負担することになります。

ちなみに、「経済教室」で谷内教授も以下のように主張をしています。
  • 政府が将来の成長産業を選び出す政策(ピック・ザ・ウィナー政策)には限界がある
  • すべての産業、すべての企業・個人事業者が、経済全体の成長を支える可能性を持っているという視点が重要

○政府の役割

そこで、政府の役割です。記事では、「政府がとるべき政策は、そうした民間の創意工夫と競争を促進することである」と書かれていましたが、その通りだと思います。

その理由は記事に書かれている以下の通りだと思うからです。
  • 経済活動の中核を担っているのは民間企業
  • 民間企業の創意工夫と競争が、生産性向上と、活発な投資による資本の量・質の向上を通じて、成長を高める
  • 成長政策は経済の供給サイドに働きかけるべき

■成長促進政策

記事では、現在の日本に求められる成長促進政策として、規制緩和、法人税引き下げ、労働政策が取り上げられています。以下、簡単ですが、書いておきます。

規制緩和
  • 成長促進政策として、規制緩和は重要
  • あらゆる分野で不要な規制を撤廃・縮小することが重要だが、中でも農業、医療、介護といった分野は規制が特に厳しい
  • 規制緩和によって民間の活力を引き出す余地が大きい

法人税
  • 法人税率を引き下げるべきだと主張
  • ただし、法人税減税で財政がさらに悪化することになれば、成長促進とはならない。なぜなら、すでに先進国で最悪の日本の財政をさらに悪化させれば、いずれ長期金利の上昇につながり、民間の投資が抑制されて、低成長に追い込まれるから
  • 従って、法人税率引き下げは、消費税率引き上げと、歳出削減とのセットでの抜本的な見直しが必要になる

労働政策
  • 派遣労働者などに対するセーフティーネットの拡充は必要
  • だが、正社員が正しい働き方で、非正規は望ましくないから規制するという考え方は問題
  • 多様な働き方と、企業や産業の浮き沈みに対応できる弾力的な労働移動が、今の日本に求められている
  • 解雇時の金銭補償のルール化などにより正社員の解雇規制を緩和して、正規と非正規の不当な格差を縮めることが求められる

★  ★  ★

冒頭で記載したドラッカーが言うように、政府の仕事は、「意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うこと」だとすると、実行は競争環境に身を置いている民間企業だと思います。

政府の役割は民間企業が正しく競争できる環境を用意することまでで、成長分野までを政府が選ぶことは不要ではないでしょうか。

今回の日経「経済教室」は、そんなことをあらためて考えさせてくれるものでした。


※参考資料

「新成長戦略」についてPDF (6/18閣議決定内容)
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/04/06/20100618_shinseityousenryaku_honbun.pdf



断絶の時代―いま起こっていることの本質
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投稿日 2010/06/19

マーケティングとイノベーション(と超サイヤ人)

■マーケティング

マーケティングについて、P.F.ドラッカーは次のように述べています。

The aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits her and sells itself.
(マーケティングの目指すものは販売を不要にすることである。つまり、顧客を理解し、製品やサービスを顧客に合わせることで自ら売れるようにすることである。)

補足ですが、ドラッカーの著書である「断絶の時代」には次のように書かれており(p.51)、上記の「マーケティングは販売を不要にする」というのは、おそらくこの状況も念頭に入れてのことではないかと思います。
「ほとんどの企業は、マーケティングのことを、製品を売り、引き渡すことによって報酬を得るための体系的な活動としか理解していない。」

書籍「断絶の時代」には、二つの意味でのマーケティングが必要であると説きます(p.51)。すなわち、(1)顧客の観点からのマーケティング、(2)イノベーションとしてのマーケティング。それぞれポイントを引用すると以下のようになります。

(1)顧客の観点からのマーケティング
わが社の製品のための顧客という考え方をしてはならない。「わが社の製品」を考えているかぎり、マーケティングではなく販売について考えているにすぎない。重要なことは、顧客の期待・行動・価値観である。
顧客は、求めているもの・必要としているもの・期待しているものにしか関心をもたない。顧客の関心は常に、この製品あるいはこの企業が自分に何をしてくれるかだけである。

(2)イノベーションとしてのマーケティング
真に新しいものには出来合いの市場はない。新製品は期待を生み、満足をもたらす。したがって、市場を創造するためのイノベーションがマーケティングには必要である。
新技術は新市場を必要とする。しかし、それがいかなる市場となるかは、実際に需要が生まれるまでは見当がつかない。



■イノベーション

このようにドラッカーが言うマーケティングには二種類があり、後者にはイノベーションが必要であるとしています。ではイノベーションとは何でしょうか。

「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流 世界最強マネジメント」(フェラン・ソリアーノ アチーブメント出版)という本にはイノベーションについて興味深い言及があります。この書籍には、イノベーションについて以下のような表が記載されています(p.237)。



■最後に (ネタ)

イノベーションについてちょっと考えていたのですが、ふと超サイヤ人ってイノベーションではなかったかと思いました。超サイヤ人が登場した場面を少し振り返ってみると、超サイヤ人が登場したのはフリーザ編でした。フリーザの圧倒的な強さの前に次々の悟空の仲間がやられていきましたが、親友のクリリンがフリーザに殺されたことで、ついに悟空が伝説の超サイヤ人となります。ちなみにWikipediaによると、超サイヤ人になると戦闘能力が50倍になるそうです。

超サイヤ人は上記のイノベーションの表で言うところの、例えば「2.新しい見方」が当てはまる気がします。超サイヤ人が登場する前の「変身」は、満月時の大猿化であったりフリーザやザーボンの変身がありましたが、超サイヤ人の登場以降、セル編の超サイヤ人が第三段階まで変化したり、魔人ブウ編では「超サイヤ人3」まで発展しており、これらの変身に伴い戦闘能力は飛躍的に増加しています。ちなみにベジータが地球に襲来した時の戦闘力は1万8000、フリーザ第一形態は53万でしたが、超サイヤ人になってからは戦闘能力は何百億レベルとかになっているはずです。

悟空が超サイヤ人となったのはコミックス27巻でした。その後、42巻まで続きましたが、超サイヤ人がなければここまで長い作品にならなかったかもしれません。こう考えると、クリリンがフリーザによって爆発させられた死は、大きな分岐点だったのではないでしょうか。

・ 超サイヤ人登場以降、戦闘能力は飛躍的に増加
・ ストーリーに厚みが増し、長期連載を可能にした(?)
・ 超サイヤ人はイノベーションではないか


※参考情報
超サイヤ人 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A4%E4%BA%BA#.E8.B6.85.E3.82.B5.E3.82.A4.E3.83.A4.E4.BA.BA


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。