今回は、先入観や固定観念を打ち破り、意外な角度から星物語を再解釈する方法を探ります。
「バイアスブレイク」 がもたらす、予想外の発見とは何か、その驚きの答えをぜひ一緒に紐解いていきましょう。
わるにゃんこ将軍
ゆるキャラの代表格の1つが、滋賀県彦根市の 「ひこにゃん」 です。
ひこにゃんが登場したのは2006年ですが、それから17年がたった2023年9月に、彦根市公認のひこにゃんのライバル 「わるにゃんこ将軍」 が登場しました。
出典: 産経新聞
「わるにゃんこ将軍 (右側) 」 は体形こそ 「ひこにゃん (左側) 」 と似ているものの、体の色は濃い青で、鋭い目つきと黒い兜が特徴です。
わるにゃんこ将軍は、ひこにゃん誕生から17年が経過し、新たなストーリー展開を模索するなかで生まれました。様々なイベントに登場したり、関連グッズの売れ行きにも貢献しているとのことです。
「ひこにゃん」 と 「わるにゃんこ将軍」 の善と悪という構図をつくり、今までは善のキャラクターしかいなかった状況に、わかりやすい悪役をあえて入れることで対立するストーリーを作ったわけです。
ひこにゃんとわるにゃんこ将軍の話を応用すると、今までは当たり前だったこととは全く違うコンセプトをつくることに横展開できます。
たとえば、昔話の桃太郎に当てはめてみましょう。
桃太郎への応用
桃太郎の物語には、いくつかの重要な要素がテーマとして含まれています。
桃太郎のテーマ
これらの要素は、桃太郎という物語の背景や登場人物の行動、そして物語が伝えるメッセージに深く関わっています。以下に、主なテーマを5つ挙げてみます。
- 善と悪: 桃太郎は善の象徴として描かれており、鬼は悪の象徴です。この善悪の対立は、物語の中心的なテーマであり、桃太郎が鬼を退治することで 「善が悪に勝つ」 という物語です
- 勇気と正義: 桃太郎は、困難に立ち向かう勇気と正義感を持ったキャラクターです。桃太郎の行動は、正しいことを成し遂げるためには勇気が必要であることを示しています
- 仲間との協力: 桃太郎が鬼ヶ島に向かう途中で出会う犬、猿、キジとの協力も重要なテーマです。同じ目的を共有し、仲間意識からお互いに協力し合い鬼を退治します。困難な状況でも仲間や協力の大切さを示しています
- 成長と自己実現: 桃太郎の昔話は、成長の物語でもあります。桃太郎は1人の少年から勇敢な青年に成長し、自分や村の人たちの運命を自らの手で切り開きます。自己実現の重要性を象徴しています
- 親孝行と感謝: 桃太郎が優しいおばあさんとおじいさんに育てられ、2人に示す感謝の気持ちも物語での大事な要素です。桃太郎は親への感謝の気持ちを持ち、両親のために鬼退治に出かけることで、親孝行の精神を表しています
善悪を逆にするとどうなるか?
桃太郎の話では、桃太郎が善、鬼たちが悪の立場として描かれていますが、ではここで、善と悪を逆にするとどうなるでしょうか?
善悪を入れ替えた新しい物語では、桃太郎が悪の力を持ち、それに対抗する善良な鬼たちが登場するというストーリー設定になります。桃太郎は鬼ヶ島を攻めようとしますが、鬼たちは自分たちの土地と平和を守るために立ち上がるという物語です。
桃太郎の悪になる生い立ち
では、桃太郎が悪のキャラクターになる新しい昔話を作ってみましょう。
おばあさんが川で拾ってきた桃から生まれた桃太郎が、なぜ良い子ではなく悪い人物になったのか、桃太郎が悪役になっていくストーリーです。
-
昔々、ある静かな山村に、心優しい老夫婦が住んでいました。
夫婦には子どもがいなかったため、2人は日々寂しさを感じていました。ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。おばあさんはその桃を家に持ち帰り、おじいさんと一緒に開けると、中から1人の元気な男の子が生まれました。夫婦は喜び、その子を 「桃太郎」 と名付け、愛情を込めて育てました。
しかし、桃太郎はどこか特別な子でした。普通の子どもよりも腕っぷしが強く、賢く、そして野心的でした。村の他の子どもたちと遊ぶ中で、桃太郎は自分がまわりよりも優れていると感じるようになり、次第に傲慢で自己中心的な態度をとるようになったのです。
村の人たちの間では、桃太郎の出生について様々な噂がありました。中には、桃太郎が神秘的な力を持つ桃から生まれたことで、自分たちとは異なる運命を背負っていると考える者もいました。また、桃太郎が持つ力や性格を恐れる気持ちもありました。
桃太郎は成長するにつれ、自分の心に野望が芽生え始めます。桃太郎は自らの力を使って、何か大きなことを成し遂げたいと考えるようになり、徐々に周囲の人々を支配したいという欲望にとらわれます。桃太郎は、自分の存在の特別さを世の中に示すため、遠く離れた鬼ヶ島を征服する計画を立てます。
おばあさんとおじいさんは、桃太郎の変化に心を痛めながらも、桃太郎を止めることができませんでした。桃太郎は力と野望に目がくらみ、いまや善良な心を完全に失ってしまい、自らの欲望のために行動するようになります。こうして、桃太郎の人生は、暗く、野心的な旅へと変わり始めたのでした。
”悪” 桃太郎と鬼たちの戦い
野心的で悪の象徴である 「悪・桃太郎」 が旅に出た後の物語展開も考えてみましょう。
もともとの桃太郎の物語のテーマとして5つ挙げましたが、善と悪を入れ替え、さらには正義、協力なども逆にした物語にしてみます。
-
桃太郎は、自分の力を試すため、そして世界に自らの名をとどろかせるために、鬼ヶ島への遠征を決意しました。桃太郎は、その強大な力とカリスマ性で、犬、猿、キジを従え、桃太郎軍団を組織します。
しかし、犬たちは心から桃太郎に従っているわけではありませんでした。それぞれが、桃太郎の振る舞いや言動に次第に疑問を抱き始めていったのです。
一方、鬼ヶ島では、善良で平和を愛する鬼たちが暮らしていました。鬼は力強いものの、決して戦いを好まず、豊かな自然と共に穏やかな日々を送っていました。
桃太郎軍団が攻めてきたこと知った鬼たちは、自分たちの平和な生活を守るために立ち上がります。鬼たちの中には桃太郎の到来を予見していた者もおり、桃太郎との対決に備えていました。
桃太郎が鬼ヶ島に上陸すると、鬼たちは抵抗を開始します。鬼たちの戦い方は力に頼るのではなく、知恵と戦略にもとづいていました。桃太郎は、自分の力が通用しないことに気づき、戸惑いを覚えます。
その頃、犬、猿、キジは、桃太郎の 「鬼ヶ島を自らの私利私欲のために征服する」 という意図を見抜き、桃太郎からは心が離れ、鬼たちに共感の気持ちを抱くようになります。最終的に犬たちは桃太郎に反旗を翻し、鬼たちと協力して桃太郎に立ち向かうことを決意します。
桃太郎と、鬼、そして犬、猿、キジの間で繰り広げられる戦いは、ただの力のぶつかり合いではなく、価値観と理念の争いとなりました。
桃太郎は、自分の行動がもたらす結果と、自らの野望の代償に直面することになります。争いの結末では、桃太郎は自らの誤りを悟り、鬼たちと和解を図ります。
悪・桃太郎の結末
では物語の最後のエンディングとして、鬼ヶ島から戻った桃太郎はどのような人物になったのか、ここでは 「親孝行と感謝」 のテーマを逆にした物語を作ってみます。
逆とは、親不孝と裏切りです。
-
鬼ヶ島での戦いと内面的な葛藤を経験した桃太郎は、一見すると成長したように見えましたが、実際には桃太郎の心は複雑な変化を遂げていました。桃太郎は、自分の行動がもたらした結果と自身の欲深さに苦悩し、自分の存在に疑問を持ち始めます。
鬼ヶ島から戻った桃太郎は、再び野望と自己中心的な思考に支配され、おばあさんとおじいさんへの感謝の気持ちは影を潜めていきました。自分が特別であるという思い込みに再びとらわれ、自分の欲を満たすことばかりを考えるようになります。
おじいさんとおばあさんは、そんな桃太郎のことに心を痛めます。2人は、桃太郎に愛情を持って接しましたが、桃太郎は親からの愛情をないがしろにし、自己中心的で独善的な道を歩むようになります。桃太郎はおばあさんとおじいさんの思いに応えることはなく、村の人たちとの関係も冷めきったものになりました。
桃太郎は、自分の力と野望をさらに拡大するために、おばあさんとおじいさんや村の人々を裏切り、彼らの願いに背く行動をとりはじめます。桃太郎は、自分の力を利用して、周囲の人々を支配しようとする計画を立てはじめました。この過程で、桃太郎はさらに孤立を深めていきます。
晩年、桃太郎は自分の行いによって失ったものの大きさに気付きます。しかし、桃太郎が行った親不孝や裏切りの行為は、元に戻すことができません。すでにおじいさんとおばあさんは悲しみに暮れる中で亡くなっていて、桃太郎は自分が築いた孤独な世界の中で、自らの行動に対する後悔と苦悩を抱えながら生きていくことになりました。
汎用化としての 「バイアスブレイク」
それでは、ここまでの 「悪・桃太郎」 の物語の作り方を汎用化してみましょう。
もともとの桃太郎の物語の土台となっていたテーマを、逆にしてひっくり返してのストーリーをつくりました。
テーマとはたとえば 「善と悪」 、他には 「正義」 「仲間と協力」 「親孝行」 「感謝」 などです。これらのテーマは、桃太郎の昔話のベースとして存在するものです。
土台となっているテーマは、人々が桃太郎という物語に接するときに常識として持ち合わせている 「視点」 です。
先ほどまで見てきた新しい 「悪・桃太郎」 の話では、常識的な視点という "バイアス" をあえて逆に振って作ったものです。
やってきたプロセスを一般化すると、次のような 「バイアスブレイク」 をやったということです。
✓ バイアスブレイクからの発想術
- 言語化や可視化によってバイアス (偏った思考) に気づく
- その固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする
- バイアスがない状態でアイデアを考え強制的に発想する
3つをそれぞれ補足をすると、
- バイアス (偏った思考) を言語化・可視化する
自分たちの業界や市場における固定観念や先入観を可視化。当たり前すぎて今さら考えないようなことに目を向ける - 固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする
バイアスを可視化できたら、意図的にその逆に振って考えてみたり、今の思考の枠組みの外側に目を向ける (Out of the box) ことで、新たな視点や発想を得る - バイアスがない状態で強制的にアイデアを発想する
バイアスを取り除いた状態で、具体的なアイデアを考えていく
バイアスブレイクからのコンセプト立案
ここまで見てきた悪・桃太郎の作成プロセス、つまりバイアスブレイクは、ビジネスにも応用できます。
たとえばの活用イメージとして、マーケティングや商品開発での 「コンセプト立案」 にバイアスブレイクを取り入れることで、イノベーティブなアイデアを生む方法として最後にご紹介します。
マーケティングや商品開発における応用
マーケティングや商品開発では、バイアスブレイクを活用することで、新しいコンセプト立案が可能になります。
一般的なやり方は市場の動向や消費者の好み、競合分析などにもとづいて検討と意思決定が行われます。それに対してバイアスブレイクを用いることで、通常の方法とは異なる、全く新しい視点からアイデアを生み出すことができるでしょう。
[ステップ 1] バイアスの可視化
まず、現在のマーケティング活動や商品開発プロセスにおけるバイアスを発見するところからです。これには、ターゲット市場、消費者の嗜好、デザインのトレンド、価格設定などが含まれます。
ここでの目的は、現状の思考や決定に影響を与えている潜在的な前提、常識、ものの見方に気づくことです。
[ステップ 2] 逆に考えるバイアスブレイク
次に、既存のバイアスとは逆の発想を試みます。
たとえば、特定のターゲット市場にフォーカスしている場合、市場の外側にいる顧客層に焦点を当てた商品やサービスを想像してみます。低価格帯の製品を扱っている場合は高価格の製品を考える、今までとは異なる利用シーンでの機会はないかなど、逆のアプローチを設定します。
[ステップ 3] バイアスフリーなアイデア発想
最後に、バイアスを取り除いた状態でアイデアを発想します。
ここでは、従来の制約にとらわれず、自由な発想でアイデアを形成することが重要です。アイデアを発散させた後に、成果の出やすさ、実行可能性の度合い、わかりやすさ、一網打尽で問題を解決できるなどの評価視点からアイデアを選定していきます。
こうした発散と収束のプロセスを通じて、市場に新風を吹き込むような斬新な商品やサービス、マーケティングが生まれることが期待できます。
* * *
バイアスブレイクは、マーケティングや商品開発において、従来の枠組みを超えたイノベーティブなアイデアを生み出せる方法です。
市場の新しいニーズを発見したり、競合とは異なる独自の価値提案につなげることができるでしょう。
まとめ
今回は 「バイアスブレイク」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にまとめとして、バイアスブレイクの方法です。
✓ バイアスブレイクからの発想術
- 言語化や可視化によってバイアス (偏った思考) に気づく
- その固定観念とは逆を考えたり、今の思考の枠組みの外側に目を向ける (Out of the box) ことで、バイアスブレイクをする
- バイアスがない状態でアイデアを考え強制的に発想する
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。
レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから無料登録をしていただくとマーケティングレターが週1回で届きます。もし違うなと感じたらすぐ解約いただいて OK です。ぜひレターも登録して読んでみてください!