投稿日 2025/07/25

サッポロ × 森永製菓の 「小枝ビール」 。異業種コラボで顧客層を広げる方法

#マーケティング #コラボ企画 #顧客獲得

コラボ商品と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?
意外な組み合わせによる驚き?それとも、一時的な話題づくりでしょうか?

異色のコラボは注目を集めやすいですが、それだけで終わってしまうことも少なくありません。では、本当に成功するコラボ商品とはどのようなものでしょうか?

今回取り上げるのは、サッポロビールと森永製菓の 「小枝ビール」 です。黒ビールとチョコレート菓子という異業種の組み合わせが、ブランドの認知拡大や新たな顧客層の獲得につながった事例です。

マーケティングの仕掛けをひも解き、コラボをビジネスの成長戦略に活かすポイントについて、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

サッポロ × 森永製菓の 「小枝ビール」 



サッポロビールと森永製菓という、一見するとあまり接点がないように思える2つの企業。両社が、チョコレート菓子 「小枝」 を用いた黒ビールテイストの発泡酒である 「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 を共同開発しました。

コラボ商品の背景

まずはコラボの背景から見ていきましょう。

森永製菓の 「小枝」 はロングセラーのチョコレート菓子ですが、小枝を製造する過程でフレーバーの切り替え時などに、におい移りが原因で販売できない小枝が一定量発生していました。

これまでは飼料などにリサイクルするしか方法がありませんでしたが、サッポロビールは販売できない小枝を "未活用の資源" として注目し、ビール原料の一部に利用することによって、食品ロス削減にもつなげられると考えたわけです。

サッポロビールにはビールの多様なレシピ開発のノウハウがあり、森永製菓は小枝というチョコレート菓子での認知やブランドイメージを持っています。両社のお互いの強みをかけ合わせることによって、小枝の風味を生かした黒ビールテイストの商品を創り出すことが実現しました。

また、コラボを進める中で 「ビールが苦手な人にも手に取ってもらえるようにしたい」 という思いも強まりました。

 「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 の特徴

こうして共同開発された 「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 は、黒ビールテイストの発泡酒です。

ビールという区分にはならないものの、醸造方法やレシピの工夫はクラフトビールとほぼ同じです。特徴はチョコレート菓子の小枝を原料に加えているところにあります。

チョコレート麦芽などのロースト感のある麦芽を組み合わせることより、小枝が持つミルクチョコレートやナッツ、パフの風味をうまく引き出し、同時に黒ビールのコクや香りも楽しめるというバランスに仕上げました。

味は甘みや酸味がほどよく、後味は残りすぎることがないので、さっぱりとしています。黒ビールにありがちな濃厚さやくどさは控えめで、黒ビールが苦手な人でもおいしく飲めそうです。

予約販売時にはセット販売がすぐに完売し、SNS を中心に 「想像以上に飲みやすくて驚いた」 といった口コミも見られました。

マーケティング展開

サッポロビールは自社のクラフトビール通販サイト 「HOPPIN' GARAGE」 を活用して、数量限定商品で 「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 を発売しました。

サイトでは限定感やストーリー性を打ち出し、小枝が一箱付属するセット商品を用意するなど、購入者にとって特別感が感じられるよう工夫しました。小枝1箱と4本のセットを2900個用意し、予約開始から1週間で売り切れとなりました。

さらに、東京・新宿のルミネで期間限定のポップアップストアも設置しました。EC サイトだけではリーチしきれない消費者層にもアプローチできることを狙ってのことです。

こうしたマーケティング施策から 「小枝が好きな消費者が黒ビールにも興味を持つ」 、「ビールが好きな人が、チョコレート菓子とのコラボが気になり一度飲んでみる」 、「久しぶりに小枝を食べてみたくなった」 といった小枝とビールへの相互での顧客獲得への効果が見込めます。

コラボ企画から学べること


では、サッポロビールと森永製菓が共同開発した 「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

双方のブランド認知を高める

自社商品のファンや既存顧客を持つ企業同士がコラボレーションをすると、認知拡大が期待できます。

今回の事例では、小枝を普段から食べている人がサッポロビールの新商品を知るきっかけになったり、ビールを普段からよく飲んでいる人がチョコレート菓子の小枝に目を向けるきっかけにもなるでしょう。

また、意外な組み合わせから生まれた黒ビール (厳密には黒ビールテイストの発泡酒) という話題性だけでなく、食品ロス削減という社会的な意義も組み込まれているので、「小枝のアップサイクル商品」 という側面も注目を集める要因になります。

こうした社会的テーマを軸に据えることで、メディアや SNS での露出が増え、双方のブランド認知を高めたり思い出してもらえる効果が生まれるわけです。

消費者が再発見するきっかけ

ロングセラーブランドや、既に市場で知られている定番商品は、どうしても 「いつもの商品」 というイメージが固定します。それだけ消費者の中で定着している一方、ロングセラーであるがゆえに新鮮味を打ち出しにくい側面もあります。

ここに、全く別のジャンルの企業や商品とのコラボによって驚きや関心をつくりだせます。

小枝が好きな人は 「小枝のチョコの風味が入ったビールなら飲んでみたい」 と興味を持つでしょうし、ビール好きの人には 「黒ビールとチョコの融合ってどんな味か試してみたい」 という好奇心が刺激されます。

消費者がしばらく離れてしまっている商品や、知っていても買う機会があまりなかった商品の魅力を再発見させる効果は、コラボならではの利点です。

既存顧客とは異なる層への "水平方向" の拡大

森永製菓の小枝のメイン顧客層は30 ~ 50代女性層、サッポロビールは男性層です。もともとのそれぞれの注力顧客が重なっていないぶん、コラボ企画によって 「水平方向」 という今までは取り込めていなかった消費者が新たにお客さんになってくれることが期待できます。

サッポロビールにとっては、小枝を買っている人がサッポロビールの商品を体験する機会になれば、これまでビールに馴染みがあまりなかった消費者や、黒ビールに苦手意識を持っていた消費者も、小枝のチョコレート風味によって飲みやすいビールによって新しくお客さんになってくれるでしょう。

また、他社ビールを愛飲していた人がサッポロブランドに触れるきっかけにもなります。ビール好きの人にとっても小枝とコラボしたビールという珍しさから試してみて、サッポロビールの他の銘柄も飲んでみたいと思えば、サッポロビールの定番ビールも手にとってもらうというふうにです。

コラポによって、お互いに持つ顧客基盤をゆるやかに結びつけ、コラボ前よりも広い層にブランドを知ってもらったり買ってもらえる機会を生み出します。

顧客層拡大を可能にするコラボとは


では最後のパートでは、顧客層を広げるためのポイントについて考えていきましょう。

お互いの強みを活かした相乗効果を狙う

まず重要なのは 「お互いに何を得意としているか」 を明確にし、どうかけ合わせれば新しい価値をつくり出せるかを考えることです。

サッポロビールであれば醸造技術やビールのブランド力、森永製菓はチョコレートに関する知見や安定した生産ライン、ロングセラーブランドの知名度です。これらが合わさることによりこれまでにない商品コンセプトとなり、消費者に新しい体験をもたらすことができます。

新しい消費者層を取り込む仕組みづくり

とはいえ、ただコラボ商品をつくるだけでは十分ではありません。

サッポロビールは自社の EC サイトで数量限定品を用意して販売したり、ポップアップストアで実際に商品を手に取ってもらったりなど、複数の顧客接点をつくりました。コラボした商品のそれぞれが持つ異なる顧客層が交差するような導線が生まれます。

期間限定や特別セットなどの要素も相まって興味を生み、新しい消費者層を取り込めることが期待できます。

ブランドイメージの再発見と再評価

コラボレーションは、既存ブランドを再活性化するチャンスでもあります。

今回のコラポで言えば、「小枝は子ども向けのお菓子だと思っていたけど、大人でも楽しめる」 、「黒ビールは飲みづらいイメージだったけど、意外においしい」 など、コラボを機会にして試してみて、それまでの思い込みや固定観念が変わるきっかけになります。消費者は、今までのブランドイメージを良い意味で見直すことでしょう。

長年愛され続けているロングセラーブランドにおいては、コラボから新しい魅力を打ち出し、既存顧客にも再発見を促せる有効な手法です。

社会的なテーマからの意味づけ (コラボの社会的意義の打ち出し) 

サッポロビールと森永製菓の 「小枝ビール」 の事例では、小枝の製造過程で生じていた 「食品ロスの削減」 という社会的課題にも寄与している点もポイントです。

ただ単に 「おもしろコラボ」 でとどまらず、企業としての姿勢や社会貢献もアピールでき、消費者からの好意的な評価や、メディアでの取り上げられ方もポジティブになりやすくなります。

社会的なテーマまで入ったコラボは、消費者から社会的な意義の文脈からも注目され、一度限りのお祭り的な企画ではなく、企画自体は期間限定だとしても長期的に企業価値を高めていくことにつながります。消費者との新たな顧客接点ができるだけでなく、企業ブランディングや広報の観点でもプラスに働きます。

まとめ


今回は、サッポロビールと森永製菓が共同開発した "小枝ビール" である、「サッポロ MILD BLACK with 小枝」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • サッポロビールと森永製菓の 「小枝ビール」 のコラボ企画からもたらされる恩恵は、
    ① 双方のブランド認知を高める
    ② 消費者が再発見するきっかけをつくる
    ③ 既存顧客とは異なる層への "水平方向" の顧客拡大

  • コラボによって顧客層拡大を可能にするために、
    ① お互いの強みを活かした相乗効果を狙う
    ② 新しい消費者層を取り込む仕組みづくり
    ③ 消費者からのブランドイメージの再発見と再評価の促す仕掛け
    ④ 社会的なテーマからの意味づけ (コラボの社会的意義の打ち出し) 


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。