2018/04/13

書評: メリットの法則 - 行動分析学・実践編 (奥田健次) 。4つの行動直後パターンから行動理由を分析する実践的な学問


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メリットの法則 - 行動分析学・実践編 という本をご紹介します。




今回は、行動分析学について書かれた本書を読んで興味深かったこと、思ったことを書いています。

具体的には以下です。

  • 行動分析学とは何か。行動分析学の考え方や特徴
  • なぜダイエットや禁煙は難しいのか
  • 行動分析学と消費者インサイトとの共通点


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

 「すぐに弱音を吐いてしまう」 「ダイエットに失敗する」 …

日常ありがちな私たちの行動を分析するのに、難しい理論はいらない。心理学のメインテーマともいえる 「なぜ、その人は ○○ をしてしまうのか」 という問いへの答えを 「心」 ではなく、「外部の環境」 に求めるのが行動分析学だ。

 「好子」 「嫌子」 「出現」 「消失」 。あらゆる行動は、四つのキーワードで分析可能であり、不登校から潔癖症まで、様々な問題行動を劇的に改善することができる。

本書は、そうした改善の実例を豊富に揃えるとともに、最新の知見も交えた実践の書である。


行動分析学とは


行動分析学は心理学の1つで、行動の分析から行動の原因を解明し、行動に関する法則を科学的に見い出します。1930年頃に、米国の心理学者 B. F. スキナーによって確立された行動の科学です。

応用範囲は広く、企業などの組織行動マネジメント、教育、家族関係、環境問題、スポーツのコーチング、医療、看護、リハビリテーション、動物のしつけやトレーニングなどの様々な分野で活用できます。


行動分析学の考え方や特徴


行動分析学について、興味深いと思ったことは以下です。

  • 行動直前から行動直後までをセットで捉える
  • あらゆる行動を4つのキーワードで分析する
  •  「アメとムチ」 よりも 「アメと "アメなし" 」
  • 行動直後とは 「即時」 。目安は60秒以内

それぞれについて、ご説明します。


行動直前から行動直後までをセットで捉える


行動分析学は、「行動の直前」 「行動」 「行動の直後」 までをセットで捉えます。

特徴的なのは、行動の前だけを見て行動の原因を探るのではなく、行動の直後から行動の要因を見い出すことです。行動の直前以上に、行動後の状況変化から行動の理由を分析します。

このように、行動と、行動に伴って変化する状況の関係性を 「行動随伴性」 と呼びます。行動分析学が他の心理学と比べてユニークな点です。


あらゆる行動を4つのキーワードで分析する


行動分析学では、行動後の状況変化を 2 × 2 マトリクスで整理します。2 × 2 は、好子か嫌子、出現か消失です。

好子とはメリット、嫌子はデメリットです。出現は生まれる、消失はなくなることです。

4つのキーワードから行動を捉えます。例えば好子出現とはメリットが生まれるので、行動を誘発します。

マトリクスで整理すると、次のようになります。


出現 消失
好子 メリットが生まれる
→ 行動する
メリットがなくなる
→ 行動しなくなる
嫌子 デメリットが生まれる
→ 行動しなくなる
デメリットがなくなる
→ 行動する


好子と嫌子で注意が必要なのは、メリットとデメリットは人によって変わることです。同じ人でも、状況や例えば年齢によってメリットだったことがデメリットになり得ます。


 「アメとムチ」 よりも 「アメと "アメなし" 」


本書で興味深かったのは、「アメとムチ」 におけるムチの考え方でした。

意図的に行動をさせる場合に、アメという報酬とムチという罰を組み合わせるのは効果的です。ただし、注意が必要なのはムチは適切に使わないと劇薬になってしまうことです。多用することによって副作用が起こります。

ムチが与えられる状況とは、何かに失敗したりできなかった場合です。すでに、この時点でその人や動物にとっては、ネガティブな気持ちになっています。

それに加え、実際にムチという罰が与えられればマイナスの感情はより大きくなります。場合によっては、次にもう一度挑戦しようという気持ちが萎えてしまうでしょう。行動を起こすという観点からは逆効果です。

本書が強調するのは、「アメとムチ」 よりも 「アメと "アメなし" 」 です。

ムチという与えられると嫌なもので行動を促すのではなく、できなければ 「アメがもらえない」 ということに意識を集中させます。アメをもらうことをより強く意識付けします。

行動分析学の用語で表現すれば、アメとムチは 「好子出現と嫌子出現」 、アメとアメなしは 「好子出現と好子消失」 です。

思ったのは、「ムチ」 が有効な場合と 「アメなし」 が有効な場合は、異なることです。

ムチが効果的なのは、やってはいけないことを止める時です。例えば、違反をした場合に課す罰金です。

一方、アメなしが効果を発揮するのは、本来は望ましい行動をやろうと思っていたのにできなかった時です。例えば、運動を毎日の習慣にしようとがんばっていたものの、どうしてもその日はモチベーションが上がらず運動できなかった場合です。

この状況でムチを与えてしまうと逆効果になりかねません (次に運動をまた再開しようとする気持ちを萎えさせる) 。アメなしが効果的でしょう。


行動直後とは 「即時」 。目安は60秒以内


行動分析学は、行動直後の状況に焦点を当てます。例えば、先ほどのマトリクスで見た、行動直後に 「メリットが生まれる」 「デメリットがなくなる」 ために行動を起こすと考えます。

ここで言う直後とは、行動分析学では60秒以内というコンセンサスがあります。

60秒は、行動分析学の多くの研究から導き出された基準です。行動後の変化がなるべくリアルタイムなほど、行動に影響を与えます。


ダイエットや禁煙が難しいのは即時効果が実感できないから


行動直後、それも即時の状況変化が行動に影響するという視点で見れば、ダイエットや禁煙が難しいのはなぜかの説明ができます。

やらないことが望ましいと自分が思っていても、ついやってしまうのは、そこには何かしらの原因があります。禁煙であれば、タバコを控えたりやめれば健康に良いことは、喫煙者であっても多くの方は理解しているでしょう。

しかし禁煙をしても、実際に健康になることの実感は、即時や60秒以内には起こりません。さらに、本当に禁煙で健康になれるかどうかも 100% 確実ではありません。

一方、タバコを吸うことによって気分が落ち着いたりストレスが解消するのは、喫煙直後に実感できます。そうなる確実性も高いです。

行動後の即時効果が、将来の健康になるという確実性の劣る効果よりも高いので、やめようと思ってもタバコを吸うという行動を起こしてしまうのです。

行動分析学の言葉で表現すれば、タバコをやめる好子出現は即時ではなく不確実性で、タバコを吸う好子出現は即時かつ確実性が高いので、タバコを吸うという行動への誘発が起こります。


行動分析学と消費者インサイト


行動分析学は、行動直後の状況変化がその行動にどう影響したかを分析します。行動後には、好子と嫌子 (メリットとデメリット) の2つがあります。

ポイントは、好子と嫌子は人それぞれであり、本当に行動に影響しているかや、影響の強さをどう見極めるかです。

行動した本人にも、無自覚な場合もあります。自分にとって行動に影響した好子と嫌子が、具体的に何かわからないケースです。

好子と嫌子の考え方は、マーケティングにおける 「消費者インサイト」 に通じます。

消費者インサイトとは、「人を動かす隠れた気持ち」 です。普段は本人が自覚したり意識していない感情ですが、気づかされれば行動につながる奥にある気持ちです。買ったり、時には習慣すらも変えます。

行動分析学と消費者インサイトとの共通点は、「行動」 です。

マーケティングでは、購買ファネル (認知 → 興味 → 検討 → 購入) や買うまでのプロセスを可視化したカスタマージャーニーという考え方があるように、買う前までを分析する傾向があります。

行動分析学から、消費者インサイトへの示唆があります。インサイトを見い出すために行動後に注目することです。

行動後とは、例えば買ってお金を払った直後、その商品やサービスを実際に使っているときや使った直後に、どんな好子と嫌子があるのかです。

好子や嫌子という切り口は、消費者インサイトを見い出すために有効です。

なお、消費者インサイトについては別のブログエントリーで詳しく解説しています。よろしければ、ぜひご覧ください。



最後に


今回ご紹介した メリットの法則 - 行動分析学・実践編 は、事例や著者の豊富な経験からの具体的なエピソードも書かれ、興味深く読める本です。

行動分析学の理論とともに、具体的にどういう仕組みで機能し、どのように役立てられるかが肌感覚でわかります。



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書いている人 (多田 翼)

複数のスタートアップ支援に従事。経営や事業戦略のコンサルティング・アドバイザー・メンター、プロダクトマネージャー、マーケター。前職は Google でシニアマーケティングリサーチマネージャー、現在は独立 (詳細は LinkedIn または Facebook をご覧ください) 。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。