投稿日 2017/12/24

書評: ブロックチェーン革命 - 分散自律型社会の出現 (野口悠紀雄) 。「価値交換のインフラ」 であるブロックチェーンのインパクト


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ブロックチェーン革命 - 分散自律型社会の出現 という本をご紹介します。


エントリー内容です。

  • インターネットに足りないもの
  • ブロックチェーンの本質、社会にもたらすこと
  • DAO (分散自律型組織) 、世界のフラット化


本書の内容


以下は内容紹介からの引用です。

仮想通貨を支える情報技術、ブロックチェーンが、いま、応用対象を拡大し、ビジネスや経済、社会の姿を劇的に変えようとしている。

従来の常識を一変させる、未来のビジネスチャンスの宝庫といえるブロックチェーンの全容を、内外の最新事例をもとに平易に説き明かし、その可能性を展望する。


インターネットに足りないもの


ブロックチェーンの何が革命的なのかは、インターネットと対比させると理解しやすいです。

インターネットの本質は、「情報交換のインフラ」 です。その一方、本書に書かれていたのは、インターネットとは 「安いけれど信頼はできない通信システム」 でした。

というのは、ネット上の電子的なデータはコピーができ、また、書き換えることができます。そのため、そのデータが本当に正しいかどうかを確かめる必要があります。

インターネットのこうした特徴は、本来は、送金や支払いなどの価値のあるものを送ることには適していません。ネット上での価値のあるものの送受信は、高いコストをかけて無理やり対応しているのが現状です。

著者の野口悠紀雄氏は、こうした構図から従来のインターネットには欠点があると指摘します。具体的には、インターネットは以下の2つが本質的にできない構造であると言います。

  • 経済的に価値のあるものを送る
  • 信頼性の確立


ブロックチェーンの本質


従来のインターネットは 「情報交換のインフラ」 に対して、ブロックチェーンは 「価値交換のインフラ」 です。

本書を読んで私が思ったブロックチェーンの本質は、次の2つです。

  • 中央に管理者がいない P2P (ピアトゥピア) 。自律分散型の構造
  • ブロックチェーン内に保存されたデータの改ざんが事実上ほぼ不可能。そのデータは正しいものと扱われる

ブロックチェーンはこの2つがあるからこそ、ブロックチェーンは従来のインターネットに足りなかったことを可能にします。つまり、価値のあるものを送信でき、信頼性の確立です。

インターネットはコストをかけて無理やりにやっていましたが、ブロックチェーンでは低コストでできるのです。


ブロックチェーンが社会にもたらすこと


本書ではブロックチェーンがどのように社会を変えるかが、多岐にわたって書かれています。

通貨や金融の世界にパラダイムシフトを起こすだけではありません。IoT やシェアリングエコノミー、医療分野、電力などのインフラ、予測市場、さらには、行政や政治、司法の分野でもブロックチェーンは応用ができるとします。

日常的なサービスから国の根幹までと、様々な影響を及ぼします。

シェアリングエコノミーについては、次の指摘を興味深く読めました。破壊的プレイヤーとされる Airbnd (エアビーアンドビー) 、Uber も構造は中央管理なので、ブロックチェーンをベースにした分散型で、仲介者を通さず直接ユーザー同士を結ぶシェアリングサービスが出てくれば、今の Airbnb や Uber ですらも淘汰される可能性です。


働き方を変える DAO (分散自律型組織)


ブロックチェーンがもたらすであろうことで特に興味深かったのは、働き方が変わることでした。経営者などの組織管理者と労働者の関係が多様になることです。

2017年現在、企業などの一般的な労働組織形態は、中央に管理者 (経営者) がいて、雇用者である労働者がいます。下の表の左上 (従来の組織) です。


労働者 (人)
が働く
ロボット
が働く
人が管理 従来の組織 ロボットが
導入された工場
AI が管理 AI の指示で
労働者 (人) が働く
完全自動化の工場
管理者が
いない
管理者はいないが、
人が自律的に働く
(DAO)
管理者はいなく、
ロボットが自律的に働く
(Auto-DAO)


今後は、2つの方向性があると書かれています。1つ目は、労働者が人間からロボットに置き換わることです。AI に仕事を奪われるという議論はこの方向です。つまり、管理者が中央にいるのは変わらず、労働を人ではなくロボットが行ないます。

2つ目は、管理者がいなく、労働者がいる組織です。本書では DAO (Decentralized Autonomous Organization の略) という分散自律型組織であると表現します。

書かれているのは、単純な仕事や仲介作業はブロックチェーンに取って代わられ、DAO で人がやるのはもっと創造的な仕事が中心になることです。さらに言えば、人間は創造的な仕事に専念できるようになります。

例えば、手作りの家具を作る仕事は、デザインや手作りの作成工程は人が行ない、他のことはブロックチェーンをベースに作られたシステムが対応します。具体的には、材料の発注、顧客を探す (営業) 、代金徴収、在庫管理、売上等の帳簿管理などです。

2017年現在で、世の中には具体的な DAO によって運営されている組織はすぐには思いつきません。DAO のイメージは描きにくいです。

著者の野口氏は、ビットコインは DAO の組織形態を実現した例だと言います。

ビットコインでは、法定通貨を管理する中央銀行のような特定の管理者は存在せず、マイナーを労働者と見ることができます。

中央の指示がなくても、マイナーはビットコインという価値がもらえるインセンティブによって、ビットコインの送金や決済の取引を確認し承認する作業を自発的に行なっています。個々の利己的な行動が、ビットコイン全体で見れば健全に DAO として運用されています。

こうした組織環境が、仮想通貨というバーチャルな世界だけではなく、現実世界でもブロックチェーンによって将来的に実現するのかは興味深いです。


ブロックチェーンは世界をフラット化できるか


インターネットでは実現できなかった世界のフラット化を、ブロックチェーンが実現するのではないか、という論点も興味深く読めました。

パソコンやインターネットなどの IT の登場により、世界はフラット化するとかつては期待されました。

しかし、2017年現在の現実は、一部の巨大企業による支配される世界です。パソコンではマイクロソフトです。他には GAFA と言われる、Google 、Apple 、Facebook 、Amazon などです (もう1つの A である Alibaba を加えて GAFAA と表現されることもあります) 。

フラット化できなかった本質的な要因は、既存のインターネットではできていない2つです。

  • 経済的に価値のあるものを送ること
  • 信頼性の確立

インターネットとは、「情報交換のインフラ」 です。他方で、ネット上の情報は簡単にコピーできてしまいます。従って、上記2つは構造的にネットではできないのです。

インターネットで本質的に欠けているこの2つを、大企業はコストをかけて無理やり実現しているというのが野口氏の指摘です。

ブロックチェーンは、先ほどのインターネットに足りない2つである 「経済的価値の送受信」 と 「信頼性の確立」 をもたらします。この2つが、一部の巨大企業だけではなく民主化された時に、世界のフラット化が実現するのではないかという議論です。

もちろん、ブロックチェーンを使えば、これまでの大企業が有利であったことの全てがすぐに解消されるわけではありません。それを差し引いても、ブロックチェーンが持つポテンシャルの大きさを感じる内容が書かれていました。


二種類のブロックチェーン


ここまで、本書から特に興味深く考えさせられたことを書いてきました。

ブロックチェーンを考えたり議論する上で注意が必要なのは、ブロックチェーンには大きく二種類があることです。オープンなブロックチェーンと、クローズドなブロックチェーンです。

言い方は、オープンをパブリック、クローズドをプライベートと表現することもあります。二つの特徴を比べると、以下のようになります。


オープンブロックチェーン

  • 管理者がいない
  • P2P で誰でも参加できる
  • PoW (プルーフ・オブ・ワーク) によって取引の承認がされ、信頼が成立
  • 改ざんが不可能
  • 公開性・透明性
  • 仮想通貨の例:ビットコイン


クローズドブロックチェーン

  • 管理者がいる (例: 銀行や企業)
  • P2P のコンピューターは管理者が選定
  • 参加者は管理者に許可されたプレイヤーのみ
  • 管理者への信頼によって成り立つ
  • 改ざんができてしまう (管理者アカウントの乗っ取り、悪意のある管理者が改ざんできる)
  • 仮想通貨の例:リップル、MUFG コイン


このように、ブロックチェーンでもオープンとクローズドでは、二つは似て非なるものです。

従来の組織やビジネス形態を考えると、常識を覆すのはオープンブロックチェーンです。中央管理者が不在で分散自律型にもかかわらず、PoW や オープンな P2P ネットワークという技術と仕組みによってデータ改ざんを不可能にし、信頼性を確立します。

一方、特にビジネスでの実務的な観点で期待できるのは、クローズドなブロックチェーンです。クローズドブロックチェーンには、管理者が一社の場合と、複数社で管理するコンソーシアム型があります。いずれも参加は許可制です。

オープンかクローズドかで、どちらが良い悪いというものではありません。目的に応じて使い分けることになるでしょう。

ただし、先ほど書いたように、ブロックチェーンの話をしているときに、オープンブロックチェーンなのか、クローズドブロックチェーンなのかのどちらなのかは意識しておくとよいです。それぞれの根底には、相容れない思想があります。管理・公開・参加において、全く逆の考え方を取ります。


最後に


ブロックチェーンは、電子的な情報を記録する新しい仕組みです。特徴は、管理者を必要とせず、記録が改ざんできないことです。

本書のタイトルは 「ブロックチェーン革命」 です。革命とあるように、タイトルだけ見れば大げさな印象を与えるかもしれません。しかし、中身を読めば、ブロックチェーンの大いなる可能性を見ることができます。

ブロックチェーンとは何か、社会にどのようなインパクトを与えるのかを理解するのに、おすすめの一冊です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。