2018/04/03

書評: 行動分析学入門 - ヒトの行動の思いがけない理由 (杉山尚子) 。行動直後の状態に注目し、行動や習慣をつくることに役立つ実用的な学問


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行動分析学入門 - ヒトの行動の思いがけない理由 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容。行動分析学とは
  • 好子と嫌子。行動を変えるための2つのアプローチ
  • 行動分析学について思ったこと (3つ)


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

失敗行動や犯罪の原因は、"心" に求められることが多い。「あいつはやる気がない」 「過去のトラウマだ」 等々。しかし、これでは評価にこそなりえても、問題解決にはつながらない。

行動分析学は、ヒト及び動物の行動を 「行動随伴性」 という独自の概念によって明らかにするもので、行動の原因を個体内部、つまり心ではなく、個体を取り巻く外的環境に求めていく。


行動分析学とは


行動分析学は、行動の分析から行動の原因を解明し、行動に関する法則を科学的に見い出そうとします。心理学の1つです。1930年頃に、米国の心理学者 B. F. スキナーによって確立された行動の科学です。


行動分析学の特徴


行動分析学では、行動を実験的に分析します。実験は、現状に対してある新しい条件を加え (介入) 、対象となる行動の変化を観察します。

得られた知見から、現実の行動をより良い方向に改善することを目指します。応用範囲は広く、企業などの組織行動マネジメント、教育、家族関係、環境問題、スポーツのコーチング、医療、看護、リハビリテーション、動物のしつけやトレーニングなどの様々な分野で活用できます。


ユニークな 「行動随伴性」 という考え方


行動分析学の特徴は、「行動随伴性」 という考え方にあります。行動随伴性とは、行動と行動直後の効果や状況変化の関係です。

なぜその行動をするのかの原因を考えるために、行動の直前だけではなく、行動の直後でどういう状況の変化があるかを見ます。行動分析学でおもしろいと思ったのは、行動と行動前後の以下の3つをセットで捉えることです。

  • 行動直前の状況
  • 行動
  • 行動直後の状況


直後とは60秒以内


行動分析学の行動直後は、60秒以内というコンセンサスがあります。

60秒という数字は誰かが適当に決めたというわけではなく、多くの行動実験からの明確な知見に基づいています。

行動して1分以内に起こる状況を行動直後とし、直後の状況がどうなるかによって、行動にどのように影響するかを分析します。

もちろん、60秒を1秒でもすぎると行動に全く影響しないというわけではなく、行動してなるべくすぐに起こる状況変化が行動に影響するという考え方です。


好子と嫌子


行動分析学では、行動の直後に何が起こるかに注目し、行動にどのような影響を与えるかを見ます。


行動の直後が 「好子」 か 「嫌子」 か


行動直後の状況は、その人にとって望ましいか望ましくないかの2つに分かれます。前者の望ましいことを行動分析学では 「好子」 、望ましくないことを 「嫌子」 と呼びます。好子はメリット、嫌子はデメリットと理解してよいでしょう。

好子と嫌子に対して、起こることを 「出現」 、起こらないまたはなくなることを 「消失」 と表現します。

好子と嫌子、出現と消失の 2×2 の組み合わせで、以下のマトリクスのようになります。


出現 消失
好子 メリットある メリットなくなる
嫌子 デメリットある デメリットなくなる


4つのそれぞれで、行動がどうなるかは次の通りです。


出現 消失
好子 メリットある
→ 行動する
メリットなくなる
→ 行動しなくなる
嫌子 デメリットある
→ 行動しなくなる
デメリットなくなる
→ 行動する


ポイントは、その人にとって、何が好子 (メリット) で、何が嫌子 (デメリット) なのかを見極めることです。同じ行動直後の状況でも人によっては好子になり、別の人にとっては嫌子になることもあります。

行動分析学のポイントは、見い出した好子や嫌子が、出現するのか消失するのかによって、望ましい行動をどう促すかです。


好子と嫌子から 「行動する」 の例


好子と嫌子からの行動例です。「行動する」 は、先ほどのマトリクスでは、好子出現 (メリットがある) と、嫌子消失 (デメリットがなくなる) の2つです。

  • 好子出現:メリットがあるので行動する。例: 子どもが、家のお手伝いをすると褒められる
  • 嫌子消失:デメリットがなくなるので行動する。例: ゲームをする前に宿題を済ませると怒られない


好子と嫌子から 「行動しない」 の例


次は、行動をしない例です。マトリクスでは、好子消失 (メリットがなくなる) と、嫌子出現 (デメリットがある) の2つです。

  • 好子消失:メリットがなくなるので行動しない。例: 小さい子どもが、泣き叫んでも注目されないとわかり騒がなくなる
  • 嫌子出現:デメリットがあるので行動しない。例: 泣きわめくと怒られるので騒がなくなる


行動を変えるための2つのアプローチ


行動分析学で興味深いと思ったアプローチをご紹介します。


目標を少しずつ上げる 「シェイピング」


1つめは、「シェイピング」 という方法です。

シェイピングとは、最終ゴールを達成するために小さな目標に分解し、目標を少しずつ上げていくことです。現時点で達成可能な目標に落とし、安定して達成できるようになれば、次の目標に引き上げます。

シェイピングをうまくやるポイントは、以下の3つです。

  • 即時強化:分解した目標を1つ達成したら、すぐに好子 (メリット) を提示し、その行動が望ましいことを示す。タイミングが重要。遅れると効果が低い、または予期せぬ別の行動につながってしまう
  • 目標は少しずつ上げる:ハードルを急に高くすると挫折の可能性が高くなるため
  • 挫折した場合は引き下げる:つまずいた時にある程度やってもできなければ、目標を下げるか1つ前の目標に戻る。できない目標に固執しすぎるより、戻ってから出直すほうがよい

おもしろいと思ったのは3つめです。

目標を少しずつ上げていきますが、目の前の目標達成ができなければ、いたずらにその目標にこだわるよりも、柔軟に対応するほうがよいという考え方です。場合によっては目標を下げたほうがいいのです。

順調に来て、あるところでつまずくというのは、前の目標達成の段階で技術が十分に身についていないか、次の目標が高すぎる設定だったと考えられるからです。


プロセスを1つずつできるようにする 「チェイニング」


もう1つ、行動分析学のアプローチで興味深かったのは 「チェイニング」 です。

チェイニングとは、プロセスを細かく分解し、各プロセスを順番に鎖でつなぐように、1つ1つのプロセスを順序立ててできるようにするやり方です。プロセスを1つずつ洗い出す方法を課題分析 (task analysis) と言います。

チェイニングの方法は、2つあります。1から10までプロセスがあった場合に、始めの1から10へつなげるやり方と、終わりの10から1へ逆行するやり方です。

興味深いのは後者の 「逆行チェイニング」 という方法です。

具体例でご説明します。例えば、子どもに歯磨きを1人でできるように教えるとします。プロセスは以下とします。

  • 歯ブラシを手に取る
  • 歯磨き粉を歯ブラシにつける
  • 歯を磨く (実際は歯を磨くプロセスはもっと細かいほうがいいですが、説明を簡単にするため1つにしています)
  • 口を水でゆすぐ
  • 歯ブラシを洗い元の場所に戻す

1から順番通りにチェイニングをする場合は、まず始めの 「歯ブラシを手に取る」 を1人でやるようにし、残りの 「歯磨き粉を歯ブラシにつける」 以降は親と子どもで一緒にやります。

これができれば、1と2を一緒にやり3以降を1人で、その次は1~3を一緒にと、少しずつ1人でできるプロセスを増やします。1人でできることは、プロセスの1から順番通りに増えていきます。

一方の逆行チェイニングでは、プロセスの最後から1人でできるようにします。具体的には、1の 「歯ブラシを手に取る」 から4の 「口を水でゆすぐ」 までを子どもは親と一緒にやり、最後の 「歯ブラシを洗い元の場所に戻す」 だけを子どもが自分1人でやるようにします。

これができれば、次は1~3までを親と一緒に、4と5を子ども1人でやります。

プロセスを分解し、プロセスの順番に沿って必ずしも難易度が上がらなければ、最後からできるようにする逆行チェイニングが効果的です。途中までは一緒にやったりサポートがあったとしても、最後の完了からできるようにするのでいつも達成感が得られるからです。

レースに例えると、逆行チェイニングは途中まで補助の伴走があり、最後のゴールテープを切るところは1人でやります。伴走距離を短くしていき、1人になってからゴールまでを長くします。

逆行チェイニングは、ゴールテープを切るのは1人でやるので、達成感が毎回得られます。


行動分析学について思ったこと


ここからは思ったことです。

行動分析学で興味深いと思ったのは、3つです。

  • 行動分析学では、「行動直前の状態」 「行動」 「行動直後の状態」 をセットで捉える。行動直後の状態から行動の原因を分析することを重視する
  • 少しずつ目標を上げるシェイピングでは、もし目標達成につまづけば、その目標に固執するのではなく、目標を変えたり下げるなど、柔軟に対応するとよい
  • 分解したプロセスをつなげるチェイニングでは、プロセスの最後から逆行してできるようにする逆行チェイニングが効果を発揮する

3つに共通するのは、自分がこれまで思っていたことや常識とは逆のやり方だということです。具体的には、次のような逆の考え方です。

  • 行動の前の気持ちではなく、行動直後の状態に行動の原因を見い出す
  • 目標は絶対的なものではなく、目標は柔軟に設定し、時には下げたり戻るほうが有効。急がば回れのアプローチ
  • プロセスを順番にできるようにするのではなく、終わりのプロセスから逆行してできるようにする。常に最後のプロセスは自分でやるので達成感が毎回得られる

奇をてらって逆のアプローチを取るのではなく、行動分析学の観点から3つとも理に適っているように思えるのが興味深いです。



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書いている人 (多田 翼)

複数のスタートアップ支援に従事。経営や事業戦略のコンサルティング・アドバイザー・メンター、プロダクトマネージャー、マーケター。前職は Google でシニアマーケティングリサーチマネージャー、現在は独立 (詳細は LinkedIn または Facebook をご覧ください) 。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。