投稿日 2017/12/16

書評: アフター・ビットコイン - 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者 (中島真志) 。金融のプロフェッショナルから見たビットコインとブロックチェーンの将来性


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アフター・ビットコイン - 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容、本書のユニークなところ
  • ブロックチェーンの可能性
  • オープンかクローズドか。オープン型ブロックチェーンについて思うこと


本書の内容


以下は本書の内容紹介からの引用です。

日銀出身の決済システムの第一人者が、未来の通貨として注目されるビットコインの崩壊を、その設計と運用の両面からいち早く予測。

さらに仮想通貨の中核技術 「ブロックチェーン」 が、ゴールドマン・サックスや三菱東京 UFJ 銀行、そして各国の中央銀行を巻き込みながら、金融界に大革命を起こしつつある状況を鮮やかに描く。


本書の趣旨


この本の趣旨を一言で言えば、注目すべきはビットコインではなく、ブロックチェーンというものです。本のタイトルの 「アフター・ビットコイン」 に込められているのは、ビットコインの後に来るのはブロックチェーンであることです。

著者はブロックチェーンについて、間違いなく今後の金融やビジネスの仕組みに革命を起こす本物の技術であると、その将来性を高く評価しています。


本書のユニークなところ


著者の中島真志氏は、金融の専門家です。元日本銀行の方で、特に決済システムに精通されています。

この本が、他のビットコインやブロックチェーンの本と違うのは、金融のプロフェッショナルから見たビットコインやブロックチェーンをどう評価するかが学べることです。

これまで私が読んだビットコインやブロックチェーンの本は、技術の視点や経済から書かれたものが多かったです。一方、本書は金融の観点から、特にブロックチェーンの何が画期的で、今後、世の中をどのように変える可能性があるかが多岐に渡って書かれています。


ブロックチェーンの可能性


ブロックチェーンが活用され、応用されていくのは三つの段階があると書かれています。

  • 仮想通貨
  • 金融分野への応用 (仮想通貨は除く)
  • 非金融分野への応用 (例: 商流管理・医療情報・資産管理・土地登記・選挙)

ブロックチェーンは、ビットコインの中核技術として開発されたように、通貨への適用が最初です。仮想通貨には、ビットコイン以外にも2017年現在で1000を超える種類のコインがあります。

通貨に活用されるとともに、ブロックチェーンは金融との相性が良いです。2017年の今年は、日本だけではなく世界中の銀行や証券会社でブロックチェーンの活用が検討され、一部ではテストも開始しています。独自の仮想通貨の発行を目指す銀行も出てきています (例: 三菱東京 UFJ 銀行の MUFG コイン) 。

注目したいのは、ブロックチェーンの非金融分野への幅広い応用です。先ほど挙げたように、商流管理や医療だけではなく、選挙の仕組みをも変える可能性が想定されています。

ブロックチェーンについては、これまではビットコインの文脈で多く語られてきました。今後は、ブロックチェーンそのものが主語になると著者は言います。


オープンかクローズドか


論点として興味深かったのは、ブロックチェーンのオープンかクローズドかの議論でした。

オープン型のブロックチェーンの例はビットコインです。オープン型の特徴は、中央に特定の管理者がいないことです。誰もが自由に参加できる仕組みで、その分だけ手間と時間をかけて信頼できるシステムを構築しています。ブロックチェーンでは PoW (プルーフ・オブ・ワーク) という仕組みが導入されています。

著者が指摘するのは、オープン型のブロックチェーンは使い方としては特殊だということです。2017年現在、金融業界で行われている実証実験の多くは、クローズド型とのことです。

クローズド型の特徴は、中央の管理者が全体を管理し、参加者も承認された人やプレイヤーのみです。オープン型は PoW のような仕組みによって信頼が成立していることに対して、クローズド型は中央管理者への信頼によって成り立ちます。

銀行をはじめ、ビジネスに相性が良いのはクローズド型ブロックチェーンでしょう。ビジネスでは事業主体があり、ブロックチェーンを導入する場合も中央管理者の役割を果たします。

オープン型ブロックチェーンでは、取引情報は公開されます。P2P (ピアトゥピア) には誰でも参加できるので、情報を見ることができます。しかし、事業主にとっては、自分たちのビジネス情報が誰にでも公開される仕組みは扱いにくいです。


オープン型ブロックチェーンについて思うこと


オープン型の魅力は、参加や取引の 「自由」 「公開」 「透明性」 です。オープン型ブロックチェーンの特徴をまとめると、次の通りです。

  • 管理者がいない
  • P2P で誰でも参加できる
  • PoW によって取引の承認がされ、信頼が成立する
  • 改ざんが不可能
  • 公開性・透明性

オープン型が革新的なのは、中央管理者を信頼しなくても、そもそも管理者がいないにもかかわらず、ネットワークと技術・仕組みによって、信頼性が確立していることです。分散自律型の形態です。

本書を読むと著者の中島氏は、クローズドブロックチェーンの可能性を評価していることがわかります。

一方、私はオープンブロックチェーンによって、分散自律型組織 (DAO: Decentralized Autonomous Organization) の可能性に魅力を感じます。

DAO とは経営者などの特定の中央管理者が不在で、労働者のみの構成される組織です。DAO の例は、ビットコインです。ビットコインを DAO という観点で見ると興味深いです。

ビットコインでは中央の指示がなくても、マイナーはビットコインが新しく手に入るというインセンティブによって、ビットコインの送金や決済の取引を確認し、承認するという作業 (マイニング) を自発的に行なっています。マイナー個々の利己的な行動が、全体で見れば健全に DAO として運用されているのです。

DAO という組織形態が、仮想通貨のバーチャルな世界だけではなく、現実の世界でもブロックチェーンによって将来的に実現するかは興味があります。


最後に


本書の構成は、始めにビットコインについての仕組みや著者が考える将来性から入り、ブロックチェーンの可能性に入っていきます。

具体的には、企業間や国際間での送金システムや証券決済にブロックチェーンをいかに活用するかです。既存のどういう問題に対して、どのような解決アプローチがあるかが、興味深く読めました。

金融システムという切り口で、ブロックチェーンはどのような可能性を秘めているかを知ることができる本です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。