投稿日 2025/07/26

コンセプトのつくりかた。未知の良さを発見し、ビジョンとアイテムで新しい価値を実現する方法

#マーケティング #コンセプト #本

新しい企画やアイデアを考えるとき 「なにから手をつけたら良いのだろう?」 と迷うことはないでしょうか?

他には、「おもしろい発想を出そうとしても、結局はどこかで見たようなアイデアになってしまう……」 となった経験はありませんか?

ご紹介したいのは 「コンセプトのつくりかた (玉樹真一郎) 」 という本です。


こちらの本は 「コンセプトとは何か?」 から始まり、どのようにしてコンセプトをつくり出すか、具体的な手順が解説されています。

今回は、本書の概要と、ビジネスの現場で活かせる実践のためのポイントをまとめました。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

本書の概要



この本は、任天堂のゲーム機 「Wii」 の初期コンセプト設計に深く携わった著者・玉樹真一郎さんが、その経験をもとにコンセプトとは何か、どうやってコンセプトをつくっていくのかをわかりやすく解説した一冊です。

ビジネス書的な堅苦しさはなく、ゲームのロールプレイングゲーム (RPG) の冒険物語のようなストーリー形式で読み進められます。

主人公である 「勇者 (コンセプト立案者) 」 が仲間とともに新しい価値を発見していく様子が、Wii のコンセプトをつくったときの状況が再現されながら描かれます。読者も一緒に 「コンセプトをつくる冒険の旅」 を疑似体験できるようになっています。

本書では、実現するためのワークショップ形式の具体的プロセスや、実務に落とし込むためのステップがわかりやすく紹介されています。コンセプトにはどんな役割があるのか、どのようにしてつくっていけばいいのかを読者は学べます。

コンセプトをつくるためのポイント


それでは、コンセプトをつくるための実践的なポイントをいくつか見ていきましょう。

コンセプトとは何か

本書ではコンセプトを 「世界を良くする方法」 であり、「あなた (つくり手) が幸せに生きる方法」 とします。

コンセプトは決してただの思いつきやアイデアではなく、世の中に良い変化を起こすための指針となり、自分自身にとってもやりがいと幸福感をもたらすものです。

コンセプトは商品アイデアやキャッチコピーにとどまりません。新しい価値観を形づくり、プロジェクトや組織に一本の軸を与えます。同時に 「つくり手自身が心から共感できるビジョン」 である必要があると本書はいいます。

未知の良さ

著者がコンセプトづくりで強調するのは 「まだ世の中に知られていない "未知の良さ" を形にする」 という視点です。"未知の良さ" を発見し、世界を少しでも良くすることこそがコンセプトの本質であると。

たとえば便利さや快適さのように、すでにみんなが知っている良さだけを高めるというのは 「既存の良さ」 の追求です。それに対して 「未知の良さ」 は、誰もがまだ言語化できていない価値観やメリットを探り当てていくアプローチをとります。

まだ世の中に存在しない、あるいは存在していても多くの人がその価値に気づいていないものを発掘する。多くの人たちがまだ言語化できていないけれど、体験したらワクワクするような、新しい価値を提案することを形にする。これがコンセプトづくりの核心なのです。

ビジョンとアイテム

本書ではコンセプトは 「ビジョン」 と 「アイテム」 の2つの要素から成り立つとます。

ビジョンとは 「こんな未来をつくりたい」 「こういう世界が訪れればいいのに」 という理想像や目指す世界観です。一方のアイテムは、「ビジョンを実現するための具体的な手段や方法」 を指します。

たとえば 「老若男女がみんなで楽しめるゲーム機がリビングルームに自然に置いてある世の中」 というビジョンがあったとします。そこで生まれたアイテムが、Wii を実現するアイテムとして 「リモコン型コントローラー」 です。

こうしてビジョンとアイテムをセットにしたとき、コンセプトは初めて筋の通ったものになります。

20文字程度のフレーズ

良いコンセプトは、20文字程度の短いフレーズで明確に言い表せるものです。

たとえば 「家族全員がテレビの前で笑顔になれるゲーム機」 や 「いちばん退屈な通勤時間を楽しい学びに変えるアプリ」 など、端的に目的と方法を示します。

コンセプトの文章があまりに長いと覚えづらく、本質が伝わりません。反対に短すぎると抽象的で曖昧になり、イメージが広がらないでしょう。

いきなりきれいにまとめるのは難しいかもしれませんが、まずは草案でもいいので20文字前後に落とし込んでみるといいでしょう。

目指すのは、何を使ってどんな未来をつくるのかという理想の世界観 (ビジョン) がパッとわかる一文になることです。20文字程度の言葉で端的に表されるのがコンセプトです。

コンセプトの条件 (チェックリスト) 

コンセプトが完成したら、条件を満たしているかを確認します。

ひとつめのチェックポイントは 「自分自身 (やチーム) が心から同意し、実行すると幸せになれるものか」 という視点です。

もし自分が心からおもしろいと思えないコンセプトなら、途中でやる気が途切れてしまうことでしょう。コンセプトは行動の軸になるものなので、つくり手がワクワクできるかどうかを自分に問いてみることが大事です。

ふたつめのチェックポイントは 「現実的な持続可能性はあるか?」 という観点です。

たとえ崇高な理想が高いコンセプトだとしても、資金や人材などのリソースが足りず、そもそも実行が不可能であれば、結果的に挫折してしまいます。ある程度の採算や実現性を見込めるかどうかを確認し、必要に応じてコンセプトの規模感や手段を修正するのが望ましいです。

コンセプトをつくるプロセス


では最後のパートでは、コンセプトをどのようにつくっていくかのプロセスを順番に見ていきましょう。

不満や悪口を洗い出す (課題探索) 

コンセプトワークを始めるとき、いきなりアイデアを考えようとしてもなかなかうまくいきません。まずは、いま抱えている問題や不満、業界の常識などを広く挙げることから始めます。

著者はこれを 「悪口大会」 と呼び、気になる点を付箋に書き出して壁に貼るワークを推奨しています。テーマに関連する困りごと、ダメなところ、現状への不満などを遠慮なく書き出します。

ここではネガティブなことも大歓迎で、あえて 「こういうところが嫌い」 や 「こんなところに無理がある」 と発散していくことにより、そのあとの 「未知の良さ」 の種が見つかりやすくなります。

ズラす質問でアイデアを拡散させる

ある程度で不満や問題点が出そろったら、付箋の内容をいろいろな角度からズラして見てみます。

本書ではズラす質問として、視点の転換を促すヒントが紹介されています。

たとえば、「常識を逆にしたらどうなる?」 、「立場を変えてみたら? (母親なら?奥さんや夫なら?友達なら?) 」 、「2つの悪いことをかけ合わせたら?」 、「時期をズラしたら、どうなる? (来年なら?去年なら?朝と夜では同じ?) 」 などです。

発想を根気よくズラし続けることによって、ありえない組み合わせや新たな切り口が浮かんできます。

ブレストをする感覚で、否定は決してせず 「そんなの無理だよ」 と切り捨てず、とにかく自由に発想するという段階です。いきなり実現可能性をシビアに判断するのではなく、まずはおもしろいと思う方向にどんどんアイデアを膨らませていきます。

アイデアを整理・統合し、星座を描く

ズラす質問でアイデアを広げたあとは、それらをグルーピングし、最終的なコンセプトにつなげていきます。KJ 法 (カードや付箋などを用いて、アイデアや情報を整理して問題解決や新たな発見につなげる手法) のように、付箋をまとめたり順序を入れ替えたりしながら全体像を見渡す作業です。

散らばったアイデアを星座のようにつなげ、本書では 「星座を描く」 と表現します。

付箋に書いたアイデアを貼り直しながら全体の流れを俯瞰してみると、ばらばらに見えた点が一つのテーマに収束していきます。コンセプトの輪郭が次第に明確になっていくでしょう。

物語化しコンセプトに魂を吹き込む

導き出されたコンセプトを、短いストーリーにして物語のように話をつなげてみます。たとえば家族や友人がテレビの前で盛り上がる様子などの具体的なシーンを物語化するというようにです。

このコンセプトを実行したら、どういう人たちがどんな喜びを感じるのかという物語を描いてみるわけです。どんな世界観が広がるのか、ユーザーがどんな体験をするのかを想像し、具体的な言葉で描き出してみることで、コンセプトが色鮮やかになります。

Wii の開発でも 「家族がリビングでテレビを囲みながらリモコンで振り回している映像」 をみんなでイメージし、そうなったら楽しそうだという確信を得られたとのことです。

検証とリリース (形にしてみる) 

仕上がったコンセプトが本当に自分たちのビジョンや顧客ニーズに合致しているか、もう一度突き詰めて問いかけます。

これは "未知の良さ" といえるか、世の中に本当に価値をもたらすか、ビジネスとして継続できるかといった観点でチェックし、必要に応じて修正を加えて完成度を高めていきます。

最終的にできあがったコンセプトはスタート地点にすぎません。

ここから企画を具体的に詰めていく過程で 「これは本当に使いやすい?」 や 「こんな機能は不要では?」 など、改良の余地が出てくることでしょう。著者は、コンセプトを作った後も疑問をぶつけ続ける姿勢を大切にすべきだと述べています。

こうした細かい検証を経てはじめて、コンセプトという軸がブレない企画や製品へと仕上がっていきます。

実現に向けた資金面やマーケティングも重要ですが、そもそものコンセプトが明確であれば、ブレストや意思決定でも迷うことがなくなります。「これを実現するために必要な手段は何か?」 という問いに答えやすくなるのです。

* * *

本書には、ビジネスパーソンであれば業種や役職を問わず、多くの方にとって学びのある内容が書かれています。

新商品の企画や新しいサービスの立ち上げはもちろん、組織としてどういう方向を目指すのかを定めたい、自分自身の働き方・生き方のコンセプトを見つけたいと思う方にも示唆あることでしょう。

未知の良さを発見し、チームで共有し、実際に世の中へ届ける――。一連の流れを "冒険" として楽しく学べるのが本書の魅力です。

まとめ


今回は、書籍 「コンセプトのつくりかた (玉樹真一郎) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • コンセプトとは未知の良さを発見し、新しい価値を生み出すこと。既存の改善ではなく、まだ言語化されていない価値を見つける視点が重要

  • コンセプトは 「ビジョン (目指す世界) 」 と 「アイテム (実現手段) 」 の2つで構成される。例えば 「家族が一緒に楽しめるゲーム機 (ビジョン) 」 と 「Wii を操作するリモコン (アイテム) 」 のようにセットで考える

  • 良いコンセプトは20文字程度の短いフレーズで明確に表現する。長すぎると伝わりにくく、短すぎると抽象的になりすぎるため、端的に何を使ってどんな未来をつくるかを示す

  • コンセプトづくりは 「課題発見 → アイデア拡散 → 整理・統合 → 物語化 → 検証」 のプロセスを経て生まれる。いきなりアイデアを出すのではなく、悪口大会などで不満や課題を洗い出し、発想をズラして新たな価値を探っていく

  • 完成したコンセプトは 「自分たちが心から共感できるか」 と 「現実的に実現可能か」 という2つの条件で検証する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。