投稿日 2017/12/04

書評: キャズム Ver.2 - 新商品をブレイクさせる 「超」 マーケティング理論 (ジェフリー・ムーア) 。成長の鍵を握るアーリーマジョリティの攻略法


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キャズム Ver.2 - 新商品をブレイクさせる 「超」 マーケティング理論 という本をご紹介します。


エントリー内容です。

  • 1分でわかるキャズム理論
  • アーリーアダプターとアーリーマジョリティ
  • キャズムを超えるために


1分でわかるキャズム理論


キャズム理論では、新商品を買うタイミングで、人は5つに分かれるとします。イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティー、ラガードです。


引用: Diffusion of innovations - Wikipedia


例えば、電気自動車に当てはめると次のようになります。() 内の % は、キャズム理論で言われる全体に占めるボリュームです。

  • イノベーター (革新者 2.5%) :自動車がガソリンではなく電気で走るという新しい技術そのものに魅力を感じる。真っ先に電気自動車を買う
  • アーリーアダプター (先駆者 13.5%) :電気自動車という新しい技術を理解し、ガソリン車に比べてどんな利点があるかを評価する。近所で電気自動車が走っていなくても買う
  • アーリーマジョリティ (現実的購買者 34%) :電気自動車の効用が証明され、身近なところに電気自動車向けの充電ステーションが設置されるようになれば買う
  • レイトマジョリティー (追随者 34%) :多くの人が電気自動車に乗り換え、ガソリン車を運転することが不便になってきたら買う
  • ラガード (無関心層 16%) :電気自動車が普及しても関心がなく、引き続き慣れ親しんだガソリン車に乗る

このように、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティー、ラガードの順に時間軸に沿って推移します。ポイントは、5つのグループそれぞれで、求めるものが異なることです。

キャズムとは、「溝」 という意味です。アーリーアダプターからアーリーマジョリティへは決してスムーズに購入や利用が移っていくわけではありません。まるで大きな溝があるように、両者の間には断絶があるのです。

キャズム理論でよく知られている溝は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間です。ただし、溝は1つではなく、アーリーマジョリティとレイトマジョリティ、レイトマジョリティとラガードの間にも存在します。


アーリーアダプターとアーリーマジョリティ


キャズムを超えるために、本書で最も多く説明されているのは、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへ移行についてです。それだけ両者の間には深いキャズムがあります。

というのは、アーリーアダプターとアーリーマジョリティはそれぞれ求めるニーズが異なるからです。求めるものが違うから、マーケティングのやり方やコミュニケーションアプローチも変える必要があります。

アーリーアダプターとアーリーマジョリティには、具体的に次のような違いがあります。


アーリーアダプター

  • 他人や他社が利用したり導入しているかどうかは気にしない
  • 自らの先見性や直感で購入を判断する
  • 現在抱えている問題をどのように解決してくれるか、どんな変革をもたらしてくれるかに関心がある


アーリーマジョリティ

  • その商品やサービスの事例を知りたい
  • 他社が導入しているかどうかを気にする
  • 本当に使えるかどうかの実用性を重視する


キャズムを超えるために


本書に書かれているのは、キャズム (溝) を超えるためのマーケティングの考え方と方法です。


超えるための考え方や認識


5つのグループは順番に普及していきます。最初はイノベーターに焦点を合わせて市場を創出します。次に、アーリーアダプターに狙いを定め市場を拡大します。アーリーマジョリティにシフトし、レイトマジョリティへと進めます。

キャズムを超えるために重要な考え方や認識は、次の通りです。

  • 自分たちは今どのフェーズにいるのか (5つのグループのどの人たちに焦点を当てている段階なのか)
  • 前のグループから次に移るのは非連続である。アーリーアダプターへの取り組みが成功したからといって、同じやり方を次のアーリーマジョリティにしてもうまくいかない。むしろ、逆効果になることすらあり得る
  • 関係者全員で情報を共有し、全員が一丸となってキャズムを超える意識が大切


鶏と卵の問題


興味深いと思ったのは、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの移行の難しさでした。

アーリーマジョリティは、実利を重んじます。他の人や他社の事例から、具体的にどのように使えるのかで判断をします。ただし、ここで言う他社事例とは、一つ前のグループであるアーリーアダプターの事例ではなく、同じアーリーマジョリティの事例です。

つまり、鶏と卵の問題が発生します。

アーリーマジョリティに導入をするためには彼らに普及していなければならず、一方で、普及していないとアーリーマジョリティには導入されないという問題です。ここに、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへのキャズムの深さがあります。


アーリーマジョリティの攻略法


それでも、アーリーマジョリティのマーケットを創り出すことを諦めるわけにはいきません。

イノベーターとアーリーアダプターだけのマーケットでは規模は小さく、さらに成長を求める場合はキャズムを超えてより大きなマーケットを創ることが求められます (なお、戦略的にあえてアーリーアダプターまでとし、ビジネスモデルが成立するのであればその限りではありません) 。

アーリーマジョリティに進んでいくためのやり方を、本書ではボーリングのピンにたとえて説明されています。最初のピンをどれにするか、最初のピンを倒して次々に後ろのピンを倒すようにマーケットを拡大していくという考え方です。

アーリーマジョリティを一つに見るのではなく、小さいマーケットに分けます。アーリーマジョリティの中でも、どの人たちに最初にアプローチをするかを選択し、集中して取り組みます。

ポイントは、顧客の数 (マーケットの大きさ) ではなく、ペインポイントという課題として困っている度合いの大きさで決めることです。


最後に


本書で強調されているのは、前のグループから次に移るときにいかにスムーズにできるかです。リレー競走で次の走者にバトンを渡すように、速やかに次の段階に進むことが重要です。

ただし、それぞれのグループ間にはキャズムがあります。前のグループと同じアプローチでは次のグループには有効ではありません。非連続で取り組む必要があります。

各段階で陥りやすいこと、どのようなアプリーチがよいかが詳しく書かれ、興味深く読める本です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。