投稿日 2018/04/19

書評: ネット・プロモーター経営 - 顧客ロイヤルティ指標 NPS で 「利益ある成長」 を実現する (フレッド・ライクヘルド / ロブ・マーキー) 。シンプルで使いやすい指標


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ネット・プロモーター経営 - 顧客ロイヤルティ指標 NPS で 「利益ある成長」 を実現する という本をご紹介します。



エントリー内容は、

  • 本書の内容。ネットプロモータースコア (NPS) とは
  • NPS の S を 「システム」 と位置づける
  • フィードバックの扱い方、顧客の分類


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

『顧客ロイヤルティを知る 「究極の質問」 』(2006年) の増補改訂版。CS 調査に革命を起こす 「NPS」 の全貌と進化がわかる一冊。20年以上の研究が生み出した最強の顧客ロイヤルティ管理ツールとは?

アップルからザッポスまで、数千社!「超優良企業」 の成長エンジンはこれだった!

 「あなたが弊社の商品/サービスを親友や同僚の方に推奨していただける可能性はどのくらいありますか?」

この問いへの回答を的確に、分析することが、「ファン顧客」 獲得、維持、拡大につながる!


ネットプロモータースコア (NPS) とは


NPS について、以下の3つからご説明します。

  • NPS のための質問
  • 顧客の分離方法
  • どのようにスコアをつけるか


1. NPS のための質問


NPS は、アンケートやインタビューで、顧客に次の質問をします。

  • この企業 (あるいは、この製品・サービス・ブランド) を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか。0点から10点で表してください (点数が高いほど薦める可能性が高い) 。
  • その点数をつけた主な理由は何ですか (自由回答)

推奨度を11段階でつけてもらい、続く質問で顧客自身の言葉で、その態度の背後にある理由を書いたり語ってもらいます。


2. 顧客の分離方法


NPS の質問により得られた11段階の推奨度から、顧客を3つに分類します。推奨者 (プロモーター) 、中立者 (パッシブ) 、批判者 (デトラクター) です。

  • 推奨者:9点または10点を付けた人。何度も購入してくれたり、企業やブランドへの思い入れが強いロイヤリティの高い顧客。友人や同僚に企業やブランドへの好意的な話をしたり、口コミをする
  • 中立者:7点または8点を付けた人。企業やブランドに満足はしているが受け身であり、推奨者とは異なる態度や行動を示す。友人や同僚に紹介することはほとんどない。競合他社に魅力を感じれば、そちらに移ってしまう可能性もある
  • 批判者:0点から6点を付けた人。企業やブランドに対して不満を持ち、失望を感じていることもある。友人や同僚には、感じている不平や不満を伝える。企業に苦情を寄せる


3. どのようにスコアをつけるか


NPS では0点から10点の推奨度を使って、次のようにネットプロモータースコアを算出します。

NPS = 推奨者の割合 - 批判者の割合

 「9点か10点を付けた推奨者の割合」 から、「0点から6点の批判者の割合」 を引いた差です。

例えば、推奨者が全体の 30% 、批判者が全体の 10% だとすれば、NPS は、NPS = 30 -10 = 20 となります。もし批判者が推奨者よりも多ければ、NPS はマイナスになります (例: NPS = 15 - 35 = -20) 。


NPS の S を 「システム」 と位置づける


本書の考え方で興味深いと思ったのは、NPS の S を単にスコアと捉えるのではなく、システムと位置づけることです。

NPS をスコアとすれば、単に顧客がどれくらい推奨するかを量的に知るための点数や評価として扱うことになります。スコア自体は目的です。

一方、NPS をシステムにするとは、マネジメントやビジネス、経営のやり方を変える 「手段」 にすることです。

システムになれば、推奨者を増やし、批判者を減らすために、組織全体で NPS を活用できます。

推奨者・中立者・批判者のフィードバックを全社的に共有し、問題点の把握と解決のための課題設定、実行までを、一貫して行なうための社内の共通言語にします。

NPS を通して、顧客にさらに貢献する、顧客をより幸せにすることを目指します。


フィードバックの扱い方


ここからは本書を読み NPS について思ったことです。

NPS からのフィードバックで、全ての顧客からの声に対応すべきなのかどうかです。

顧客規模が大きくなると、顧客の全てが必ずしもターゲットとしたい顧客ではなくなります。そうした狙っていない顧客から声に対して、耳を傾けて向き合うことまではやっても、ビジネスの改善や事業に取り入れるべきかどうかです。

もちろん、批判者からの要望やクレームで自分たちが間違っていれば、真摯な対応や謝罪も必要でしょう。ただし、全てのフィードバックを改善に使うのか、そうではなく使わない判断をするかです。

読みながら思ったのは、後者の考え方、つまり、判断基準をつくり、NPS からのフィードバックをどの段階まで使うかを見極めるほうがよいことです。


顧客の分類


では、判断基準はどうすればよいのでしょうか?

見極めるためには、顧客を 「推奨者」 「中立者」 「批判者」 の3つに加え、さらに分類することが有効です。思ったのは、次の2つのやり方です。

  • ターゲット区分で分類
  • キャズム理論で分類


1. ターゲット区分で分類


例えば、別の軸で 「コアターゲット」 「ターゲット (コア以外)」 「非ターゲット」 と3つに分けます。2つの軸から、顧客を 3×3 の9つの区分にします。

推奨者 中立者 批判者
コアターゲット
ターゲット
(コア以外)
非ターゲット


9つからフィードバックへの対応の優先順位付けをします。

例えば、緊急かつ重要度も高いフィードバックは、「コアターゲットの批判者」 とします。まずはコアターゲット内で、いかに批判者を減らし中立者や推奨者に変えられるか、その次はターゲット (コア以外) の中で推奨者を増やしていきます。


2. キャズム理論で分類


推奨者・中立者・批判者に掛け合わせる軸を、キャズム理論の5分類を使ってもよいでしょう。

キャズム理論では、顧客 (今後顧客になる人も含む) を5つに分けます。

  • イノベーター
  • アーリーアダプター
  • アーリーマジョリティ
  • レイトマジョリティ
  • ラガード

電気自動車に当てはめると次のようになります。() 内の % は、キャズム理論で言われる全体に占めるボリュームです。

  • イノベーター (革新者 2.5%) :自動車がガソリンではなく電気で走るという新しい技術そのものに魅力を感じる。真っ先に電気自動車を買う
  • アーリーアダプター (先駆者 13.5%) :電気自動車という新しい技術を理解し、ガソリン車に比べてどんな利点があるかを評価する。近所で電気自動車が走っていなくても買う
  • アーリーマジョリティ (現実的購買者 34%) :電気自動車の効用が証明され、身近なところに電気自動車向けの充電ステーションが設置されるようになれば買う
  • レイトマジョリティー (追随者 34%) :多くの人が電気自動車に乗り換え、ガソリン車を運転することが不便になってきたら買う
  • ラガード (無関心層 16%) :電気自動車が普及しても関心がなく、引き続き慣れ親しんだガソリン車に乗る

このように、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティー、ラガードの順に時間軸に沿って推移します。

ポイントは、5つのグループそれぞれで、電気自動車を選ぶ理由が異なることです。

NPS に話を戻すと、同じ推奨者のフィードバックでも、アーリーアダプターとレイトマジョリティでは、意味合いが違ってきます。批判者の意見でも、両者は異なるでしょう。

キャズム理論の5つを掛け合わせる際に考えなければいけないのは、アーリーアダプターやマジョリティをどう定義づけるかです。NPS ほどシンプルに分けられないので、工夫の余地があります。

なお、キャズム理論については、以下のブログエントリーで書いています。よろしければ、ぜひご覧ください。


書評: キャズム Ver.2 - 新商品をブレイクさせる 「超」 マーケティング理論 (ジェフリー・ムーア) 。成長の鍵を握るアーリーマジョリティの攻略法


最後に


今回ご紹介した ネット・プロモーター経営 という本は、NPS について、様々な企業を中心にした導入事例とともに詳細に解説されています。

NPS の質問は、顧客に 「友人や同僚に薦める可能性はどのくらいあるか」 を11段階で答えてもらうものです。スコアの算出は推奨者から批判者の割合を引くだけなので、シンプルで理解しやすい方法方です。

ただし、読んでいて思ったのはシンプルだからと言って、NPS を 「システム」 として活用することは簡単ではないことです。全社的な取り組みのために、経営層のトップレベルから一丸となって取り組めるかです。

マーケティングの切り口とともに、経営という視点でも興味深く読めます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。